2016年04月01日

傍耳






「……だいたい、マサヤはズルいよ」
「うん?…何がだよ?」
「結構、酷いと思うんだよね、俺の扱い。…雑って言うかさ…」
「…偉そうに…、お前ごときが…」



マンションの近くにある終夜営業の定食屋で、2人はモーニングを食べていた。
席の周りにはこれから出勤しようかというサラリーマンが座っていて
朝にしては艶っぽい2人の会話に、傍耳を立てる。



「…そう言う、言い方がさ…。…俺、昨夜も言ったけど…、ちゃんと頑張ってるよ?
マサヤの言うこと聞いて…、オヤジとだって…、エッチするでしょ?」
「仕事…、……俺の仕事の手伝いは…、お前がしてもいいと言い出したんだぞ?
その分、お前だって、自由にヤッてる」
「そうだけどさ、……そうじゃなくて…」



イツキは、ご飯の上にカツの卵とじを乗せ、掻き込む。
黒川は、相変わらずのイツキの食欲に、何故か嬉しそうな顔をして、味噌汁を飲む。

隣の席のサラリーマンは、思わず、2人の様子を二度見する。



「……普段は意地悪なのに…。……たまに…昨夜みたいに…、されたら、俺…、怒れなくなっちゃう。
あんな風に…、優しくするの…、……ズルい…」

「仕方ないだろう。お前が可愛く鳴くのが悪い。……お前、ケツの穴、舐められるの、本当に好きだからなぁ…」



黒川の言葉に、イツキは箸を持ったまま、…昨夜の出来事を思い出してか、顔を赤くする。



「……帰ったら、もう一度、してやろうか?……何度でも、イかせてやるぜ?」



そして最後の言葉に、耳まで赤くし、持っていた茶碗を床に落としたのは
隣に座っていたサラリーマンだった。





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2016年04月03日

犠牲者





「煙草、吸って来る」


と、食事中に黒川は席を立つ。
イツキは白玉ぜんざいを食べながら、やっと人心地ついたという風に、小さく息を吐く。
隣の席のサラリーマンが身を屈め、イツキの足元を気にしていたので…何気なくイツキも足元を見ると、ボールペンが落ちている。
先刻の騒ぎのついでに、落としたのだろうか。

イツキはそれを拾い、サラリーマンに手渡す。



「………あ、………ど、どうも……」



それだけの事なのに、サラリーマンは耳まで赤くし、言葉を詰まらせる。
その様子にイツキは、…もしかして…と、思い当たる。



「………話、………聞こえちゃいました?」
「……えっっ…、………は、はぁ………」
「……ごめんなさい。……朝から、変な…話で……」


イツキはそう言って、照れくさそうに肩をすぼめ、はにかんで見せた。





この子が…



あの強面の男とあんな事やこんな事をする関係で、昨晩は尻を舐められ、どうにかなってしまう程、どうにかなるなんて……。
あの強面の男がメロメロになる程の可愛い顔なんて、一体、どんな顔なんだろう…。
そして、この後もまた、あの男とこの子は……、あんな事やそんな事をするのだろうか…

俺が会社で仕事をしている最中に!?




と、考えを巡らせている間に、イツキは黒川に呼ばれ、
席を立ち、店を出て行ってしまうのだった。




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2016年04月04日

大欠伸






思わず、
清水が見入ってしまう程、それは立派な大あくびだった。
当のイツキは見られているとは気付かず、一緒に出てしまった涙を手の甲で擦りながら、んんん…と、唸り声を洩らす。
それからもう2,3回、中途半端なあくびをして、それでも晴れない眠気に、困ったように首を振って、
机の上に両腕を投げ出して、猫の様に伸びをして、
顔を上げたところで、ようやく、清水と目が合ってしまった。


「………あ…」
「…お前…、……相変わらず…、面白れぇな……」


清水は半分笑いながら、そう言う。
イツキは少し恥ずかしかったようで、それを誤魔化すように、唇を尖らせて余所を向く。


「何?…お疲れ?」
「…別に、疲れてなんて、ないです」
「はは。…お盛んだな。黒川さんが、離さないってカンジ?」




清水はイツキの顔を覗き込むようにして、そんな嫌味を言ってみるのだけど
イツキの反応は、清水が思っていたものと少し違っていた。



イツキは、黒川との一夜を思い出してか、はにかんだ笑みを浮かべ
「………ん」、と
艶っぽく、返事をするのだった。





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2016年04月06日

黄昏清水







委員の仕事を終えて梶原が教室に戻ると、そこには清水が一人、黄昏ていた。
普段なら終業のベルを待たずに教室を出てしまう男なのに、何事かと、梶原は思わず見遣る。



「……なあ、梶原」
「はい?……何ですか?」
「あいつってさ、結局、どうなの? 今」



清水は煙草でも吹かしているような溜息をついて、梶原に話し掛ける。
勿論それはイツキの事だと、梶原にも解る。
梶原はカバンに教科書やらを詰め、帰り支度をしながら、清水を伺う。



「……どうって、……何がですか?……別に、何もないですよ?」
「黒川さんと、上手くいってんの?……あいつ、まだ、客、取らされてるんだろ?」
「………知りませんよ、そんなのっ」
「他の男ともヤッて、黒川さんにいいように使われて、何なの?、あいつ…」





清水は西崎から事あるごとに、イツキの動向を聞かされていた。
それは半分は、清水に再び変な気を起させないための牽制と、半分は、ただの下品な噂話だった。
それでもそれを聞く限り、イツキは黒川に命じられるまま、可哀想な仕事を続けていると思われたのだが、


実際のイツキは、妙に、幸せそうで、……清水には納得が行かなかった。




「……なあ」
「……何ですか?」
「…飲みに行かねぇ?」
「行きませんよっ」




そんな事を言って、清水はまた、溜息を付くのだった。




posted by 白黒ぼたん at 23:28 | TrackBack(0) | 日記

2016年04月07日

奇妙な友情・1






「…ナニ?…お前、ここで一人暮らしなの?…訳アリなの?何なの?」




清水は梶原の部屋に上がり込み、物珍しそうに辺りをキョロキョロと見渡す。
駅からそこそこ離れた築30年の団地の一角。エレベーターもない上階の一部屋。
一人暮らしと聞いて想像した、お洒落なワンルームとはかけ離れ、そこは小ざっぱりと片付けられた、どことなく、懐かしい匂いのする生活感のある部屋だった。



「別に。…親が仕事で遠くに行っちゃっただけです。その辺、座ってて下さい。今、お茶、入れます。


梶原は、頭の片隅で、どうしてこんな事になってしまったんだろうかと思いながら、台所に立つ。
電気ケトルに水を入れると、後ろから清水が、「茶はいいよ、氷と水、チョーダイ」と声を掛ける。
振り返ると清水は…、帰り道のコンビニで調達したのだろうか…、テーブルの上にウイスキーのボトルをドンと置いた。





放課後の教室で、飲みに行こうと誘われた。
けれど、どんなに理不尽な事があって愚痴を零したいからと言って、普通の高校生は、飲みには行かない。
梶原はきっぱりと断るのだけど、清水はなかなか諦めず、食い下がる。
…たまに人恋しく、誰かとお喋りしたい気分になるのは、梶原にもなんとなく解るので…、そう冷たくはあしらえないのだけど。

冗談半分で「俺の家でなら、いいですよ」と言うと、すぐに清水は食いついてくるのだった。




posted by 白黒ぼたん at 23:45 | TrackBack(0) | 日記

2016年04月08日

奇妙な友情・2







「…イツキは、馬鹿だ。あいつ、絶対、騙されてる。そう思うだろう?梶原」
「そうっすね。イツキはもっと、自分自身、ちゃんとしないと駄目っす」
「いいんだけどさ、いいんだけどさ、あいつがそれでいいって言うなら、それでも、別に…」


清水は水割りの入ったグラスを持ち、そう、愚痴を零す。
梶原はもちろん、酒を飲むつもりは無かったのだけど、飲んでいた炭酸にはいつの間にか、ウイスキーが注がれていた。

自分の部屋だからという事もあり、気も緩む。
しかも、清水との会話は、意外と楽しい。




「……俺、イツキの「黒川さん」に会ったこと、あります。…怖そうだけど、優しそうでしたよ?」
「黒川さんは…、怖いって言うか…、ヤバい人だよ。ヤバい。絶対、ヤバい…」


清水は同じ言葉を三度も呟く。
梶原にすれば怖い人の部類に入る清水が、そこまで言う「黒川さん」は、本当にヤバいのだろう。
何がどう、かは、よく解らないのだけど。


「でも、イツキは、その黒川さんと…一緒なんでしょ? ……イツキ、その人のこと、好き…なんでしょ?」
「どうなんだろうなぁ…。まだ、客、取らされてるって言うし…。なんでそんな奴の事、好きでいられるんだろうなぁ……」



コンビニで買った鶏の唐揚げを手で摘まみ、清水はため息交じりにそう言う。
梶原は、その、イツキが客を取らされているという部分が、実はまだよく解っていなくて…

解った風な顔をして、手元のグラスに口を付け、もっと詳しく話を聞いて良い物か、迷う。



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2016年04月09日

奇妙な友情・3






「…清水さんは、なんでイツキの事、イロイロ、知ってるんですか?…黒川さんとも、どんな関係なんですか?」
「んー。……親父が黒川さんの下で働いてるっつーか…、まあ、そんなカンジ」
「へえ…。お父さん、何やってるんですか?…店、とか?」



まあまあ酒の回っている梶原は、つい、親しげに突っ込んだ話をする。
清水も酔っているのか、普通に、話を続ける。



「店も、ヒトも…、アレコレ。…何、やってるんだろうなぁ…、親父も、まともな人間じゃねぇからな…」
「はは。学校のみんなは、清水さんのトコ、ヤクザだなんて言ってますよ」
「ああ、そうだよ」



梶原の冗談を、あっさり清水が認めるものだから、梶原は言葉を無くす。
…以前、訪れた、黒川の事務所の様子から…、世間一般の会社や事業所とは雰囲気が違うとは思っていたのだけど
はっきりと肯定されると、やはり、驚く。


清水は身元を明かしたことを、さして気にもしていない風で、話しの合間に梶原の部屋をぐるりと見回す。
手の届く場所にある本棚には教科書や参考書がびっしりと並び、本当に、よく勉強しているのだなと、解る。

積み重なったノートの一番上に、「イツキ」と書いてあり、何気に手に取る。


「…これは?」
「え?……ああ。あいつ用のノートです。授業の内容とか、テスト対策とか、解り易く…」
「…へぇ…」


伝えられない想いでも熱く綴ったノートなら、格好の酒のツマミになると思ったのだが
中に書かれていたのは色気も何も無い、文字や数字ばかりだった。




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2016年04月12日

補足

清水は高校1年時に留年。
もう一回1年をやって、2年にあがった春にイツキと会います。
イツキはこの高校に入る前に、別の学校で1年生をやってまして(前シリーズ話です)
その後、一年間、フラフラした後、2年で編入。梶原と会います。

清水とイツキは同い年。本来の学年より、いっこ上。
でもイツキも梶原も最初は怖がって、清水の事を「先輩」呼びしていました。

3年になってから、梶原が「清水さん」と呼びだしたのは、ちょっと慣れとゆーか、親しみを込めてとゆーか、
同じ学年、クラスなんだし、いい加減先輩面も無いだろうという反目からか…まあ、そんなトコロです。


多分。笑。


すみません…、自分で書いておきながら、設定があやふやです…
posted by 白黒ぼたん at 10:45 | TrackBack(0) | 日記

奇妙な友情・4






「…お前、マメだな。…ずっと勉強、見てやってんのか…」
「ええ。…あいつ、学校休んだりすることも多いし…。やっとなんとか…、追い付いて来た所だから…」
「ふん。……お勉強ねぇ…」


清水はどこか馬鹿にしたような、含んだ笑みを浮かべ、水割りを飲む。
自分のグラスが空になると、まず、梶原のグラスに酒を足してから、自分のグラスにも注ぐ。

清水も、梶原も、そう酒には強く無い。
それでも、こんな機会なのだし……、酒の勢いを借りてでも、溜まった思いを吐き出してしまおうとしていた。


「……あいつが、勉強して、何になる?……どうせ、黒川さんの、オモチャだろ…」
「イツキ、勉強、頑張り出したのって…、去年の夏ぐらいですよ?」
「……ん?」
「……清水さんと、……色々あった後ぐらい…、でしょ?……その頃…」


梶原もグラスに口をつけ、飲みなれない酒に苦い顔を見せながら、強がるようにもう一口、酒をすする。




「…イツキ、あの頃、すげー落ち込んでましたよ。辛そうで…、ずっと、ケータイ、見てたりして…。
で、振り切るみたいに、勉強するって言い出して…。…もっと、ちゃんとするって…、なんか、そんな事、言い出して……。


あいつ、多分…。清水さんの事、……好きだったんじゃないかなって……思います」



普段、勉強一辺倒の梶原が、こんな色恋めいた話をするのが意外で、清水は少し驚く。
梶原も、自分が、こんな話をしていることに、自分で驚いていた。

最近では、清水がそう嫌な男ではなく、イツキを真剣に想っていることが解る。

だからこそそんな清水に、イツキの気持ちを…、…少なくともあの当時は清水の事を、ちゃんと好きだったと…、伝えてやりたいと思ったのだった。


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2016年04月13日

奇妙な友情・終







「…そっか」


梶原の話を大人しく聞いていた清水は、一言、そう言って、……また手元のグラスを一気に飲み干す。
さすがに飲み過ぎではないかと、梶原は心配そうに清水の顔を覗き込む。



「……結局、俺がビビッて手を引いた隙に、また、ヨリを戻しちまったって訳か…」
「…え?」
「…黒川さんとさ。……ああ、クソ」



清水は、
大きくため息を付いて、そのままひっくり返る様に後ろへ倒れる。

梶原ごときに言われなくとも、うすうす、解っていた事だった。

アレも、コレも、自分を遠ざけるための策略だった。

イツキの虚言に乗り、黒川や西崎の思惑通りイツキと距離を取ってしまった。

ようやく気が付いた所で、すでにイツキは、黒川に戻ってしまった後なのだ。




天井の電球がまぶしいと言う風に、清水は顔を手で隠すのだが、それはまるで泣いている風にも見える。
梶原はテーブルの上を片付けるフリをしながら、清水の様子を伺う。



「……清水さんって、意外と…、可愛いとこがあるんですね」



うっかり、そう口を滑らせてしまい、その後、大変な反撃を食らうのだった。







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2016年04月14日

慌てるイツキ






「…飲んだ?……先輩と?……梶原の家で!?」
「………イツキ、………声がデカい……」



朝。
珍しく表情が冴えない梶原にイツキがどうしたのかと尋ねると、
梶原は昨晩、清水と2人で酒を飲み、少々、過ぎてしまったと言う。
体調の悪さと、多少の後ろめたさもあり、梶原はイツキに声を抑えろという風な手振りをする。
当然清水は、そんなコンディションの日には、無理をしてまで学校には来ない。



「……なんか、……ゆっくり話がしたいとか言って…、そういう事になっちゃって…
ああ、でも、割と楽しかったんだけど…、………お酒はなぁ……、飲み過ぎちゃ、ダメだなぁ………」



一端の呑兵衛のような事を言って、梶原は持って来たスポーツ飲料のペットボトルを開けた。



「…何、話したの?……俺のこと?………先輩から、何か、聞いた?」
「…んー、……まあね…」
「…何?…何?……何の話?……どれの話?」
「…んー?」



予想以上にイツキが喰いついてくるので、梶原は少し驚くのだけど
なんとなく、悪い気はしない。
どんな形であれ、自分に興味を持ってくれるのが嬉しくて、
「……何だったかなぁ、ふふ」と、適当にはぐらかして、楽しんでみるのだった。



イツキにしては
自分の裏の世界を知っている清水が、梶原に何の話をしたのか、気が気では無い。
黒川の事だろうか、西崎の事だろうか、それとも清水自身…。
それとも他の事だろうか、……レイプの事か、……ビデオの事か…、あとは何か……。



心配事が多すぎて、慌てていた。




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2016年04月18日

でこぴん






黒川が部屋に入ると、イツキはソファに横になっていた。
「…少し、熱っぽいかも…」と、イツキは言い、もぞもぞと身体を丸める。

「……どうせまた……」
「はいはい。ヤった後、そのまま濡れたまま、裸で寝てたんだろうって言うんでしょ?」

イツキは黒川を見上げ、機嫌と気分のすぐれない顔で、そう言う。
黒川は、まさに言おうとしていた事を言われ、苦笑いする。

「……ベッドで寝ろ。……邪魔だ」
「……はぁい…」

ゆっくりとした動作でイツキは起き上がり、よろよろと寝室に入るのだった。





暫くして、黒川が寝室を覗くと、
イツキは微動だにせず、深く、眠りに落ちていた。

一瞬、
息さえしていないような気がして
黒川の息が止まる。



ベッドの傍まで行き、イツキの顔を覗き込み、微かな呼吸を確認するように口元に耳を近づける。
胸元に手をやると、確かに上下している。……死んではいないようだ。


「……クソ。……驚かせるなよ……」


黒川は一人で慌て、1人でそんな悪態を付き
イツキの額を軽く指で弾き

寝室を出るのだった。





イツキ共々、少々体調、崩し中です。
更新、お休みがちです、スミマセン〜
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2016年04月21日

新顔






イツキが事務所へ行くとそこには一ノ宮と、もう1人、見た事がない男がいた。
細身の、目つきの鋭い男。日本人ではないような…感じ。
とりあえずぺこりと頭を下げると、男は静かに微笑み、頭を下げる。



「…ああ、イツキくん、社長は少し遅れて来るそうですよ。……リー君は、……初めてでしたか?」


コーヒーを淹れていた一ノ宮はカップを二つ持ちながら、イツキを見て、新顔の男を見て、もう一度イツキを見る。
イツキは少し不安そうに、小さく頷く。


今日の…、仕事相手では無いとは…、思うのだけれど…。
そうやって紹介された男と、そのままホテルに行かされるのも、良くある話。



「今、横浜の仕事を手伝って貰っているリー君です。しばらく、こちらと行ったり来たりなので、会うことも多いと思いますよ。
リー君、彼が、イツキくんです。…ご存じですよね?……社長の大切な方です」



一ノ宮はコーヒーカップをデスクに置いて、お互いを紹介する。
男はすでにイツキを知っていたようで、特に様子を変えることもなく、もう一度頭を下げる。

イツキは、一ノ宮が自分を「社長の大切な方」と紹介したことに驚いてしまって、無駄に照れ、一人、慌ててしまうのだった。





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2016年04月22日

粗雑






「…事務所に、見たことない人、いたよ。…リー…さん?」
「ああ、今、一ノ宮と作業を詰めてもらっている」


イツキは黒川の車に乗せられ、どこかへ向かっていた。
誰と会うのか、食事をするのか、それ以外の事をするのか、まだ解らず
何から尋ねようかと、とりあえず、事務所にいた男のことを尋ねる。


「……チャイナの人?」
「ああ。まあ、ほとんどこっちで仕事をしているがな。今度、開く、横浜の事務所に居てもらう…」
「マサヤ、最近、横浜の仕事が多いよね。…何、してるの?」
「イロイロだ。……着いたぞ」


大した話も出来ない内に、車は目的地に到着する。
都内の大きなホテルの駐車場のようで、車から降りるとロビーへ向かう。


「……仕事?」
「違う」


そう言われても、まるで安心は出来ない。

結局は上階にある高級割烹で、見知らぬ老人と食事をしただけなのだけど
次の機会には部屋を用意するからと、談笑交じりに話をしていたのを、聞き洩らさなかった。




帰りも、行きと同じように、黒川の車の助手席に乗る。
特に何も無い一日だったが、なんとなく、疲れ切ってしまった。
黒川に、そんな話をしようかと思ったのだけど
どうせまた馬鹿にしたように笑って『なんだ、ヤりたかったのか?』と、言われるだけだと思った。



一ノ宮は自分の事を、『黒川の大切な人』だと言ってくれたけれど

その割には、扱いが雑だな…と、イツキは思っていた。




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2016年04月23日

李とイツキ






イツキが事務所へ行くと、そこには、リーが一人パソコンに向かって作業をしていた。
イツキはぺこりとお辞儀をして、「ここで、マサヤと待ち合わせをしているので…」と言って、ソファに座る。

リーは一ノ宮とは違い、イツキにお茶を入れてくれる訳でも無く、
事務的に頭を下げると、自分の作業に戻る。
イツキはなんとなく居心地が悪くて、辺りをキョロキョロ眺め、普段は読まない新聞を捲ってみたりする。



「喝什麼嗎?」
「……えっ?」
「咖啡可以嗎?」
「……は…い……」


リーに何を言われたのかサッパリ解らなかったが、コーヒーと言われたような気がして、とりあえず頷くと、
案の定、コーヒが出て来た。
イツキは礼を言い、カップに口を付ける。

日本語は不慣れなのだろうか…、中国人なのだと、黒川は言っていた。
ならば二人の会話はどうしているのだろうかと、イツキはリーを横目で伺いながら、ぼんやりと考えていた。




やがて扉が開いて、一ノ宮が入ってくる。



「…ああ、イツキくん。今日もお疲れさま。社長も直に見えます。…リー君もありがとう、運送屋と連絡は付きましたか?」
「ええ。船便が少し遅れたようですが、明後日には届くとの事です。受け取りには私が行きます」




自分と時とはうって変って流暢な日本語で話すリーに、イツキは驚き、顔を上げる。
視線が合うと、リーは少し馬鹿にしたように、にやりと、笑った気がした。




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