2015年11月02日

黒川と金田・4







イツキが部屋で見たものは、この帽子だった。
最初は、誰の、何の物なのか解らなかったのだけど、電話を終えた黒川が、

『さすがに幼稚園児相手はなぁ…、はは。まあ、報復には丁度いいだろう?』

と言って笑うので、これが、自分を乱暴した男の子供の持ち物で、その子に、黒川が何かしたのだと…気付いた。



『……なに、したの?………小さい子…でしょ?……嘘、でしょ…?』
『…するかよ。帽子を貰っただけだ。…まあ、後は、金田次第だがな』
『…何か…するかも知れないの?……報復って、俺が…されたから…、仕返しって事?』
『ああ、まあな』
『…止めてよ?……止めてよ!マサヤ…!』



ことさら過剰にイツキは反応し、必死に黒川を止めようとする。
…この帽子は、金田の様子を探りに行った時に見かけた金田の子供から、ちょっと通りすがりに、顔も見せずに、くすねた程度の物だった。
実際はまだ、何かを、した訳では無いのだけれど……。



『……駄目だよ、そんなの。……俺の仕返しとか、そんなの、別にいらないからね!』
『馬鹿か。それじゃあ、示しがつかんだろう…』
『でも、こんなのは絶対、嫌!……もし、なんかしたら、俺……怒るから!』


そう、何度も釘を差し、後はイツキは口を結び、不機嫌面を晒すだけだった。




何の関係も無いところで、理不尽な暴力を受ける辛さを
一番知っているのは、イツキだった。
黒川が、それを、躊躇なくやってしまう男だということも、
イツキが一番、良く知っていた。



もちろん黒川も、本気で幼稚園児に手を出そうとは考えてはいなかったのだけど
それにしてもイツキの反対ぶりは、予想外のものだった。





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黒川と金田・最終話






その翌日の昼過ぎに黒川が事務所に顔を出すと
一ノ宮は怪訝そうな表情で、三行半の様な手紙と、札束を差し出す。


「……何かしましたか?雅也」
「うん?」
「海王商事の金田社長からです。組合から抜ける旨の書状と違約金。それとは別に、迷惑料まで包んであります」
「…ああ」


黒川は書状を指先で摘まみあげただけで、もう興味は無いといった風に、鼻で笑う。
それよりも…、事の成り行きを一ノ宮に話していなかった事が、気掛かりだった。
まるで隠していた悪戯を母親に見つけられた時のように、肩を丸めて、視線を逸らせる。




「……一緒に飲んだだけだ。…少し、脅したが。……それだけだ」
「せめて一言、事前にお話し頂けても良いのでは?」
「ああ、悪い、悪い。忘れていたよ」


黒川はソファに座り、一ノ宮に顔も向けずに、手をひらひらと振ってみせる。
その様子から謝意はまるで感じられずに、一ノ宮は大きなため息を付く。




「もう少し、慎重に動かれた方がよろしいですよ。あなたは、イツキくんの事に関しては、何かと歯止めが利かなくなります。」


部屋の隅の小さな流しでコーヒーを淹れながら、一ノ宮は一応、そう諭す。
言っても聞かない事は解っていたけれど、言わない訳にもいかないのだろう。


コーヒーカップを黒川に手渡す。
黒川はそれを受け取りながら、半ば不機嫌に「…はい、はい」と返事をする。

それでも珍しく反論もせずに、黒川は、大人しく、熱いコーヒーを啜るのだった。





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2015年11月03日

シェルター・2






「……お、なんだ。…またか…」


午後の授業が終わり大野が図書室へ行くと、そこにはすでにイツキがいて、また、窓側のカウチでゴロゴロと過ごしていた。
どうやら、午後の授業は、サボったらしい。


「授業に出ないなら、帰ればいいじゃんか」
「……なんか、……帰るのも…、面倒臭くて……」
「何だよ、それ」
「ウチも、……嫌。……誰にも、会いたくない…」


そう言ってイツキは不機嫌面に唇を尖らせ、狭いカウチの上で、落ち着かないという風に、身体を左右に振ってみせる。
それは、それ以上の話を聞いて欲しいというような素振りにも見えて、大野はつい、「何かあったのか?」と聞いてしまう。





「……この前、レイプされて。それは別にいいんだけど…。
その仕返しに、犯人の子供に、同じことするって言われて…。
有り得ないよ。…子供、幼稚園だよ?……信じられなさすぎ…!」





溜息まじりにそう言う、イツキの言葉に


大野はもちろん、何も、返事をすることは出来なかった。




posted by 白黒ぼたん at 20:15 | TrackBack(0) | 日記

2015年11月05日

気分転換・1






「…よし。ボーリングに行こう」


と、突然言い出したのは梶原だった。





図書室で管を巻くイツキを扱い切れずに、大野はイツキと一緒に、荷物を取りに行きがてら、教室へと戻る。
梶原は午後の授業をサボったイツキに、一通り小言を言い、『…なんか、イロイロ、あるみたいだぜ』と言う大野の溜息まじりの言葉を聞き、
ここ数日の、イツキの、なんとなく気怠い様子を思い出し、

ここは一発、気分転換しかないと、そんな提案をする。




「…何?…楽しそーじゃん。…俺も仲間に入れろよ」


誘ってもいないのに、話を小耳に挟んだ清水が割り入って来る。




「……俺、ボーリングなんて出来ないし…、疲れてるから、帰る…」

と、小さな声で呟くイツキの言葉は聞き入れられる事は無く、
イツキは強引に腕を引かれ、否応なく、この奇妙な親睦会に参加することになってしまった。




駅前の大きなビルの上階に、ボーリング場があった。
イツキは行ったことは無かったけれど、梶原と大野はたまに訪れるらしく、慣れた様子で受付を済ませる。

イツキは、キョロキョロと辺りを伺うばかり。

ボーリングなど…、小学生の頃に…、家族と行ったきりかも知れない。




「…何センチ、靴?」


ふいに耳元で言われ、顔を向けると、すぐ近くに清水の顔があって、無駄に驚く。
清水は当然、こんな場所には遊び慣れているらしく、イツキに靴と、丁度いい重さのボールを選んでやるのだった。



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2015年11月06日

気分転換・2






「4人いるんだしチーム戦な。俺とイツキ、あと、お前ら」
「…そんなの、勝手に決めないで下さいよ。…じゃんけんしましょう!」


勝手に組み分けされては困ると梶原は意気込んだのだけれど、じゃんけんの結果は…
イツキと大野、そして清水と梶原と、一番、どうしようもない事になってしまった。

お互い、足を引っ張るなよと威嚇し合い、うっかりスプリットを出した時には
殴りかかるのではないかという程、険しい表情になる。
同じチームとは思えない、殺伐とした雰囲気の中、ゲームは進む。




「……梶原、馬鹿か。さっきから左のワンピンだけ残しやがって」
「……先輩の見せ場、作ってあげたんですよ。……取れるんでしょ?あれ位」


そうして見事、清水がスペアを取ると、清水はガッツポーズをとり梶原の元へ…は、向かわず、イツキの傍に行って、ハイタッチを求めるのだった。



イツキはと言えば、当然、下手くそで、ガーターばかり出している。
そこそこ上手な大野がスペアを取ったとしても、次がまたガーターでは、どうにもならない。


それでも、イツキは、笑い、派手なストライクの音に、手を叩いて喜ぶ。
その姿が見られただけで、今日のボーリングは、まあ、来てよかったと思えるのだった。




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2015年11月07日

気分転換・3






「すごい、疲れた。腕、痛い。足も……」


たった2ゲーム投げただけで、イツキはもう限界で、靴も脱いで、レーンの後ろのベンチに移動する。
同じく休憩の大野は缶コーヒーを2本買って、イツキの隣に座り、今度は一騎打ちの清水と梶原のゲームを見物する。



清水は投球は勿論、ボールを拭くのも、椅子に座る姿さえ様になっていて、ハタから見ていても格好が良い。
梶原がいくらストライクを連発しても、どうにも、敵わないといった雰囲気だった。




「………清水さんと…、ボーリングしているなんて…、不思議…」



大野が、そう、ぽつりと呟く。
確かに一年留年で、一目置かれていた「怖い先輩」と、一緒にボーリングにするなど、少し前では考えも出来ない事だった。



「……先輩、そんなに、怖い人じゃないよ。……それに、梶原とも、仲良くなったみたい」



イツキがそんな事を言い出して、さらに大野は驚く。
仲良くはないだろう、仲良くは…と、心の中で言いながら、それでも…

目の前で、文句を言いながらも、同じレーンでゲームに興じる2人を見ると

まあ、もう、友達と呼べるくらいのレベルにはなったのだろうかと、思った。






posted by 白黒ぼたん at 23:00 | TrackBack(0) | 日記

2015年11月08日

気分転換・4







清水と梶原の勝負は中盤でやや差が付く。
それでも梶原は粘り、もし最後に3回連続でストライクを出せば追い付ける…という所だった。


ただの遊びとは言え清水に負けたくない梶原は、念入りにボールを拭き、深呼吸する。
そんな、クソ真面目な様子を清水は鼻で笑い、おもむろに、梶原の傍まで行く。



「……なあ、何か、賭けようぜ?」
「…賭け?」
「……勝った方が、イツキとヤル、とか…さ」
「……!」


突飛な提案に梶原は持ちかけたボール、床の上にゴトンと落とす。
慌てて拾い、清水を睨むと、清水は「冗談、冗談」と言って笑う。


「…でも、本当だったら、何が何でもターキー出さないとなぁ」
「……ふざけないで下さい」
「あっはっは、冗談だよ。怖い顔、するなよ。…お遊びだろ?」


そう言って、清水は梶原の背中をぽんぽんと軽く叩き、座っていたベンチへと戻る。
梶原は不機嫌な顔のまま、そちらを見て、それから、イツキを見る。


清水と梶原が何を話していたか知らないイツキは、頑張って、とばかりに笑顔で手など振る。




何を想像したのか、途端に、梶原は耳まで赤くなり
その後、ボールを投げるまで気を落ち着かせるのが、大変だった。





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2015年11月09日

気分転換・5






イツキがトイレで手を洗っていると、ゲームを終えた清水も用足しに来る。
梶原と清水の勝負は、結局、梶原が粘り切れずに、清水が勝ったのだった。


「…先輩、ボーリング、上手なんですね。ストライク、あんなに続くの、初めて見た…」
「まあな。本当はもっと上手いぜ?」
「ふふ。……梶原とも、仲良さそう。結構、気が合うんじゃないですか?」


イツキの言葉に、清水は笑いながらも…少し、複雑な色を見せる。
どこから見ても優等生の梶原と気が合うと言われても、嬉しいものでは無いのだろう。
イツキを介して、馴れ合い過ぎたかなと、反省する部分もある。


「……あいつも、お前が絡むと、ムキになるよな…」
「梶原、俺のこと、構い過ぎなんです。……でも、悪いヤツじゃ、ないんです…」
「ああ。……そうだな」


清水は、奥でササッと用を済ませて、イツキの隣に手を洗いに来る。
イツキに、この後をどうするか聞いてみると、今日はもう、大人しく帰ると言う。
清水も大人しく「……そっか」と返事をし、洗い終わった手をパタパタと振る。




そして、



不意打ちに、キスをする。



「……俺の、勝ちだから…。……続きは、貸し、な」


そう言われても、イツキには、何の事だかさっぱり解らないのだった。




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2015年11月11日

気分転換・最終話






ボーリング場が入っているビルは駅の目の前なのだけど、イツキは疲れたからと、タクシーで帰ると言う。
それは勿論、半分は本当だったけれど、下手に電車で帰るとなると、誰かしらが送って行くと言いかねないからだった。


「…あっ、タクシー来てる。……じゃあ、行くね」


バイバイと、イツキは手を振り、慌ただしくタクシー乗り場に向かってしまった。
残された男三人は少し呆気に取られて、それからお互いの顔を見回してみる。


「……先輩。……さっき、イツキに、何か言いましたか?」
「…んー?さあな。……じゃあ、俺も行くぜ」


梶原の問いを適当にはぐらかし、清水もまたどこか、人混みに紛れて消えてしまった。







イツキは1人、無事に部屋に帰る。
シャワーを浴び、部屋着に着替え、お腹が空いたからとカップラーメンと作る。
ソファに座り、3分間待ちながら、テレビをカチャカチャとやって
清水と梶原は、ボーリングで何の話をしていたのだろうかと考える。

「……先輩、あのキスは、…ズルい」

思い出して、少し、ニヤニヤしてしまう。



その夜は珍しく、黒川の事も、自分がレイプされた事も、他の心配事も、思い悩むことはなかった。
身体の疲れもあって、ラーメンを食べ終わるとすぐにベッドに入り、朝までぐっすり眠ったのだった。





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2015年11月13日

次の日の朝






目が覚めると身体中が痛くて、昨夜、自分が何をしてしまったかと不安になったけれど
梶原たちとボーリングに行ったせいだと気付いて、安心した。

四肢を縛られ吊るされて、無理な体勢で身体を貫かれた訳ではなかった。

股関節が特に痛くて、イツキは不恰好に歩きながら、笑う。
その痛みは…足を左右に開かされて、何時間も犯され続けた時に、似ていた。



洗面所で顔を洗い、歯を磨き、学校へ行くための支度をする。
制服のネクタイを結ぶと、普通の高校生のようで、変な気持ちになる。
いつ、自分が、そんな風になったのか、それとも、何も変わっていないのか、迷う。


多分、半分くらいは、普通の高校生になっていると思う。



「……そうやって、ちゃんと…俺、普通になる…。
もうちょっとで、高校も卒業して、大人になる。
…1人でだって、生きていける。…大丈夫……」



自分に言い聞かせるように、イツキは呟いて、上着を羽織る。

それでも、本当に、自分が独りきりで生きていけるのかどうかは…解らない。

たった2日、黒川から離れただけで、何となく落ち着かなくなっている自分は、


本当は、どうしたいのだろうか。




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2015年11月14日

ひそひそ話







「…前にも言ったと思いますけど…、先輩。…俺、先輩の事は…、もう何とも思ってないんですよ?」
「…ふーん?」
「…だから、もう俺に構わないで下さい。……困ります…」
「あのさ、イツキ…」




昼食時。
食堂にたまたま1人でいたイツキに、清水が近寄る。
まだ食事の途中だったイツキは席を立つことも出来ずに、清水の話に付き合う。
清水はウインナーが挟まったパンを片手に、イツキに、気さくに笑いかける。


「もう、何とも思ってないって事は、前は、何かしら思ってたって事だよな?」
「思ってません。もう…、そういう気持ちは…、無いんです」
「…そろそろ、本当の事、言えよ。黒川さんやオヤジに、何か、言われたんだろう?」
「違います」


イツキは顔色も変えずにキッパリ言い切って、デザートのプリンを口に運ぶ。
これ位の揺さぶりは、当然、予想していた事だった。

けれど清水もまた、イツキが簡単に乗って来ない事は、予想していた。



「まあ、いいけどな。……お前がそう言うにも…、理由があるんだよな。
ただ、俺の気持ちは変わってないって…、それだけは解って欲しいからさ……」




遅れて梶原が食堂にやって来て、その姿を見掛けた清水は、退散とばかりに席を立つ。
入れ替わり、イツキの前に座る梶原は、イツキの顔を覗き込んで、大丈夫かと聞く。

イツキは大きなため息を付いて、「大丈夫」と言って、もう一度大きなため息を付いた。





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2015年11月15日

三人の馬鹿・1







ある日の夕方、イツキの部屋のインターフォンが鳴る。
誰だろうかとモニターを覗くと、そこには西崎がいて、一瞬で憂鬱になる。



『社長に頼まれて、ビール持って来たんだよ。…開けろよ』
「……本当ですか?……俺、……いらない…」
『あのなぁ…。……俺、この部屋の鍵、持ってるんだぞ? それなのに、わざわざピンポンしてやったんだろう? 開けろよ』



元々、この部屋の持ち主だった西崎は、この部屋の鍵を持っている。
訪れて、何かしようと言うのなら、勝手に入ってくる事だって出来る。
それをわざわざ、きちんとした手順で来訪したのだから、まあ、半分は信用が出来るのかも知れない。
とりあえず、モニター越しに映る、24缶入りのビール箱を2箱抱える西崎が少し気の毒になって、イツキは扉を開けるのだった。



「…クソ、重てぇ。……ったく、何のお使いだよ…」
「……すみません…」
「まあな。社長に頼まれたんじゃ、断れねぇからな……」



玄関先にビールの箱を下し、西崎はやれやれと言った風に肩を回す。
今日に限って、佐野も、他の誰も手が空いていなかったと言うが、西崎がやって来たのはそれだけが理由ではないだろう。



イツキは、部屋の中までは絶対に入れたくないとばかり、廊下に仁王立ちになっている。

そんなイツキに西崎は、中に入れろとゴリ押しする事もなく、「…メシでも食いに行くか。焼肉、どうだ?」と誘うのだった。





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2015年11月16日

三人の馬鹿・2







イツキと西崎が訪れたのは、以前、黒川とも行ったことがある焼肉屋だった。
西崎も黒川同様、老店主に深々と頭を下げ、まるで子供のように笑う。


「マサヤとも来たことがあるよ。昔からの馴染みの店だって…」
「ああ。駆け出しの頃、世話になった。…あちこちに顔が利いてな、揉め事も収めてもらったよ…」


西崎は懐かしそうにそう言って、奥の小上がりの座敷に入る。
適当に肉を選び、ビールを頼み、イツキにはウーロン茶を頼み、焼酎をボトルで入れる。

イツキが頼まなくても、イツキのウーロン茶に焼酎を足してくれた。








「…聞いたぜ?…カケルと同じクラスなんだって?」


何杯かのグラスが空いて、お互い程よく酔いが回ったところで、ようやく本題に入る。
イツキも、西崎と食事に行くとなれば当然この話は出るだろうと思ったし、自分も、話しをしておきたかった。


「お前らまた、くだらねぇ事、考えてるんじゃねぇだろうな…」
「…考えてないよ。…西崎さんからも、先輩に話してよ。…もう、…そういうのは無いって…」
「ハァー。結局カケルもお前にもてあそばれたって感じか。勘弁しろよ、ああ見えて、奴はウブなんだぜ」


肉を焼き、酒を飲み、西崎はイツキにそんな愚痴を零す。

自分の息子が、「社長の女」とデキては困るが、かといってそれが全て遊びだったと言われても…面白くはないのだろう。


イツキもグラスに口を付けたまま、困ったような笑みを浮かべる。
もてあそんだ訳では当然無かったけれど、本気でした、とも……言えないのだ。





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2015年11月17日

三人の馬鹿・3







「……先輩は、良い人で…、優しくしてくれて…、俺、そういうの…今まであんまり無かったから、ちょっとのぼせちゃって…。でも、それだけです…」
「本当か?」
「…俺にはマサヤだけだって。…そんな事、西崎さんだって解っているでしょう?」


そう言ってイツキは、艶っぽく笑う。
それは半ば、自分が黒川の女であることを演出したものだったけれど…垂れ流される色香に、西崎も毒される。


「……まあな。……それにしちゃぁカケルが、まだ、余計な事、考えていそうでよ…」
「だからぁ…!……西崎さんからも、もう一度、ゆって。……俺は、駄目だって!」





最近の清水の、自分へのアプローチには、イツキも困惑していた。
本当に好きだったのだし、イロイロ問題があった後でも気持ちを寄せてくれているのは嬉しいのだけれど…、イツキ自信が、少々……熱が冷めてしまった。

人の心をもてあそぶ、酷い奴。と、言われればそれも仕方がない。
けれど、どう足掻いたとしても、その状況にしかなれないのだ。

イツキだけが、悪い訳ではない。




「……なあ、イツキ」
「…はい?」

西崎はイツキのグラスに焼酎を足し、ニヤニヤと笑う。そして、

「この後、ヤろうぜ。俺とお前がヤってりゃぁ、カケルも、引くだろうよ?」

冗談めかし、そんな馬鹿な提案をするのだった。






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2015年11月18日

三人の馬鹿・4







西崎の提案を軽くかわして、イツキはデザートのみかんシャーベットを食べる。
これで少し、酔いが冷めればよいのだけど…今日のイツキは若干、飲み過ぎていた。





会計を済ませ、店の外に出る。
タクシーを拾うには、商店街を通り抜けないといけない。
横に何本か伸びる細い路地は薄暗く、ホテルの入り口らしい看板だけ、目立ち、光る。



「……大丈夫か?飲み過ぎだろう。……歩けるか?」
「…大丈夫です」
「転ぶぞ」



足元の覚束ないイツキの腕を掴み、西崎は支える。
そのまま、閉店した店舗のシャッターにもたれ掛かると、目線の先には、やはりホテルの看板が見える。


「……な。……寄ろうぜ?」
「寄りません。……マサヤに…、怒られちゃう。……西崎さんもでしょ?」
「社長にはオッケー、貰ってるぜ?」
「……うそ…?」


西崎はイツキの耳元で、わざとはあはあと息をして、そんな事を言ってみせる。
手は、すでに、イツキの身体に密着し、腰を摺り寄せ、硬いものを押し当ててくる。

周辺に人通りがなかった訳ではないけれど、ガタイの良い西崎が、小さなイツキに覆いかぶさっていては、それが男か女なのかは解らない。
ホテルの入り口では、よく見かける光景だった。



「嘘じゃねぇ。お前んトコにビール持って行って…、そのまま、………いいって言われたぜ?」
「うそ。……マサヤ、……そんな事…」



『絶対に、言わない』

とは、言い切れずに、イツキは口ごもってしまう。





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