2023年03月19日

三浦と松田








「……向こうの、商工会の連中が、またイベント開くようだよ」
「ああ、オーガニックフェスタみたいなやつですね。ウチは参加するのかな…」
「するでしょ。地元特産品使って、一つずつ新商品出すって…」

「あ、イツキくん。この前の白菜漬けどうだった?塩っぱくなかった?」



レジのカウンターの内側で、イツキと松田が仕事の話をしている途中に、三浦がどうでもよい話を振ってくる。
三浦は店内の隅に置かれた半分飾りのような小さなテーブルセットにいて
持参したポットからコーヒーを注いでいた。


「はい、コーヒー。今日はブラジル豆ね。あなたもどうぞ」
「……どうも」
「白菜漬けね、ちょっと水洗いした方がいいみたいよ」
「……………はぁ」


カップを3つ用意していたのは、パートの横山の分だったのだろう。
とにかく三浦は、イツキと松田の前にコーヒーを置くと、また椅子に戻り
本当にただの暇つぶしという風に、これまた持参したスポーツ新聞を眺める。



松田は、不信感ありありの目で三浦を眺め、そのままの顔をイツキに向ける。
その、言いたい事はイツキにも伝わったようで、イツキは小さくため息をつく。



「三浦さん、すみません。……ちょっと、仕事の話があるので……」
「ん?ああ、俺のことは気にしないでいいから」


三浦は軽く笑い、大丈夫、という風にひらひらと手を振ってみせ

結局それから小一時間ほど、カフェの常連客が店を開けろと呼びに来るまで、ハーバルに居たのだった。





「………何?あれ? イツキくん、もうあんなの引っ掛けたの?」
「違います。ただのご近所さんです。……悪い人ではないんでしょうけど」
「どうだろうねぇ。気を付けないと、イツキくん、すぐ食べられちゃうから」
「………そんな事は……」



『ありません』を言いかけた唇は、松田に、塞がれてしまった。







posted by 白黒ぼたん at 22:57 | TrackBack(0) | 日記