2015年10月21日

不憫な子






一ノ宮に車で送ってもらい、イツキは自分の部屋に戻る。
窓を開け、洗濯物を洗濯機に突っ込み、簡単な掃除をする。

ケータイを確認すると案の定、梶原からの心配メールが入っていたので
『大丈夫。明日は学校に行くから』と返事をする。
学校用のカバンを開き、教科書やノートをぱらぱらとやって、頭をそちらに戻す。


つい一昨日自分の身に起きた忌まわしい出来事は、すっかり、よくあるちょっとした事故のように…なっていた。



夕方、早い時間に、風呂に入る。
まだどこかに傷があるようで、少し痛みがあったけれど、それもすぐに慣れる。
風呂上りにはソファに座り、缶ビールを飲んで、テレビを見る。
好きなバラエティ番組の曜日と時間を、やっと覚えて、それを見て笑う。


布団に潜ると、あっという間に眠りに落ちる。
新品のシーツは気持ち良くて、明日こそは、多分何か、良い事があるような気がした。






けれども、真夜中に、急に目が覚めて飛び起きる。
心臓が痛く、苦しく、酷く怖くて、訳の分からない不安に押し潰されそうになる。
覚えてはいないけれど、悪い夢でも見ていたのか、涙がダラダラと流れ、身体が小刻みに震えている。


吐き気がして、トイレに駆け込み、しばらくの間そこで、うずくまっていた。




posted by 白黒ぼたん at 22:46 | TrackBack(0) | 日記

2015年10月22日

シェルター






翌日学校に行くと、すぐに梶原が傍に寄って来て、あれこれ、イツキに干渉する。
梶原も、イツキには何かと事情があると知っていても、それでも気になるものは気になる。
イツキがあくびを繰り返せば、眠れていないのか、心配事があるのかと、顔色を伺い

『本当に、大丈夫だから!』

と、イツキが半ばキレると、ようやく梶原は大人しく口を噤む。



厄介なのは、これに、清水も加わった事だった。



梶原のように大っぴらに関わることは無かったけれど、逆に、静かに、イツキを見ていたらしい。
そして、手首に小さな傷跡を見付け、堪らず、声を掛けてくる。
勿論、梶原には聞こえないような場所で、小さな声で、なのだけれど。


『………何かあったのか?……黒川さんと』


そう聞かれれば、とりあえず、『…違うよ』と答える。
じゃあ、何、と聞かれても、それには答えることは出来ず、逆にそれで、清水は、事の深刻さを疑う。



梶原と清水が、自分の身を案じてくれているのは、解るのだけれど
すべてを話し説明できない以上、その気遣いは、煩わしいだけのものだった。






昼休み。

何も知らない大野が図書室へ行くと

鍵の掛かる資料室のソファで、イツキが転寝をしていて、驚いた。

posted by 白黒ぼたん at 23:19 | TrackBack(0) | 日記

2015年10月23日

ソファの猫







「…お前、いなくなったって…、梶原が探してたぜ?、食堂で」
「………んー…」


物音で目を覚ましたイツキは、大野に何か言い訳をすることもなく、ソファの上で伸びをする。
その様子は、まるで猫のようだと、大野は思う。


クラスも別になったのだし、これ以上はあまりイツキに関わらないようにしようと思っていた大野だったが、
こうして、ただ隠れ場所の為にだけでも、自分の所に来てくれるのは、嬉しい。


「…あんまり、梶原をからかうなよな。…あいつ、これから、大変な時期なんだからよ」
「梶原が勝手に絡んで来るんだよ…」
「また心配掛けるようなコト、したんだろ?」


大野の言葉にイツキは唇を尖らせ、もう一度身体を反らせて、今度は丸めてみせる。
狭いソファの上から転げ落ちそうで、落ちなくて、基本的に身体の作りが違うのだろうかと、不思議になる。


「……放っておいてくれればいいのに。……俺だって梶原に、迷惑掛けたい訳じゃない…」


そう呟いて、イツキは目を閉じて、……そのまま、静かに、眠ってしまう。


大野は呆れたように溜息を付いて、それから小さく、笑って
その寝顔を眺めながら、自分は、自分の仕事を片付けることにした。





posted by 白黒ぼたん at 22:42 | TrackBack(0) | 日記

2015年10月24日

ご機嫌マサヤ







夕方、イツキが自分の部屋に帰ろうとすると…マンションの前で、見慣れた黄色い車とすれ違った。

佐野の車に似ていると思ったが、用事も無ければこんな所には来ないだろうし、
用事があるとすれば、マンションに停まるはずだ。

けれど、部屋に入るとすぐに、佐野の用事が何だったのかが、解った。

部屋には、黒川の姿があった。




「……珍しいね。マサヤが、こっちに来るの」
「まあな。お前を向こうに呼んで、またレイプされたら面倒だからな」
「……佐野っちの車で来たの?」
「ああ。ちょっと仕事を手伝って貰っていて、そのついでだ」


黒川はソファに座り、テーブルに足を投げ出し、煙草を吹かす。
…イツキは、一緒に帰り、一緒に夕食を食べようと言う梶原を振り切って帰って来て、本当に良かったと思った。



それでも、嫌味な口調とは裏腹に、黒川はどこか機嫌が良さそうで、イツキは安心する。



「ビール、飲む?…何か、食べる?……俺、晩ご飯は、おうどんにしようかと思ったんだけど…」

まるで若奥さんのような事を言って、とりあえずイツキは冷蔵庫から缶ビールを取って、黒川の傍に寄る。
いつもの定位置、ソファの足元の床に座ろうとすると、黒川は、自分の隣に座れと、招く。



イツキの腕を引き、顔を見て、ニヤリと笑う。
機嫌が良いを通り越し、怖い。その様子は明らかに、何か悪い事を考えている顔だった。



posted by 白黒ぼたん at 23:00 | TrackBack(0) | 日記

2015年10月26日

話のついでに







「金田は横浜の仕事で下手を打って、大損出して、俺を逆恨みしている。馬鹿な奴だ」


うつ伏せに寝かせたイツキの尻の穴に指を差し入れながら、黒川はイツキの耳元で、そんな色気の無い話をする。
イツキは自分を乱暴したであろう男の話を聞いていたいのだけど、自分の吐息がうるさくて、それどころではない。


「証拠を残さなければ、何をしてもいいなら、そんな良い話は無いよなぁ…」


黒川がイツキの耳たぶを噛むと、イツキは「……ん」と、返事の様な声を上げる。



指先での愛撫は長く続く。
実の所、イツキは先日の件の……その後での黒川との行為で、少し、傷を作ったらしく、
指を捻じ込むだけで、酷く痛がった。
仕方なく、話しのついでにと、黒川は専用のジェルで箇所を丹念に解す。



「奴の女に同じ事をしてもいいが…、酷く不細工でな。…あれじゃあ、勃たんよ。はは。
あんな女相手に、よくガキまで作ったもんだ……」


この日、黒川は佐野と一緒に、金田の身辺を探っていたのだ。
金田もさすがにこの世界の人間で、身元を探るのは難しかったのだが、…まあ、問題は無い。
都内より離れた場所で、危険から避けるようにつつましく、妻と子と一端の家庭を持っていた。


「……どうする?……いっそ、燃やすか?」


そう言って、黒川が、イツキの中で指を大きく回すように動かすと
イツキは「……だめ、だめ」と、首を横に振るのだった。





posted by 白黒ぼたん at 00:19 | TrackBack(0) | 日記

2015年10月28日

黄色の何か







あちこち傷口が染みるのを我慢しながら、熱い風呂に浸かる。
痛いのは解っていたけれど、結局、自分から、欲しがってしまった。

黒川の愛撫は、良い意味で、酷く、
黒川自身を受け入れる前から、すでにイツキの中は、爛れきっていた。
それ、以上の、快楽が、その先にあると解っているのに
途中で止めることなど出来ない。

黒川が馬鹿にしたように笑うのに、逆に、煽られて…
もう、自分で自分を抑えることは出来なかった。
自分から、黒川の上に跨り、腰を落とす。
『あ』と、ひと声叫んだきり、後は、息をするのも忘れてしまった。




「………おれ、……バカ……」




呟いてから、風呂の湯で、顔をバシャバシャと洗った。






風呂から出ると、黒川はリビングのソファに座り、誰かに電話をしていた。
ふとテーブルを見ると、最初、部屋に戻った時には気付かなかった、小さな紙袋が目に付いた。
イツキがそれを見たことを、黒川も気付いたのか、視線をそちらにやり、『開けてみろよ』という風に、ニヤリと笑う。


恐る恐る、中を覗くと


中には、黄色い布の何かが…入っていた。




posted by 白黒ぼたん at 21:30 | TrackBack(0) | 日記

2015年10月29日

黒川と金田・1






数日後。
金田が行きつけにしている飲み屋に行くと、そこには黒川の姿があって、金田は心底驚いた。
自分が黒川の「女」にした無礼は、…おそらく、自分の所業と解ってはいるのだろうが、証拠は無い筈で、
金田は何があっても、それを自分では認めず、またそうしない以上、黒川も手が出せないと思っていた。





特に話もない金田は、黒川を見て、軽く頭を下げるだけの挨拶をする。
黒川はニヤリと笑うと、席を立ち、金田が座るカウンターの、隣にやって来た。


「……こんな所で会うのも珍しいですね、黒川さん。……何か、ご用でもおありかな?」
「まあね」
「横浜の件の詫びかな?……いりませんよ、そんなもの」
「そうか?」


黒川が何を考えているのか、皆目見当もつかない。
日本酒を飲み、刺身を摘まみ、もう一つグラスを頼むと、金田にも注ぐ。






「……実は、先日。ウチのが、レイプされてなあ…」


まるでお天気の話でもするように、簡単に、黒川は話し始める。
金田は注がれた酒に口を付け、黒川の追及をどうかわしてやろうかと身構えるのだけど……何か、違う。


「それは、お気の毒様…」
「それ以来、サカリがついてな、…参るよ」
「……え?」
「発情期の雌猫だよ、まったく」



そんな事を、本気で言って、笑うのだ。





posted by 白黒ぼたん at 22:33 | TrackBack(0) | 日記

2015年10月30日

黒川と金田・2






「そりゃぁ…、お盛んな事で。それで、それが何か?」
「…ん?……相手も、阿呆だな…と。…アレ、1人、満足させられないんだからな」




まるで、迂闊にイツキに手を出した方が馬鹿だと言う風に、黒川は笑う。
金田には、その意味が、解らない。

「イツキ」は黒川にとって、大事な「女」なのだと、聞いていた。
元は売りをしていた少年らしいが、今は違い、手元に置いているのだと。
だからこそ、そのイツキを傷つける事に意味があったのだが
……それは、間違えていたのかと、一瞬、戸惑う。



笑って、黒川は酒を飲み、少し押し黙り、ちらりと金田を見る。
その視線は、金田の浅はかな悪事など、すべてお見通しと言った感じだった。




「…で?……わざわざ、そんな話をするために来たんですかね?…暇な人だ」
「やられっ放しも癪でね。仕返しをしようかと思うんだが、…どう思う?」
「……相手は、解っているんですか?」
「いや。でも、まあ、問題ないだろう?」



なかなか手の内を見せない黒川に、金田は苛立ちを隠せない。
手元の酒を煽り、次の酒を注ぐ。

正面から喧嘩を売られた方が、買い易い。
黒川は、笑っている時が、一番、厄介なのだ。



「……ただ、な…。ウチのが、それは止めてくれと言ってな」
「………は?」
「自分が乱暴されたくせに、他人が同じ目に遭うのは嫌なんだとさ」
「…そりゃあ…、お優しい事で」

「…捕まえて、一発、突っ込むだけで済むんだがなぁ……」





posted by 白黒ぼたん at 22:23 | TrackBack(0) | 日記

2015年10月31日

黒川と金田・3







物騒な話をする割に、黒川の気配は静かだった。
金田に話をするというよりは、むしろ、独り言のような感じもする。


そして、その提案は唐突で、有無を言わさぬ威圧感があった。




「……なあ、金田。次の荷物は、手を引けよ」
「は?……前回は大損出させて、次は手を引け?…何を勝手な事を…」
「組合から抜けろ。…なに、違約金だってタカが知れてるだろう?300万だぜ?」



横浜で行っている輸入品の取引から抜けろと言う。
それは複数の利権が絡むもので、手を引くにも、ペナルティが発生する類のものだった。



「あ、あんたに指図される覚えはない。あんたが仕切っている訳でもないだろう!」
「俺が、もう、お前の顔も見たくないだけだ」
「それはこちらの台詞だ!」
「……金田、俺は別に、どっちだっていいんだぜ?」





黒川はそう言って、これ以上話をするのは面倒臭いという風に溜息を付き、席を立つ。
カウンターの上に飲み代と、……小さな紙袋を置いて、その店から、出て行ってしまった。



黒川の姿が消えてから、金田は、その紙袋の中を覗く。
そこには何か、黄色い布製のものが入っていて、指で摘まんで引き上げる。





『ひよこぐみ かねだ あいみ』

黄色いものは、小さな、帽子で、裏側にはきちんと名前が記されていた。
それは幼稚園に通う、金田の、娘の持ち物だった。




posted by 白黒ぼたん at 23:00 | TrackBack(0) | 日記
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