2015年09月20日

幸せボケ






それから数週間は、意外と穏やかに過ごすことが出来た。
4月の始めの学校は、色々な説明や集まりごとに忙しく、それが逆にありがたかった。
同じクラスといっても、朝の学活で顔を合わせるくらいで、後は専門の教室へと移動していく。
おそらく成績が同じくらいであろう清水とも、選択した学科が違うのか、あまり、一緒になる事は無かった。


昼休みなどに偶然、うっかり、教室で鉢合わせてしまう事もあったけど、

まだ、何も。イツキが心配するような事柄は、起こっていなかった。




「待て、待て、待て、イツキ。一緒に帰ろうぜ。俺、あと、ちょっとだから…!」

午後の授業が終わり、イツキが帰り支度をしていると、他の教室から戻った梶原がそう声を掛ける。
バタバタと自分の荷物を片付け、ノートを探し、『これ、出してくるだけだから!』と言って、また教室を出て行った。


イツキは…どうしようかとも思ったのだけど…まあ、いいかと、椅子に座り直す。
窓の外には夕日などがそれらしく光り、グランドの向こうから、部活動の生徒の掛け声が聞こえる。






あまり、自分から、どうこうしようとは、考えないようにしていた。
学校も、梶原との距離も。

黒川とも。


一緒にいたければ、いれば良いし、嫌なら、また考えればいい。

そんな風に考えてしまうくらい、

イツキは、一時の幸せに惚けていたのかも知れない。




posted by 白黒ぼたん at 17:59 | TrackBack(0) | 日記

2015年09月22日

教室にて








それは突然に、昼休みの、皆が賑わう教室の片隅で起こった。


イツキは、傍に、清水がいるな…という認識はあったけれど、それ以外は別に何も。
視線を合わせる事も無かったし、普通に席を立ち、教室の後ろのロッカーに荷物を取りに行っただけだった。



「……あっ…」



身体がよろけたのも、何かにぶつかったか、つまづいたのかと思った。



それでも顔を上げたその先に清水の顔があって、清水が、自分に、いわゆる壁ドンをしたのだと、気付いた。





「………え……」
「…なあ、イツキ……」



ざわつく教室の中での出来事は、意外に、誰にも気づかれない。
梶原でさえ、まだ、イツキが清水に迫られているとは、知らない。
だからこそ清水も、あえて、こんな機会を選んだのだろう。



「……逃げんなよ。……ちょっと話がしたいだけなんだぜ?……マジで」
「……俺は、……話し、……無いです…」
「別に、変な話じゃねぇよ。……本当に、普通の。……トモダチからって、奴?」
「………」





イツキがロッカーの教材を持って席に戻って来た時には、顔と、耳が解り易く赤くなっていた。
梶原は様子が変わったイツキに何事かと思い、……こちらを見て笑っている清水に気付き、ようやく、イツキと清水に何かあったのだと知った。




posted by 白黒ぼたん at 23:47 | TrackBack(0) | 日記

2015年09月24日

久々金曜日







『金曜日』は清水の行きつけのバーの通称で、イツキも何度か誘われた事がある場所だった。
清水は店主とも親しく、コネでもあるのか、ここでは多少の悪さは許されていた。




イツキは学校から帰り、制服を脱いで、私服に着替える。
正直まだ、仕事用の黒いスーツ以外の服というのは…どうにも野暮ったく見える。
それでもどうにか、まともな服を選び、また外に出る。
清水と、『金曜日』で待ち合わせをしていた。




『……ちょっと話がしたいだけなんだよ…』

と、教室の片隅で清水に迫られてしまった。
極力、関わらないように、関わらないようにと思っていても、逃げ切れない時もある。
清水の「話」がどんな話なのかは分からないが、おそらく、白昼の教室で大声で話されてはいけない話。
今、ここで、話を始めるか、それともどこか、2人きりで話すか。
どちらにしても、イツキにはあまり、嬉しくない事がらだった。

『……じゃあ、前に行った、お店で…。』

清水の誘いを頑なに拒み続ける事も出来ずに、イツキは渋々了承する。
それでも、最低限の、条件は付けたのだけど。





待ち合わせの時間にイツキが店に入ると、そこにはすでに清水の姿があった。
指定席と思われる角のソファに座り、イツキを見付け、手を挙げて微笑む。

…けれど、イツキのすぐ後ろに、ボディーガードのように梶原が付いて来ていて、顔をしかめる。



落ち着いた場所で話をする条件は、2人きり、ではなく
梶原も、同席するというものだった。






posted by 白黒ぼたん at 23:00 | TrackBack(0) | 日記

2015年09月25日

金曜日・2







イツキに話を聞き、ここは自分がイツキを守らないとと、勢い参じた梶原だったが、
夜の店を訪れた事などあるはずもなく、場の雰囲気に、少し飲まれてしまう。
チカチカと光るネオンや、アーリーアメリカンな内装をキョロキョロと眺め、強面に見える店主に、一応、頭をぺこりと下げる。




「……いつまで突っ立ってるんだよ。取りあえず座れよ。何、飲む?」

清水はイツキを自分の隣に招く。
梶原はその向かいに座り、清水を睨みつけたまま、「……水」と言う。



「馬鹿か、お前は」


清水は梶原の言葉を一蹴し、店主に、何やら飲み物を頼む。
出されたグラスは3人それぞれ違い、…ジュースやお茶の類では無さそうだった。


「ま、取りあえず、乾杯でもしておく?…こんな機会でも無きゃ、ゆっくり話も出来ねぇからな」


そう言って、清水はグラスを取る。
梶原がイツキを伺うと、イツキは大人しくグラスを手に持ち、乾杯の形だけすると…それを一気に飲み干してしまう。


イツキはイツキで、意外と、緊張しているらしい。







「………話って、何ですか?……先輩…」
「まあ、そう、急ぐこともないだろ?……いや、驚いたよな、まさかこの3人が同じクラスだとはね。秀才くんは、てっきり別のクラスになると思ったよ」


清水がそう言って梶原を見ると、梶原は…恐る恐るグラスに口を付け、その内容物を吟味している最中だった。





posted by 白黒ぼたん at 23:52 | TrackBack(0) | 日記

2015年09月27日

金曜日・3







清水の話は驚くほど普通の話だった。
学校の話や、一応受験生らしく勉強の話。
時折イツキに軽いボディタッチをして、それっぽい事を言って、冗談で流し、
今日は本当に何もないんだという風を装い、イツキを油断させた。


案の定イツキは、悪くない気分で、常に目の前に出されるグラスに手を伸ばし
三杯目を飲み終える頃には、うつらうつらと、少し眠たそうな顔をした。




「……イツキ、酔っ払った?……大丈夫?」

梶原が心配そうに声を掛けると、イツキは楽しそうに微笑み、壁にもたれかかる。

「……口当たり良いけど、ほとんど、ウォッカだもんな。…まあ、そうなるよな…」

小さく呟く清水の声は、耳に届かなかったらしい。




「…清水先輩、イツキ、眠たそうなんで、…俺等、もう帰ります」
「馬鹿か。話はこれからだろう?……お前さ、ちょいちょい絡んで来るけど、俺とイツキの事、どこまで知ってるの?」
「…え?」
「腹、割って、話そうぜ。…今日はそっちがメイン」


今までとは打って変わり、清水は鋭い目つきで梶原を伺い、ニヤリと笑ってみせる。




3人仲良くお喋りを続けても意味はなく。

今日の、清水の相手は、梶原だった。





(……変な意味ではなく!笑)
posted by 白黒ぼたん at 20:00 | TrackBack(0) | 日記

2015年09月28日

金曜日・4








「……イツキと、先輩が…一時、仲が良かったのは、知ってます。でも、もう、今はそんなんじゃないって。
イツキ、先輩と会うのが嫌だって…、逃げてました……」
「仲が良かった…、ね。…イツキがそう言う「仲」になれる子だとは知ってるんだ。じゃあ、それを仕事にしていたのは?」
「……え?」
「……イツキが黒川さんトコで、…他の男とも、…仲良くするって事」
「それは……」



なるべくストレートな言葉は使わずに、含ませ、清水は梶原の反応を伺う。
梶原は、清水の言っている意味が解るようで、顔を赤くし、逆に言葉を詰まらせる。



「……へえ。結構知ってるんだ。黒川さんの事も。何?イツキに聞いたの?根掘り葉掘り?」
「別に無理に聞き出した訳じゃありません。…俺ら、ずっと一緒にいるし…、色んな事、相談してたから…」
「……ふーん」



清水は聞いたものの、別にその答えには興味が無かったという風に、鼻で返事をする。
持っていたグラスが空だと気付くと、店主に、新しいものを2つ、頼む。
ウイスキーの水割りだったが、それは明らかに、今までとは色の濃さが違った。

グラスの1つを梶原に差し出す。

何か決闘でも始まる様に睨み合い、意を決した梶原がそれを飲むと、清水も同じように酒を飲んだ。




「それで、お前は、イツキと、したの?」



唐突な清水の質問に、梶原はあやうく吹き出しそうになる。
今度は耳まで赤くして「していません」と言うのが精いっぱいだった。





posted by 白黒ぼたん at 23:00 | TrackBack(0) | 日記

2015年09月29日

金曜日・5







「イツキとずっと一緒にいて、イツキがそういう奴だって知ってて、何で、何もない訳?イツキが相手にしてくれないの?……あ、勃たねぇのか、お前?」
「…違いますっ、……俺ら、普通に…、友達だし、別に、そんな……」
「ふーん」



飲み物が気管に入ったのか、むせて咳き込む梶原を、清水は茶化す。
そんな質問、答えを聞くまでもなく解っていたのだけど、梶原の狼狽ぶりが可笑しかった。


ふと、隣を見ると、イツキは壁にもたれ掛って、すっかり寝入ってしまっている。
相変わらず無防備な奴だと、清水は笑う。


梶原は口元をタオルで拭いながら、見たことも無い柔らかな笑みを浮かべる清水に、驚く。
清水がイツキを好きでいるというのは、多分、嘘では無いのだろうと、思う。





「……先輩と、イツキは…、……何で、……別れちゃったんですか」

まるで男女間の事を聞くような言葉に違和感を覚えながら、それでも、それ以外の言葉が解らずに、梶原が尋ねる。

「……何だろうな。……こいつが急に…。……俺の事は、大した事じゃ無かったみたいな事を言うから……」



イツキがそう言って、自分の目の前で、自分の父親とセックスをしていた事は、さすがに梶原相手に話す事は出来ない。
その代わり清水は口を噤み、その時の場面を思い出したのか、少し不機嫌な顔を見せた。





posted by 白黒ぼたん at 20:18 | TrackBack(0) | 日記

2015年09月30日

金曜日・6







お互い、聞きたい話はあるはずなのに、言葉を選んでいる内に口数が少なくなってしまう。
店内の隅で賑やかに興じられるダーツを眺め、ジュークボックスから流れるカントリーミュージックを聴く。



梶原は、イツキが清水と決別した直後、…だと思われる時期を覚えていた。
イツキはふわふわとどこか、心が散って無くなってしまったような様子で、それでも生きている拠り所を探すように、ケータイの画面ばかりを覗いていた。
確認した訳ではないけど、それは、清水からのメールだったのだと、解った。


2人の別れは、本意なものでは無かったのかも知れない。


イツキが何かを吹っ切るように、勉強に身を入れ始めたのも、その頃なのだ。





「……イツキ、今、頑張ってるんですよ、勉強とか、色々。だから、あんまり、邪魔しちゃ……」
「何だよ。俺が邪魔者だって言うのかよ?」
「いやっ、…そういうんじゃなくて……」
「別に今すぐ、どうこうしようなんて、考えてねぇよ。……ただ、本当の所はどうだったのか、……気になってるだけだ」



そう言って清水は、また、イツキを見る。
そして、「……少し、酷い事、しちまったからな」と、言ってみるのだった。



唐突に別れを告げられ、父親との情事を見せられ、直後は酷く恨み、蔑み、なじったものだった。
売り言葉に買い言葉で、金で、イツキを買った事もあった。



その時には、それも仕方なかった事とは言え、
過ぎてしまえば、やはり残るのは、愛しい気持ちばかり。





posted by 白黒ぼたん at 22:00 | TrackBack(0) | 日記
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