2012年05月19日

コイバナ・3







『俺、どうすればいいと思う?』
『どうって…。お前はどうしたいんだよ?』
『それが解れば苦労しねーよ。』

午後の授業が始まっても、梶原と大野はメールでコイバナを続けていた。

『でもさ、おーの。もうちょっと…考えてみろよ。一樹は確かに、アレだけど…やっぱ、男だぜ?』
『そうなんだけどさ。でも、あいつ見てたら…ぞーゆーの…どうでも良くなっちゃってさ。頭がクラっとするってゆーの? テルは何も感じないのかよ?』
『俺は別に…』

メールは一度、そこで途切れた。

教科書の下で長文メールを打つのには、もう限界だったのか
大野の言葉に、梶原が何か…考え込んでしまったのか…

多分、そのどちらでもあったのだと思う。


午後の授業が終わり、掃除や細かい仕事のあれこれも終わり、2人は一緒に学校を出る。
メールと同じような話を、また最初から繰り返し、メールと同じような所で、会話が止まり…

答えらしい答えが出ないまま、いつも立ち寄るフードコートで、コーヒーを飲み、しばらく押し黙り…

2人、同時に、盛大な溜息をついた。



「…まあ…別に…。告るとか…付き合いたいとか…そういうのじゃ…無いんだ。
ただ、まあ…こんな事もあるんだなーと…。…俺自身…びっくりした…」


大野がそうつぶやくと、梶原は「…俺も。びっくりした」と答え
2人で顔を見合わせて、照れくさそうにくすりと笑った。



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2012年05月18日

コイバナ・2







梶原と大野は本当に良い友人同士で、隠し事らしい隠し事は、ほとんど無い。
と、言うか…意外に2人ともお喋りで、秘密ごとを心に隠しておけないタイプだった。

梶原は、大野がこの高校に入ってから、すでに2人の女の子と付き合い、どういう経緯で別れたかを知っているし
大野は、梶原が中学生時代、初デートのハンバーガー屋で、緊張のあまり嘔吐してしまった事を知っていた。

「…おーの、お前、変なマンガ…読みすぎなんだよ…」
「…そんなんじゃねぇよ」
「一樹は、そりゃー…雰囲気あるけど…、そういうのは…違うだろう……」
「……そう思ったんだけど…、駄目だった…」

そう言ってまた大野は盛大な溜息を付いて、テーブルの上に突っ伏す。
梶原も溜息をついて、テーブルに肘を付き、大野の後頭部に声をかける。

「…おーの、お前。…何か、あった?……昨日?」
「…昨日、…図書室で…」
「図書室で…?」




午後の日差しの中。図書室のソファで眠る一樹がどれだけ綺麗だったのか
見ていると…頭がくらくらして、身体の奥が熱くなる…そんな感覚に戸惑う。

そして、甘い蜜に誘われる虫のように、自然に、一樹の傍に寄ってしまった事。

気付けば、一樹の唇に、自分の唇を重ねてしまった事。


まるで自分自身、本当にあった出来事なのか、確認でもするように
大野は、ひとつ、ひとつの情景を、順を追って話す。



「……まじかよ…」

驚いた梶原の声にならない声と、昼休みの終わりを告げるチャイムが重なった。




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2012年05月16日

コイバナ・1






昼休み。
食堂では梶原と大野の2人がテーブルを挟み、ランチを食べていた。

「今日も一樹、休みなんだよな…」
「…ふぅん…」
「今日のランチ、唐揚げだし…。遅刻してでも来るかと思ったんだけどな」
「…ふぅん」

コーヒー牛乳を飲みながら、梶原は何だかんだと話をするのだが、大野は気の無い返事を繰り返すばかり。
梶原は一樹の心配もあったのだが…それよりも、明らかに朝から様子のおかしい大野が気になって仕方がなかった。

正確には、昨日の夕方から、おかしかった。

何の連絡もなく、学校から姿を消して、電話もメールも返事が無い。
朝、会ったときには、まるで心ここにあらずの様子で、何を聞いても生返事ばかり。

「…お前はさ?…何?…どうしたんだよ?」
「んー?」
「言えよ」
「言わねーよ」

大野はそう言って、外の景色を眺める。
『言わない』という事は、言えない何かが確かにあるという事なのだろう。

しばらくお互い押し黙る。




「……俺、やばいかも…」

やっと口火を切ったのは大野で、溜息混じりにそんな事を言い、梶原を驚かせる。
頭脳明晰、沈着冷静…と、常に自分で言い張る大野に何があったのかと…梶原は大野の顔を覗き込む。

「…何だよ。…言えよ」
「……いや。違う。……やばくない。……間違いだって、多分」
「何が間違いなんだよ?」
「…一樹に惚れるのって、アリだと思うか?」


「……は?」


最後の大野の言葉の意味が解らず、梶原はぽかんと口を開けたまま、そのまま固まってしまった。





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2012年05月12日

良からぬ話・2






事務所の近くにある居酒屋で、秋斗は男と待ち合わせをしていた。
『仕事は休み』と言われた日の夜。わざわざ秋斗から連絡を入れ、約束を取り付けたのだった。
予定の時間を5分過ぎて、男が現れる。
目つきの悪い細身の男。…まるで、トカゲか何か爬虫類のような男は…西崎組の幹部、平山だった。

簡単な挨拶の後、2人は奥の席に座り、まるで恋人同士のように隣り合わせに座る。
すでに深い関係なのだろうか…、秋斗はしな垂れかかる様に平山に寄り添い
キープされていたボトルを取り、平山のためのグラスを作る。

しばらくはありきたりの日和見話しをしていたのだが…酒が進むにつれ…お互い腹の内を探り合う。
お互い、何も、お互いに会いたい一心で、この場にいる訳ではないのだろう。





「…あの子、嫌い。…なんでみんな、あの子のこと、チヤホヤするんでしょうね」



やがて秋斗は酒に酔った振りをして、そんな事を呟いてみせる。
シナを作り、甘えるような素振りで、上目遣いに平山を見つめる。
…勿論、色々…思うところがあってのその態度なのだが、それを解っていて、平山も乗る。

「本当だよな。社長もオヤジも…あのガキのどこがいいんだか。お前の方がよっぽど可愛げがあるよなぁ」

そう言って、平山は片手で秋斗の肩を抱き、空いた手で、グラスを煽る。

「今、高校に行ってるんでしょ?…馬鹿みたい。ただのウリのくせに、調子に乗りすぎ。身の程知らずだって…思い知ればいいのに…」
「は、は。…まあ、その内、解るんじゃねぇの。自分の立場ってやつがさ…」
「…その内って、いつ?」


平山の言葉を聞き返し、さらに意味深い視線を寄越して、秋斗は平山を見つめる。
平山は、口の端を吊り上げ、ニヤリと笑い


「…いつにするかな。…ふふ」


と、言った。




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2012年05月11日

良からぬ話







とあるファミリーレストランの隅の席に、いかにもガラの悪そうな高校生が数名、たむろしていた。
店側としては迷惑な話しなのだが、彼らはいつもドリンクバー一つで、夕方から夜中までこの場所を陣取っていた。

「……ムカツク。清水。あいつ、ぜってー俺のこと、なめてる」
「またそれですか?相馬さん。あんな奴、相手にする事無いですよ」
「調子に乗りやがって…。一度、締めないと駄目だな…」


相馬と呼ばれた男は舌打ちをして、忌々しげにそうつぶやく。
向かいに座っている男2人は顔を見合わせ、これは相当、頭に血が上っているなと、苦い表情をみせる。
相馬と清水は同じ中学の頃から敵対し、ことあるごとに小競り合いを繰り返して来たが
…お互い、…裏の、それなりの実力者と繋がっているものだから、なまじ大ごとには出来ず
決着をつけられないまま、平行線を辿っていた。

「…そう言えばあいつ、最近、新顔と一緒にいますね。なんか…女みたいな顔の…」

一触即発の空気を変えようと、男の1人がそんな話を切り出す。
それは相馬も思っていた事のようで、面白そうにニヤリと笑う。

「転校生。…岡部、とか言ったかな。…ふふ、案外、本当に女の代わりにしてるのかも知れねーな」
「うへぇ?男ですよ?…ケツの穴に突っ込むんですか?」

そう言うと、隣に座っていたもう1人の男が下品に笑って

「でも、あれだけ可愛い顔なら、ケツでも何でもいいっすよ。ありゃ、エロい顔しますよ、絶対」


と、言った。



そんな話をしている最中、店内に1人の男が入って来た。
きちんとしたスーツを着ていたのだが、あまり、品は良くない様子で…先の尖った革靴や、手に持っているクラッチバッグが…さらに嫌な印象を与えていた。

相馬達はすぐにその男に気付き、腰を上げ、ぺこりとお辞儀をする。
男も相馬に気付き、手を上げると、傍に近寄り「よう。楽しそうじゃねーか」と声を掛ける。

それから暫く同じテーブルで、ここ最近の出来事や…問題やらの話をする。
時折、声を荒げたり…下品な笑い声が聞えて来るので…良からぬ話をしているのに間違いは無かった。





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2012年05月10日

『7時・焼肉屋』最終話







黒川はこのまま事務所に行くと言い、イツキは自分の部屋に帰って、寝るつもりだった。
『学校に行くんじゃなかったのか?』と、馬鹿にしたように聞く黒川に、イツキは頬を膨らませ
『今日は…いい』と言った。

ホテルの入り口でタクシーを待つ間に、イツキと黒川は最後のキスをする。

「じゃあな。あまり悪さをするなよ」
「マサヤも……」

そう言うイツキの唇を、黒川は指先で弾いて、しばらく見つめあった後
目の前に停まったタクシーに乗り込んだ。


イツキは走り去る車の後姿を眺め、何となく…ふふ、と笑い
まだ身体に残る黒川の匂いに、夕べのひとときを思い出す。
どんなに酷く嫌な事があっても、そのひとときだけで、帳消しになってしまう…黒川の狡猾さと自分の単純さに…呆れ…


でも、まあ、いいかと…思った。




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2012年05月05日

『7時。焼肉屋』・7







「……最初に言ってくれればいいのに…、あーゆー事…」

一通りのコトが終わって、イツキは毛布に包まり、そう呟く。
シーツも身体のあちこちも濡れていて少し気持ちが悪かったが、起き上がるだけの気力もなく…起き上がってしまって、余韻が醒めるのも惜しくて
目を閉じて、満足げな溜息をついて、ついさっき…黒川が言った言葉を思い出していた。


「……マサヤって…、…俺の事、好きなのかな……、ふふ…」
「何だ?」
「……なんでも無いっ」


シャワーを済ませた黒川がバスルームから出て来る。
1人でぶつぶつ呟いては…ニヤニヤ笑っているイツキに声を掛けて、イツキの頭にバスタオルを放り投げた。

「シャワー、浴びて来い。小便臭いぞ」
「……んー…、もう少し…ゆっくりしたい……」
「俺は帰るぞ。お前も学校に行くんだろう?」

黒川の口から『学校』という言葉を聞くのが妙で、イツキは思わず目を丸くして黒川を見上げる。
その間にも黒川は服を着替え、髪を整え、ソファに座り煙草に火を付けていた。

「…マサヤは、俺が学校に行くの…いいの?……昔は…よく、怒ってた…」
「嫌なら行かせていないだろう。わざわざ引越しまでさせて…。…行かせてやってるんだから、文句を言うな」
「文句じゃないよ。…ただ、どう思ってるのかなって…。心配とか…、しないの?」
「お前に?」

煙草を吹かしながら…黒川はイツキを見ずに、言葉を続ける。

「お前が学校で誰と遊ぼうが、…他の誰と…佐野と仲良くしようが…構わんよ。
…どうしていたって…、お前は俺がいいだろう?…そんな事、解っている……」
「……マサヤ」



つい…ほだされて…
イツキが黒川の背中に抱きつきそうになったところで、黒川がソファから立ち上がる。
「帰るぞ。2分で着替えろ」と言うので、イツキは慌ててベッドから飛び起きて
そこら辺に散らかっていた自分の服を掻き集めた。






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2012年05月03日

『7時。焼肉屋』・6







すでに粘液と唾液で、イツキの入り口は解きほぐれていたのだが…そこにさらに、ジェルを塗り込められ…
黒川自身のものが宛がわれた時には、痛みもなく、つるりとそれを飲み込んでしまう。
熱も、相応の質量も、丁度良くて…イツキは「…あ、あ…」と感嘆の声を洩らすのだが

慌てて口を噤んで、首を横に振り、快楽を逃そうとする。

「……ずるい。……マサヤ。……いつも……」

顔を伏せたまま、喘ぎと涎をシーツに零す。
いつも、いつも。こうやって…身体を重ねることで、自分の不満や意思がすべて済し崩しになってしまうことが…癪だった。
2人の関係が変わったというのなら、もっとちゃんとした方法で、お互いの意思を確かめてみたいのに…

抱かれる、一瞬で、何もかもがどうでも良くなってしまう。


「…いじわる、ばっかり…。俺が…どんだけ嫌な思い…してるか…知ってるくせに。
たまに…、優しいこと言って……誤魔化して……る」
「腰、上げろ。イツキ。…奥に当ててやる…」
「…だめ、…そこ…。…………ひあっっ……ん」

イツキの言葉などお構いなしに、黒川はイツキの奥を擦り上げ、一番良いところを執拗に責め続ける。
それは、イツキを悦ばせるためなのか、単に自分の快楽のためなのか…区別はつかない。

「…俺が、何を誤魔化してるって?……セックスか?……それなら、止めるか?」
「…だめぇ…、やめちゃ……だめ……」

止めるはずも止められるはずもないのに、少し、動きを止められただけで、イツキは黒川から離れまいと、慌てて腰を浮かせる。

その様子に、黒川は満足気な表情を見せて


イツキの耳の後ろで、何か囁くと

背中ごと、また、イツキの身体を抱き締めた。




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2012年05月02日

『7時。焼肉屋』・5






「秋斗の名前を出すだけで、すぐに膨れっ面だ。…ヤキモチか?」

うつ伏せのイツキの、背中から腰に手をやり、尻の膨らみに手をやり、指を一本だけ、中心に沿わせてみせる。
入り口を爪の先で引っ掛けながら、黒川はイツキの耳の傍でささやり、時折、耳の穴をべろりと舐める。


「…馬鹿な奴だ。…秋斗は、仕事をさせているだけだろう」
「…だって、…マサヤと…、いつも一緒にいる……」
「じゃあ、お前も『仕事』に戻るか?俺と一緒にいれば嫌でも…」
「…そうしようかな」

イツキはシーツに顔を埋めたまま、ぽつりと、そんな事を言う。
黒川は思わず言葉を止めて、小さく笑って、イツキの首の後ろにキスをする。

「…俺はどっちでもいいぜ。…お前の好きにしろ…」
「あんたはいつも…そう。…好きにしろって…、そればっかり…」


黒川の唇がイツキの背骨のラインを辿る頃には、イツキの声も、途切れがちで
合間に湿った息を洩らしながら、肩をと腰を、ゆっくりと上下させていた。


「…ずるい。…マサヤ…。……いつも…」


黒川の指は、すでに、イツキの中にすっぽりと納まり
中の壁を擦り、くるりと掻き回され、小刻みに動かされていた。
『いつも、俺ばっかり、あんたを待ってる…』と、イツキが言いたくても、それはちゃんとした声にはならず、替わりに

黒川の声が、イツキの耳を、犯す。



「…お前は、お前の好きにすればいい。…何をどうしていたって…お前は俺のものだ。
…不安になる事なんて無いだろう、イツキ。

俺は、お前が、いい…。
お前だってそうだろう?」



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2012年04月30日

『7時。焼肉屋』・4






『………明日は何も無いよ。ゆっくり休んでおけ。…じゃあな、秋斗』


そう言って黒川が電話を切るころには、イツキはすっかり憂鬱な顔になって
その気分を押し流すように、手に持っていたビールのグラスを一気に煽った。
黒川の、秋斗に対する、どことなく甘い言葉の掛け方も不満だったし
何より、自分をからかうような…試すような、黒川の態度が嫌だった。

空になったグラスを、ガンとテーブルに置くと、黒川と目が合う。


「…俺、帰る」
「ふぅん?」


イツキがそんな事を言い出してみても、黒川は相変わらず、馬鹿にした目で見るばかり。

「…明日も学校だし。…課題もあるし」
「…ふふ。…解りやすいな、お前」
「…一緒に遊びに行こうって…言ってくれる人もいるし。ご飯も…一緒に行くし」
「そうか」

そう言って黒川はまた小さく、ふふと笑って、自分も酒のグラスを持って、口に付ける。
それから2人とも少し押し黙って…


黒川は、イツキのグラスに、ビールを注ぐと

「まあ、もう一杯、飲んで行けよ」

と言った。





ホテルの部屋に入る時には、2人とももう千鳥足で
縺れるように、ベッドに倒れこむ。
うつ伏せに寝るイツキの背中から、剥ぎ取るように、黒川は服を脱がせ
首筋と、背中にキスをして、イツキの腹に手を回し、身体を自分の方に抱き寄せた。

「……いじわるだ…、マサヤ……」
「……お前が…面白い顔をするからだ…」

顔は伏せたまま、黒川の方を見ようとしないイツキの、頬に手をやり顎を掴み
それでも顔を向けないイツキの耳たぶを喰み、髪の毛の隙間から覗く横顔を眺めながら、黒川はくすくすと笑った。





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