2016年10月02日

台風の日・6







ラーメンを食べ終わり、二人はまだぼんやりと、テレビの画面を眺めていた。
話したい事が無いわけではなかったが、何から話して良いのか解らずに、丁度良い言葉を頭の中で探す。


「…課題、…出来たら、…また学校に持って行くのかな?」


とりあえずイツキがそんな事を聞くと、清水は「…あ?ああ」と答え
それで、また、しばらく押し黙ってしまう。


「…でも、まあ、それで済むならイイよな。一学期、ギリギリだったんだろう?」


そう言う清水に、イツキは、こくんと頷く。


「…先輩は、進路とか、考えてるんですか?」
「情報系の専門学校、いくつか見てるんだけどな。…まだ、解んねぇや…」


清水の真面目な返答に、イツキは驚いて、清水の顔を見返してしまう。
てっきり清水は親の…西崎の、仕事を手伝うのかと思っていたし、そうでなければ、ノープランなのだろうと、勝手に思っていた。


「お前は?」
「俺っ?……俺は……」


逆に聞き返されて、返事に詰まる。
とにかく学校を卒業することだけを目標にはしているが、その先となると、まだまだ漠然としていた。

決めてしまうのが、怖い気もしていた。
それが叶わない時の絶望感、…なんてものを、器用にも先に感じる事が出来るのだ。



「……とにかく、卒業して…、……何か、働いてみたいな。……ちゃんとした事。
それで、一人で、生活してみたい。ひとりで、生きてみたい……」





posted by 白黒ぼたん at 00:08 | TrackBack(0) | 日記

2016年10月03日

台風の日・7






イツキの話を清水は真面目な顔で聞いていた。
あまりに真面目な顔なので、逆にイツキは心配になって、「……変?…それって…」と尋ねる。
清水は、ふふっと笑い、「いや」と言い、そして、「…お前も、大変だな…」と呟くのだった。



それからまたしばらくは、二人して、テレビの画面を眺めていた。
沈黙が続き、耐えきれなくなったのか、次に口火を切ったのは清水だった。



「…夏休み中に免許、取るぜ。車。もう、合宿の予約入れてるんだ」
「えっ……、取れるんですか?」
「ああ。俺、もう18だし。二輪はもう、持ってるし」
「…先輩、…バイク、…乗るんでしたっけ」


ソファですっかり身体を伸ばしきっていたイツキは、顔だけ向けて、ベッドの上の清水を見る。
ガウンの胸元や足元が肌蹴ていることには、気付かないらしい。


「……バイクの鍵。……最初、先輩、……鍵、探してましたね」
「…え?」
「……最初。……保健室で…、俺が、寝てる時……」
「あ、ああ。……そうだったな」


話の流れでつい気軽に、一番最初に出会った時の事を、思い出してしまった。
イツキが保健室のベッドで休んでいた時、清水が、バイクの鍵を探しにやって来たのだ。




『オカベイツキ?』




と、初対面なのに、清水はイツキの名前を呼んだのだ。



posted by 白黒ぼたん at 23:58 | TrackBack(0) | 日記

2016年10月05日

台風の日・8






「……先輩は、あの時…、もう、俺のこと、…知ってたんですよね…」
「……ああ」



そう答えて、…気まずくなってしまった。
清水はイツキと出会った最初から、イツキが、黒川の「女」だと知っていて、自分が西崎の息子だということを隠して来たのだ。
騙した、と言う訳ではないのだが……黙っていた。
結果的にそれがまた、問題を招いた事に、違いはない。


清水は立ち上がり、備え付けの冷蔵庫に向かい、水のボトルを手に取る。
丁度、イツキが座るソファの斜め後ろの位置。イツキの憂いた横顔が見える。


「…もし、最初から、……俺がお前のこと知ってるって言ってたら、どうした?」
「そんなの。……むちゃくちゃ警戒して、他の人には知られないように、距離を取って、…関わらないようにして……」
「じゃあ、逆に。本当は、何も…、何も知らない、何も関係のない、ただのフツーの高校生だったら、…どうした?」


清水がそんな事を言い出すので、イツキは思わず振り返り、清水を見る。
水のボトルに口を付けながら、見せたこともないような、真摯な表情を浮かべる。
イツキは何故か、胸と顔が熱くなり、誤魔化すように顔を背ける。


「…ど、どうしたも何も…、ないです。……普通に、学校の人の…、一人だなって…」
「……そっか。じゃあ」




言いかけて、少し間が開く。

気配を感じた次の瞬間には、イツキの真後ろに清水がいて、ソファの背もたれ越しに、イツキの肩を抱き締める。


「…じゃあ、……意外とベストだったのかもな。俺たちの、始まり方って……」



posted by 白黒ぼたん at 06:36 | TrackBack(0) | 日記

台風の日・9







背中から抱き締められ、清水の顔が、イツキの首筋に当たる。
前に回された手は、もう少しでガウンの袷に吸い込まれそうで…、吸い込まれないで、困る。


「……ベスト、なんて、……そんな。どう始まったって…、俺と先輩は……、……無理」
「どうして?」
「……だって。……俺は、……マサヤので。……先輩は、西崎さんの、息子で……」


イツキは必死に言葉を繋ぎながら、清水の手を解こうと、清水の手に、手をやる。
多分、自分より大きな手は、黒川の手とは、肌触りが違う。
自分の胸の上から引き剥がそうとしているのに、どうしてだか、指が絡みついてしまう。
耳元に、清水の唇が触れて、くすぐったいのに、笑う…どころではなくて。


「先輩。…今日は何もしないって、言った…」
「ああ。……でも、これくらいは、いいだろ?」
「先輩。……彼女さん、いるって、聞いた。……学校の、保健の……」
「ああ。お前にだって、黒川さん、いるじゃん…」



「……うん」



清水の言葉に、一瞬、イツキの気がそれる。
清水がイツキの耳たぶにキスをしようとした瞬間、イツキは勢いソファから立ち上がり、清水の手を払う。



「…そう。俺には、マサヤがいるから。……先輩、駄目でしょ?」



そう、わざと冗談めかして明るく言って、イツキは無理な笑顔を浮かべてみせるのだった。



posted by 白黒ぼたん at 23:00 | TrackBack(0) | 日記

2016年10月08日

台風の日・10







もう雨は止んだようだと、イツキは慌てて帰り支度を始める。
まだ服が湿っていると渋る清水をよそに、イツキは服を着替え、大丈夫だと言い張る。

せっかく、いい雰囲気だったのに、少々、気が急いてしまったかと、清水は思う。
けれど、今日は『しない』約束だったのだし、ガウン姿のイツキを無理やり襲うようでは、自分も駄目だな、と思う。


「…髪の毛ぐらいは綺麗に乾かして行けよ?…風邪でも引かせたら、黒川さんに悪い」


そう言う清水に、イツキは少し…微妙な顔をして…、……黙って、こくんと、頷くのだった。




「……なあ、イツキ…」
「……はい?」


部屋を出る間際に、清水が呼び止める。


「…お前さ、……高校卒業して、働いて、一人で生きていってみたいって…言ってたじゃんか…」
「……うん」
「……その時はさ、お前の傍には、誰がいるの?」



…イツキは、ドアの取っ手に手を掛けたまま清水を見上げるのだけど…
自分でも解らないその答えを、口にすることは、出来ない。



「俺でも、いいのかな?」



そう尋ねる清水に、イツキは
小さく、小さく……微かに、
自分自身に確かめるように、頷くのだった。




posted by 白黒ぼたん at 00:08 | TrackBack(0) | 日記

2016年10月09日

台風の日・最終話







清水が西崎の息子と知り、意識して距離は取っても、…決して嫌いになった訳ではない。
黒川は、嫌な出来事が多すぎて、どうにもやるせなくなったとしても、心底憎む事が出来ない。
しがらみのアレコレを捨てて、どこか遠くで、一人きりになってみたい。

その時に、誰に傍にいて欲しいと思うかは、その時にならないと解らない。






部屋を出てフロントで会計を済ませる。
外に出ると、台風はすっかり過ぎ青空が見え、…自分たちが何の為にここに来ていたのか戸惑う。
思わず、清水とイツキは顔を見合わせ、笑ってしまう。


「台風、あっという間だったね」
「ああ。……酷いのなんて、一時だ。……その時だけ、じっと大人しく我慢してりゃ…どうにか、なる」
「……それ、台風の話?」
「……ああ。……そうだろ?」


そんな話をして、二人、駅までの道を戻るのだった。






おわり
posted by 白黒ぼたん at 00:49 | TrackBack(0) | 日記

2016年10月12日

小さな変化








イツキと黒川は、二人の部屋で夕食を取っていた。
買ってきたローストビーフをパック詰めのカット野菜の上にあけ、ドレッシングをか
けたものと、チーズ。
ディップ状のゆで卵などを適当にフランスパンの上に乗せ、水のように、ワインを飲む。


「…2,3日、忙しくなる。…週末はこちらに来なくてもいいぞ」
「横浜?……秋斗くんと?」
「……ああ」


黒川は仕事の話などを、しばらく留守にすると言う。
また、横浜の話を持ち出せばイツキの機嫌が悪くなるだろうと…半分、面白がっていたのだけど、イツキは特に変化もなく。
まだ袋に入ったままだった生ハムを皿に出し、「はーい」とだけ返事をする。


黒川は、若干、拍子抜けする。
指先で生ハムを摘み、そのまま口へと運ぶイツキを見て、…いつの間にか何かが変わったのかと…思う。



「…何?…マサヤ?」


黒川の視線に気づき、イツキが尋ねる。


「……お前。……素手で食うなよ」
「……ふふ」


イツキは笑い、塩気の付いた指先をぺろりと舐める。
黒川はイツキに『秋斗のことは気にしなくなったのか?』と聞いてみたかったのだけど
それも藪蛇になるような気がして、あえては尋ねず
自分のグラスを煽り、イツキの、小さな変化が何なのか、探ろうとしていた。






posted by 白黒ぼたん at 23:55 | TrackBack(0) | 日記

2016年10月13日

滑稽な男







黒川は自分でも、自分が滑稽だと、…多少は、思っていた。
普段イツキに、好きに遊んで良い、と言うのは…心の何処かではイツキがそうしないだろうと思っているからで、
実際、他所で好き勝手に、股を開かれては、困る。

自分の指示で、他の男に抱かれるのは、良いのだ。
自分の与り知らぬ所で、何か、心と身体を揺さぶられる事が起きるのは、いただけない。


今も、
セックスの最中に部屋の明かりを落とさないのは、ただ、タイミングを逃したからではない。
愛撫の振りをして、イツキの四肢を伸ばす。指先と唇を這わせながら、新しい傷でも出来てはいないか、探しているのだ。


耳の後ろに、顔を埋める。
嗅いだことのない、別の男の匂いがしないかを、確認する。



「……マサヤ?」
「…うん?」



名前を呼ばれ、顔を上げ、イツキの顔を正面から見据える。
慌てて目を逸らさないのは、多分、何もやましい事が無い証拠なのだと、思う。


「……何だ?」
「明かり、…消そうよ…?」



言いながらイツキは、黒川の首の後ろに手を回し、火照った身体を摺り寄せる。
黒川は、
片手でイツキの背中を抱き、もう片方の手で、部屋の照明のスイッチを落とすのだった。





posted by 白黒ぼたん at 23:30 | TrackBack(0) | 日記

2016年10月15日

夕暮れ時







夕暮れ時。
イツキは黒川と別れ、一人、タクシーに乗り品川のマンションに戻る。
眠く、身体が重たいのは、睡眠不足と言うか、単に……ヤリ過ぎだった。
昨晩からほとんど休む間もなく、イツキは、黒川の腕の中で声を上げ続けていた。


「……何だったんだろう、マサヤ。妙に、激しかった…。…絶倫すぎ…」


声に出さずに、ひとりごちて、窓ガラスにもたれ掛り、欠伸をする。
元々、強い男なのだというのは解っているけれど、それにしても…特に何もトラブルもない日に、あれだけ求められるのも珍しくて。
イツキは思い出して、無駄にカラダを熱くする。


悪くは、無かった。
むしろ、良い。



黒川は自分の身体の、裏も表も隅から隅までを知っている。
一番イイところの一歩手前で手を止められて、意地悪く顔を覗き込まれると、もう、どうなってしまうか解らない程、身体が暴走する。
自分一人がどこかに行ってしまわないように、黒川の腕に、ぎゅっとしがみつく。
すると黒川は、嬉しそうな、優しい顔して、微笑む。



おかしい。



これではまるでお互い深く求めあう、恋人同士のようだと、イツキは思う。





その頃の黒川はと言えば、事務所で一ノ宮と、取引先の男と、大事な仕事の話をしていたのだが、
集中が切れ、大あくびをし、一ノ宮に怒られていた。
そして時折、数時間前まで自分の腕の中にいたイツキを思い出し、ニヤニヤと笑い
一ノ宮と、取引先の男に、怪訝な表情で見られてしまうのだった。





posted by 白黒ぼたん at 22:47 | TrackBack(0) | 日記

2016年10月17日

不安







「おとといの台風、すごかったな。学校の日だったろ?大丈夫だった?」


週末。
黒川が一緒にいなくてもいいと言うので、イツキは、梶原と一緒にいた。
駅前のファミレスで待ち合わせ、昼食をとる。
先日の補習は成績がよろしくない組対象だったので、当然、梶原は関係がなく、
その後イツキが、どうやって悪天候を乗り切ったのかも、知らない。


「……服が、……びしょ濡れになった…」


イツキは瞬間、清水と過ごした時間を思い出したが、それは二人だけの秘密で。
ハンバーグの付け合わせの人参を食べ、ふふと、笑う。


「勉強は?そんなに問題無いんだろ?日数とかも」
「うん。平気」
「フツーにしてればフツーに大丈夫だよ。…あとは、進路だよなぁ…」
「…うん」


最近は、梶原と話すと、この話ばかりになって少し気が重い。
イツキとて、何も考えていない訳ではないが、答えはまだ、出ていない。
黒川と離れてみたい、一人で生活してみたいから、せめて、高校くらいは卒業したいと、頑張っているのだけれど

そもそも、黒川と離れる事が出来るのかどうかが、不安だ。



「…先の事とか、考えられない。…自分が本当はどうしたいか、なんて、解んないし…」



イツキはドリンクのストローを口にくわえながらそう言い、視線を流し、勉強ではない何か別の、遠くの事を考えているようだった。




posted by 白黒ぼたん at 00:05 | TrackBack(0) | 日記

幕間






向こうの部屋に腕時計を忘れた気がして、イツキは夕方、一人、新宿へ向かう。
日本一の歓楽街と言われる場所も、イツキにしてみれば、勝手知ったる場所で
客引きや酔っ払い、雑多なざわめきの間を、何食わぬ顔で通り抜ける。


それでも、危険が無い、訳ではない。


腕時計は二人の部屋の、キッチンのカウンターに置き忘れていた。
イツキはそれを腕にはめ、ついでにと少し部屋を片付け、乱れたままだったベッドを整える。
キッチンのゴミをまとめていると、飲みかけのワインのボトルがあって、うっかり…飲んでしまう。
休憩とばかりソファに座ると、途端に眠気に襲われ、…ついうとうとしてしまう。


部屋を出たのは数時間後。時計はすでに、真夜中と言われる時間。


広い通りに出てタクシーを止めようと、歩き出す。
途中に黒川の事務所があるのだが、階段の下に、黒づくめの男が数人立っていて、反射的に身を隠す。
黒川の留守中に、黒川に関わる男たちに会っても、良い事は何一つないだろう。

馬鹿なイツキは馬鹿なりに考え、事務所の前を通らない回り道をしようと、脇の、細い路地に入っていく。
小さな小さなスナックや、よくわからない店の名前が書かれた看板が並ぶ、暗く、路地だった。



そして簡単に、悪い男に、捕まってしまう。



posted by 白黒ぼたん at 21:47 | TrackBack(0) | 日記

2016年10月19日

幕間・2






路地の中ほどに焼き鳥屋がある。
イツキも黒川と何度か訪れたことがある、美味しい店だ。
何気に視線をやると、ちょうど扉が開き、中からケータイを耳に当てた男が出てくる。
ひとしきり捲し立てた後、ケータイをポケットに仕舞い、向こうもイツキに視線をやる。


「……お。……イツキじゃねぇか」


それは黒川と仕事の付き合いがある、小林という、同じ世界の男だった。
イツキとも…2回ほど、…関係を持ったことがある。
イツキはありきたりの挨拶をして、ぺこりと頭を下げる。


「久しぶりだな。…黒川ん所に寄ったんだが、留守の様だな」
「…はい」
「メシ、食ってたんだよ。お前も一緒にどうだ?」
「いえ、結構です。…失礼します」


そう言ってイツキはまた頭を下げ、歩き出すも…
それで簡単に終わるはずもなく。
小林はイツキの二の腕を掴み、引き寄せる。


「まあ、そう言うなって。メシだけだ。
黒川には貸しもある。それくらい、付き合えよ?」


そう言って、イツキが断る隙も与えずに、そのまま店内へ、引き入れられてしまった。





店内の一番奥の席に、連れだという太った男の背中が見えた。
その向かい側、最奥壁側にイツキは座らされ、まるで蓋をするように通路側に小林が座る。
これでイツキは勝手に席を立って、逃げ出すことも出来なくなる。





posted by 白黒ぼたん at 23:00 | TrackBack(0) | 日記

2016年10月20日

幕間・3






「ビール飲むか?…あっはっは、心配すんなよ、薬なんて入れねぇよ。瓶ビールならいいだろ?ホレ、目の前で開けてやるから、な」


小林は頼んだ瓶ビールの栓を目の前で開け、イツキのグラスに注ぐ。
飲み物に何か悪いものでも混ぜられたら…と、心配が無い訳ではなかったので、その点は少し安心する。
焼き鳥も大皿に山盛りに積まれていて、誰が、どれを取るのか解らないようなので…多分、これも、大丈夫なのだろう。
イツキは鶏皮を一本もらい、手早く食べ、グラスのビールを一気に煽る。


「ごちそうさまです。じゃ、俺、帰ります」
「おいおい、まだ話も何も、してないだろう?」
「…俺、勝手に…、人と会ってると…、怒られちゃうんです。……黒川に…」
「ふぅん。じゃあ、黒川の了解があればいいんだな?」


帰ろうと中腰になったイツキをなだめるように、小林はイツキの腰に手をやる。
……実はこの手は、この後もずっと、イツキの腰に添えられている。
そして、ケータイを取ると、あろうことか黒川に電話を掛ける。




「……もしもし、黒川か?……おう、俺だ。………はは、今日はその話じゃねぇよ。
……あのな、今、お前の事務所の前で、イツキに会ったんだがな………」





黒川と話し始める小林を横目に、イツキは気が気ではない。
落ち着かない気持ちを抑えるために、また、グラスに口を付けてしまう。
空だったイツキのグラスにビールを注いだのは、目の前の、太った男だった。
この男とイツキは初対面だったが、男は当然、イツキの素性を知っているのだろう。
舐めるようないやらしい目つきでイツキをジロジロと眺め、生唾を飲み込み、鼻の穴を大きく膨らませ、にやりと笑った。




posted by 白黒ぼたん at 22:52 | TrackBack(0) | 日記

2016年10月21日

幕間・4







「……いいってよ」
「…えっ?」
「一緒にメシ。良かったな、お許しが出て」


目の前の太った男に気を取られている間に、小林と黒川の電話は終わっていた。
そして、あろう事か、一緒に食事をする了解を得たと言うのだ。


「……ごはん、だけ?」
「…あっはっは、黒川と同じ事を聞くんだな。……どうだろうなぁ…。……イツキ、手羽先食うか?少し、辛いやつ…」


小林は上機嫌でイツキの皿に新しい串を乗せ、イツキは反対に不機嫌顔になって、目を伏せる。
その様子が可笑しくて可愛くて、小林と太った男はお互いちらりと目を合わせ、ほくそ笑んだ。




確かに。黒川は小林に許可を下した。
理由は単純に、現在小林に数百万円分の貸しがあるのと、今それを拒んでみても、どうにもならないからだった。
…捕まった時点で、イツキが悪い。
『…メシ、だけならな。…それ以上、手、出すなら、逆に高くつくぜ?』と、
一応、釘を刺してはみたものの、あまり役に立ちそうもないだろう。





「…何で最近、オモテに出て来ないんだ?もう、引退か?」
「……引退…。まあね、そうだよ。……もう、そういうの、しないから…」
「へえ?…勿体ねぇな。お前なら稼げるだろうに…」


イツキは手羽先の両端を指先で持ち、口につけながら、そう言う。
骨の周りの肉を歯でほぐしなが、どうして黒川は、肝心な時に自分を守ってくれないのだろうと、半ば、呆れるのだった。



posted by 白黒ぼたん at 23:56 | TrackBack(0) | 日記

2016年10月23日

幕間・5







目の前のグラスがビールから日本酒に変わる頃には、小林の手は、イツキの腰から太ももの上へと移動していた。
最初の内は手が動くたびに、それを払いのけていたイツキだったが、だんだんと面倒臭くなる。
やがて太ももの上からさらにその奥へ。股間の上あたりを摩ったかと思えば、また戻され…を、何度か、繰り返す。



「……小林さん。……そういうの、駄目」
「…ん?…ちょっと手が滑っただけだろ?……それ位で怒るなよ、生娘じゃあるまいし」
「…もう、俺、帰る……」
「今、締めの茶漬け、頼んだところだ。それ食ってからにしろよ、な?」



そう言って小林は無駄に身体と顔を密着させて、イツキの耳元に、熱い息を吹きかける。

実際、イツキは、こんな風な、ゆっくりとした間の使い方は、苦手だった。

自分でも気づかない内に、身体の内側が、すっかり爛れてしまうからだ。




「俺、お前がメシ食ってる姿って、好きだぜ。…結構、真面目に、一生懸命に食うよな」
「…それって、褒められているんですか?」
「もちろん。それにその口元がいいよな、とにかく、エロい。俺もススられてぇよ…」


イツキが茶漬けの椀に口を付けている横で、小林がそんな事を言うので、思わず、吹き出しそうになってしまう。
むせるイツキを、小林は笑い、「…大丈夫か?」などと言って背中をさすり…そのまま、身体のあちこちを、触り続ける。



「…………ん…」



うっかり、感じてしまい、イツキが小さく声を漏らす。
そして慌てて口を噤んで、何でもない振りをする、その仕草が

堪らなく、いやらしかった。





posted by 白黒ぼたん at 23:00 | TrackBack(0) | 日記
最近のコメント
フェスタ・3 by はるりん (11/12)
フェスタ・2 by ぼたん (11/11)
フェスタ・2 by はるりん (11/11)
フェスタ・1 by はるりん (11/07)
得意技 by はるりん (11/05)
イツキ沼 by はるりん (11/03)
多少の理性 by はるりん (10/31)
わかりやすい迷路 by ぼたん (10/29)
わかりやすい迷路 by はるりん (10/26)
覚悟 by ぼたん (10/25)