2011年09月21日

真夜中のドライブ・2






寝巻き代わりのTシャツにスウェットのズボン。それに銀座で買ったコートを引っ掛けて、外に出る。
マサヤの車は駐車場ではなく、マンションの前に停められていて、その助手席に乗った。


俺は、道路も地理も詳しくない。
車が走り出して10分もすると、もう、そこがどこだか解らなくなる。
それでも、あちこちに見える看板や街の雰囲気で見当をつけながら、初めて行く「マサヤの家」がどの辺りだろうと考えた。

多分…。マンションとは、事務所を挟んで反対側…くらい。渋谷とや代々木とか…その辺り。
それでも、幹線道路から何本も奥に入って、静かな町並みの隅の方。

コイン式のパーキングに車を停めると、そのすぐ隣が、そうだと言う。


正直な話。

マサヤの「家」は…


都心の高層マンションの最上階で、部屋にはオシャレな輸入家具が間接照明に照らされていたり…熱帯魚の水槽があったり…。
もしくは、お寺みたいな門構えの大きな和風の家で、玄関前にはヤクザな人たちがお出迎えに並んでいるのかも…

なんて思っていたのだけど…


そこは3階建ての、古びたコンクリートの建物だった。
一階部分は何か、お店のようだったけど、シャッターが閉まっていてよく解らなかった。
脇に別に入り口があって、上の階が住居になっているようで、いくつか並んだ郵便受けにはチラシやゴミが詰まっていた。

「…ここ?……マサヤ…?」

物珍しさに、きょろきょろと辺りを見回す俺を放って、マサヤは階段を上がり始める。
俺は慌ててマサヤの後を付いて、暗く、静かな通路を歩いた。





posted by 白黒ぼたん at 00:26 | TrackBack(0) | 日記

2011年09月22日

真夜中のドライブ・3






ドアノブの真ん中に鍵を挿して、かちゃんと、回す。
ドアを開けると小さな玄関には大きな靴が散らかっていて、マサヤはそれを足で避けて、中に入る。
壁のスイッチを入れると、明かりが一つついて、それで部屋の全部が見渡せる。
そこは、笑ってしまうくらい小さい、狭い、部屋だった。

「…ここ?」
「ああ」
「…えーと。…可愛い部屋だね」

つい、口をついた言葉に、マサヤは声を上げて笑った。



入ってすぐは細い通りになっていて、右側に流し台と冷蔵庫、左側にはユニットバスの扉。
その向こうは6畳くらいの一間で、どうやら、それでお終いらしかった。
荷物を抱えたマサヤは、それを流し台にぶつけながら奥へ向かう。
流しには、いつ使ったか解らないようなグラスと、カップラーメンの空き容器が転がっていた。

「…ああ、ここにあったのか…」

そう言ったマサヤの目線の先には、壁のフックに引っ掛けた、コートがあった。
その言葉で、マサヤもこの部屋に来るのは久しぶりなんだと思った。

だって、テレビも、ブラウン管のままだったし。


どうにか座る場所を作って煙草に火を点けるマサヤを、俺は部屋の入り口の壁に寄りかかったまま見つめていた。


「…ここは、本当に…最初に使っていた所だ。まだ、俺が、駆け出しの、どチンピラだった頃な…」
「…マサヤにも、そんな頃、あったんだ…」
「一ノ宮と組んで、派手に遊んでいた。二十歳頃か……ふふ」


昔を思い出した風にマサヤは鼻で笑って、その古い部屋に、紫煙を吐き出していた。





posted by 白黒ぼたん at 18:03 | TrackBack(0) | 日記

2011年09月24日

真夜中のドライブ・4






狭くて小さい、散らかった部屋に、俺はどこか…安心していた。
マサヤの帰る場所は、ここか、俺の所、だけなんだと。
それと同時に、…一つの不安が…頭をよぎる。

「…マサヤ。今度の…新しい家って…どこ?……俺と、マサヤが…住むんだよね?」
「…どうだろうな。…事務所から少し離れるから、あまり…寄らないかもな。…お前、1人で悪さ、するなよ?」
「1人?…俺、1人なの?」
「今までだってそうだろうが。何だ?寂しいのか?」
「そんなんじゃないよっ」

解りやすい、馬鹿にした笑みを浮かべて、マサヤがそう言うので、俺もつい、そう言う。

「…行ってみるか。…向こうも」
「…え」


吸っていた煙草を、そこらの空き缶に落として、マサヤは腰を上げる。
俺の前を通り過ぎて、玄関で靴を履き始めるから、俺も慌てて後を追う。
俺は、まだ、聞きたいことがあったけど、とりあえず黙ってマサヤの背中を見て
それから、もう一度、マサヤの部屋を振りかえって、廊下のスイッチを消した。


「…下が、婆さんがやっているクリーニング屋でな。…婆さんが死んだら、ここも潰されるんだろうな」

建物から出て駐車場に向かうまでの間、マサヤはそう、独り言のように呟いていた。




posted by 白黒ぼたん at 23:34 | TrackBack(0) | 日記

2011年09月28日

ドライブ寄り道






信号待ちの間、一つだけ、キスをしたら
止まらなくなってしまった。


舌で唇をなぞられる感触がくすぐったくて、「…ぁ」と小さく声を上げたら、それが合図のように
マサヤは俺をシートに押し付けて、さらに深く、唇を貪る。
息を付く間も勿体無いほど、その感触を味わっていると
マサヤの手はいつの間にか、俺の身体の上を這い回っている。
どこを触れば、もっと湿った声が出るのか、マサヤは全部知っていて
指先の動き一つ一つに律儀に反応する俺は、良い、楽器みたいだと思う。


信号はとっくに青になっていて、後ろに並んでいた車が派手にクラクションを鳴らす。


マサヤは、ちっと舌打ちをすると
俺、から手を離して、替わりにハンドルを握る。

アクセルを目一杯ふかして、車を出した時には

行き先は、つい数分前とは、違う場所になっていた。




posted by 白黒ぼたん at 01:35 | TrackBack(0) | 日記

2011年09月29日

真夜中のドライブ・5







車を出して10分もすると、また、俺の頭の中は迷子になる。
もしくは場所を解らなくするために、わざと巻いているんじゃないかって位、細い道を何本も入っていく。
着いた場所は、都内だけど、どこかのんびりした雰囲気の住宅街で
住むのには良さそうだけど、およそ、マサヤには似合わない感じの所だった。

『事務所からは遠くなるから、あまり、寄らないだろう。お前、1人だ』

さっき言われた言葉が頭の中に残っている。
本当にこの場所で、俺の新しい生活が始まるんだろうか…。
前のマンションより、少し、古い感じの建物の前に車を停める。
本契約は来週で、まだ、鍵は受け取っていないと、マサヤは言った。

「…俺、やだな…。なんか…、心配」
「すぐに慣れる」
「…どうして引越しなの?…だったら俺、さっきの…マサヤの部屋でもいい」
「あんな狭い部屋に2人住めるか。馬鹿」

マサヤは煙草に火を付けて、窓を少し開けて、煙を吐く。
俺はうつむいてばかりで、期待しても無理な、マサヤの優しい言葉を待つ。

「…どうして…」





その言葉に返事は無く、
替わりにマサヤは煙草を窓の外に投げて、ギアに手を掛けると、車を発進させた。



posted by 白黒ぼたん at 00:12 | TrackBack(0) | 日記

2011年09月30日

真夜中のドライブ・6






帰り道はどうやら、違うルートを通ったらしかった。
高速に乗るとそこは俺でも知っている地名で、マンションにも事務所にも、意外と近いような気がした。
流れる夜景と、ハンドルを握るマサヤを交互に見遣る。

マサヤは、少し、薄笑いを浮かべている風で、それは…俺に、意地悪をする時の顔だった。

「…マサヤ…?」
「一ノ宮が五月蝿くてな。お前に…物事をちゃんと説明しろ、だの、優しくしてやれ…だの。…小姑か」

どこか馬鹿にしたように鼻で笑って、そんな事を言う。
それでも、そんな話を一ノ宮さんとしていた事が、少し嬉しい。

「……本当だよ。…もっと、ちゃんと…話してよ」
「お前にか?…はは、お前は俺の言う事を黙って聞いていれば良いんだよ。いい気になるな」

俺に視線の一つも寄越さず、マサヤはそう言って、ウィンカーを上げると高速の出口に向かう。
くるくるとカーブを回って、一般道に出ると、そこはもうマンションのすぐ傍だった。


車がマンションの前で停まる。
マサヤは駐車場には入らず、そのままどこかに、行くらしかった。
俺だけ車から降りるようにと目で言い、少し、間が空いて

俺がドアに手を掛けると、……今度は引き止めるように反対側の手を掴んだ。

「マサヤ?」
「…来週の頭には引越しだ。支度しておけ。…お前、向こうに行ったら……」
「行ったら?」

思わせぶりな口調でそこまで言うと、マサヤは口をつぐんでしまう。
何か、言いにくい事なんだろうか…悪い事なんだろうかと…不安が胸をよぎった。


だって、マサヤの口から、良い話しなんて…聞いたことが無い。
だから、次の言葉も、俺には一瞬、何のことだか…理解が出来なかった。



「近くに、私立の高校がある。…そこに行け」




posted by 白黒ぼたん at 00:58 | TrackBack(0) | 日記
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