2016年11月04日

コンビニ






その夜、梶原は模試の帰りで、いつもとは違う路線に乗り、ついでに、イツキのマンションの前まで行ってみた。
いつも、たまに、イツキの近辺をウロウロしてみる。
偶然バッタリ出会わないかと、近くのコンビニに買い物に行く。
……半ば、ストーカーのようで、自分でも可笑しいのだけど……、でも、ほんの少しでも、イツキに会いたいと思うのだった。


「…あ…」


思いが通じたのか、店内に、イツキが入って来た。
窓側の雑誌コーナーで立ち読みをしていた梶原は、咄嗟に顔を隠す。
盗み見するつもりはないが、急に声を掛けても驚かせてしまうだろうと、タイミングを伺う。
黒いスーツを着たイツキは小さな買い物カゴを持って、デザートや総菜が並ぶ冷蔵ケースの前に行く。

眠たいのか、なんとなく、ふらふらとした様子。
生クリームが乗ったプリンと、ロールケーキを見比べ、交互に手に取った挙句に、両方ともカゴに入れる。
パックの焼き鳥と、唐揚げを取り、サラダとサンドイッチも取ると、小さなカゴはもう一杯になってしまう。
重たそうにカゴを持ち、イツキはレジに並ぶ。


『コンビニで、買い物、し過ぎだろ?』


と、梶原はレジ前で突っ込んでやろうと、イツキの後ろ側に回る。
黒いスーツの背中は華奢で、頼りなげで、どことなく…色香を、漂わせていた。



「…あと、煙草、25番」



イツキの隣に、ふいに男が近寄り、レジの店員にそう告げる。
後ろ姿しか見えなかったが、それは、黒川だった。

会計は、黒川が払い、イツキが釣銭を受け取り、荷物もすべてイツキが持つ。
そして二人は梶原に気付くことなく、コンビニを、出て行くのだった。




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2016年11月06日

深夜2時







梶原は勉強の手を止めて、傍らに置いてあったペットボトルのお茶をラッパ飲みする。
集中が切れるとやはり、思い出すのは、イツキの事ばかり。

黒いスーツを身にまとったイツキは、学校の制服姿とはまた違って、酷く儚げで、艶気がある。
おまけに、あの男と一緒なのだ。その前後にはおそらく、そういう事があったのだろう。


だからと言って、イツキと、そういう関係になりたいとは…少ししか思っていなかったが
頭だけで納得出来れば苦労はしない。


「……クソ…」


梶原は残っていたお茶を一気に飲み干し、ペットボトルをゴミ箱に投げ入れる。
そうしてもう一度勉強に集中しようと机に向かうのだけど、それはなかなか、容易なことではなかった。





イツキは、ふいに目を覚まし、隣で眠る黒川を起こさないようにベッドから抜け出す。
台所で水を一杯飲むと、少し、腹が痛くなり、そのままトイレへと向かう。
自分の身体からは、自分のものではない体液が出て、しばらく便座から立ち上がる事が出来なかった。


自分は、何、なんだろうかと思う。
男なのに、男とセックスする。自分の身体の穴に、男たちは、精液を流し込む。
望んでそうすることもあるけど、そのほとんどは、望んでいる行為ではない。
明日も、多分そのまた明日も、そう変化することはなく、同じような日々が続く。



トイレから出て、また寝室に戻る。
窓のカーテンの隙間から、まるで傷口のような、細い三日月が見えた。



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2016年11月09日

悪循環・1







別になにも、酷い状態になりたくて、好き好んでそうしている訳じゃない。
多々訪れる問題を解決しようと、イツキなりに考え、行動しているのだけど

どうにも、それはいつも、悪い方へと転ぶ。

気付けば自分一人、抜け出すことが出来ない泥沼にはまっているようで
その日もイツキは加瀬に抱かれながら、どうしてこんな風になってしまうのだろうかと、
唇を嚙みなが。ら、思うのだった。



8月の半ば。
進路が、とか、先日提出された補習のレポートについて云々、など、もっともらしい言葉を並べられ、イツキは学校へ呼び出される。
当然、誰もいない教室へ現れたのは、加瀬で
イツキは視線を揺らし、身を固くし、万が一の事態に備える。


『清水くんと、ホテルに行ったんだって? 学校帰り。あの台風の日』


耳元でそう囁かれて、ごくんと、息を飲み込んだ。





最近コ忙しくてどうにも時間が上手く使えません。
お話細切れで申し訳ないっ
そしてイツキ、またこんな事になっているらしいです…
posted by 白黒ぼたん at 00:24 | TrackBack(0) | 日記

悪循環・2







「……何の話ですか?…俺、知りません」
「そう?」



とりあえずイツキは否定してみるものの、加瀬はさも確信があるようにニヤリと笑い、さらにイツキの顔を覗き込む。


「あの日は補習があった日でしょ。君も、清水くんも、参加だよねぇ…」
「そうですね。でもそんなの、俺だけじゃないでしょ?」
「清水くんもさ、イロイロ目立つ子じゃない。あの辺りの繁華街で問題があると、報告が来るんだよねぇ…」


イツキは加瀬をちらりと見上げ、すぐに目を逸らせ、無意識に身を守る様に片方の手でもう片方の腕を抱き、一歩、後ろに下がる。
嘘を付き通すことが出来ないイツキは、可愛く、格好の遊び道具だった。


「困るんだよね。学校帰りにさ。男の子二人でラブホテルだなんて、フシダラ過ぎるでしょ?」
「でも、…何も…、俺たち何もしてません」

「あ。…やっぱり、君か」



語るに落ち。うっかりイツキが口を滑らせると、加瀬は嬉しそうに笑う。
後ずさったイツキに、一歩前に近づき、イツキの腰に手をやり、軽く自分に引き寄せる。



「あの雨でしょ。繁華街の防犯カメラじゃ、君の顔までは確認出来なかったんだけど。でも、まあ、君しかいないよねぇ」




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2016年11月11日

悪循環・3







笑う、加瀬を、イツキは厳しい目で睨む。
清水の相手が自分だと、結局は、自分で白状してしまった。

あの日、本当に、加瀬の言うフシダラな行為は無かったのだけど
きっとそれはいくら説明したところで、まるで信用はしてもらえないのだろう。



「……それで、それが、何か…?」
「…駄目だよねぇ。高校生の、男の子二人が、そんな事していちゃ…」
「…でも、俺、先生ともしてるでしょ?……じゃ、それも駄目な事、だね…」
「ふふ、…そうだねぇ」



とりあえず。…無駄な努力と半分は解っているけれど…一応、抵抗をしてみる。
実際、こんな事はもう嫌だったし、あまりにも続くようなら、黒川に怒られる事を承知で、すべて話してしまおうとも思っていた。
…黒川に、どうしてそこまで『学校』に拘るのかと聞かれると、答えに、困るのだけど。
目の前の問題を一つ一つ解決するために回り道をし過ぎて、本当の道に迷ってしまったようだ。



「でも、イツキくん。君は、そういう子でしょ?」



イツキの前に立つ加瀬は、手をイツキの腰にあてがい、指先をさわさわと動かして見せる。どんな事情と状況であれ、最初から、答えは決まっているのだと、加瀬が思う事が悔しい。



「……ええ。……俺、……そういう子です。……俺が誰の『女』か、先生、知らないんですか?」

「知ってるよ。黒川さんでしょ。西崎さんの…、清水くんのお父さんの、ボスでしょ?
私が言いたいのはね、イツキくん。君が…

ご主人の部下の息子にまで手を出す、淫乱な子なんだねって、ことだよ」





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悪循環・終






加瀬がイツキの諸事情のどこからどこまでを知っているのかは、知らない。
それでもある程度の事は知っているようだし、その境界を聞いて確かめては、藪蛇になるのだろう。
それにしても、同じ内容を話すにしても、加瀬は、嫌な言葉を選んで来る。
思わずイツキがムッとし、抑えようとしていた感情が覗くと、それを嫌らしく摘み上げ引きずり出す。



「いまさら、清純ぶってどうするの? ああ、でも、黒川さんには知られたくない話かな?」
「…先生って…、本当に…、……やな人ですね…」
「それも、いまさらでしょ?…でも、最初に僕に近づいたのは、君だよ?」



加瀬はイツキの顔を覗き込む。
顎に手をやり、自分に向かせる。
イツキは顔を背け、視線を逸らせ…ようとしたのだけど、それにももう飽きてしまった。

負けじと、自分も正面から加瀬を睨む。
それを見て加瀬は、また、面白そうにクスクスと笑う。



「そう、怖い顔をしなくてもいいじゃない。ギブアンドテイクは君の十八番でしょ?」
「…俺の、取り分は?」
「うーん。…平穏な学校生活かな」


加瀬の手が、滑り、イツキのシャツの一番上のボタンを外す。
指先が胸に触れるとイツキは少しだけびくんと震え、小さく、溜息を漏らす。



「………俺、卒業までに、何度あんたに抱かれるんだろう?」
「……ふふ。……そうだねぇ…」



そう、言葉を濁し、誤魔化し、
加瀬はイツキの手を引くと、どこか行為に耽れる場所へと、連れて行くのだった。







おわり
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2016年11月15日

ちょっとした出来事







その日、時間があったイツキは伸びすぎた前髪をどうにかしようと、知り合いの美容室を訪れた。
事前に予約を入れた訳ではないので、断られても仕方がないと、店を覗き込むと、
イツキの姿を見つけたのか、一人の男が中から飛び出して来た。



「……イツキちゃん!……ヒマ?」
「…ミツオさん、こんにちは。……ちょっと、切って貰えたらなって…思って…」
「ああ、もう、後でいくらでも切ってあげるから…。お願い! 少し、手伝って欲しいんだけど…」


そう言って男は…、以前、電車内でイツキに痴漢行為をして以来、何となく知り合いになったミツオは、イツキの手を引いて店内に連れ込むのだった。





「ヤバいんだよ。スタッフ引き抜かれて…、今、俺と店長の二人しかいないんだよ。
イツキちゃん、受付に座っててくれるだけでいいから、いてくれないかな。
お客さん来たら、カード預かって、手荷物預かって、名前書いて…、コーヒー入れてあげて、雑誌並べてくれるだけでいいから。
あと、このタオル、たたんで欲しい…、あと、ノベルティのハンドクリーム、箱に入れて…、あと、この封筒の裏にハンコ押して欲しい……、お願いっっ」



矢継ぎ早に、半ば泣きつくようにミツオはイツキに仕事の指示をして、自分は自分の仕事に戻って行った。
イツキは訳も解らず受付カウンターの中に入れられ、ただ、あたりをキョロキョロ見渡す。

すでに店内は数名の客が入っていて、ミツオと、店長らしいヒゲ男が、忙しなくシャンプー台とカット台を行ったり来たりしている。
そうこうしている内に、本当に新しい客が入って来てしまい、イツキはとりあえず、「いらっしゃいませ」と言ってみるのだった。




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2016年11月16日

猫の手







突然仕事を任されて、当然、上手くこなせるはずはなかったけれど、
それでも、以前、一日だけバイトをしたスーパーとは違い、ここはまだ何となく居心地が良かった。

最初に入って来た女性客は常連らしく、ミツオと店長に挨拶をすると、自分から受付に手荷物を出す。


「…あれ、君、新しく入った子?」
「………い、え…今日は…、ちょっと…手伝いで……」
「バッグ、後ろのロッカーに入れてくれる?…あ、鍵、頂戴。…コーヒー貰っていいかしら?」
「…はい。…えっと…、砂糖とミルクは…」
「大丈夫よ。…ふふ、猫の手も借りたいって感じなのかしら…」


勝手知ったる様子で自分でコーヒーを入れると、女性客はソファに座り、雑誌を眺めながら大人しく順番を待つ。
その後も数名の客が入るが、皆、そんな感じで、特にイツキが緊張し、慌てふためくことも無かった。

客のほとんどがリピーターの予約客で、年代も20代後半から30代の落ち着いた女性ばかり。
イツキは新しいコーヒーを淹れ、ロッカーの手荷物を整理し、手が空くと試供品のような小さなハンドクリームを、店の名前の入った箱に入れる作業をした。




会計や、電話が鳴ると、ミツオが来る。
その都度イツキに、あれこれ小さな頼み事をする。

「…ありがとう。助かる。…本当に、ありがとう」

そう言われると単純に嬉しくて、イツキはお腹のあたりが、くすぐったくなるのだった。





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2016年11月17日

ミツオ






美容室は23時クローズだったが、後の予約が入っていなかったこともあり、今日は早めに締めてしまった。
最後の客を見送ると、店内の清掃もそこそこに、イツキとミツオとヒゲの店長は受付前のソファに沈み込む。



「……いや、本当。……参った、参った……」


ヒゲ店長は大きなため息をつき、凝り固まった腕や肩を伸ばし、回す。
本来なら4、5名のスタッフで対応するところを、イツキを含めた3人で乗り切ったのだ。
大きなミスも無かったのが、不思議なくらいだった。


「イツキくん、だっけ。本当にありがとう、助かったよ」
「いえ…、俺…、べつに…」
「高校生?ミツオの友達?綺麗な顔してるよね、モデルさんか何かかな?」


そんな事を言いながら、ヒゲ店長はスマホを手に取り、着信があったのか、その場から離れる。
イツキはまだ気が張っているのか落ち着かない様子だったが、それでも、多少なりとも役に立てた事が嬉しかった。

ミツオも大きな伸びをして、首を左右に、コキコキと鳴らす。




「…ウチのエースだった人がさ…、もともと、店長とはアレだったんだけど…、独立するなんて言って、他の子みんな連れて抜けちゃってさ…」
「ミツオさんは、残ったんだ?」
「俺は店長に育てて貰ったからね、そんな事はしないよ」



そう、至極真っ当な事を言うミツオを、イツキは少し意外だなと思いながらも感心する。
多分、そんなに悪い人間ではないというのは、解っていた。

……電車内で痴漢を働き、そのままトイレに連む男だけれど……、

本当に嫌いな男ならば、イツキもこうやって頻繁に、美容室を訪れる事はなかっただろう。




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2016年11月18日

黒川の質問






夜中。横浜の仕事が一息付いた黒川がイツキに連絡を入れると
今日は新宿の部屋にいると言う。

事務所に顔を出し、そのまま部屋に戻ると、イツキはもうベッドに入り半分眠り掛けたところだった。



「なんだ、一人でこっちにいるなんて、珍しいな…」
「……ん…」


黒川はネクタイを解きながらそう言い、イツキは布団から顔だけ出す。


「…マサヤは、…横浜だったの?」
「……ああ」
「ふぅん。…お疲れさま…」


横浜での仕事にイツキが嫌な顔をするのではないかと思ったのだが、意外と素っ気なく、逆に黒川はつまらなく思う。
一度キッチンに戻り、冷蔵庫から缶ビールを取り、再び寝室に戻ると
イツキはすでに目を閉じ、また、眠りに落ちかけていた。



『ずい分、眠たそうだな。…遊び疲れか?』と、黒川が子供じみた意地悪を言おうとすると、…気配を察したように、イツキの唇が開く。


「……マサヤ」
「ん、…何だ?」
「俺、しばらく…昼間、…忙しい。知り合いのお店、手伝うことにした……」
「………ん?」



突然、意味の解らないことを言い出したイツキの顔を、黒川は覗き込むのだけど
イツキはすでに深い寝息を立て、黒川の質問を受け付けることは無かった。




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2016年11月21日

置いてけぼりマサヤ






「…知り合いの店って、何だ?…飲み屋か?」


朝。
出掛けにコーヒーを飲んでいたイツキに黒川が尋ねる。
イツキは最初、何の話をしているのか解らない風だったが、夕べ、黒川にそれを話した事を思い出した。


「違うよ。美容室。すぐ近くだよ。前に話したこと、無かったっけ?」
「お前なんかが手伝いに行って、なんの役に立つんだよ?」
「……受付にいるだけでいいって…。あとは、掃除とか…イロイロ…」
「…ふん」


イツキに仕事などできるはずがないと高を括っているのか、黒川は馬鹿にしたように鼻を鳴らす。
それでもイツキは気にしない様子で、コーヒーを飲み終えると、カップをキッチンに持っていく。


「マサヤは?今日も出掛けるの?」
「…ああ」
「ふぅん。行ってらっしゃい」



ソファに座り新聞を読んでいる黒川に声を掛け、イツキは玄関へと向かった。



美容室は、とりあえずヘルプの人員が来る事にはなったのだが、それは夕方からで、
それまでの時間、夏休みの間だけでも、イツキに手伝いに来て欲しいのだそうだ。
ミツオと、ヒゲの店長に頼まれ、イツキは戸惑いながらも、悪い気はしない。
自分が、何か、人の役に立つことが…、仕事めいた事に関われるのが嬉しかった。



玄関で靴を履いていると、黒川が何かのついでのように、イツキの傍までやって来る。



「……夜には、帰るのか?」
「ん。マサヤは?」
「…そうだな。…帰るかな…」
「…ん。行ってきます」


そうして、イツキはひらひらと手を振って、一人、部屋を出て行くのだった。



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2016年11月24日

横浜のマサヤ






黒川は横浜で、渋々、昼間から夜中まで仕事に励んでいた。
立ち上げたばかりの横浜の事務所は、役所がらみの用事も多く、昼間から動かざるを得ない。
そして、夜は夜で、付き合いがあり、なかなか忙しい日々を送っていた。


「社長、いつもの駅前のホテルに部屋を取っていますが…、すぐ向かいますか?
南屋さんからのお誘いもありますけど…、中華街で……」


仕事も一段落し、軽く飲みながら一服していた黒川に、秋斗が尋ねる。
今日はメンズのスーツを纏い、メガネなど掛け、すっかり仕事モードだったが
垂れ流す色気は変わらないままだった。

黒川の向かいに座っていた一ノ宮も、書類の束を整理しながら、伺うように黒川を見る。
ここの仕事は、ほぼ、秋斗に任せていた。
正直、秋斗がここまできちんと仕事が出来る子になるとは、一ノ宮も思っていなかった。


「どうしますか?雅也。明日は特に予定はありませんし、少しゆっくりなさっても…」
「…そうだな…」

黒川は吸っていた煙草を灰皿に押し付け、ソファに深く沈み、脚を組みなおす。
腹も減ったし酒も飲み足りない。今から慌てて、新宿に戻る理由は無い。


無いのだけれど。



「いや。今日は帰るかな……」



そう言って、勢いをつけて、ソファから立ち上がるのだった。


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まだ、余裕の黒川






どうせすぐに、疲れただの眠たいだの言いだして、ベッドから離れない生活に戻ると思っていた。
もしくは、行く先々で男に引っ掛かり、良いように扱われて、自分が、そういう類の人間なのだと思い知らされるだろうと。

イツキには、まっとうな仕事も生活も、似合わない。
泣き疲れ、いやらしい汁でびしょ濡れになりながら、足元に擦り寄ってくればいい。


と、黒川は半ば本気で思っていたので、


今回、イツキが知り合いの店の手伝いに行くなど言い出しても、そう本気で考えることは無かった。




黒川が横浜から戻ったのは、真夜中過ぎの時間。
イツキはもう寝室のベッドに入っていたが、明かりが付いたままのリビングには、一緒に食事をしようと待っていたのか、伏せたままのグラスと、デリカのサラダが並んでいた。



黒川は一人でワインを一本開け、シャワーを浴び、寝室に入る。
慣れない手伝いとやらで疲れているのか、ちょっとした物音ぐらいでは、イツキは目を覚まさない。



「……馬鹿なやつ。……お前は、大人しく、俺の傍にいればいいんだよ…」



そう言って、笑って、
黒川はイツキの隣で眠るのだった。




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2016年11月27日

寝ぼけマサヤ






朝。
イツキが目を覚ますと、隣に黒川が寝ていて、驚く。
確かに昨日は帰るとは言っていたけど、横浜でアレコレで2,3日戻らない…なんて、いつもの事だったし
特に、どうしても帰らなければいけない理由も見当たらない。


「……ま、……別に…。……ここのベッドの方が、寝やすいのかな……」


イツキは呟きながら、そっとベッドから抜け出し、洗面所へ向かう。
顔を洗い、歯を磨き、髪の毛を直して、服に着替える。
手伝いに行くのも、すでに3日目。受付にいるのも、多少、慣れて来た。
預かったメンバーズカードのナンバーをパソコンに打ち込んで、客のカルテを呼び出しておく…などという高度な技まで出来るようになった。

イツキにしては上出来だった。
「仕事」ではなく、「知り合いの店の手伝い」という位が、逆にリラックス出来て良かったのかもしれない。


出掛ける用意がすっかりできてから、一応、寝室に戻る。
まだ、眠っている黒川の傍まで行き、耳元に、唇を寄せる。


「……行くね、マサヤ」


そう言ってイツキが黒川の耳たぶにキスをすると、一瞬、黒川の瞼がぴくりと動く。
それでも、

醒め切らない黒川が「……行くなよ」と言ったのは、

玄関の扉が、バタンと、音を立てた後だった。


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2016年11月28日

黒川同様






「…バイト?…お前が?…高3の、この時期に?」



10時から14時までの美容室の手伝いが終わりケータイを見ると
梶原からのメールと着信が、溢れていた。
そう言えば、最近は連絡を取るのも忘れていた。
どうしても、どうしても、ほんの少しの時間でも良いから会えないかな、と言うので、
新宿で良いならと呼び出し、駅ビルの上階の、洋食屋で待ち合わせる。

ランチのパスタとハンバーグとドリアを頼み、サラダを食べながら、連絡が途絶えた一週間ほどの出来事をざっと説明する。

イツキが美容室でバイトを始めたと聞くと、予想通り、梶原は素っ頓狂な声を上げた。



「…バイトって程じゃないよ。…知ってる人の、美容室の、ちょっとした…お手伝い…」
「お前が美容室で何、するの?…あれって資格とか、免許とか…、要るんだよなぁ?」
「そんなスゴイ事はしないよ。受付に座って、来たお客さんと話して…、コーヒー入れて…」
「……へぇ…」


梶原はフォークにスパゲティを絡めたまま、口をぽかんと開ける。
黒川同様、イツキに仕事など出来るはずはないと…、心のどこかで思っていたのだろう。



「……ま、まあ、ほどほどにな。勉強だってあるんだし…」
「…来週ぐらいまでかな…。夏休みだけって、話だし…」
「……ふぅん…」



そう言う梶原はどこか不機嫌そうで、イツキにはその理由が解らない。
これもまた黒川同様。仕事が出来ないイツキは自分が守り、助けてやらなければいけないと…勝手に、思っていたのだろう。


イツキは、梶原の顔をチラリと見て
デザートのチョコレートパフェのスプーンを、ぺろりと舐めた。




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