2016年06月01日

遠くの笑顔






「おはよ、イツキ。ちゃんと来たな、偉い偉い。
歴史の小テスト、ポイント高いからな。……ん?……勉強してない?
…この間の年号だけ…、そう、この間、ノートに書いたやつ…、そう、それそれ…」


朝。
いつもと変わらず梶原がイツキに構う様子を、清水は少し離れた席から、ぼんやりと眺めていた。

イツキはノートを広げ、一時間目に行うテストの準備をしているようだが、見る限りすでに5回は欠伸をし、眠たそうに眼を擦る。

黒川の車から降りて来たのなら、おそらく、黒川と夜を過ごしていたのだろう。
それならば、イツキが眠たい理由は、一つしかないのだろう。



イツキと黒川の事は、考えても仕方のない事なので、考えないようにしているのだけど
わざわざ気に障るように、見せつけられては、心中穏やかではいられない。



「…何?昨日、寝てないの?…バカだな、何やってんだよ。…ああ、でもこの辺はちゃんと覚えて来たんだな。…うん。……半分は取れるんじゃないかな……」






傍から見ると、まるで、キスでもしているように見える。
そして、そんなに近づいてしまっては
何か…、独特の残り香に…、気が付いてしまうのではないかと、清水はヒヤヒヤする。



梶原が何かくだらない事でも言ったのか、イツキがくすくすと笑いだす。

その笑顔が、なぜかひどく遠くに見えて、清水は一抹の寂しさを感じるのだった。




posted by 白黒ぼたん at 22:57 | TrackBack(0) | 日記

2016年06月02日

凶暴な欲求







懸案だった小テストがある一時間目が無事に終わり
イツキはようやく、安堵する。
とにかく、受けること。欠席が多い者は特に。と、教師に何度も念押しされていただけに
これさえ済めば、もう、今日は、どうでも良いと、大きく伸びをする。



「………あっ…」




椅子に座ったまま身体を反らした瞬間、イツキは小さく叫ぶ。
すぐ傍にいた梶原が、何事かとイツキを伺う。
イツキは、なんでもないという風に、首を横に細かく振り、そのくせ慌てて席を立つ。
「ちょっと、トイレ」と言って教室を出て行くものだから、梶原は単純に、「腹でも下しているのかな」と、思った。




そう間違いでも無いのだけれど。
…下って来たのは、…数時間前の、黒川との、名残りだった。






イツキが…濡れていた箇所を拭いて、トイレを出ると
またもや運悪く、清水と鉢合わせる。

清水は当然、理由など知らず、ただ、イツキが廊下を歩いているというぐらいにしか思わなかったが
イツキは、耳まで赤くし、俯いてしまう。


そんなイツキを、廊下の隅へ押しやり、顔を身体を密着させて
何があったのか問い質したい。
この場で服を剥ぎ取り、そのカラダを開き、今の身体がどうなっているのか確かめたいと…



咄嗟に湧き上がる、凶暴な欲求に
清水はただただ、困惑するのだった。





posted by 白黒ぼたん at 23:00 | TrackBack(0) | 日記

2016年06月03日

清水の自信






昼休み。
イツキは梶原と大野の三人で、昼食を取っていたのだけど
食べ終わるとすぐに梶原と大野は委員会の仕事があると、席を立ってしまう。
イツキは甘いコーヒーを飲みながら、一人きりになってしまい、
もう、今日は…、このまま帰ってしまおうかとも考える。


「……5限は…、現国…。……日数は…、………ギリギリ……」


イツキは指で日数を数え、なんとなく、くすくすと笑う。
欠席が多いイツキには、休んで安全な授業など、ほぼほぼ残ってはいない。
そんな事は自分でも解っていて、イツキは笑いながら、コーヒーのストローを啜った。



教室に戻ろうと席を立つ。
食器を返却口に戻し、ふと目をやると
食堂の隅の席に、一人で座っていた清水と、目が合ってしまった。

清水とは、今日は、変なタイミングでばかり、会う。
別に、朝の景色の言い訳をしたいとか、イロイロな弁解をしたいとか、そういう事でも無いのだけど
目が合って、まるで無視というのも逆に気まずくて、イツキは小さく微笑む。


けれど清水は分かりやすく不機嫌な顔を見せる。
うっかり、こちらに近寄って来そうな様子のイツキを牽制するように、持っていた食器をガチャンとテーブルに置き、勢い、席を立つ。



「……しばらく、俺の傍に来るなよ、イツキ。
俺は、冷静でいられる自信は、無いぜ?」



そして、イツキの傍を通り過ぎると、顔も見ずに、
そんな事を言うのだった。






…先輩、食器、片づけたー?
posted by 白黒ぼたん at 23:00 | TrackBack(0) | 日記

2016年06月04日

夕暮れ時







放課後、梶原は資料室に残り、プリントのホチキス留めなどをやっていた。
別に梶原一人の仕事では無いのだけど、たまたま、タイミングが悪かったというか…
まあ、誰かに頼む程の事でもなく、手慣れた様子で、資料をまとめていた。



イツキは、午後の授業が終わると、眠たいから寝ると言って、速攻で教室を出て行ってしまった。
今日は朝から一日ぼんやりとしていたし、学校に来ただけでも、一時間目のテストを受けに来ただけでも上出来だと思った。

「……徹夜で…、テスト勉強してたとか…?……まさかな、はは…」

イツキの眠たい理由は、梶原には解らず、見当違いの想像をするも、

実は、今日のイツキは、何か…酷く…、艶っぽく見えて、
……ちょっとした瞬間に、無駄にドキリとする場面が多々あって、戸惑っていたのだった。


雑務も終わり、梶原も学校を出る。
外はもう夕暮れ時で、駅前などはすっかり、夜の雰囲気になっていた。
商業施設や飲食店が多く入るビルには、仕事帰りだろうか、人が溢れている。
もちろん、まだ学生の梶原は、酒も、悪い遊びもしなかったが、…それでもこの時間帯の楽し気な喧騒は、嫌いではなかった。




駅前のロータリーに、清水の姿を見掛ける。

丁度その目の前に、可愛い青のクーペが止まり、中で、女性が手を振っているのが見えた。

それは、梶原もよく知っている女性で、
清水はその車に乗り込み、どこかへ行ってしまうのだった。



posted by 白黒ぼたん at 23:23 | TrackBack(0) | 日記

2016年06月07日

ミナヅキイツキ・1






金曜日の真夜中。
もうじき日付も変わろうかという頃。
イツキは黒川の事務所に、一ノ宮と2人でいた。

用意された和菓子を食べ、熱いコーヒーを飲む。



「………美味しいね、これ。小豆と…、下は……」
「ういろうです。『水無月』というお菓子です。昼間、頂いたものですが…。…緑茶があれば良かったですね」
「大丈夫。……美味しい…」



イツキはフォークの先をぺろりと舐め、微笑む。
それはまるで一ノ宮に余計な気遣いをさせぬようにと、取り繕っていたのかも知れない。





つい数時間前に、黒川は車で品川のマンションを訪れ、イツキを連れ出した。
『週末は広い風呂に入りに行く』約束を、ちゃんと覚えていたらしい。

熱海、までは行けないが、近郊に、天然温泉の出る良いホテルがあるのだとか。
風呂に入り、美味しい料理を食べ、…部屋を取って2,3日過ごすのもいい、と、機嫌良く予定を語っていたのだけど

一本の電話で、すべてがフイになる。


火急の用だか、アクシデントだか、詳しくは解らないが
車を走らせてほんの数分で、黒川はあっさりと行き先を変える。

そして途中、立ち寄った事務所にイツキを置くと、
自分は一人、どこかへ行ってしまったのだった。





posted by 白黒ぼたん at 22:45 | TrackBack(0) | 日記

2016年06月08日

ミナヅキイツキ・2






「別に楽しみにしてたって程、楽しみにしてた訳じゃないんだよ。
でも、予定ってあるじゃない。心の準備って言うかさ…。
こう、急に変えられても…、すぐに、そうは…ならないよね…」


和菓子を食べ終えたイツキは、今度はコーヒーのカップを両手で持ち、
少しずつ飲みながら、そんな愚痴をこぼす。
イツキの意見はもっともだと、一ノ宮は申し訳ないような顔をして、ただ、頷く。


「最近は忙しい、忙しい、ばっかりでさ。すぐに横浜がどうのこうのって…」
「ああ、今日は横浜ではなく、池袋の……」
「どっちだって構わないけどさ!」


少し声を荒げ、そして、躍起になっている自分に嫌気が差す。
気を落ち着かせるために大きく息をついて、コーヒーを飲んで、「…別に、構わないけど…」と、自分自身に言い聞かせてみる。

理不尽な恋人の行動に心を痛める姿は、まだ年端の行かないイツキには似合わない。
そんな事は一ノ宮にも解っていたが、どうしてやることも出来ず。



「…さて。…どうしましょう。送りますよ?……品川に戻りますか?」
「……うん」


一ノ宮の言葉にイツキは素直に答え、手に持っていたカップをテーブルに置く。
そして、立ち上がり、持って来ていた旅行用の小さなバッグを小脇に抱え、扉の前まで行った時に


突然、扉が開く。
それはあまりにも近すぎて、イツキの鼻先を掠めるほどだった。





posted by 白黒ぼたん at 22:31 | TrackBack(0) | 日記

2016年06月09日

ミナヅキイツキ・3






「…何だ、まだいたのか?」


扉を開けて入って来たのは黒川だった。
黒川はイツキがここにいることに、意外そうな顔を見せたものの、何事もなかったように中に入り、デスクの上の書類をガサガサとやる。


「…社長。何かお探しですか?」
「ああ、叔父貴の所の契約書を…ああ、あった、これだ…。すぐに出る。下に車を待たせている。明日は叔父貴と長野に行く。」
「…はあ」


忙しなく動く黒川に、一ノ宮も若干呆れたように返事をする。
黒川は書類を揃え、置いてあった、冷えたコーヒーを一口飲んで、また事務所を出ようとする。


イツキは、扉の前で、そんな黒川の様子を眺めていた。



「……マサヤ」
「何だ?」
「 …俺、帰るよ?」
「ああ」



それだけの短い会話でイツキが納得出来るはずもなく。
頬を膨らませ、唇を尖らせ、明らかに不機嫌そうな顔を見せると…


黒川は、前を通り過ぎるがてら、軽い挨拶のようにイツキにキスをして、



「そんなに温泉に行きたかったのか?そう拗ねるなよ。
また、今度な…」



と、まるで飲み屋の女性を宥めるような言葉を掛け、
事務所を出て行くのだった。






黒川、サイテー!
posted by 白黒ぼたん at 21:48 | TrackBack(0) | 日記

2016年06月10日

ミナヅキイツキ・4







黒川は叔父貴と呼ぶ男の車で移動していた。

もちろん、血縁上の叔父ではない。盃で繋がった縁だ。
歳もそう変わらず、向こうは黒川に敬意を示し、そう義理立てせずともと言うのだが
黒川は頑なに、古臭い風習を守る。


「……あの子が、イツキ君でしょう?話には聞いていますよ?」
「…は、は。まあ、別段。……まあ。……まあ……」


叔父貴と呼ばれる男がそう言うと、黒川は適当に言葉を誤魔化し、
誤魔化しきれない分は、鼻で笑い、それでも足りずに、窓の外を眺めるのだった。





数分前。
黒川はつれない言葉を吐き、事務所を出る。
イツキは扉の向こうで、ただ、立ち尽くす。

『……マサヤ』

黒川が慌ただしく階段を駆け降りる途中で、イツキは声を掛ける。
下には、車が横付けされ、叔父貴と呼ばれる男は、車の中から何気に外を伺う。


『………本当に。
ちょっと…楽しみだったんだ。マサヤと出掛けるの。

………今度って、いつ?
俺、……待っていればいいの?』



イツキの言葉に黒川は振り返り、何か返事をしようと口を半分開きかけ…


面倒臭く、『…ああ』と言うだけだった。






「…あの子が君の、イイ子、って、事でしょ?だから横浜の件には絡ませないんでしょう?」
「はは。…まあ、そんなトコロです」



叔父貴の言葉を、黒川は適当に流し…

その時のイツキの顔を思い出し…、何とも言い難いくすぐったい思いに…、湧き上がる笑みを噛み殺していた。



posted by 白黒ぼたん at 23:00 | TrackBack(0) | 日記

2016年06月11日

ミナヅキイツキ・5






『…急に電話してごめん、梶原。…あのさ、英語の課題なんだけどさ。あれって、ワークの方を見ればいいのかな…』
「……ん?……ああ、うん。……え?」



土曜日の夕方。
イツキから掛かってきた電話に、梶原は素っ頓狂な声で答える。



「ワークの訳文、写した方がいいけど。……え、イツキ、今、課題やってるの?」
『…うん。……メリーとケンが美術館に行くってやつだよね……』
「そうだけど。…え、お前、週末、出掛けるって言ってなかったっけ?」
『……うん。……出掛けなくなった……』


急に出された大量の課題に、イツキは、週末は予定があるから出来そうもないと言い、
最悪、梶原にノートを見せて欲しいと、前もって、そんなお願いまでしていた。

予定が無くなり、自分で課題を片付けようとするのは、良いことだけど、
梶原にはイツキの予定と、それが無くなった理由が気になって仕方が無かった。



「…な、なあ。だったら一緒にやらない?…どっか、ファミレスとか…、俺ん家でもいいし。…メシでも食べながら…」
『……んー…、……そうしようかなぁ…』
「そうしようぜ、な! じゃあ、駅前に6時でどう?」


『解った。………あ、ううん。やっぱ、行かない。……ごめんね、じゃあね』




そう言って、イツキの電話は切れる。

梶原はケータイを握りしめたまま、しばらく途方に暮れる。

ただただ、無駄に、気分を上げ下げしただけで、後に残ったのは何とも言えないモヤモヤだけだった。






posted by 白黒ぼたん at 22:05 | TrackBack(0) | 日記

2016年06月12日

ミナヅキイツキ・6






梶原と夕食を食べながら課題をする案も良かったのだけど
単純に、もう、部屋着に着替えてしまっていたし、出掛ける気にもならなかったし。

それでも少し時間が経ち、小腹が空いて来ると
やっぱり一緒に食事に行けば良かっただろうかと…迷いだす。
一人きりの時間で何が億劫かと言えば、食事で。
食べない訳にもいかないが、一人で食べるのも、面倒過ぎる。



「………ご飯。………冷凍ご飯、一個、残ってたかなぁ…。
あ、でも…、レトルトのカレー…、最後のやつ、昨日食べちゃったし……」



つぶやきながら、目の前の教科書をばさばさと閉じ、伸びをするついでのように、床に寝転ぶ。
空腹は、途端に、イツキを寂しくさせる。
今、この瞬間ならば、イツキはどんな誘いでも断れそうにないのだけど、残念ながらそれを梶原は知らない。




「……誰か。……梶原、…大野、……佐野っち…。………清水先輩…」



ケータイを手にとり、名前をスクロールさせ、危うく、電話を掛けそうになるのを、堪える。



「……ああ、もう。……誰でもいいのに。…今なら、ご飯も、俺も、食べ放題なのに…」



そう言って、イツキは、自分が酷い冗談を言ったと思い、笑おうと思ったのだけど
よくよく考えればそれは、少しも、楽しい話では無かった。




posted by 白黒ぼたん at 21:56 | TrackBack(0) | 日記

2016年06月14日

ミナヅキイツキ・7






『…よう、イツキ。今、すぐ近くまで来ているんだが…メシ、行かないか?
駅の向こうの焼肉屋、お前、好きだったろう?』

「………行きません」




イツキの空腹と寂しさを知ってか知らずか、夜には西崎からそんな電話が掛かって来たのだが、
とりあえず、断るだけの余裕は残っていた。



『なんだよ、つれねぇな。……この前はあんなに、可愛い顔、見せたのによ…』
「この前はって……」


一瞬、イツキは、西崎が言う「この前」を忘れていたのだけど…すぐに思い出す。
加瀬に誘われ、行った先に西崎がいて、よく解らない内に抱かれてしまった。
……自分にとって、食事とセックスは一緒くたなのかと、思い知る。

『お前は、食欲も性欲も、蟒蛇だな』と、どこかで黒川が笑っている気がする。




「……あんなのは、もう、無しです。西崎さん。…俺、学校だって、ちゃんと行ってるんです…」
『ふぅん。……あ、そうそう。社長からお前んトコにビール届けろ、とも言われてるんだよなぁ…』
「……え…?」



意外と有りそうな話に、イツキは言葉を止め、考える。
多分、西崎がここに来るための口実だと思うし…万が一、本当だとしても、ここに来られては困る。



「俺、昨日、マサヤにあったけど、…そんな話、聞いてないです」
『ん?…そうかぁ?……はっはっは』



それは、からかい半分、あわよくば…といった様子。
小馬鹿にした笑い声に、イツキはムッとして、そのまま電話を切ってしまった。





posted by 白黒ぼたん at 22:21 | TrackBack(0) | 日記

2016年06月15日

ミナヅキイツキ・8







その夜、イツキはなかなか寝付く事ができなかった。
西崎の「ビールを届けに行く」という話は、嘘だろうとは思っていたが…
万が一という事もある。

何しろ、西崎はこの部屋の鍵を持っているのだ。



「……いや、いくら西崎さんでも…、そんな事したら、マサヤが怒るでしょ?
………しない、………よね…? ……西崎さん、そんな酷い人じゃ無いよね……」



布団の中で何度も寝返りを打ちながら、そう一人ごち、
よくよく考えれば、西崎は、それをしてもおかしくない位、酷い人間だと思い当たる。


「……本当に、先輩の、お父さん、なのかな……
ぜんぜん…、……ちがう………」



そんな事を考えながら、やっとうとうとし始めたのは、もう、空が白み始める頃で。
夢には、清水との、楽しかった思い出や、楽しくなかった思い出が、ごちゃまぜになって出てきたりした。







カチャンと、鍵の回る音がする。
ドアが開くも、チェーンが掛かっていたため、跳ね返り、バタンと大きな音がする。
それから、何度も、ドアをバタバタとやって、開かないと解ると、今度は激しく蹴り出した。


最初の物音で目を覚ましていたイツキは
ベッドから飛び起き、寝室の扉の後ろに身を潜め、息すら、止める。




posted by 白黒ぼたん at 21:41 | TrackBack(0) | 日記

2016年06月16日

ミナヅキイツキ・9






「…イツキッ、いるんだろう?……開けろッ。……イツキ!」


やがて、早朝のマンションには似つかわしくない怒号が聞こえてくる。
聞き覚えのある声にイツキは驚き、今度は転がるように大慌てで、玄関に駆け寄る。


「……マサヤ…!?」


ドアチェーンのため、数十センチしか開かないドアの合間から、明らかに不機嫌顔の黒川が覗く。
あと数分、イツキが出てくるのが遅ければ、おそらくどこぞからでも工具を探して、チェーンを切断していたに違いない。


「…ま、待って。開けるから、一回、ドア、閉めて……」


イツキはそう言って、一度、ドアを閉めると掛かっていたチェーンを外し、改めて、ドアを開く。
黒川は入ってくるなり、イツキを、ジロリと睨み、


パシャリと、頬を、平手で打つ。






「お前は目を離すと、すぐに、これだ。部屋に男を連れ込むな。
ヤルならもっと、上手くやれ。……まったく、どエロにも程がある…」


黒川は悪態をつきながら部屋の中に入り、リビングや寝室を覗き、風呂場の扉を開ける。
どうやら、イツキが、部屋に男を呼び入れたと、思い込んでいるらしい。

玄関のチェーンは、普段、黒川が来る予定がある時には、掛けられていない。
もしくは、直前に連絡を入れ、チェーンを外させるのだが、今日はそれも無かった。


「…どこだ?……ベランダからでも逃がしたのか…?」


黒川はトイレの扉を開けながら、玄関前に立ったままのイツキに声を掛ける。



そして、どうして自分が叩かれたのか、理由が解らず呆気に取られるイツキを見て、ようやく、

自分の勘違いに気付いた。



posted by 白黒ぼたん at 23:07 | TrackBack(0) | 日記

2016年06月17日

ミナヅキイツキ・10







「…紛らわしい真似をしたお前が悪い。…最近、チェーンなんぞ、掛けないじゃないか。
俺のいない間に、学校のオトモダチでも引き込んで、ヤリまくっているかと思ったぜ…」

「……そんなの。……するはず、……ないじゃん」

「…まあ、…そうだな。…ふふ、悪い悪い、勘違いだ」




黒川はリビングのソファに座り、一応、謝罪の言葉を口にはするが、それにはまるで誠意というものが感じられない。
むしろ、それ自体を面白がって、鼻で笑う始末なのだが…、…叩かれたイツキは、ちっとも面白くはない。

憮然とした顔のまま、キッチンへ入り、飲みたくもないコーヒーを淹れるための湯を沸かす。



「……西崎さんから電話があって…。なんか、こっち、来そうな感じだったから…、怖くて、鍵、してた……」
「西崎?……ああ、お前、たまに、会っているんだったな」
「会いたくて、会ってる訳じゃないよ。……やりたくて、やってる訳じゃない…」
「結果は同じだろう。身から出た錆というヤツだ…」



加瀬の件を、西崎から聞いている黒川は、相変わらずの憎まれ口を叩く。
イツキは無言でコーヒーをテーブルに置く。

本当は、熱々のそれを、黒川の頭から掛けてやっても良いのだと、思う。



「……俺、…まだ眠いから、…寝る」



それだけ言って、イツキが黒川の傍から離れようとすると、
黒川はイツキの手を掴み、イツキを見上げ、……さっきまでとは少し、違う、笑みを浮かべた。





posted by 白黒ぼたん at 23:00 | TrackBack(0) | 日記

2016年06月20日

ミナヅキイツキ・11






「イツキ」



こんな時の黒川の声は、本当に、とろけるほどに甘い。
狡い、と、イツキはいつも思う。


まだ半分、寝室に行こうとする身体を黒川は引き止め、イツキの手を引く。
イツキはすとんと、黒川の隣に座ってしまう。
顔を覗き込まれて、つい、背けるのは、何故か恥ずかしいからで
それは黒川も知っていて、さらに、嫌がらせのように、顔を近づける。


「…そう、拗ねるなよ、イツキ」
「…拗ねてない。…眠いだけだよ…」
「ふぅん、寝るのか?…俺が来たのに?……長野から、とんぼ返りで帰って来たのに?」



そう言われて、イツキは思わず、黒川の顔を見る。

確かに。

今日は、黒川は叔父貴とやらと一緒に、長野に行くのだと言っていた。
目的地までどれほど掛かるかは知らないが、まあ、そう簡単に行ける距離ではないだろう。
今日の朝、出て、用事を済ませて、帰ってくるのは、大変な事だろうと、イツキにも解る。



「…なんで?」



素直な疑問が口をつく。

黒川は笑い、その口に、唇を重ねる。




「…お前が、俺に、会いたかったからだろう?」




posted by 白黒ぼたん at 21:58 | TrackBack(0) | 日記
最近のコメント
フェスタ・3 by はるりん (11/12)
フェスタ・2 by ぼたん (11/11)
フェスタ・2 by はるりん (11/11)
フェスタ・1 by はるりん (11/07)
得意技 by はるりん (11/05)
イツキ沼 by はるりん (11/03)
多少の理性 by はるりん (10/31)
わかりやすい迷路 by ぼたん (10/29)
わかりやすい迷路 by はるりん (10/26)
覚悟 by ぼたん (10/25)