2015年12月01日

シャンプー・3






「どこに行っていた」
「…髪、切りに行ってたんだよ。すぐ、近くの美容室」
「…ふん」


美容室が入るビルを出て、すぐに黒川と落ち合う。
黒川は少し不機嫌な顔で、イツキは、何か悪い事をしてしまったのかと、怯える。

歩き出す黒川の後ろを、小走りで、付いていく。

向かった先は時間貸しの駐車場で、そこには、黒川の車が停まっていた。



「…マサヤ、起きたらいないから。……俺、向こうに帰ろうと思って。……ついでに、髪の毛、切りに行って…」
「この辺りをフラフラ歩くな。また捕まって、レイプされるぞ」
「……されないよ」
「されるだろう。お前の、得意なやつだ」



車に乗り込み、黒川はハンドルを握り、どこか馬鹿にしたようにイツキにそう言う。
イツキは黒川の言葉に気を悪くするも、ふと…、もしかして黒川は、街中を不用意に歩く自分を心配して、迎えに来てくれたのではないかと思う。



「…もしかしてマサヤ、少しは俺のこと、心配してくれてる?」
「…車で回るついでに、送ってやろうと思っただけだ。お前が誰かにヤられる心配などしていたら、身がもたん」



そんな憎たらしい事を言って、黒川はまた、笑う。
それでもイツキは、その言葉が、黒川のすべてでは無い事を、感じてしまう。





ふと、黒川は、イツキの頭に手をやって
「……いいな」と言って、髪の毛をくしゃりとするのだった。





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2015年12月02日

寝ぼけイツキ







真夜中に黒川はベッドから起き、台所で水を一杯飲む。
リビングのソファに掛けてあった服を羽織り、とりあえず、煙草に火を付ける。

結局、イツキを送り、そのままこの部屋に上がり込んでしまった。
夜に予定していた仕事をすっぽかし、一ノ宮はさぞかし怒っているだろうと…苦笑する。


寝室の扉が開き、イツキが出て来る。
イツキは寝ぼけた様子でふわふわと歩き、トイレに向かい、少しして出てきて、また寝室へ向かう。

扉に手を掛け…、そのまま動きを止め、何か、考えている風で…、一度、寝室を覗き込んで、おもむろに振り返って、
ソファに、黒川が座っているのを見つけて、ひどく驚いた顔をした。


「……なんだ?」
「あ、……ううん。……そっか…、……うん」


イツキは一人、納得したような返事をして、照れくさそうに笑う。
どうやら本気で寝ぼけていたようで、黒川がここに来た事を、忘れていたようだ。



「馬鹿か、お前は。数時間前の事も覚えていないのか」
「……だって、マサヤ、ベッドにいなかったし…。…あんまり、ここにいるって…、感じ、ないし……」
「…だからと言って……」
「……さっきも、いいばっかりで……、……夢かと思った…」



そんな風に言って、イツキがまた微笑むものだから
あやうく黒川は、この夜も、イツキと離れる事が出来なくなる所だった。





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2015年12月03日

イツキの決意







「……あっ」



週明け、イツキにしてはめずらしくきちんと学校に行く。
机にカバンを置き、上着を脱ぎ、黒板に書かれた今日の予定を見て、素っ頓狂な声を上げる。


「はよ、イツキ。何、どうした?」

そんなイツキに気付き、梶原が声を掛ける。
本当は、一番最初教室に入って来た時に、イツキの髪が少し短くなった事も気付いていたのだけど、それは、言いそびれてしまった。


「…今日から、…体育かぁ…」
「ああ。…え、何?…お前、授業、出る気なの?」
「………ん」



実はイツキは今年からは、ちゃんと、体育の授業も出ようと決心していた。

体調面で問題があり、基本、見学でも良いのだけど…出来る限りは参加しろだの、替わりにレポートを提出しろだの、意外と煩い。
イロイロ融通をしてもらっていた体育教諭の渡辺は異動してしまったし、新たに、他の教諭を…というのも手間が掛かる。
…加瀬に頼めば、何とかなるとは思っていたけど、…クラス編成でケチがつき、もう信用ならないというのが実のところ。

それならば、とりあえず、休まずに授業に出ていれば、それで普通に単位が貰える。
そう思い、今年は頑張ると決めたのだけど……もとより、気乗りする話ではない。



「…あれ、だってお前、身体がどうとか言ってなかったっけ…?」
「…ジャージ来て、立ってるだけでいいなら、平気。……頑張る」



そう言ってイツキは、今日の三時間目に予定された体育の文字をもう一度見て

まるでこの世の終わりに直面したかのような、深い深い、溜息をついた。




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2015年12月04日

はじめてのたいいく・1






イツキの体育の授業は、意外と、普通に終わった。
体育は隣のクラスの男子と合同で、そこには大野もいたのだけど、イツキが普通過ぎて、最初はそこにいる事すら気づかなかったくらいだった。
準備体操を済ませ、グランドを2周ほど走り、サッカーボールでドリブルの練習などする。
最後はチームを作って練習試合をしたのだけど、それは、イツキは、脇で見学するだけだった。



大変なのは、梶原の方だった。




意識しないようにしようとは思ったのだけど、つい、ジャージに着替えるイツキをチラチラと見てしまう。
全裸になる訳でもないし、制服のズボンの下にはすでに短パンも履いていたのだけど
イツキが服の端を指で摘まむ度に、ドキドキとした。

髪の毛が少し短くなった分、うなじが、綺麗に見える。
首筋に新しいキスマークは無かったけれど、太ももには、何の痕だか解らない、赤い痣があった。


準備体操はイツキと梶原で組になり、柔軟体操をしたのだけど……酷かった。
イツキは身体が柔らかく、しなやかで、……良い匂いがした。
手を取り、腕やわき腹を伸ばすと、「んんん…」と、声を洩らす。
地べたに座り、足を開いたイツキの背中を押し、前屈させていた時などは、おかしな想像をするなという方が無理な話だった。


グランド2周を走る足は、意外と、早い。
いつも、動くのが億劫だの、タクシーに乗るだの言う割には、体力はあるのだろうか。
イツキの立ち居振る舞いが綺麗なのも、きちんと、身体が出来ているからだと、改めて思う。
その体力が、夜通し男に抱かれ、身体を動かし鳴き声をあげるために必要なのだとは、気付かなかったけど。


走り終わり、イツキは頬を少し赤くし、はあはあと呼気を荒くしていた。





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2015年12月05日

はじめてのたいいく・2







「梶原って、ドリブル、下手」
「……お前に言われたくはないよ」
「俺は、出来なくて当たり前でしょ?梶原は何でも出来そうなのに」


そう言って、イツキは笑う。
確かに、梶原はスポーツ万能、とまでは行かなくても、何でも人並み以上には出来るはずだった。

隣で、とんでもない方向にボールを蹴り出すイツキが心配で心配で、自分の事が疎かになってしまったとは言えない。


「ボール、蹴るのは、足、痛くなっちゃうから嫌だなぁ…」
「つま先で蹴るからだよ。…上、乗っかりそうになってたし。お前が転がりそうでヒヤヒヤした」


梶原の言葉にイツキは唇を尖らせ、不機嫌な顔をする。
そして、耳の辺りにかかる髪を掻き上げ、「……汗、かいちゃった……」と、呟いた。




疲れたからと言って、次のゲーム形式の練習は、見学にする。
イツキが木陰のベンチに移動すると、今度は、清水が梶原の傍に寄って来る。

「……どういうつもりだよ、あいつ、体育なんて…」
「なんか、真面目に頑張るそうですよ。…まあ、いいじゃないですか」
「良くねぇよ。エロ過ぎだろ。何プレイだよ…ったく」

清水は小声で囁き、舌打ちをする。
みんな同じように体育の授業を受けているのに、やはり、イツキだけ異質で…目に付くのだ。

梶原は軽く「ははは」と笑い、清水の言葉を流す。けれど、
その異質さがどこから来るものなのか、清水は知っているのだと思うと…


それもまた、梶原を悶々とさせるのだった。




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2015年12月06日

はじめてのたいいく・3






ゲーム形式の練習は、清水がいる組が勝ち、梶原がいる組は負けた。
梶原が気に入らないのは、負けた事ではなく、イツキが…すっかり乙女のような目になって、清水を見ていたからだった。


「先輩、すごい、上手なんですねぇ」
「まあな。ああ、でも、走るのシンドイわ…」


戻って来た清水は笑いながらそう言って、上着の裾で汗を拭く。
チラリと、腹が見え、それをつい見てしまうイツキを、梶原は見て、無駄に苛々する。

別に清水と張り合う気は無いのだけど…
考えてみれば……学業全般、勝ると自負していても、こと、体育だけは、清水に敵わないのかも知れない。

スポーツに汗を流す清水は、梶原から見ても普通に、格好良かった。
体育の授業の度に、イツキが、格好良い清水を見るのかと思うと、……少し、嫌だった。




試合も終わり、最後にまた組を作り、ストレッチをする。
うっかり、イツキを清水に取られてしまい、梶原は気が気ではない。




「…な、イツキ」
「何ですか?…先輩…」
「今まで通り、体育なんて、サボれよ。…お前には向かねーよ」
「…そんな事、……ないです…」

「…周りの奴らが、その気になっても、知らねぇぞ?」



イツキと清水は手を取り合い、身体をくっつけたり伸ばしたりしながら、そんな話をしていたのだけど
どんなに耳をそばだてても、梶原にその声は、聞こえなかった。



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2015年12月08日

はじめてのたいいく・終







授業が終わり、教室へ戻る。
次の授業までの短い時間で、ジャージから制服に着替え直す。
教室には男子しかおらず、みな、何も気にせず服を脱ぎ始める。
おそらく誰も、イツキが服を着替える姿を気にしないとは思うのだけど…、やはりイツキは教室の隅で、なるべく素肌を晒さないように、もぞもぞと着替える。

それが逆に目に付いて、何故か梶原が顔を赤くして、チラチラと様子を伺う。



「……何、梶原…」
「あっ、いや…。お前、それ…変だよ。女子じゃねーんだから……」



ジャージの上着の下にワイシャツを潜り込ませて、ボタンを掛けようと必死になっているイツキに、梶原が言う。
確かに、そんな着替え方をしている男子は、他にはいない。



「…余計、目立つって…」



梶原の言葉に、イツキは少し…気を悪くしたのか、唇を尖らせる。
そして、拗ねた顔のまま、羽織っていたジャージを一気に脱ぎ捨てた。


ふわりと、イツキの、匂いが立つ。









次の授業が始まる頃には、イツキは普通の姿になって、普通に机に向かっていた。
体育の授業で酷く疲れたのは梶原ばかりで、つい教科書を開きながら、うとうととやってしまうのだった。




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2015年12月09日

「岡部一樹ホモ疑惑」







そう、黒板に書かれていた。
5月のある朝。教室に入った梶原はそれを見付けて、思わず絶句してしまう。
教室にはすでに生徒が半数ほど。
その内の誰かが書いたものだろうけど、みな、あえて何も言わず…
ただ顔を見合わせて笑いあったり、ひそひそ話をしたり、嫌な空気が流れる。

まだイツキが登校していない事が、何よりの救いだった。



「……誰だよ、これ、書いたの……」


バン、と黒板を叩き、梶原は教室内を見渡す。
ムキになっては、それを認めている証拠だと思ってみても、語気が強くなるのを抑えられない。


イツキの普段の立ち居振る舞いから、そう思われ、からかわれるのも仕方が無いとは思う。
先日の体育の授業でも、ただならぬ色香を垂れ流していた。

けれど、それを、こんな形で中傷して良いものではない。


「……最ッ低だな。……ガキかよッ……」



梶原はそう言い捨てて、教室の、誰とも解らない犯人を睨みつける。
そうして、黒板消しを持ち、その落書きを消そうと背を向けた時、

「…ムキになっちゃって。…余計、アヤシイっての」


と、声が聞こえた。



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2015年12月11日

「岡部一樹ホモ疑惑」2








清水が教室に入った時には、梶原は教師のように黒板の前に立ち、教室にいる全員に向かって熱弁を奮っていた。
『こんな事はただのイジメに過ぎない』だの、『人の気持ちになって行動しろ』だの、解り易い正論をぶつける。
最初はクスクスと陰で笑っていた生徒たちも次第に黙り、重苦しい空気が流れる。



「……なに?……なにゴッコだよ…」


清水は半ば呆れながら、そう呟き、自分の机に向かうのだが、
きれいに消しきれずに黒板に残っていた言葉を読み、合点が行く。



「…こんな風に悪口を言うのは間違えてる。俺たち、もう、小学生のガキじゃないんだぜ?…だいたい…」

「まあ、仕方ないよなぁ…」


梶原の言葉を遮り、清水が口を挟む。
そして、自分も黒板の前に立ち、黒板消しを持つと、鼻で笑いながらその言葉を消す。


「あいつ、ホモ臭いもん。そう言われても仕方ないよなぁ」
「……清水…先輩…。……あんたがそんな事、言うんですか?」
「そう思われてるのは事実だろ。……ただ、やり方はセコイけどな」


文字を綺麗に消し、清水は黒板消しを元の場所に戻し、梶原にニヤリと笑う。
梶原と話をしている風でも、声はだんだんと大きくなり、それは明らかに教室の全員を威圧する言葉だった。

バン、と、黒板を叩き、今度は教室中を睨む。


「思う事、書くなら、何でも書けばいい。『清水、ヤクザの息子疑惑』でも書くか?
くだらねぇ事、してるんじゃねぇよ。

言いたい事があるなら、直接、言えばいいんだよ、なあ」



そう吐き捨てて、自分の席に戻って行った。






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2015年12月12日

「岡部一樹ホモ疑惑」終



「……はよ。…寝坊した…。まだ、せんせ、来てないよね?」


始業時間ギリギリになって、イツキが教室に入って来た。
髪には寝癖がついたまま、まだ眠たそうな顔で自分の席に着く。

そんなぼんやりとした中でも、何か、教室の様子が違うような気がする。
ザワザワと落ち着かず、みんな、何となく、自分を見ている様な気がする。



「……何かあった?……俺、やっぱり遅刻した?」

そう尋ねるイツキに梶原は、笑いながら「大丈夫だよ」と言い、
確認するように清水の方も見るのだけど、清水は何もなかったという様子でケータイを弄っていた。

清水があんな風にイツキを庇った事が、梶原には少し意外で…少し、嬉しかった。
清水が言った「ヤクザの息子」という言葉も、何かの弾みか例えか、…そう気にはしていなかった。







イツキに対する「疑惑」はおそらく、消えた訳では無く
限りなく黒に近いグレーのまま、クラスの数名の心に残っていた。


けれど、一度、熱くなると面倒くさい優等生、梶原と、やはり怒らせると怖いだろう、清水が、イツキの味方である事はよく解った。


あの2人の怒りを買ってまで、イツキに絡む気は毛頭ないらしく、


イツキへの嫌がらせは、この一件以降、何も起こらなかった。





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2015年12月13日

靴下







毛足の長い絨毯に躓きそうになりながら、イツキはホテルのラウンジに向かう。
ソファに座る黒川と目が合うと、黒川は吸っていた煙草を灰皿に押し付け、腰を上げる。

黒川はイツキの傍に寄り、身嗜みをチェックするように上から下までを眺め、
髪の毛の先を少し、摘まむ。
そして、何も言わぬまま歩きだし、イツキも、その後に続く。

エレベーターの前でボーイが用件を聞こうとするのだが、
黒川は大丈夫、と言う風に手を挙げ、2人だけで籠に乗る。
階数を押し、上がって行くランプを眺め、どちらともなく溜息を付く。

つま先ばかりを眺めていたイツキは、今日の靴下の色を、思い出したりする。




靴下は、いつ、脱ぐのだろうか。
シャワーを浴びる時か、それとも、最後まで脱がないのかも知れない。
そんな事を、思う。



チンと可愛く音が鳴り、エレベーターの扉が開く。


黒川が先に降り、イツキはすぐ、黒川を追い越すように前に立つ。



「…いいよ。1102号室でしょ。…一人で行くよ」
「……ああ」



そう短く応え、黒川はイツキの頬に手をやる。
他の男に抱かせる事を、少しは、申し訳ないと思っているのだろうか。
手の平の熱からは、その区別が難しくて…


「じゃあね」
と言って、イツキは自分から、離れ、歩き出すのだった。





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2015年12月14日

不用心






佐野が黒川の事務所を訪れると、そこにはイツキが独り、ソファで眠っていた。
不用心にも程がある。
もし、自分が、悪い男なら、簡単にイツキに乱暴する事が出来るだろうに。




西崎からの預かり物を黒川のデスクの上に置いて、佐野はソファの傍に立って
眠る、イツキを、見下ろす。

黒いスーツを着ているという事は、「仕事」でもあったのかと思う。
頬に赤い擦り傷があったり、ワイシャツのボタンの一番上が飛んでいたり、
靴を脱いで脚をソファに乗せていたのだけど、その足には靴下が無かったりと
何かと、おかしい。



肩を揺すって、起こして、事の次第を聞いてみたかったのだけど
くうくうと静かな寝息を立てるイツキを起すのは気の毒だった。

最近は、落ち着いた生活をしていると、周りも、本人も言っていたが
これを含めて、落ち着いた、と言うのならば…、相変わらずだと…、思う。

そう言えば、先日も西崎が、
イツキと、した、と。…その時の証拠写真まで披露していた。





「……馬鹿な奴…」


思わず、そう呟く。
そして、これ以上この場にいては、本当に悪い男になってしまうと、

佐野は、キスの1つで我慢して

事務所を、出て行くのだった。





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2015年12月16日

不思議な間







その日、なんとなく教室で、清水と2人になってしまった。
イツキは早く帰ろうとカバンにノートを詰め込み、清水はそれを、楽しそうに眺めている。


「…そんなに急がなくてもいいだろ?」
「梶原と、図書室で待ち合わせてるんです」
「ふぅん、やっぱり仲良しコヨシなのな、お前ら」


そう言って、清水はニヤニヤ笑う。その言葉がどこか障って、イツキは清水を見る。


「…先輩、この間の朝、何だか教室、変じゃなかったですか?…もしかして、俺のこと、何か、話してました?」
「何かって?」
「……俺が、……変だって…、こと……」


不安気な表情を浮かべ、イツキは押し黙る。
自分が回りからどう思われているのか、一応、多少、気にはしているのだ。

自分の本当の姿を知られたら、学校に来るどころの話ではなくなる。

本当は、自分は、こんな場所にいてはいけない事くらい……知っていた。



「…何か話してたかな?…お前のドリブルが下手くそ過ぎって話だったかな」


清水はそう言って笑う。
その時丁度、梶原が、イツキを待ちきれずに教室に迎えに来る。
一瞬、三人、顔を見合わせ、不思議な間になるのだけど
特にそれ以上は何もなく、「じゃ」と言って、教室を出るのだった。




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2015年12月17日

嫌な男






「最近、真面目に学校に行っているんだってな、カケル」
「……ああ」
「聞いたぞ、…イツキと同じクラスなんだって?……まさかお前ら、また、乳繰り合っているんじゃないだろうな?」
「…しねーよ、そんなの…」


夜。
所用がてら清水の家を訪れた西崎は、ソファに座り、夕食の残りを摘まみながら酒を飲む。
スナックを経営している母親は、ついさっき、家を出てしまった。
同時に始まる西崎の下世話な話に、早くこいつも帰れば良いのにと、清水は思う。


「もう面倒は起こすなよ?解っているだろう?…イツキは…」
「はいはいはいはい。解ってるよ。イツキは黒川さんのモンなんだろ…」


清水はテーブルの上の皿を片付けながら、面倒臭そうに返事をする。


「……あんな、…尻軽。……もう相手にしねぇよ」


そして、方便とはいえ、そんな事を言ってしまう自分に嫌気がさす。

西崎は笑って、「そうだよなぁ」と言い、何かを思い出したように、くっくっくと嫌らしい笑みを浮かべる。
その笑みの理由を問い質してみたかったのだが、あえて、それ以上は聞かなかった。



「…俺、部屋、行くぜ?」
「ああ。…部屋で煙草は吸うなよ」



西崎は、まるで父親のような事を言い、おやすみと、手をひらひらと振る。
それからケータイを開き、何か、写真を見ているようだったけど

その写真が、先日、西崎とイツキが性行為をした時の写真だとは、清水は知らない。



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2015年12月21日

午後のニュース






「……なんだ、スーツで来たのか。仕事じゃないぞ?」
「…だって、ちゃんとした格好で来いって…」


ある日、イツキは黒川に、事務所に呼び出される。
あまりこの界隈を一人で歩かせたくなかったはずだが、それももう、忘れてしまったのか。

事務所には黒川だけしかおらず、まるで会社員のようにデスクで書類に埋もれていた。
耳と肩の間にケータイを挟み、誰かと連絡を取りながら、パソコンまで弄っていた。


「まあいい。すまんが、ココに行ってくれ。滝田というジジイがいるから、金を貰って来い。話はついている」


そう手短にイツキに指示を出すと、住所の書かれたメモを渡し、またすぐに自分の仕事に戻る。
どうやら本当に、猫の手も借りたい程、忙しいらしい。

猫よりは、イツキの方がマシ、といった所か。




事務所の前からすぐタクシーに乗って、言われた場所に向かう。
30分ほどで到着したそこは、小さな町工場といった感じだったが…それにしては静かで人の気配もない。
何度か声を掛けると、ようやく奥から初老の男が現れる。
黒川の言う通り話はついているようで、男は大きなため息を付きながら、イツキに分厚い封筒を渡し、また奥へと戻って行った。

その背中はいやに小さく、そのまま、消えて無くなってしまうのではないかと、思えた。




事務所に戻り、黒川に封筒を渡すと、黒川は礼のつもりか手をひらひらと振る。
それでも、自分の仕事の手をを止める気はないらしく、ケータイに向かって半ば怒鳴り声で話を続けているので、

イツキは諦めて、そのまま、事務所を後にするのだった。





そして、次の日、
午後のニュースで、
その、滝田という男の町工場が火事になり、男も亡くなったと、知った。




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