2016年05月04日

虹の橋






黒川が運転する車の助手席にイツキは座り、
ぼんやりと、窓の外を流れる夜景を眺めていた。
もう、「仕事」は無いと、言い聞かされ宥められて来たのに
手伝いだ、付き合いだと言う…、あの時間は、一体何なのだろうと思う。

黒川も、少しは、悪いと思っているのだろうか
静かにハンドルを握る、その回りの空気が、いつもとは違った。




「………あ。ここ、………好き……」




道路は、大きな川に掛かる煌びやかな橋に向かう。
向こうには順番に色を変える観覧車も見える。
地理に疎いイツキは、その場所の名前も知らなかったが
時折、通る、この景色が、好きだった。



黒川も、イツキがこの場所を好きな事を知っていた。



わざわざ遠回りして、この道を選んだのも
やはり多少の、罪悪感からだったのかも知れない。





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2016年05月07日

ジェラシー








「……また、横浜?」
『ああ』
「……ふぅん、解った。……じゃあ、俺、週末は戻らなくていいんだね?」
『ああ』



黒川との短い電話を切って、イツキはふんと鼻を鳴らす。
自分が不機嫌になっているという自覚は、まだ、無いのだけど。


横浜での新しい仕事が忙しいと、最近の黒川は、週の半分をあちらで過ごす。
新しく用意した事務所とは別に、泊まれる場所も、あるようだった。
横浜ではリーが、黒川の身の回りを一切を任されているのだろうか。

自分と、折り合いの悪い相手が黒川の傍にいるというのが、どうにも、気に障った。



首に縄を付け行動の全て、何もかもを支配されるのは、さすがに嫌だけれど
放り出され、あまり構われる事が無いというのも、不安になる。
ふとした拍子に、心のバランスは、簡単に崩れる。
自分は、意味の無い、価値の無い存在なのではないかと…、思ってしまう事が怖い。



手に握ったままだったケータイがもう一度鳴り、ディスプレイに黒川の名前が浮かぶと
繋がった、その一瞬が、嬉しくて、……そんな自分を戒める。


『言い忘れていたが、週末は、吉村の所に行ってくれ。一ノ宮には話してある。車で、一緒に。……メシを食うだけだよ、……はは』




そして、電話の内容がそんな事だと解ると

イツキの気持ちは一層落ち込み、酷く、仄暗い色に染まるのだった。





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2016年05月08日

絨毯






約束通りイツキは一ノ宮と一緒に、吉村が滞在しているホテルへ赴き
本当に真面目な、仕事の用件を片付けた後で、食事に誘われる。

「……一ノ宮さんは?」
「ここから先は、私がいても仕方が無いでしょう?」
「……ご飯、…だけ?」
「ご自由にと…、社長からは言い付かっています」

そうして、少し物憂げな笑みを見せて、一ノ宮は退場する。






「まあ、そんなに構えるなよ、イツキ。取って食いやしないぜ、解ってるだろう?」


2人きりになった部屋で、吉村は笑いながら、そう言う。
確かに吉村は昔からの知り合いで、「客」の中では、とりわけイツキを大切に扱う。
イツキも吉村が嫌いではない。黒川もそれを知っている。
だからこそ何か…、やましさや、イツキに対して後ろぐらい所がある時に、誤魔化すように、吉村に会せたりする。


「黒川も、横浜で手一杯のようだな。向こうの組合長とは俺も取引があるんだが…」
「…知らないよ、マサヤが何、してるかなんて。忙しい、忙しいって…、ばっかりでさ…」
「はは。干されて面白くないクチか?もっとも、お前が黒川の手伝いで忙しくなるようなら、それはそれで、困る話なんだろう?」



吉村はスーツの上着を羽織り、ホテルの上階にあるレストランへと、イツキを案内する。


ふわふわと足元が覚束ないのは、毛足の長い絨毯のせいではなく、

何となく感じている、寂しさのせいなのかも知れない。





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2016年05月10日

理不尽







『………何だ?』




何十回目かの呼び出しの後、やっと電話が繋がった黒川の声は、酷く不機嫌そうだった。


「…マサヤ。…何、してるの?」
『仕事だ。お前こそ、何だ?…吉村と一緒のはずだろう?』


仕事、と言う割に、黒川の周りは騒がしい。
笑い声や、女性の甲高い声。…どうやら、クラブや飲み屋や、そんな場所にいるようだった。


「…吉村さんと、ご飯、食べてるよ。…もうすぐ、終わるけど。……俺、これから、…どうしたら、いい?」
『うん?…好きにしていいと、言ったはずだぞ?』
「…俺の、好き?……それとも吉村さんの、好き?」
『どっちでも構わん。…じゃあな、忙しいから切るぞ』


そして、にべもなく、電話は切られてしまった。






トイレ、と言って、イツキは席を立ち、この後の予定を確認するために黒川に電話をしてみたのだが、
確認どころか、ただ、嫌な思いをしただけだった。
頬を膨らませ、唇を尖らせ、席に戻ると、そこにはすでに食後のデザートが並び、吉村が優しげな笑顔で待ち構えていた。


本当は、断ろうと思っていたのだけど。

もう、イツキにはその理由が、見当たらなかった。




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2016年05月11日

常連







吉村は常連客で、すでに何十回と、イツキを抱いていたけれど
ここ最近は、どこか、何か、イツキが変わって来たような気がしていた。
感度の良さや、反応は勿論、以前から申し分なく、その道に手だれた吉村でさえ驚くものだったが
この数回…、一年ほどだろうか…、黒川があまりイツキを外に出さなくなった頃から特に…

イツキは…、……上手な言い例えが見つからないのだが……、何か、深く…、なったような気がしていた。


気を抜くと本当に、飲まれてしまう。
自分が主導権を持ち、イツキを抱いている筈なのに、絡めとられ、抜け出せなくなってしまう。




「……よ…し…むら…さん。……奥、……奥、熱い…、……すごい、当たる…」
「お前が、…締めるからだ。イツキ。……もう、出…る……」


吉村は、自分の上に跨っているイツキの腰を逃げないようにと掴み、さらに、自分の腰を突き上げる。
動くたびに、イツキが喘ぐ。口元からヨダレが垂れることすら、可愛い。



「……いい顔だな」



そう言うとイツキは乙女のように、恥ずかしそうに顔を背け
そのくせ貪欲に、中を、締め付けるのだった。




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2016年05月12日

口癖






「いらないのなら、俺に、譲れよ」




それが吉村の口癖だった。

黒川がイツキを粗雑に扱い、モノの貸し借りのように他の男に……、自分に、預ける時に、よく口にしていた。
すると黒川は決まって、「アレはそんなにイイ物じゃないぜ?」と言うのだけど
それならば、譲れよ、と、吉村は思う。


黒川は、本当は何よりも誰よりも、イツキを必要としているのだろう。
それが、一般に言う、恋愛感情とは違うものだとしても。
優しく想い、いたわるかどうかは別として、無くてはならない存在だというのは、確かなようだった。





「イツキ。いつでも俺の所に来て良いんだぜ?」

それも、吉村の口癖だった。
コトを終えた後、ベッドの上で、毛布に包まりながらまどろんでいるイツキに、吉村がそう声を掛ける。

「………ん。……吉村さん、優しくて、すき」
「だろう?黒川なんぞ捨てて、俺の所に来いよ」
「………ん。………マサヤ、意地悪なんだもん………」


イツキはそう言って、目を閉じる。

イツキもまた、愚痴を零しながらも、黒川とは離れられないのだと、解る。
いくら自分が抱き、尽くしてやっても、気持ちの行き着く先は、黒川なのだ。



つくづく、この2人は、
性質が悪いと、吉村は思っていた。





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2016年05月13日

損得勘定







黒川は電話を切って、それをスーツの胸ポケットに仕舞うと、面倒臭そうに溜息を付く。
今日は、どうしたって良いと話していたはずなのに、一々確認を取られるのは煩わしかった。

それでも、多少は、イツキの杞憂が……楽しかった。
自分の事を気にしながら、他の男に抱かれているイツキは、さぞかし、良い顔をするのだろう。




「…社長、向こうからですか?…一ノ宮さんから…」


別のボックス席にいたリーが黒川の元へと戻る。
商談と接待のためにとクラブ全体を貸切り、その全般を仕切っているリーは、一ノ宮とは違う頭の良さとキレがあり、重宝していた。


「いや、違う。イツキだ」


黒川がそう言うと、解り易くリーは、嫌な顔を見せる。
黒川はそれを見て、笑い、…気付いたリーは申し訳なさそうに頭を下げる。


「構わんよ。お前がイツキを嫌いなのは、知っている」
「…嫌い、という訳ではありません。…よく解らないだけです」
「は、は。そう難しい話じゃ、ない。イツキはただ、…俺と一緒にいるだけだ」



事も無げに黒川はそう言うのだけど、その、一緒にいる理由が解らずに困っているのだ。
黒川にとっても、イツキにとっても。一体どんな損得勘定が働いているのだろうか。


奥のボックス席から賑やかな笑い声が聞こえて、リーは、そちらについ目をやる。

男に媚を売るだけの商売は好きではないのだが、それでも、席の中央に座る黒髪の、あの綺麗な顔の子は、社長の為に良く働いてくれていると思った。






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2016年05月15日

頑張れイツキ







ホテルで吉村と一晩過ごし、翌朝。
イツキは自分の部屋へと帰る前に、事務所に寄る。
けれど、事務所には鍵が掛かり、一ノ宮の姿も見当たらない。
もっともこんなに明るい陽の下で、賑やかに活動する輩でも無いだろう。


黒川は、息が詰まるほど干渉して来たかと思えば
存在を忘れられたのではないかと心配になる程、手を離す。
気まぐれな態度は今に始まった事ではない。
その、ひとつひとつを気にしていては、身が持たない事は重々解っている。

解ってはいるが、少し、寂しい。
多分、そう思わせるための作戦なのではないかとすら、思う。




「……マサヤの、馬鹿…」



イツキは小さく悪態を付いて、事務所の扉に背を向け、階段を駆け下りた。




帰り道の途中で、あれこれ買い物をする。
夏物のシャツと上着と、ソファの足元に敷くラグと、グラム数千円もする高い牛肉を買い
荷物が両手一杯になってしまい、タクシーを止めるのにも一苦労だった。


部屋に戻ると、溜まった洗濯物を片付け、少し遅れがちな勉強を、どうにかしようと思ったのだけど、
とりあえずソファに横になると、そのまま、夕方まで眠ってしまうのだった。





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2016年05月16日

勤勉イツキ






授業と授業の合間。
いつものように清水は、イツキの動向を伺う。
イツキは、机に向ったまま、
熱心にノートに何か、書き付けていた。


「お勉強?…エライね」


半分馬鹿にしたように声を掛けるも、イツキはチラリと視線を寄越しただけで、すぐにノートに戻る。
清水はそのまま、丁度空いていたイツキの、隣の席に座る。


「真面目じゃん。どうしたの?」
「……ちょっと、休み、多かったから…。ノート、写さないと……」
「ふぅん」


清水は頬杖を付き、舐めるようないやらしい目付きで、イツキを上から下まで眺めていたのだけど、
イツキが、まるで相手にしてくれないので、ふんと鼻を鳴らす。
やがて、前の席の梶原が戻って来たので、仕方なくそちらと話をする。


「……あいつ、何?……そんなに勉強、好きだったっけ?」
「イツキは、…ちゃんとやってますよ。もう赤点も無いし、次のテストだって、準備してるし…」
「ふぅん…」

「…たまに、波があるけど。…ヤなカンジの事があると、それを乗り越えるみたいに、勉強するけど。
あいつ、ここを頑張る事が、なんか、自分を守る唯一の手段って、感じ……」





梶原は、イツキの現在の詳しい事情はもちろん、何も知らない筈なのに、そんな事を言う。
清水は少し意外そうな顔を見せ、もう一度イツキを見て、……今はイツキに、何が起こっているのだろうかと……思った。


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2016年05月18日

一ノ宮の小言







「…イツキの事を、どうでも良いと思っている訳じゃ無い。横浜が忙しいのはお前だって解っているだろう」
「そうですが…」
「金も、自由も、遊ぶ男も与えている。十分だろ?」
「そうですが、雅也。…いや、そうではなくて…」


仕事も一段落つき、黒川と一ノ宮は馴染みの焼き鳥屋で一杯やっていた。
カウンターしかない狭い店。コップになみなみと注がれた日本酒。
好みの串を何本か頼み、酒も進んだ所で、いつものように一ノ宮がイツキの処遇について尋ねる。


「…あの子は…、そんな物を欲しがっている訳ではないでしょう?」
「…じゃあ、何だよ。…どうせ暇になると、勝手に相手を見つけて来るんだぜ?」
「いや、…そうではなく。…ああ、もう…」


グラスに口を付け、半分笑いながら話す黒川に、何をどう話せば良いのか一ノ宮自身も解らず、困る。
自分も酒を飲み、大将に次を頼み、皿に残っていた最後の軟骨を食べる。


「………食ったな、一ノ宮…」

「忙しいなら、忙しいで、きちんと話せば済む話でしょう。そうやってはぐらかしてばかりでは、いつかしっぺ返しが来ますよ、雅也。
…もう少し、あの子を大事にしないと。…ちゃんと向き合わないと…」

「…イツキの事は、考えている。……大事にもしてやってるさ」


黒川はそう言って、大将から新しいグラスを受け取ると、…何故か、小さく笑って…、酒に口をつけるのだった。




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2016年05月19日

言い分







真夜中。
黒川はイツキのマンションへ向かう。


鍵を開けて中に入ると、部屋は煌々と明かりが付いたまま。
リビングのテーブルには、教科書やノートが出してあり、脇にはビールの空き缶が転がっていた。
寝室を覗くと、イツキが、制服姿のまま、ベッドに横になっていた。

学校から帰り、とりあえずと勉強を始めたものの、睡魔に襲われ…、そのまま、寝落ちてしまったらしい。



「……馬鹿な奴」



と、黒川は鼻で笑い、寝室の電気を消した。





一ノ宮が心配しているように、イツキを雑に扱っているつもりは、…そんなには無い。
単純に仕事が忙しいのだし、イツキと一緒にいる時間は、まあ、優しくしてやっていると思う。

自分の仕事に、イツキを付き合せるのは、極力避けようとも思っている。
横浜の仕事は、…あまり綺麗な仕事ではない。リーがイツキを快く思っていない事も知っている。
イツキが知れば、嫌な事もあるだろう。わざわざそれを知らせる必要もない。



距離を取るのは、実はイツキを守るためなのだけど、それを説明するのは、黒川の性に合わなかった。





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2016年05月20日

朝風呂・1







明け方。
イツキはベッドの上で目を覚ます。
一瞬、何がどうなっているのか解らなかったけれど、制服を着たまま、ちょっとだけと横になって、そのまま寝入ってしまったようだと…思い出す。
変な格好をしていたのが、腕が、痛い。


ベッドから下り、トイレに行く。
洗面所の鏡を覗くと、髪の毛が酷い事になっていて、自分で笑う。
学校に行く前に風呂に入ろうと、湯船に湯を張り、一度リビングに戻ると、
そこでようやく、ソファに、黒川が寝ている事に気が付いた。



「………あっ……」



短く叫んで、また、何がどうなっているのか…考える。
自分が寝ている間にやって来たのか…。ソファでくつろいでいる内に、寝てしまったのか。



「……マサヤ、風邪引くよ?」


声を掛けるも、起きる気配はないので、
とりあえず寝室から毛布を持って来ると、それを黒川に掛け、自分は風呂にはいるのだった。






「………ひっ…!!!」



イツキがのんびりと湯船につかっていると、突然、扉が開き、黒川が入って来る。
勿論、風呂場なのだから、服は何も身に付けてはいなかった。




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2016年05月21日

朝風呂・2







一糸纏わぬ黒川が同じ浴室に入って来て、イツキは無駄にドキドキしたのだけど

黒川は普通に身体を洗い、普通に、イツキと一緒の湯船に入って来た。

ユニットバスではないものの、ごく一般的なサイズの湯船に、男2人は少々、キツイ。




「………狭いな」

黒川はそう言って、笑う。

「…マサヤ、来たの、知らなかった…。夜中に来たの?」
「…ああ」
「……俺、この後、学校……だよ?」
「ああ。俺も横浜だ。リーが車で迎えに来る」

黒川は手で湯をすくい、バシャバシャと顔を洗うと、ふうと息を付き、浴槽に足を伸ばす。
当然、イツキの居場所は狭くなり、どう身体を置こうかと、あたふたしていると


黒川は手を伸ばし、イツキを抱く。





「……マサ…」

「吉村とは、寝たのか?」




抱かれ、うっかり目を閉じていると、黒川は興ざめな事を聞く。



「………うん」




そう、イツキは素直に答える。
もっともそれは、黒川にとって、ただの確認に過ぎなかった。





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2016年05月22日

朝風呂・3






黒川はイツキを背中から抱き止め、意地悪く、イツキに、吉村とのセックスの内容を聞く。
キスは長かったのか、前戯はきちんと施されたか、上だったか、下だったか。何度、イかされたのか。

イツキは耳まで赤くして…、もっとも、風呂に入り過ぎて、そこいら中真っ赤になっていたのだけど…、律儀に黒川の質問に答える。
黒川は、馬鹿にしたように鼻で笑いながら、イツキの身体を、指先一本だけで、なぞる。



「………だって、………マサヤが…、勝手にしろって…、……言ったんじゃん…」
「ああ。…だから、別に、怒ってはいないだろう。……どうだったか、聞いているだけだ」
「……どうって…、そんな……。普通だよ…。吉村さん、優しい…し……」
「ふぅん」


後ろから手を回し、黒川はイツキの股間に触れる。
イツキも、脚を閉じればよいものの、何故か、中途半端に開いてしまう。
待っている、訳ではないけれど、黒川の手がそれ以上先に進まないと
焦れったさに、逆に、感じてしまう。



「………マサヤ」
「…うん?」
「……しないんだったら、お風呂、出る。熱い。クラクラする。この後、予定、あるんでしょ?」



それは、イツキなりの誘い文句だったのだけど。



「そうだな」



意外にも黒川は乗らず、素っ気ない答えを返す。
思わず、イツキは振り返るのだが、その時には黒川はイツキの身体から手を離し、湯船から出てしまうのだった。




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2016年05月24日

朝風呂・4






「……なに、それ……」



黒川は風呂から出てしまい、浴槽に一人残されたイツキはそう、つぶやく。
声は思ったよりも浴室に響き、自分の耳に届いてから、これではまるで自分が、何かを期待していたようだと気付く。


「………」


イツキは少し押し黙り、ふんと鼻で息をして、勢い、湯船から立ち上がる。
湯あたりしたのか、頭がクラクラする。倒れそうになるも、壁に手を付きながら、どうにか浴室を出た。


用意してあった下着を身に着け、タオルで髪の毛をゴシゴシやって、足元にあった洗濯物を乱暴に洗濯機に放り込む。
扉を開け、リビングに出てみるが、そこに黒川の姿は無かった。





まさか、もう、部屋を出てしまったのかと、ドキリとする。
けれどすぐに、キッチンから物音がして、安心する。

安心してから、また、そう思ってしまった自分に嫌気が差した。





黒川は冷蔵庫を開けていたようだった。パタリと閉まる音がして、黒川がキッチンから出てくる。


肩にバスタオルを掛けただけの姿は、目のやり場に困る。
手にビールを2本持っていた黒川は、その内の1本をイツキに手渡すと


「…服を着てどうする?…また、脱ぐのに?」


そう言って、笑い、寝室へと入って行った。




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