2015年07月02日

2.電話






真夜中に黒川から電話があったのは、ただ、週末の予定を確認するためだった。
イツキの声が小さく低く、どこかうわの空だったのは、寝ぼけているためか…予定に不満があるためかと思ったのだけど、最後に



『……明日は、……出掛けるから…』


と、言う。


『何だ。また学校のオトモダチとくだらない……』
『……お父さん、……死んだって、お母さんから電話があって…。明日、お葬式……』






しばらく間が空いたのは、お互い、何を言えば良いのか忘れてしまったためだった。

イツキは正直なところ、この事を黒川に話すのはどうなのだろうかと、思っていた。

最後に思い出すのは、父親が、黒川に足蹴にされ、血だらけでうずくまる姿なのだ。

自分には父親、母親、実家…は、すでに無い物で、それに触れる事は一切タブーなのだと、イツキは自分に言い聞かせていたのに。





『……お昼頃…行って、………すぐ帰ってくるから…』
『佐野をやる。車で行かせるから、一緒に行け』
『……え、いいよ…』
『一緒に行け。その方がいい。日曜日の予定は無しだ、気にするな』



そう言って、電話は切れた。




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2015年07月04日

3.佐野






佐野が話を聞いたのは、黒川がイツキとの電話を終えたすぐ後。
佐野は仕事とは名ばかりの、知り合いの店で飲んだくれていたのだけど、黒川に、明朝、車で事務所に来いと言われ、酔いが冷める。
葬式だと言うので、喪服を着ては行ったのだが、それがイツキの父親だとは、事務所に着くまで知らなかった。


『…え、俺なんかが行って、いいんすか?』
『別にどうこうする訳じゃない、運転手だ』
『社長は行かないんですか?』
『俺が行ってどうする、そんな義理は無いだろう』


無いと言われれば無いが、まるで関係が無い訳でもないだろう。
それでも黒川が顔を出せば、面倒な事になるのは明らかだ。

それは、イツキが顔を出しても同じ事で…

自分を同行させるのは、多少なりともイツキを助けてやるためなのだと

黒川なりの気遣いなのだと…、佐野は、思った。





「家、群馬かぁ…。お前、行ったこと、あんの?」
「……ううん。……全然、連絡…、してないし……」
「そっか…」
「だから…別に…いいのに。……知らせなくても。…もう、お互い…、……いない人って…思ってたのに……」




イツキは切れ切れに言葉を繋ぐ。




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4.香典







伝えられた場所は実家ではなく、葬祭場だった。
実を言えば父親は、すでに2日間に息を引き取り、病院からこちらに移り、今日荼毘にふされるのだと言う。


予定通りの時間に葬祭場に着き、駐車場に車を停める。
佐野がイツキを見遣ると、イツキは蒼白な顔をして、ただ、うつむいていた。



「……大丈夫か?」
「……大丈夫だよ。……もう、死んじゃってるんだし…」


そう言って、無理に笑って、イツキは勢い、車を降りた。








葬祭場に入ると、心の準備も終わっていないのに、すぐ正面に母親が立っていた。
お互い、すぐに気付き、口をぽかんと開けたまま立ち竦み、思い出したように慌てて、頭をぺこりとさげる。



「このたびは、ごシューショーさまです。これ、社長からです」



口火を切ったのは佐野で、そう言うと懐から香典の包みを出し、差し出す。
それは横目で見たたけでも厚みがあり、かなりの額が入っていると解るものだった。




posted by 白黒ぼたん at 23:45 | TrackBack(0) | 日記

2015年07月05日

5.由紀






「………お兄ちゃん……?」



イツキと母親が、お互い、どうして良いのやら立ち竦んでいると、後ろから声が掛かる。
セーラー服を着た少女。どことなく雰囲気がイツキに似ている。



「………由紀?」
「…お兄ちゃん!」



少女は、イツキの妹の由紀だった。
由紀はイツキの傍に駆け寄り、抱き付こうと手を伸ばしかけるのだが、会えなかった時間に躊躇し……止まる。
それでも、手を、イツキの腕にやり、控えめに袖口を掴むと、ぽろぽろと涙を零した。



両親が、妹に、イツキの事を何と言って説明しているのかは解らないが、
兄妹が、ほぼ4年もの間、離れていた事に変わりはない。
仲の悪い兄妹では無かった。仕事で留守がちな両親に替わり、イツキはあれこれと妹の面倒も見ていた。



「……久しぶり。……大丈夫だった、由紀?」
「…………ん…」



由紀は手の甲で目元をごしごしと拭うと、とりあえず顔を上げ、うん、うんと2,3度頷き、



「…お兄ちゃん。…お父さん、あっちにいるよ」


と、奥の部屋に案内するのだった。




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2015年07月07日

6.父親







ほんの申し訳程度の小さな祭壇の前に、質素な棺が置かれ、そこに父親は眠っていた。
最後に顔を見た時よりも、痩せているような気がする。
…もっとも、最後に見たのは、黒川に足蹴にされ血だらけになった顔なのだけど。



悲しみも、怒りも、何の感情も、浮かんでは来なかった。

逆を言えば空っぽで虚ろで、何も、考える事が出来なかった。

この男の所為のみで、自分の人生がおかしくなったのだとは思っていないけど

一因を担っていることは確かで、だからと言って、責める訳でもなくて。


見合う気持ちが、解らなくて、困る。




「……去年、仕事を辞めてから、お酒ばっかり飲むようになってね、…身体、壊して…
最後は、肝臓、やられちゃってね……」



一歩後ろにいた母親が、そう説明する。



「……もっと早くに連絡しようとしたんだけど…、お父さんが、するなって…。……一樹はもう、家の子じゃないって…言ってね。…でも本当は、会いたかったんだと思うのよ。
……ごめんね、間に合わなくってね……」



そう言って母親は泣くのだけれど、イツキにはその涙の理由が、さっぱり解らないのだった。





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7.小箱







実際、亡くなったのは昨日の明け方だったそうだ。
今日、病院から葬祭場に移動し、イツキ達が到着する少し前に、僧侶が来て枕経をあげてもらうだけの簡単な葬儀を済ませていた。


お別れの言葉を探す間もなく、やがて時間が来て、父親は行き、


気が付けば、小さな箱になって、目の前に戻って来ていた。








「………大丈夫か?………イツキ?」


佐野は特に何の手伝いをする訳でも無かったが、ずっと、イツキの傍にいた。
本当はどこか外で待っていようかとも言ったのだけど、イツキが、行かないで欲しいと頼んだのだ。


かと言ってイツキも、特に泣き崩れて、佐野に抱き付く訳では無かったのだけど、


それでも、近くに。……今の自分の世界を知る佐野に、近くにいて欲しかった。




「………ん…」


そう答えて、イツキは、無理な笑顔を浮かべる。


「……ありがと、佐野っち。もう。……帰ろっか…」
「え、いや、お前…。まだ、話とか…あんだろ?」
「……無いよ」



すると、そんなやりとりを聞いていたわけでは無いだろうが、母親が、イツキの傍に歩み寄り、声を掛けた。



「お茶ぐらい、して行きましょう。……お連れの方も一緒に、ね」





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2015年07月09日

8.珈琲








葬祭場の近くには、そういった集まりに利用できる飲食店がいくつかある。
4人はその内の一つに入り、とりあえず皆、コーヒーを注文する。


けれども、テーブルを囲んだところで、楽しい思い出話が出来るはずもなく、
静かにうつむいたまま、熱いカップに口を付ける。



イツキは、…ちらりと…、向かいに座る母親を伺う。
気配を察したのか、母親は…少し、優しげにほころび…口を開く。


「……一樹、ご飯は、食べてるの?」
「……うん」
「……それは、高校の制服?……ちゃんと、行ってるのね」
「…うん。……今度、3年…」


すると母親の隣に座っていた妹が、指を折り、何かを数えたらしい。

「…嘘、お兄ちゃん、一年、違う。…留年しちゃった?」
「……まあね」


イツキは冗談めかし、笑顔を浮かべながら言う。
イツキの隣では佐野が、ヒヤヒヤしながらその様子を浮かべる。






イツキが、黒川の「女」だと、母親が知っている事を、佐野は知っている。
なぜそうなったのかの経緯は、母親はまるで知らない事も。
どこから、どこまでが話して良い話なのか、見当もつかず、頭の悪い佐野は口を噤む。




「……佐野さんと仰ったかしら…」
「……は、はいっ?」
「…良くして頂いて…、ありがとうございます。…黒川さんにも、お伝え下さいね」



急に話を振られ、あやうく、コーヒーを零しそうになるのだった。




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9.小声






それぞれ、聞きたい事は山のようにあるのだけど、お互いが探り合い、なかなか聞き出す事は出来ない。
誰かがトイレに立った時や、並んで歩くほんの隙を見付け、手短に、聞きたいことを聞く。





「一樹。お母さん、あの時は…ちょっと言い過ぎたわね。……ごめんね…」
「……いいよ、もう…」
「ちゃんと…生活出来ているのね。あなたが幸せなら、それでいいんだけど…」
「……うん」


以前、イツキが男に抱かれている写真を見て「汚らわしい」と言って拒絶した母親は、一応、そんなイツキを受け入れたらしい。
この一年、酒に溺れ自滅して行った父親の面倒を見ながら、イツキがこの父親から、家庭から、離れたかったのも無理はないと思ったのか。

それは間違った解釈なのだけど。





「……佐野さんって、お兄ちゃんって、どんな関係なんですか?」
「え?……ええと…、俺は社長に言われて…、付き添ってるだけだから……」
「…ふぅん?」


上目づかいで、何かを探るような由紀の表情は、やはり、イツキに似ていた。
けれど、顔立ちは基本的に…父親似のようで、……残念だと、佐野は思った。


「お兄ちゃん、黒川社長さんの所で、お仕事手伝ってるって、本当ですか?
…都内で、マンションって…いいなぁ。うち、今、2DKのアパートなんですよね」



妹は口を尖らせてそんな事を言って、少し先にいたイツキの事を、ちらりと眺めるのだった。






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2015年07月10日

10.悪癖







コーヒーを飲み終え、小箱を抱え、葬祭場の駐車場へと戻る道。


冗談なのか本気なのか、母親はイツキに「…家に寄る?」と尋ねるが、
イツキは首を横に振り「いい」と答える。

妹は小走りでイツキに駆け寄り、幾分親しそうに腕を掴むと、「お兄ちゃん、今度、お兄ちゃんち、行っていい?」と聞く。

その問いに、イツキは曖昧な笑みを浮かべ「……どうかな…」と言う。




ふいに、母親が、妹の腕を、引く。




それは、イツキにあまり近づいてはいけないという、母親の無意識の気持ちの表れだった。






駐車場で別れを告げ、母親たちはタクシーに乗る。
佐野は一段落とばかり背伸びをしてから、車に乗り、ハンドルを握る。
今から出れば、夜の7、8時には向こうに帰れるだろう。
助手席のイツキは、来た時とそう変わらない顔。悲しみでもなく、何でもなく、ただ宙を見つめているだけだった。



「なあ、イツキ。お前の家族って、マジ、お前の事、何にも知らねーの?」
「…知らない」
「母親は知ってるんだろ?お前が、社長とアレだって……」


運転を始めた佐野には、イツキの細かな表情は伺えない。
つい調子に乗ってしまい失言を重ねるのは、佐野の、悪癖だろう。





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2015年07月11日

11.失言






「…でも、元はと言えば借金のカタだもんな。知らない家族はシアワセだよなー。
親父さんも死んだんだし、全部、言っちゃってもいいんじゃねぇの?」
…ああ、でもそうすっと…、社長、捕まるか?……あっはっは…」


勿論、半分は冗談だったのだが。イツキからは何の反応も無い。
不思議に思い赤信号の間に隣を見ると、イツキは、両手で顔を隠したままうつむき、


小さく震えていた。



「……あ。……悪い…」



さすがに佐野も必死で取り繕おうとしたのだが、信号は青に変わり、前を向くしかない。


「…ごめんな、イツキ。言い過ぎたな、こんな時に…」
「…………いい…」
「…ん?……あっ、焼肉屋があるぜ?……何か、食って行くか?」
「………いい。……もう、………しゃべんないで…」




それきり、イツキはもう、何も話す事は無かった。
涙を流す訳でもなく、嗚咽を飲み込む訳でもなく。
顔を覆っていた手は、また、だらりと垂らされて
イツキは何の表情もないまま、窓の外の流れる景色に目をやるだけだった。



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2015年07月12日

12.帰宅







「着いたぜ?」



結局、数時間、無言のまま。車は、イツキのマンションに到着する。
前の通りに車を停め、佐野が声を掛けると、イツキは力なく、こくんと頷く。
佐野は車を降り、助手席側のドアを開ける。

イツキは幽霊のようにふわりと歩き、階段をひとつひとつ確かめるように上がり、マンションの入り口に向かう。
ポケットから鍵を取り出すと、手に力が無かったのか、落とし、慌てて佐野が拾う。


「………大丈夫か?」
「………ありがと。……佐野っち。……もう、いいから」


佐野から鍵を受け取り、イツキは、絞り出すような小さな声でそう言う。
心配だから部屋まで送るという佐野を、きっぱりと断り、入り口の扉を開ける前に帰って欲しいと、視線で促す。



「………そっか。……じゃあ、な。……何かあったら、連絡しろよ?」
「…………ん」



イツキはひらひらと手を振る。
佐野は、心配ではあったのだが、諦めて踵を返す。

自分がいてはイツキが部屋にも入らないような気がして、
……そして、早く、独りきりになりたいのだと思って…
一度だけ振り返って、じゃあな、と手を振って、自分の車に戻った。




車を出す前に、一服する。
今日は、酷く疲れたなと、思う。




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2015年07月13日

13.限界







イツキはどうにかエントランスを潜り、ホールを抜け、エレベーターの前に立つ。
今日に限って照明はいやに暗く感じ、空気は湿り、酷く寒い。
当然、小さな箱のエレベーターは独りきりで、扉が閉まると、少し耳が痛くなる。

照明に、蛾が、当たる。
これから、否が応にも父親を思い出す、夜が始まる。








「………イツキッ!?」

佐野は車の中で一服を終え、車を出そうとエンジンを掛ける。
サイドブレーキを解き、ブレーキから足を外し、何気に、もう一度マンションに目をやると、
エントランスの奥から、こちらに向かって走るイツキの姿が見えた。

少し走り出した車を慌てて止める。その間にイツキは車に駆け寄り、運転手側のガラス窓をバンバンと叩く。



「…何っ、……どうした、……イツ……」



ドアを開けると、イツキが倒れ込んで来る。
そのまま佐野の身体に腕を回し、抱き付く。
佐野は身体を後ろに反らせながら、イツキをどうにか受け止める。



「…………の…、……っち……」
「………イツキ?」
「だめ。……おれ、1人にしちゃ…、………だめ…」



堰を切ったように、涙がぽろぽろと零れ落ちる。
それは今日一日、流す予定だった、すべての涙のようだった。
イツキは泣きじゃくりながら、佐野に、傍にいて欲しいと懇願し、



佐野は返事の代わりに、イツキを強く、抱き締めた。







とりあえず、ここまでw
続きはまた今度ww
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2015年07月15日

間の悪い男







前日、イツキに食事の予定を断られて、大いに機嫌を損ねた梶原は
翌日、2学年最後の日に、イツキが欠席だと知り、さらに機嫌を損ねる。


勿論、朝から何度も、電話もメールもしているのだが、イツキからの連絡は無く
しまいには「電源が入っていないか、電波が届かない場所にいる」と言われ、溜息を通り越して、悪態を付き始める。


イツキの休み癖は今に始まった事ではないが、
間が、悪過ぎる。

加瀬に聞いた言葉も、まだ胸につかえたまま。

何かの誤解だと思いたくても、それを晴らす切欠も無い。




終業式が終わり、午後は、クラスの仲間とボーリング大会があった。
来るはずはないと思っても、イツキを誘い、案の定返事も無く、梶原は拗ねる。

修学旅行中、梶原に告白をした沼原が、可愛いワンピースを着て来たことにも気付かず。
ボーリング後のカラオケも、ファストフードの食事も、口をへの字に曲げたままだった。






帰り道。
意を決して、イツキのマンションを訪れる。


そこで目にしたのは、


イツキが、見覚えのある黄色い車に駆け寄り、
運転席の男に、抱き付く姿だった。







(…なんだか、左手、ひねったか何かで痛くしています。キーボード辛いので、少し、お休みするかも知れません…。ごめんなさい!)
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2015年07月21日

佐野の役目・1






朝。
枕元に置いてあった電話が鳴り、佐野は目を覚ます。
隣で眠っているイツキを起さないようにベッドから起き、声が聞こえないようにと出来るだけ部屋の隅に身を寄せて、電話に出る。




「……はい。……すんません、一緒っす…」


電話の相手は黒川だった。
イツキの様子を聞く黒川に、佐野は正直に、昨夜からずっと一緒にいることを伝えると、

それは、予想済みといった感じで、何の咎めも無かった。



『…悪かったな。…まあ、あいつの気の済むまで付き合ってやってくれ。…仕事の方は西崎に話しておく』
「……はい」


そう言って、黒川の電話は切れた。

本当は、傷心のイツキの傍にいて慰めるのは、自分ではなく、黒川の役なのではないかと思っていたが…

今回ばかりは、逆に、自分でも良いのかも知れない。

黒川もそれが解っていて、自分を、イツキに同行させたのだろうと思う。







佐野はベッドに戻り、端に腰掛け、眠るイツキの顔を眺める。
少しやつれた面持ちではあっても、深く寝息を立てる姿に、安心する。



posted by 白黒ぼたん at 22:06 | TrackBack(0) | 日記

2015年07月22日

佐野の役目・2







昨夜、車の中で佐野に抱き付いてきたイツキは、子供のように泣きじゃくり
佐野が車を運転するために、少し身体を離すことさえ激しく嫌がった。
マンションの前なのだし、そのまま部屋に行っても良かったのだけど…
なんとなく…「生活」から離れた方が良い気がして…ホテルへ向かう。

受付を済ませ、部屋に入るまでは大変だったけれど、入ってしまえば、音が外に漏れる心配もない。
佐野は、とりあえずイツキを抱き締めて、落ち着かせようと、頭をぽんぽんと叩いてやったりした。




『…どうしよう。……佐野っち、……どうしよう……』
『大丈夫だから。な、イツキ…』




何が『どうしよう』で、何が『大丈夫』なのかは解らないが、とにかくそう言ってイツキをなだめる。
ベッドの縁に並んで座り、佐野はおろおろするばかりだったのだが…




どちらともなく、倒れ込み、ベッドに寝転ぶ。

本当は、こんな時に、不謹慎なのではないかとも…思うのだけど…




手を伸ばしてきたのはイツキの方で


再び佐野の身体に身体を摺り寄せると、うわ言のように『…して、…して』と、ねだるのだった。



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