2011年09月01日

溺愛







イツキは黒川の背中が好きだった。
幅も厚みもある筋肉は、手を滑らせるとその形がはっきりと解るほどで
身体を動かすごとに、強さを増す。

自分と同じ性のはずなのに、どうしてこんなに違う身体なのだろうと思う。
自分が他人より貧弱なのは知っているが、それにしても、黒川の鍛えられた身体は別格だと思う。
この男には、どうしても敵わないと思うし、何より…この強さの前にすべて投げ出し、身を任せてしまいたいとさえ思ってしまう。


激しく腰を打つ黒川に振り落とされないように、背中に手を回し、
盛り上がる広背筋にしがみついた。



黒川はイツキの鎖骨が好きだった。
と、言うより…鎖骨から胸、腹。綺麗に浮かぶ腰骨のラインが好きだった。

恐らく、年齢の割りに幼い身体付きをしているのだろう。…こんな行為をずっと続けているために、何かバランスを崩しているのかも知れなかったが…

男としては頼りない華奢な身体。
女とは違う、薄っぺらい胸。
日焼けもしていない白い素肌。
手の平に馴染む、ほどよい肉付き。

隠された筋肉は、何の役に立つのだろうかと思い、眺めていると、
腹筋がひくひくと痙攣し、中が、酷く、締まっているのが解る。

この身体に、どれだけの欲望を詰め込めば、満たされるのだろうか。
その限界を知りたくて、つい、細い腰の両側を掴んで、乱暴に振る。


「…ん…、マサヤ……、駄目。…そんなに、したら…、また…いっちゃう……」
「行けよ」
「駄目。……もうちょっと…、こうしてたい…の…」



そう言って、イツキは、黒川の首の後ろに腕を回して抱きつき、

黒川は、イツキの首筋に顔を埋め、耳の後ろに一つ、キスをした。




posted by 白黒ぼたん at 00:55 | TrackBack(0) | 日記

2011年09月02日

小言






「言っておくが…、お前のやった事を認めた訳じゃないぞ。小野寺の件はもう済んでいた話だ。
それをわざわざ蒸し返しに行くなんて、…馬鹿が」

甘ったるい時間が終わり、黒川は汗を流しに風呂場へ向かう。

ざっとシャワーで流し、バスローブを羽織り、また寝室に戻ると、少しきつい口調でイツキを諌めた。

イツキはもう動くのも億劫と言う感じで、タオルとティッシュであちこちを拭っていたのだが、それをそこいらに投げ捨てると、毛布に潜り込んでしまう。
もぞもぞと動き居心地の良い場所を探しているようだが、どうにも、シーツが濡れているようだった。
どうにかして端っこに乾いた場所を見つけ、そこに丸くなる。

「誰に何を吹き込まれたかは知らないがな…。
どれだけ金が動こうが、人が迷惑しようが…もう、お前の問題じゃない」

黒川は話しながらクローゼットを開け、中からシーツを取った。
ベッドの脇まで行くと、イツキが寝ているのにお構いなく、毛布捲くり、シーツを引き剥がす。
イツキはベッドの上でごろんと一回転し、そのまま床に落ちてしまった。

「お前に責任を取らせるときは、遠慮なくそうするから、安心しろ」

手際よくベッドを直しながら、黒川はイツキを見下ろし、馬鹿にしたように鼻で笑う。
イツキは床の上で毛布に丸まりながら、少し、頬を膨らませて、黒川を見上げる。



「…マサヤ」
「お前。そのままで寝るなよ。…風呂に入れ」
「…真由子さんは、俺の、替わり?」


見ればイツキは身体を起こし、ベッドの足元にもたれかかっていた。
毛布を肩に掛け、体育座りになって、ぼんやりと呟く。




posted by 白黒ぼたん at 23:17 | TrackBack(0) | 日記

2011年09月04日

終わりの言葉






「俺、真由子さんが小野寺とって話し、聞いた時…すごい、悪い事しちゃったなって…思った…。

俺のせいで…他の人が…酷い目に遭うなんて…。俺の身代わりになってくれたんだなって。
だから、もう、こんな事は嫌だなって思ったの。

でも、違った…。

俺の、替わりがいたら、俺はもう…いらなくなっちゃう気がして…焦ったんだ…」

「それで?」

「こんな事だけど…「仕事」でセックスするだけだけど…俺、それでずっと…マサヤの傍にいたから。

それが無くなると…俺、どしていいのか…解んなくなる

…だって、俺の取り柄って、それだけじゃん」

「そうだな」



黒川は適当な返事をイツキにしながら、綺麗に直したベッドにあがる。
イツキは、黒川の言葉の続きを待っていたのだが…どうやら無さそうだったので、ふうと溜息を付いて、頭を小さく左右に振ってみせた。

…立ち上がり毛布を引き摺ったまま、寝室を出ようとすると…

黒川はイツキに向かって手を伸ばし、指先で軽く、手招きをする。

イツキは黒川の傍らに立ち…
それを取っていいのかどうか、少し戸惑いながらも、指先を絡めた。

「何度も言わせるな。お前は、ただ俺の傍にいればいい」
「…人形みたいに?」

自嘲気味にイツキが笑うと、黒川も同じような笑みを浮かべる。

そして、繋いでいたイツキの手を強く引いた。



「人形の割にはよく喋るし、泣くし、面倒を起こしてばかりだがな…。まあ、いいだろう」

イツキがその言葉を聞いたのは、抱き締められた黒川の腕の中で、だった。




posted by 白黒ぼたん at 00:12 | TrackBack(0) | 日記

2011年09月05日

焼肉屋で3人






「勝手にヤッてもいいが、それは俺にバレないようにしろ。ただし、俺の仕事や金が絡む話なら、その前に連絡しろ。
俺が部屋に帰る時には、部屋にいろ。痕跡を残すな」
「何、それ。じゃー、俺、…誰かと勝手にエッチしててもいいの?」
「してるだろうが。…バレていないとでも思っているのか?」
「……してないよっ、……してない…」

「イツキくん。カルビが焦げています。…ああ、社長、それはポン酢です、ごま油はこっちです」


焼肉屋にて。


一ノ宮は盛大な溜息を付きながら、鉄板の上の肉を返し、イツキの皿に盛る。
黒川、イツキ、一ノ宮の三人でここに来てから、すでに小一時間。
テーブルの上には空のジョッキが並び、空のボトルが並び、さして酔っていない一ノ宮は二人の酔っ払いの相手に閉口しているところだった。

「…じゃあ、マサヤも…ちゃんと話してよ。何か決める前に…。どうしてそうなるのか、そうしなきゃいけないのか。
…そうしたら、俺、ちゃんと…言う事、聞くから」
「…馬鹿か。面倒臭い。お前、自分が何様だと思っているんだ?」

相変わらずの口調の黒川に、イツキは頬を膨らませて睨んで見せる。
そのイツキの前の皿に、一ノ宮は焼きあがった肉と野菜を乗せて、黒川のグラスに新しい水割りを作る。
そして、2人の顔を交互に見遣りながら…どこか、何か、変わった所があったのだろうかと考える。


数年前。
泣いてばかりのイツキと、それを組み敷いて笑う黒川と。
絶対的な上下関係は変わらないはずなのに、いつか、その中身だけ、何か違うものに変化しているようだった。



「…何だ、一ノ宮?」
「…いえ…、別に……」


つい、思い出し笑いで顔をほころばせる一ノ宮に、黒川が不思議そうに声を掛ける。

時間とは、そうやって流れていくものなのだな…と、一ノ宮は思い、そんな感傷を抱く自分に驚き、

その思いごと、ビールの泡と一緒に、喉の奥に流し込んだ。




posted by 白黒ぼたん at 00:16 | TrackBack(0) | 日記

2011年09月06日

BAR・KAORU






黒川とイツキを乗せたタクシーのテールランプを眺めながら、一ノ宮はやれやれと言った風に大きく息を吐いて、1人、夜の街を歩き始める。
焼肉屋からさほど遠くない場所にある馴染みのバーに、吸い込まれるように向かう。

外装からは、そこが飲み屋だとは解らない造りだった。
看板も何もない、ただの黒い扉を開けると、地下に下りる細い階段があって、
その先に、ぼんやりと淡い光が見えた。

中扉を開けると、カウンターと、テーブル席が2つの、小さな空間。カウンターの中には洋酒の瓶が並び、そこには、長い黒髪を束ねた綺麗な女性が、シェーカーを振って立っていた。

「一ノ宮さま。いらっしゃいませ」
「すみません。こんな遅くに。一杯だけ、頂けますか?」

丁寧な挨拶をする一ノ宮に、女性は穏やかな笑顔で答え、自分の目の前の席に一ノ宮を勧めた。
かおる、という名のこの女性は、店のオーナーで、かおる、と言うのは、この店の名前でもあった。



年代もののウイスキーをストレートで飲みながら、一ノ宮は、これからやらなければいけない仕事をずらりと、頭の中で並べる。
そして、それを告げた時のイツキの顔を、想像してみる。
おそらく、今よりも状況は良くなると思えたが…それでも、それがどんな結果を生むのか、まるで検討も付かず
一ノ宮はグラスに口を付けながら、難しい表情を見せる。


かおるは、そんな一ノ宮を、特別な視線で見つめながら
チェイサー用のグラスを、目の前に、並べた。




(英語のタイトルって初めてかも!?)
posted by 白黒ぼたん at 01:22 | TrackBack(0) | 日記

2011年09月08日

2人の部屋







最初に、この部屋に連れて来られた時は、そこにはまだ誰かの気配が残っているようだった。
おそらく、黒川が誰か、別の相手との時間を過ごしていた場所だったのだろう。


洗練されたインテリアが並んでいても、どこか殺風景で、生活感がまるで無い部屋は
住む場所、というより、ホテルか何かのようで…
実際、イツキも、ここで黒川に本意では無い関係を何度も強いられていた。

イツキは「契約」の後、しばらくは実家にいたのだが、無茶な「仕事」のため、まともに家にいられる時間は少なくなっていた。
やがて、両親を地方に飛ばし、実家が無くなると…イツキはこの部屋に本格的に住みつくようになる。

部屋の内装や家具に大きな変化は無かったが、それでも、あちこちにイツキの私物が増え、匂いが付き、
そこはだんだんと、生活をする場所になってくる。

台所にあるカップは、いつの間にか、イツキのもの、黒川のもの、と区別が付くようになっていたし、
洗面所には安手のドラマのように、2人の歯ブラシが並んでいた。

もとより、イツキには、この部屋以外、帰る場所は無かったし
黒川も、この部屋に来る時は「帰る」とか、「戻る」という言い方をしていた。
…もっとも、黒川には、ここ以外にどこか、行く場所があるようだったが…
それでも、ここは、2人の部屋であることに間違いは無かった。




「ここを出る。荷物をまとめておけ」


なので、突然こんな事を言われては、驚いて目を丸く見開いてしまうのも仕方が無い。

「…引っ越すの?、…どうして?」
「その方が色々、都合がいいからな」

相変わらず言葉が足りない黒川に、イツキはだた、戸惑うばかりだった。









posted by 白黒ぼたん at 00:56 | TrackBack(0) | 日記

2011年09月09日

ダンボール






次の日の昼間、イツキの部屋に、ダンボールを抱えた一ノ宮がやってきた。
それを手際よく組み立て、部屋に並べると、イツキに荷物の整理をするようにと言う。

「まあ、イツキくんの身の回りの物だけで良いですよ、後はこちらでやります。
荷物が出来次第、少しずつ運んで行きますから」
「…トラックとか…、引越し屋さんとか…じゃ、ないんだ…」
「そんなに量も無いでしょう?」

一ノ宮はリビングのボードを覗いて、並んだ酒瓶やグラスをどうしようかと考えていた。
イツキはソファに座ったまま、部屋の中を見回す。
本当の家では無いにしろ、ここが、自分の居場所だった。
そこから理由も解らず出ろと言われて、不安にならない訳がなかった。

「…引越し、じゃなくて…夜逃げ、みたい」
「ははは。そうですね」

不安を紛らわすつもりの冗談を肯定されて、ますます、心細くなる。

「……俺、…どこ…行くのかな…?」



イツキがそう小さな声で呟いた時、やっと一ノ宮は、何かおかしい事に気付いた。

「…もしかして…、イツキ君、社長から何も聞いていないんですか?」
「……来週、ここを出る、とだけ」

「…まったく!、…あの人は!!」

珍しく一ノ宮は声を荒げる。
相変わらず、イツキに必要な事すらきちんと伝えない黒川に、怒っている様子だった。
そのせいで何度も、つい先日だって、擦れ違いがあったというのに…。

「イツキ君。…私から話す事は出来ませんが…、大丈夫ですよ。悪い話しではありません」


一ノ宮はダンボールを脇に寄せるとイツキの傍に立って、慰めるように、肩をぽんぽんと叩いた。





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2011年09月10日

事務所に3人






一ノ宮が事務所に戻ると、そこには黒川と西崎がいて、ビールを飲みながら出前の中華に箸を付けている最中だった。
真面目な仕事の話は一段落ついたようで、後は、どうでも良い四方山話をしている。
勧められるまま一ノ宮もご相伴に預かり、ソファの、黒川の向かい西崎の隣に座り、お疲れ様とグラスを傾けた。

西崎は新しいビールを開け、黒川と一ノ宮に注ぐと、自分のグラスにも手酌をした。


「…そうそう、社長。引越しは来週ですよね?手伝いに佐野でもやりますか?」

そう尋ねる西崎に、黒川は「いや」と首を横に振る。

「そんな事をしたら、どうせ奴のことだ、部屋に上がり込むだろう?…しばらくは、新しい住所も内緒にしておけ」
「はっはっ、まるで隔離状態ですね。いつまで持つか…」
「エロい菌を撒き散らしているからな、イツキは。…まあ、お前もせいぜい気を付けろ、西崎」
「……は、はいっ」

何か、その前に話しがあったのか…黒川が改めて釘を刺すような言い方をすると、西崎は萎縮して、裏返った声で返事をする。
その様子を一ノ宮はチラリと伺い、グラスに口を付けて、自分も黒川に質問をした。

「…社長。…イツキ君に今回の件は…説明していないんですか?」
「引越しの話しはしたぞ。荷物は片付きそうか?」
「そうではなく。…何故か、という事です。随分と不安がっていましたよ」
「…あの部屋には…散々男を連れ込んでいるからな。ケチが付いた、とでも言っておけ。…なあ、西崎」

「ああ、もう、社長、勘弁して下さいよ。…私は、部屋には行ってませんって!」

謝るように手を挙げる西崎を見て、黒川は声を上げて笑う。


それを見ていた一ノ宮は、相変わらずの黒川の、イツキへの接し方に、呆れたような深い溜息をついた。





posted by 白黒ぼたん at 00:20 | TrackBack(0) | 日記

2011年09月11日

事務所に2人






千鳥足で西崎が事務所を出た後も、黒川と一ノ宮の2人は、残った酒とツマミを片付けていた。
冷蔵庫から冷えた缶ビールとカビの生えたチーズを出し、何だかんだと話を続ける。
酒に強い2人は、こうやって飲み続け…朝になってしまう事も度々だった。


「…そう言えば…、西崎さんに何か言っていましたね。…イツキ君の件で…」

そう一ノ宮が切り出すと黒川は、ふふと鼻で笑う。

「小野寺のゴタゴタの時な…。イツキがどうも余計な事まで知っているから、どこで話が洩れたのかと奴に問いただしてみた」
「おや。…出所は西崎さんでしたか?」
「イツキが自分から聞きに来たらしい。ご丁寧に身体を開いてな。…あの馬鹿」

そう言って、ビールを煽る黒川は怒っているようにも…滑稽すぎて笑いを堪えているようにも見えて…
一ノ宮も「…はあ」と曖昧な返事をするしかなかった。

「…でも、引越しはまた別の話しでしょう?」

黒川の目の前の空き缶を片付けて、次は焼酎のボトルを出して、一ノ宮が聞く。

「あながち別でもないだろう。イツキがあの部屋にいる事は、みんなが知っている。前に拉致られたのも、マンションの前だ。安全な場所とは言えないだろう」

備前の焼酎グラスに氷を入れ、焼酎をいれ、黒川はグラスを一ノ宮に渡す。

「ありがとうございます。
…イツキ君が心配だから、身の安全を守るために引越しをするんですね」

少し、茶化したように一ノ宮が言うと、黒川は決まりが悪そうな顔をしてチラリと一ノ宮を睨んだ。

今度は一ノ宮が、ふふと鼻で笑い、受け取ったグラスに口を付ける。

「そう、話してあげれば良いんですよ。あなたからきちんと説明してあげれば、イツキ君だって安心するでしょう。
1人で思い悩んで、暴走されては…困るのはあなたでしょう?」

「…まあな」


珍しく素直にそう返事をして、黒川もグラスに口を付けた。




posted by 白黒ぼたん at 00:04 | TrackBack(0) | 日記

◎ご案内◎再録


当ブログも5月で開設3年。
記事数も400を超え、さすがに散らかって参りましたので
大まかな印を付けておきます。

ただ…ウチのお話は…
本当に行き当たりバッタリで書いているので…

昔のお話は…色々、変ですあせあせ(飛び散る汗)あせあせ(飛び散る汗)

その辺りをご了承の上、お楽しみ頂けると幸いです。



現在のシリーズ。お話の初めは→「ゆるやかな牢獄」

木崎君、初登場→「解り易い敵意」

小野寺の出番は→「ダメージ」

プチ家出編→「迷い猫イツキ」


また…裏技といたしまして…
下記のURLの「201109」の部分…西暦と月になっております。
ここを変えて入れると、その月に飛びますダッシュ(走り出すさま)ダッシュ(走り出すさま)

http://cho-tanpen.sblo.jp/archives/201109-1.html

ハイフンの後の数字は、その月の最後が「1」のようです。多分…。




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posted by 白黒ぼたん at 00:15 | TrackBack(0) | 日記

2011年09月12日

数日後






黒川が部屋に戻ると、そこは…泥棒が入ったか嵐が過ぎ去った後か…荒れ放題に荒れていた。
そこいらにダンボールが転がり、服が乱れ、戸棚が開き、物が散乱していた。

イツキはと言えば、その奥。さらに荒れた寝室の、毛布やらシーツやらが乱れたベッドの中に、巣籠りするリスのように丸まっていた。

「酷いな」

黒川が笑いながらそう言い、毛布を捲ると、膨れっ面のイツキが顔を覗かせる。
眠っていたわけでは無いようで、黒川を一度見遣ると、また拗ねた表情で毛布に潜り込む。

「…俺、こういうの嫌い。…片付けとか…」
「自分のものだけ詰めればいいだろう。服と…夜のオモチャくらいか?」
「…それが嫌。…俺って…、何も…持ってないんだなって…改めて…思った……」

ベッドの縁に座り、黒川は煙草に火を付ける。
足元にはゴミ袋が口を開けたまま置いてあり、そこには、ガラクタ同然の玩具が捨てられていた。

「…好きな本も、ゲームも…、子供の頃のアルバムも、何も。…何も持ってないんだ、俺…」
「そうだな。身、一つって奴か。は、は。身軽でいいだろう」

冗談めかした黒川の口調に、イツキはもう一度顔を上げて、黒川を見る。



何かにすがるようにイツキが、手を、伸ばすと、

それを、黒川が、握った。



「…マサヤ。…俺、どこ行くの?…今度は、どうなるの?」
「お前は、いつもそう心配してばかりだな。…逆に、どうしたいんだ?」
「俺は……」


開きかけた口を、黒川が塞いでしまったので、
言葉の続きは、少し、待たなければいけなかった。




posted by 白黒ぼたん at 00:16 | TrackBack(0) | 日記

2011年09月13日

言葉の続き






『お前は、どうしたいんだ?』

そう聞かれて、きちんと答えを用意していたのに、唇を塞がれてしまった。
それが、少し、離れて、やっと、呼吸をして、その後に、言葉を紡ごうと思ったのに、
その言葉は簡単に、意味のない、喘ぎに変わってしまった。

マサヤはずるい。
いつだって、そうだ。
ちゃんと向き合って、話をしたい時に

そういう時に限って、優しく、抱き締めてきたりする。



ボタンのシャツを着ていたはずなのに、いつ、ボタンを外されたかが解らない。
袷からマサヤの手が滑り込んで、指の腹だけで胸を触られて、肩を掴まれたかと思ったら
もう、シャツが脱げていた。
その間にもマサヤの唇は、俺の唇と耳の後ろを行ったりきたりしていて、くすぐったくて、
「…ん、……あ、ん…」と声を出したのは、別に、感じていたからじゃ、無くて。

俺はもうすっかり、する、格好になって、マサヤの腰に足を巻きつけたりしているのに
肝心のマサヤは、まだ、服すら脱いでいなかった。
衣服越しに、熱くて硬い、マサヤのが伝わって来て、ドキドキするけれど
自分ばかりがそう急いているのが悔しくて、気の無い素振りで、腰を引いてみせた。




「…イツキ」
「………なに…?」
「言いたい事があるなら、言えよ。…お前は、どうしたいんだ?」

いつもの自信満々の表情に、ニヤリと笑みを浮かべて、俺を見下ろすマサヤ。
俺の、開いた足の間の、その真ん中に、指を這わせて、そんな事を聞く。

俺の返事は勿論…



「……早く、して…」


の一言だった。




posted by 白黒ぼたん at 00:50 | TrackBack(0) | 日記

2011年09月15日

びっくり佐野っち





「引越し?…いつだよ?」
「来週」
「どこに?」
「…知らない」

ラーメンの麺を箸で摘んだまま、佐野は驚いた顔をして、イツキを見つめた。

イツキに会うのは数週間ぶりりだった。
たった数日、会わないだけで、イツキの周りは驚くほど変化する。

最後に会ったのはイツキの部屋で、手は出さないつもりだったのに、結局、手どころかアレまで出してしまった。
藤田社長にレイプされて、さぞ落ち込んでいるのだろうと思いきや、イツキが心を痛めていたのは真由子への嫉妬で…
その辺の事情があって、自分から小野寺に抱かれて行くなんて馬鹿な事もしたんだと思ったのだが、本当のところはよく解らない。

「…急だな…。何でまた引越しなんかするんだよ?」
「俺だって知らないよ」
「…俺と…したのが…バレたのか?…それで、なんか…」
「そんなのとっくにバレてるよ。すごい怒られたけど、多分、それとは別」
「バレてんのか!」

箸のラーメンをつるりと落として、佐野は素っ頓狂な声を上げた。
黒川とはついこの間、仕事であちこち一緒に回っていたのに、そんな話は一言も出て出てこなかった。
それは、もう黒川の中で片付いた問題だったし、そもそも佐野に責任を取らせるつもりもなかったのだろうが…それでも知っていると知らないとでは大違いだろう。
自分がどんな目で黒川に見られていたのかと思うと、佐野の胃がキリキリと痛んだ。


「…お前は…、大丈夫なのかよ?」
「…多分」

色んな意味を含めて佐野がそう尋ねると、イツキはラーメンの汁をすすりながら、小さな声でそう返事をした。





posted by 白黒ぼたん at 00:23 | TrackBack(0) | 日記

2011年09月16日

しょんぼり佐野っち






ラーメンも食べ終わって、イツキは脂っぽい口元を拭いて、時計を気にする。
まだ、片付けがあるのか…社長が来るのか…どちらにしても、佐野と一緒に過ごす時間は無さそうだった。
それでも佐野は一応、「なあ、この後…どっか行かねぇ?」とイツキを誘い、
イツキに、ふふと鼻で笑われ、「…行かない」と言われて、撃沈するのだった。

店を出て、タクシーを拾うイツキについて、通りを歩く。


「…真由子さんは?…会ってるの?佐野っち」
「ああ?…ああ。……お前、真由子と何かあったのか?」
「んー…。ちょっと、話し、しただけだよ」

その程度の話しをしながら、イツキは丁度良い場所で立ち止まって、車の流れに目をやる。
空車のタクシーを見つけて手を挙げる、イツキの背中を、佐野はじっと見つめた。

相変わらず細い肩。小さな背中。
少し伸びた髪のせいで、せっかくの綺麗なうなじが、隠れてしまうのが残念。

「…な。…連絡しろよ。片付けとか手伝うぜ?」

そう声を掛ける佐野に、イツキは振り返らず返事をする。
目の前にはもうタクシーが、ウィンカーを上げて、滑り込んで来た。

「新しい住所…俺もまだ知らないけど…でも、教えるなって言われてるんだ。誰も、入れるなって」
「…あ。そうなんだ…」
「でも、メールはするよ。…ありがと、佐野っち」


最後にイツキは振り向き、佐野に、微笑む。
バイバイと手を振って、ドアが開いたタクシーに、乗り込んでしまった。


佐野は、同じように、バイバイと手を振って…


これが、本当に最後の別れにならない事を、祈った。




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2011年09月19日

真夜中のドライブ・1





片付かない部屋に嫌気が差して、何もかも中途半端なまま投げ出して、ベッドに潜り込んだ真夜中。
気が付くと、マサヤがクローゼットの扉を開けて、何か、ガサガサやっていた。

大きなトランクを床に置いて、自分のスーツや荷物を、無造作に中に詰め込む。

「……マサヤ、…今から…片付け?」
「丁度、向こうに行くからな。少し、持って行く」
「…向こうって…、…新しい所?」

マサヤ背中を眺めながら、半分寝ぼけた声で聞く。
あらかた荷物が出来たのか、マサヤはトランクをパタリと閉めて、咥えていた煙草の灰を灰皿に落とした。

「いや。俺の家だ」

その言葉に俺は一瞬で目が覚めて、ベッドから身体を起こした。

…マサヤの家。

ここ以外に、どこか…場所があるとは思っていたけど、マサヤの口からそれを聞くのは初めてだった。


俺が、その事に驚くのを、最初から解っていたように
マサヤはふふと鼻で笑う。
そして

「一緒に来るか?」

と、聞いた。




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