2015年10月02日

金曜日・7







清水は徐にポケットから煙草を出し、火を付ける。
あまりに普通の動作に、梶原は今更、目を丸くする。

「…ま、アレだ。そういう訳だから、お前はイツキに関わるなよ。イツキは……」

煙草を口にくわえ、解り易く、梶原の顔に煙を吹きかける。

「俺に、…権利がある」
「……は?……何ですか、それ? 何の権利ですか!」
「俺の方が、イツキを良く知ってるって事だよ」
「俺だって、知ってます!」


紫煙に顔をしかめながら、負けじと梶原も声を荒げる。
「知っている」と言ってみたものの、清水の言う通り、知らない事が多すぎる事は解っている。

イツキと清水が過ごしたであろう、濃密な2人だけの時間は、梶原には、想像すら出来ない。



「……知らねぇだろ?お前。……イツキが、本当は…、どんなヤツなのか」




そう言って、清水はあからさまに、イヤラシイ笑みを浮かべる。
確かに梶原は……セックスの最中のイツキの顔も、身体も、……今までにどんな事をされて来たかも…知らないのだけど。





「……そんなの、必要ないでしょ」
「……ん?」
「俺は、今のイツキが好きで、一緒にいるんです。一緒にいて、一緒に色んなこと考えて、友達でいるのに、権利も何もないでしょ?」


梶原の強い語気に、一瞬、清水は険しい顔を見せ、梶原を睨みつけるが
それ以上、梶原を攻撃するでもなく、煙草の煙と共に溜息を付いて、
「…は。…気楽でいいな、お前は…」
と、呟くのだった。




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2015年10月03日

金曜日・8







そろそろお開きの時間と、眠っているイツキを起す。
肩を揺すると、イツキは意外に簡単に目を覚まし、「…寝ちゃってた…?」と少し恥ずかしそうにはにかむ。

清水が送ると申し出たが、当然、それは断り、梶原と帰ると言う。
まあ、それはそうだろうと、清水も納得し、店の前で、今日の会は解散となった。




「……タクシー…、もうちょっと先の方が捕まえ易いから」

と、イツキは通りの向こうを指さし、梶原と並んで歩き始める。
…この道を、清水と一緒に歩いた事を、少し思い出す。




「…梶原、平気?…お酒、飲まされたんじゃない?」
「…あ、……ああ。……はは、ちょっとクラクラすんな…」
「意外と、飲めるクチなんじゃない?」


清水に付き合い、梶原はウイスキーの水割りを何杯か飲んでいた。
店の中では気が張っていたのか、さして酔いが回った気もしなかったが、…今になって、頭がぐるぐると回り出す。

梶原は、イツキも飲み過ぎていたのではないかと、心配して様子を伺う。

イツキは特に表情も変えずに、流れる車のライトを眺めていた。



「……なあ、先輩ってさ、お前の事、まだ、好きなのな」
「…ね。……困っちゃう…」
「…そんなに、悪い人じゃ、ないのかもな…」
「…うん。…だから、困る…」



言いながら、イツキはすっと手を挙げ、空車のタクシーを止める。
…ふと、梶原は…、イツキは酒に酔った振りをしていただけで、本当は、寝ていたのも全て振りなのではないかと、思った。



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2015年10月04日

金曜日・最終日







店では清水が1人、最後の一杯を飲んでいた。
実を言えば清水は、そんなに、酒が強い訳ではない。
それでも梶原の手前、少し、格好を付けすぎたかも知れない。

ぼんやりと酔いの回った頭で、イツキと、いつもイツキの傍にいる梶原の事を考える。



おそらくまだ、身体の関係は、無い。無いけれど確実に、イツキの事を好いているだろう。
イツキの傍にいて、何気ない話しで笑い合い、心を悩ませる事がらを一緒に考えてやる、そんな関係が…羨ましかった。



イツキのアレコレを知らない事が、裏を返せば、梶原の強みだという事は、解っていた。




抱いた時のイツキがどれだけ可愛くて、妖艶なのか。
そんな姿を、目の前で、しかも自分の父親相手に見せつけられれば、どれほど…憎いか。
多数の男に抱かれ、痴態を画面に晒し、それでも学校では制服を纏い、日差しの中で笑う。
その全てが、黒川の物である事も。何もかも。



イツキの事を理解していると息巻く梶原に、事細かに説明してやろうかとも…思ったけれど、止めておく。
それはイツキを庇う意味もあったけれど、大半は、惨めに立ち回った自分を恥じていたからだった。



清水はもう一度、「…あいつは…気楽でいいよな…」と呟やき、



グラスの底に残った琥珀の酒を、飲み干した。





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2015年10月05日

穏やかで普通な







週末、土曜日、昼下がり。
本当は行くつもりではなかった、2人のマンションに向かう。
黒川は仕事が忙しい、忙しいと言い、『お前と遊んでいる暇は無い』と言っていたのだけど、
ふいに、時間が空いたから部屋に戻っている、と連絡が入る。
それは裏返せば、部屋に来いという事なんだろうな…と、イツキは思い
仕方なく、慌てて身支度をして、電車に乗る。


こちらと、向こうの、二重の生活も、少しは慣れて来た。
30分程の移動も、そう、苦にはならない。
学校の自分と、黒川の自分と、気持ちが分けられて丁度良い。
今の自分は、良く立ち回れていると、思う。


これ位の、気持ちで落ち着いていられるのなら、黒川の傍にいるのも、悪くは無いと思う。





駅構内のデリカですぐに食べられそうなパック詰めの惣菜を買う。
香ばしい匂いがするパン屋で、焼きたてのバゲットを2本買う。
青カビのチーズは自分は苦手だけど、黒川が好きだったから、仕方なく買う。
替わりに自分には、フルーツが乗ったチーズタルトを買う。これは、好き。




部屋に入り、まずキッチンに入り、買い物の袋を開け、冷蔵庫に仕舞う。
シンクにビールの空き缶が転がっていて、黒川が飲んだのだと思う。
けれどリビングに姿はなく、ソファの背もたれにジャケットが脱ぎ捨ててあるのだけ、見える。



寝室を覗くと

ベッドの上で、黒川は

手足を投げ出し、大の字になって、眠っていた。




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2015年10月06日

傍杖・1







『けんかのそばにいて打ち合う杖で打たれること。転じて、自分と関係のないことのために被害を受けること。とばっちり』


そんな言葉が頭をよぎる。
黒川の傍にいると、度々、そう思う。






特に気を抜いていた訳でも油断していた訳でもない。
夕暮れ時、ただ普通に、黒川の事務所を出て、駅まで歩いて向かう途中だった。

繁華街の中ほどはどこをどう見ても人が多く、明らかに危険な人物を見極めることなど難しい。
擦れ違い、肩がぶつかることもよくある事で、その都度安全な距離を取り、その場から走って逃げ去ることもしない。




ふいに身体が当たった男の、顔を、確認することも出来なかった。
同時に、腹部に激痛が走り、そのまま男にもたれかかる様に抱き付いてしまったからだ。
力が抜けた身体を引きずられ、道路わきに周到に用意された車に乗せられる。
あまりに瞬時のことで、おそらく周りの誰もが、何が起きたのか気付くこともなかった。



当然イツキはすぐに、顔を上げ、とにかく抵抗しようと身体を動かすのだけど
また、バチリと音がして、激痛が走る。
どうやらそれはスタンガンのようなもので、それを何度か当てられ、その合間に、目隠しをされ、手は、後ろで合せ拘束される。




レイプされる、という事は解ったけれど、それ以外のことは何も解らなかった。
何も確認できない内に目隠しをされた上、男たちは、最後まで何一つ、喋る事も無かった。





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2015年10月07日

傍杖・2







「…やっ……、やだ、やめて……っ、……誰?……何…っ」


イツキは叫び、押さえつけられる手を解こうと身体をくねらせ、どうにか状況から逃げ出そうとするのだけど、どうにもならない。
暴行を受ける事は、そう…珍しい事でもないのだけど、相手の顔も立場も目的も、何も解らないというのは稀で、さすがに……怖い。
捕え、拘束するまでの手際の良さから、おそらく…そういった事に慣れている者なのだろうけど。


……実はすべて合意の上で、乱暴なやり方も、趣向の1つ…と、いう可能性もある。
そうやって、過去に何度も、泣きながら犯されてきた。
けれど、今回は、違う。……そう、言い切るだけの証拠はないけれど、多分。

もう、黒川は、そんな事を許さないと…思っていたし、何より
今、目の前にいる男たちからは、微かにすら、優しさや愛情めいたものが感じられなかった。




「……いやっ…………あッ」


頬の上を平手が2,3度往復する。
懇願も説得も何も出来ないうちに、カチャカチャとベルトを外され、下着ごとズボンを脱がされる。
行為自体は、どこか別の場所に移動してからと思っていたイツキは、展開の早さに戸惑う。


乗せられた車は…ワンボックスかワゴン車だったように思う。
さらに車内をいじれば、複数の人間でそういった事をするのにも、十分な広さはあるのだろう。




実際、イツキを乗せた車は、後部座席がすべてフラットになっており、身体を伸ばして寝転んでもまだ余裕がある。
マットを敷き、窓には目隠しのフィルムが張られ、最初から最後までをここで行う準備が出来ていた。

車を運転していたのはどこかに移動するためではなく、泣き叫ぶイツキの声が、外に漏れないようにするためだった。




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2015年10月08日

傍杖・3







泣いて懇願しても力の限り抗っても、状況が変わらないのであれば
あと、イツキに出来る事は、出来るだけ大人しくして、ダメージを最小限に抑えることだけ。
服を脱がされた下半身をベタベタと触られ、何か冷たいジェルのようなものを塗り込められるのを、息を潜めて堪える。


男たちはイツキを傷つけるつもりは無いようで……もっとも、行為自体、すでに酷いものだったけれど…

イツキの入り口にジェルを垂らし、指を何度も潜らせ、道をつくる。

イツキはうっかり声を洩らしそうになり、あわてて口を噤み、気を逸らせる。
それでも、足を抱え上げられ、準備がされたそこに…モノを挿入された時には、噛みしめた唇から「……ひ…」と、声が零れた。





『…なんだ、無理矢理でも、結局は感じるんだな。…淫乱ビッチめ』

と、いつものように蔑まれた方が、よほど楽だと思った。
男たちはイツキを犯しながらも、やはり何も、会話どころか声すらあげることは無かった。
狭い空間に響くのは、はあはあというイツキの喘ぎと、ジェルのぐちゃぐちゃとした水音。

その合間に、ぱしゃりと、機械音がするのは、多分、カメラのシャッターが落とされる音なのだろう。







イツキの中と、顔の上に、射精すると
行為はあっさりと終了する。
濡れた身体の後始末もなく、服を元通りに直されて

イツキは、ゴミでも捨てるように、車から降ろされる。




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2015年10月09日

傍杖・4






ゴミを投げ捨てるように、イツキは車から降ろされる。
思わず、道端に座り込んでしまうのだが、夕暮れ時にぎわう都会の繁華街では、誰もそれに気を留めない。

顔を上げて辺りをみると、そこは、つい数十分前に自分が車に乗せられた場所で、
イツキは、自分の身に起きたことが、本当に現実だったのかさえ疑った。





「……かえる…」

夢遊病者のように呟いて、どうにか立ち上がるのだけど
脚の間を、男たちの精液が伝う。
……顔や、髪の毛にも、ベタベタとした精液が残り、おそらく今、自分は、とても酷い顔をしているのだと思う。
おまけに、歩き出そうとしても、足が前に出ない。
ガクガクと震え、少しでも気を抜けば、またその場に崩れ落ちてしまいそうだった。







それから小一時間ほど経った頃、黒川が、事務所に戻って来た。
午前中にイツキと別れ、出掛けていたのだけど、一ノ宮から連絡が入ったのだ。

暴行を受けたイツキは、やっとの事で来た道を引き返し、事務所に辿り着く。
中で一人仕事をしていた一ノ宮は、つい先刻ここを出たばかりのイツキが憐れな姿になって戻って来たことに、酷く驚いた。

事務所にはシャワーは無いのだけど、お湯を沸かし、顔と身体を綺麗に拭いてやる。
替えのワイシャツだけ羽織らせ、ソファに寝かせると
イツキは気を失ったように、眠りに落ちてしまった。




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2015年10月10日

傍杖・5







険しい顔をして事務所に飛び込んで来た黒川は、ソファに身体を横たえ眠るイツキを見て、とりあえず…安心する。
傍に寄り、掛けてあった毛布を捲り、身体に特に酷い傷跡が無い事を、確認する。




「…相手は、誰だ?」
「何も解らないようです。スタンガンで脅され、車に乗せられ…。すぐに目隠しをされて、向こうは一言も喋らなかったと…」
「用意周到だな。……そういうプロの奴らだろう」


黒川は手に持っていた封筒をテーブルの上に投げる。
一ノ宮が中を覗くと、それは、イツキが車内で犯されていた時の写真だった。
事務所に入る階段の下に、置かれていたそうだ。


「…ポラロイドですか。…仕事が早いですね」


皮肉めいて、一ノ宮が言う。
黒川も、鼻で笑う。




おそらく、自分に恨みを持つ者の仕業なのだろう。
イツキが黒川の女だと知った上で狙い、身元が割れる証拠を一切残さずに、凌辱した写真だけ残す。
それだけで、黒川を侮辱する、目的を果たすには十分なのだろう。




「……海王商事ですか?……先日の、金田社長…」
「さあな。…これだけ仕事が出来るなら、もっとマシな事に使え」



そう黒川は冗談のように言って、また、鼻で笑うのだけど、



しばらく黙った後、急に、手の届くところにあった背の高い観葉植物を掴み、
鉢ごと、部屋の隅に、投げつけるのだった。




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2015年10月13日

傍杖・6







やがてイツキは目を覚まし、目の前に黒川がいることに、酷く慌てる。
最初に出た言葉が「…ごめんなさい」で、黒川は返事もなく、イツキを睨む。

一ノ宮はどこからか、熱いココアなどを用意していて、イツキにそれを手渡す。
イツキはぺこりとお辞儀をして、それを受け取るのだけど、まだ頭はぼんやりとしていて、状況はよく解っていないようだった。

一口、二口、ココアを啜り…「じゃあ…、俺、帰る……」などと言う。
そしてまた黒川に睨まれ、自分がした、悪い何かを…考える。




「……顔は見なかったのか?」
「………うん」
「…どうせまた、フラフラ歩いていたんだろう。隙だらけで、ケツでも振って…」

「社長!」



つい口をつく黒川の言葉を、一ノ宮が諌める。

イツキは慌ててココアを飲み干し、カップをテーブルに置き、ソファから立ち上がろうとするのだけど
自分が、ワイシャツの他、何も着ていない事に気付き…困る。



「……俺、……服……、かえる……」
「馬鹿か!」



黒川は相変わらず怖い声、怖い顔でイツキを威嚇するのだけど


呆れたように一息つき、一度、視線をそらして間を取ると
毛布を、また、イツキに羽織らせて

「そのまま、巻いていろ。部屋に戻るぞ、…来い」


と言って、イツキの肩を抱いて、事務所を出て
外に停めてあった自分の車に乗り込むのだった。





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2015年10月14日

傍杖・7







部屋に戻り、熱い湯船に身体を浸し、イツキはようやく普通になって、リビングへと出て来る。
黒川はソファに座り、何かのグラスを傾けながら、電話をしている最中だった。
イツキはソファの、反対側の端に座り、黒川の様子を伺いながら…タオルで髪の毛を拭く。



別に、見ず知らずの男に乱暴に抱かれるのは慣れている。
多分、自分に落ち度は無いと思うのだけど、それでも迂闊だったと責められれば…謝るしかないのか。

あえて見ないようにはしていたのだけど、テーブルの上には、行為の途中に取られたポラロイド写真が投げてある。
犯されている子は目隠しをされてはいても、自分だと解るし、数枚ある写真のどれにも、上手に、相手の顔や辺りの風景などは、写り込んでいなかった。




「まあ、足が付くようなやり方はしないだろうよ」



いつの間にか電話を終えていた黒川が、新しい煙草を咥えながら、そう言う。
イツキは一度黒川を見て、もう一度写真に目を落として、それからふいに余所を向く。



「……俺の、……知ってる人?……わざわざこんな写真、……何で…」
「ただの嫌がらせだろう。…馬鹿が考えそうな事だ」


黒川は、イツキが受けた行為自体は大したことではないと言うように、軽くそう言って、笑う。
それでも、多少、気の毒には思っているのだろう。


手を伸ばし、ソファの端に座るイツキを、自分の傍に抱き寄せるのだった。





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2015年10月16日

厄介な仕事







「……じゃあ、結局は俺が悪いって事?……普通に、道、歩いてただけだよ!」
「…そういう事だろうよ」
「どういう事?」
「いるだけで、そういう目に遭うという事だ。…諦めるんだな」



めずらしく甘い雰囲気でリビングのソファで抱き合い、
そこでは場所が狭すぎると、ほぼ、お姫様抱っこ状態で寝室に連れられ
ベッドの上で、頭の先からつま先まで、念入りに愛撫されていたのだけど

ちょっとした黒川の軽口から、また、言い合いになってしまう。

突然車に押し込められ乱暴されたのだから、無条件で慰め、優しくしても良いだろうに
こんな時ですら、この男は、イツキを許さない。


「……だって、……マサヤの知ってる人なんでしょ?相手。マサヤと喧嘩したから、俺のとこ、来たんでしょ?」
「おそらくな。確証は無いが…。……お前が顔も確認しないからだ」
「見れる訳ないじゃん!急にだったんだから…。俺…、すごい…、怖かったんだから!」
「そんなタマかよ。もっと酷い目にだって遭っているだろう?」




そう言って、黒川は、さすがに言い過ぎているかと……イツキを伺う。
イツキは黒川の暴言に怒ると言うよりは…驚いて、目を丸くして、黒川を見る。
ここには黒川を諌める一ノ宮も、もういない。



やがて、イツキの目から、ぽろぽろと涙が零れ落ちてきて


それを収めるのは、黒川にとっても、厄介な仕事だった。




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2015年10月17日

ミミズ腫れ








手首に残る拘束された痕や、太ももあたりに自分が付けた覚えのない、引っ掻き傷を見ると、さすがに少々、気の毒な気がする。
赤い蚯蚓腫れに唇を寄せるとイツキは息を止めて感覚を享受し、身体を震わせる。



「……ああ、言い過ぎたよ。……そろそろ、機嫌、直せよ。……良くしてやってるだろう?」



耳元でそう囁かれても、イツキが簡単に笑顔を見せる訳はない。
乱暴され、身体に傷を受け、それ以上に黒川に、心に傷を付けられる。



この男は本当に、自分が、どこの誰に身体を弄ばれても、構わないらしい。



「………んっ…」


イツキはもう少し文句を言って、黒川に抗議しようと思っていたのだけど
黒川の指先が、ずるりと中を掻き回して、途絶えてしまう。
ほぐされ、ぬるみを付けられ、すでに手首まで簡単に飲み込み、さらに疼く。
首を横に振り、黒川を睨むのだけど、それは、次を欲しがっているようにしか見えない。



「他の男の匂いも名残も…全部、掻き出してやるよ。それでいいだろう?」
「…そんな、…はなし…じゃ、……ない……」
「ちゃんと仕返しもしてやる。半殺しにするか?……奴の女に同じことをしてもいい」
「……そんなの、……や……」


言いながら黒川の手は激しく動き、イツキの返事もそぞろになってしまう。
「俺を怒らせたらどうなるか、思い知らせてやる」
という言葉が、自分の荒い喘ぎ声の合間に聞こえてきて



ああ、黒川も少しは怒ってくれているのだ…と、イツキは変なところで、喜んでいた。







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2015年10月18日

肉食イツキ






「…災難でしたね。身体は大丈夫ですか?」
「もう、ボロボロだよ。酷いよ」
「…ん?」
「あっちじゃなくて、マサヤね。…優しいんだか、意地悪なんだか、解らないよ」




そう言ってイツキは3センチは厚みがあろうかというステーキを口に入れる。


今日は学校を休んでしまったけれど、このまま、自分の部屋に戻る。
さすがに、1人で帰す訳にはいかないと、出掛けてしまった黒川の替わりに一ノ宮がイツキを迎えに来る。

一ノ宮はイツキに優しく接し、良い店に連れて行き、それこそ精の付きそうなものをたらふく食べさせる。
そんな普通の事が、イツキには、嬉しかった。


「イツキくん、野菜も…」
「一ノ宮さん、俺、やっぱりフィレも食べたい。フィレ、フィレ」
「はいはい。フィレですね…」


頼まれるままに、一ノ宮は追加の料理を注文する。
とりあえず、あんな事があっても…、イツキが元気な様子で食事をしてくれて良かったと思う。


…けれども、途中、イツキは手を止め……ぼんやりと考え事をする。
さすがに食べ過ぎではないのかと、一ノ宮は「……残しても良いのですよ?」と声を掛ける。




「……一ノ宮さん」
「…フィレは持ち帰り用に包んで貰っても…」
「俺さ、最近はちょっと…、マサヤの傍にいてもいいかなって…、本当に思ってたんだよね。マサヤの事、前ほど嫌いじゃないし……でも、」



丁度その時、店員が追加の料理をテーブルに運んで来た。
イツキは食べ終わった皿を端によけ、熱々の湯気が上がる皿を目の前に置く。

そして、それを頬張りながら、「……でも、嫌な事も…、あるよね……」と、呟くのだった。






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2015年10月19日

困った男







「嫌なのは…それじゃなくて…。…それがあったって、マサヤが変わらないって事。
あの人、本当に、俺の事はどうでもいいんだろうな…。……特別大事にされたいとか…、思っている訳じゃないけどさ……」



帰りの車の中でイツキは、そう零す。
決して全てがその通りでは無いと…少しは思っていても…、これくらいの愚痴は許されるだろう。

自分が姿を消した時には、必死に探し出し、連れ帰った。
命に関わる程の問題が起きた時には、優しい。

それは、知っているけれど、それだけで黒川の数々の暴挙や言動が、帳消しになる訳ではない。




「……俺が、駄目なの?……覚悟が足りないって、奴?……マサヤの傍にいるには、どれだけの事を我慢しないといけないの?」




半ば皮肉めいて、イツキは運転席の一ノ宮をちらりと伺う。
一ノ宮は黙ってハンドルを握っていたけど、やはりどこか、困った顔をしていた。




「……イツキくん」
「…んー…?」
「例えば、…そうですね。社長の目の前で、私とイツキくんが命の危機に晒されていて、どちらか一方しか助けられないとしたら……」


話しの途中で、車はイツキのマンションの前に到着する。
一ノ宮は路上に車を停め、1つ溜息をついて、やっとイツキを見る。


「そんな状況でしたら、社長はおそらく、私を助けます」
「………ふぅん…」


想像していた通りの答えに、イツキは口を尖らせ、鼻で返事をする。



「ですが、それで…、もしあなたを失くしてしまったとしたら、その後、社長は生きては行けません」
「…何、それ。……じゃあ、最初っから、助けてくれればいいのに……」
「本当ですね」




そんな話をして、イツキと一ノ宮は顔を見合わせて、笑ってしまった。



黒川に困っているのは、イツキだけでは、無いようだった。




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