2018年09月20日

遠い声






「……横浜?……秋斗くん、とこ?」
『………いや』
「…ふぅん」




ソファに寝そべりながら、イツキはスマホを耳に押し当て、黒川の声を拾う。
お互い、遠い声。目を閉じ、耳をそばだてる。



『…帰りが遅かったな。…夕方までは、いたんだぞ』
「マサヤ、灰皿、出しっぱだった。……台所に置いて、って…言ったじゃん…」
『ああ。…悪い…』



そんな事は、簡単に謝る。


当人が目の前にいるよりも、電話で話す方が、逆に、身近にいるような感じにもなる。
見栄も虚勢も誤魔化しもなく、ただ素直に、思っている事が口に出る。







「……マサヤ、今日ね。……カサハラさんに会ったよ」
『……何か、されたのか?』
「ううん。…ちょっと話しただけ……」
『……あの小僧、…ふざけやがって…。……お前もフラフラ出歩くからだ、気を付けろ』


少し、強めた語気は、笠原を怒っているようにも、自分を心配しているようにも聞こえる。
どうであれ、黒川が自分の事を考えているのが、楽しくて、イツキは気付かれないように小さく笑う。




「…ね、マサヤ」
『なんだ?』
「…カサハラさんに、…俺の女になれって、言われちゃった…」
『……な…』




黒川は言葉を詰まらせる。






posted by 白黒ぼたん at 22:54| Comment(1) | TrackBack(0) | 日記
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