2016年09月23日

台風の日・1






『……非常に強い台風が近づいています。気象情報に注意し、なるべく外出は控えて下さい……』



朝からテレビのニュースではそんな事を言っていたのだけど
とりあえず、今日は、学校に行かなければいけなかった。
赤点もなく一学期を終えたイツキだったけれど、出席日数がアブナイ教科はいくつかあり、
その、補充にと、特別の講義が設けられていたのだ。

窓の外に目をやる。
少し風は強そうだが、まだ雨は降っていない。
イツキは朝食の代わりにと牛乳を一杯飲んで、渋々、家を出るのだった。






「…お前も?」


集められた数名の生徒の中に、清水の姿もあった。
イツキはぺこりと頭を下げ、なるべく、清水とは離れた席に座る。
講義と言っても、教科はまちまちで、それぞれ配られたプリントを片付ける。
教室にはカツカツとペンの走る音と、少し降り出した雨の音が響いていた。



黒川は、仕事で、2,3日出掛けたきりになると言っていた。
イツキは…どこで、誰と、と気にはなったが、「ふぅん」と、素っ気ない返事だけしておいた。
黒川は、何も詮索して来ないイツキに、少し、物足りなさそうにしていたが
それも一興とニヤリと笑い、甘いキスで、誤魔化すのだった。




posted by 白黒ぼたん at 22:04 | TrackBack(0) | 日記

2016年09月25日

台風の日・2







講義が、予定されていた時間よりも早く終わったのは、台風の影響からだった。
予報よりも雨足は強まり、交通機関にも影響が出始めたという。
気を付けて帰るようにと教師に言われ、学校の外に出ると、そこはもう、バケツをひっくり返したレベルの雨で…
イツキは傘を広げ、こんな土砂降りの中、果たして駅まで歩けるのだろうかと不安になる。


「…ヒデェな…。大丈夫かよ?お前、飛ばされるなよ?」


振り返ると、すぐ後ろに清水がいた。
一緒に帰ろうと言う清水に、イツキは、やんわりと断るように首を横に振るのだけど…
一歩、足を踏み出した瞬間に、突風で傘がひっくり返る。


「…ひっ」


思わずイツキは短く叫び、あたふたと慌てる。
すぐに清水が傍に寄り、傘を直してやる。

結局、一緒にいては、気まずい思いになるのでは無いかなどと、思う間もなく
お互い寄り添い、傘が飛ばされないようにと支え合い、どうにか、駅までの道のりを歩く。
雨は、一層、勢いを増し、みるみる道路の端が冠水する。


「……やべぇ…。マジ、雨、やべぇ……」


そう呟きながら、水たまりの中を進む清水は、なんだかどこか、楽しそうで…
イツキはその横顔を見ながら、少し、気を緩ませる。


けれど

やっと辿り着いた駅では、電車が止まり、…人が溢れかえり、混乱のただ中にあった。

イツキも清水も静かに顔を見合わせ、これは、ちょっと、大変な事態なのではないかと…心配になった。





posted by 白黒ぼたん at 00:29 | TrackBack(0) | 日記

2016年09月26日

台風の日・3







「……電車、動いてないの?……バスも。……えっ、この行列ってみんな、タクシー待ちなの?……えっ?……ど、…どうすれば…っ」


イツキは駅前の混雑に右往左往する。
こんな状況に直面するのは初めてのようで、半ばパニックに陥る。


「…誰か、迎えに来てもら………、わーっっ、傘がーっっ」


ポケットからケータイを出そうとした一瞬の隙に、傘が、突風に持って行かれる。
髪が雨に濡れ、顔に掛かり、前が見えない。
時折酷く強く吹く風は、立っているのもやっとといった様子で、イツキは、流されながら、何かの柱の陰に身を潜める。
もう一度ケータイを手に持つのだけど、案の定、ポロリと落として、また、慌てふためく。



「イツキ、…行こう」


見るに見かねた清水は、有無も言わせずイツキの手を引き、強引に歩き始める。
イツキは、何がどうなっているのかさっぱり解らなかったが、拒むことさえ出来ずに、そのまま雨の中を歩く。

人混みをかき分け、通り過ぎ、駅の裏手の商店街へ。

向かった先は、ラブホテルだった。



「……え、先輩…、俺……」
「いいから。入るぞ」


平日の昼間だと言うのに、考えることはみな同じなのか、部屋はほぼほぼ満室で
辛うじて一つだけ空いていた部屋に、清水は、イツキを連れて入るのだった。



posted by 白黒ぼたん at 23:01 | TrackBack(0) | 日記

2016年09月27日

台風の日・4







「…こんなに早く荒れるなんて言ってたか? 天気予報、嘘じゃんか、……ったく…」


清水は悪態をつきながら部屋の中へ。
そのまますぐに風呂場へ向かい、湯船に湯を張る。
棚から、タオルやらガウンやらを取り、また部屋に戻ると…イツキはまだ、扉のすぐ内側に、立ちすくんだままだった。


「…服、脱げよ?…びしょ濡れだろ?」
「……でも、俺……」
「…ただの、雨宿りだ。……別に、襲いやしねぇよ」


やはり警戒しているのか、イツキは自分で自分の手をきゅっと握ったまま、動こうとしない。
清水は、そんなイツキを見て笑い、自分は先に、濡れたワイシャツを脱ぐ。


「…それとも、何か、期待しちゃってる?」
「そんなのっ…してないっ……」
「ははは。……お前、先に、風呂使えよ。…ほら、タオル」


そう言って、清水はイツキの頭に、ぼすんと、バスタオルを乗せてやるのだった。




言われるがまま大人しく、イツキは風呂に入る。
思った以上に身体が冷えていたのか、湯船につかると、それだけで幸せな気分になる。

自宅に帰る術もなく、ただ駅前でウロウロしてしまうよりは、ここに避難した方が遥かに良い。
気持ちが落ち着くにつれ、機転を利かせてくれた清水に、イツキは、素直に感謝するのだった。



posted by 白黒ぼたん at 23:21 | TrackBack(0) | 日記

2016年09月30日

台風の日・5







「カップラーメンあるぜ?味噌?しょうゆ?」


ガウンを羽織って風呂場から出ると、清水はポットに湯を沸かし、カップラーメンの封を開けていた。
イツキと清水の濡れた服はソファの背もたれに掛けられ、靴には、タオルが入っていた。

清水の気遣いにイツキが感心しているのを、清水自身も気付いたのか、冗談めかして笑って「気が利くだろ?」と言う。

「…うん」
「はは。惚れ直しちゃうかな」


そう言って、お湯を入れたラーメンをイツキに手渡す。
清水は、下着のシャツとボクサーパンツといった格好で、イツキは少し、照れる。
もっとも自分は、裸に、ラブホテルのピンクのガウンを着ているのだから、それは清水も同じかも知れない。

お互い、変な意識をしないように、軽く笑って、目を反らせる。





『こ、こちら新橋駅前です…、…雨も風も一段と強くなり、立っているのがやっとという感じで……』


テレビの画面ではレポーターが傘をひっくり返しながら、必死に声を張り上げている。
イツキはソファに座り、清水はベッドの端に座り、ラーメンを食べながら、台風情報を見守る。

あと1,2時間もすれば、酷い状況からは抜けられるようだけど、
その1、2時間を、何をして過ごせばいいのやら、困る。



posted by 白黒ぼたん at 00:57 | TrackBack(0) | 日記
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