2015年07月23日

佐野の役目・3







やはりマンションの部屋ではなく、ホテルに来て正解だったと思う。
イツキは必要無いのではないかと思うくらい、大きな声をたて、自分自身を煽っているようだった。



『…佐野っち、もっと、もっと…。俺、……壊して…』



そう言って、佐野にしがみつき、自分から腰を振る。
佐野が少しでも手を緩めようものなら、佐野の頭に手をやり、髪の毛をくしゃりと掴み、『…それだけ?』などと挑発する。




そうかと思えば…



佐野が調子よく自分の快楽にかまけていると、いつの間にかシクシクと泣きだす。




『……どうしよう…』
『…え?……は?………イツキ、何?……もう、イきそうか?』
『……どうしよう。……俺、もう……いらない子になっちゃう。俺が…こんな事してる、理由……もう、ない……』



そしてまた、自分を追い込むように身体をくねらせ、わざとあえて、大きなヨガリ声をあげる。


どうしても頭をよぎる、嫌な考えを、流してしまうように。





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2015年07月24日

佐野の役目・4







家のため、父親のためと、黒川に身を預けることになったイツキだったが…
…誰かを恨むこともなく、自分の人生を呪うこともなく、ただ、自分がそうしたかっただけと…健気に今まで、生きてきていた。

一度は父親と決別し、これで本当に、自分の人生は自分で選んだものだと…気丈に振る舞っていたのだけど、



やはり、心の奥底では確かに……家族が平和でいられるのは自分のお陰なのだと、思っていた。


逆を言えばそれが、イツキを支えている全てだったのに。



それを永遠に失くして、改めて、その空白に驚く。








『……イツキ、泣くなよ。……俺は、お前が、好きだぜ?』


佐野にはイツキの心の機微までは解らなかったが…イツキが今、漠然とした不安を抱えていることぐらいは、解った。
精一杯、抱き締めて、優しい言葉を掛けてやる、それ位しか出来なかったが、

それが、今の、自分の役目なのだと、知っていた。



『……だって、俺……、意味、……ない…もん……』
『あるよ。……俺が、…すげー、お前、欲しいし……』


佐野は、涙で濡れるイツキの頬に、手をやる。
ただ、この一瞬だけでも、イツキを安心させてやりたかった。






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2015年07月25日

佐野の役目・最終話








夜通し身体を重ねて、涙とヨガリ声ですべての水分と気を使い果たして
外が白んでくる頃、事切れたように、ようやくイツキは眠りにつく。

決して、満たされた、幸福な寝顔では無かったけれど
答えのない不安に心を苛まれ続けるより、よほど良かった。

さすがに佐野も疲れ、風呂に入るのも忘れて、イツキの隣でそのまま眠る。
恋人同士のように腕枕をし、抱き締めると、少しだけイツキの頬が緩んだような気がした。






黒川からの電話で目を覚まし、佐野はベッドを抜け、部屋の隅で煙草を一服吹かす。
冷蔵庫の水を飲み、ふたたびベッドに戻ると、イツキも眠りが浅くなったのか、もぞもぞと身体を揺する。

大あくびをして、猫のように身体を伸ばし、丸め、手の甲で顔をごしごしとやり、
目を開けると、イツキを見つめていた佐野と、目が合う。



佐野は、イツキの様子が可笑しくて、半分、笑っていた。
イツキも、その笑顔につられ、笑い、



「………おなか、すいた…」



と、言った。






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2015年07月28日

鬼門







「……んで、メシ食って…、帰りました。…大丈夫かなとも思ったんですけど…、あいつ、大丈夫だからって…言うから……」




夕方。佐野は黒川の事務所に寄り、昨日からの経緯を説明する。
黒川は顔色も変えず煙草を吹かせ、部屋の隅では一ノ宮が様子を伺う。


「ご苦労だったな、佐野。…メシ代だ」
「ありがとうございます。……えっ、こんなにっ……」


黒川が手渡した札の枚数に佐野は驚く。思わず、一ノ宮を見てしまうと、一ノ宮は、まあ貰っておきなさい、と言う風に2,3度頷く。
佐野はぺこりと頭を下げ、札をポケットにしまう。


「……あの…」
「何だ?」
「社長は…、イツキんとこ、行かないんですか?」
「まあ、その内にな。…もう帰っていいぞ、佐野」


そう言って黒川は、手をひらひらと振る。


イツキに対する同情も、お悔みの言葉も、流れで一夜を共にしてしまった事も責めも…
何も無い事に拍子抜けする。
すでに黒川は次の煙草をくわえ、手元の新聞を広げている。
もしかしたら、本当に、黒川にとっては…どうでも良い事なのかもしれない。

そんな事を考えながら佐野はもう一度頭をぺこりと下げ、事務所を出て行った。






そのやりとりを傍で見ていた一ノ宮は、

イツキの父親は、生きていても死んでしまっても、黒川の鬼門なのだと

つくづく、思った。








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2015年07月29日

NO大丈夫







佐野には「大丈夫」とは言ってみたものの、当然、イツキは大丈夫では無かった。


部屋に入れば勿論1人きりで、耳と胸がキンと痛くなる。
部屋中の明かりを付け、見もしないテレビを点け、洗濯や、台所の掃除や、普段しない事に忙しく動き回る。

何かをしていないと、何かを考えてしまいそうで、嫌だった。


ケータイには梶原からのメールと着信が溜まっていて、それを見てやっと、昨日が終業式だった事を思い出した。
学校にも特に連絡を入れていなかったので、ただの欠席だと思われているだろう。

せめて梶原には連絡をしようと思ったのだけど、……メールの文面に悩む。
『おとうさん、死んじゃった』では子供じみているし、『父が他界しました』では真面目すぎる。
直接、話した方が楽なのかもしれないと、電話を掛けてみたのだけど、何故か電話は繋がらずに……

やがて、連絡を取るのに、飽きてしまった。




夜は、やはり、泣いてしまった。
佐野を呼ぼうかと思ったけれど、それは止めた。



次の日も、ほぼ、同じように過ごした。
めずらしく布団を干し、埃まみれになりながら、クローゼットの片づけをした。
途中、ふと涙が零れるのだけど、それは埃が目に入ったのだと思った。
お腹が空くと買い置きのカップラーメンを食べて、ビールを飲んだ。




ようやく、黒川が、イツキの元を訪れたのは
その日の、真夜中になってからだった。





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2015年07月30日

嫌な、マサヤ・1








その日のイツキは朝から掃除や洗濯や片付けや…一日、忙しく動き回り、
夜になるとのんびりと風呂につかり、テレビを眺め、ビールを飲んだ。
やがて、眠気が訪れ、ベッドに入るのだけど…そうすると、なかなか寝付けず。
また起き上がって、ビールを飲んで、くだらないバラエティ番組を眺める。

それを何度か繰り返し、ようやく、本当に眠気が訪れる。
それでもうつらうつら…、中途半端な、変な夢を見掛けて、目が覚めて…

慌てて目を閉じて、何か楽しい事を考えようとして、何もなくて



何か、物音がして、目を開けると、そこには黒川が立っていた。





「………あ。……マサヤ…だ…」


半分寝ぼけた声を上げると、黒川はジャケットを脱ぎ、そこらに放り投げて、イツキが眠るベッドに上がる。


「…意外と、普通だな。もっと泣いて、落ち込んでいるのかと思ったぜ?」
「……マサヤ、来るの、遅いんだよ。……もう、佐野っちに、慰めてもらったもん…」
「…ふうん」


黒川はそう言うと、いつもの、馬鹿にしたような笑みを浮かべて…


枕を背にするようにベッドに座り、煙草に、火を付ける。


イツキは横向きに寝転んだまま、黒川を見上げ、煙草の煙の行方を眺めた。






posted by 白黒ぼたん at 22:57 | TrackBack(0) | 日記

2015年07月31日

嫌な、マサヤ・2








「……母親とは、話が出来たのか?」





黒川はイツキの方を向かずに、そう尋ねる。
イツキが小さな声で「…うん」と言うと、「そうか」と答える。



この男でも多少は…気にしているのだろうか。
イツキが、家族との間に、深い傷を残している事に。

痕を残しながらもようやく乾いてきた傷の、カサブタが、剥がれてしまったようだ。



「…妹がいたか…」
「…うん」



またそれだけ、短い会話を交わす。
あえて好んで、傷口を広げるつもりもないのだけど…言葉の一つ一つが、傷に障る。



「まあ、どのみちもう、縁が切れている。関係の無い話だな」
「……そう…だね…」




そう言ってから、本当に、言葉が途切れてしまったので



黒川は吸いかけの煙草を灰皿に押し付けて、その手を、イツキの濡れた頬にやる。





posted by 白黒ぼたん at 22:22 | TrackBack(0) | 日記
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