2016年12月26日

イツキお疲れさま会・1






イツキ、美容室最後の日は19時まで仕事を手伝い、ミツオと二人、先に上がる。
イツキのお疲れさま会にと予約してくれた店は、落ち着いた個室のある、海鮮居酒屋だった。
髭の店長は閉店の22時を過ぎてから合流するので、先に軽く、始めてしまう。
料理を数品頼み、ビールはピッチャーで貰う。少しなら、イツキも飲んでも…大丈夫そうな様子だった。


けれど、当のイツキは項垂れ、浮かない顔を見せる。
…最終日の今日は、少しばかり、失敗をしてしまった。


「……ま、そう気にしなくても…。別に何も無かったんだしさ…」
「そうだけどさ。……最後の最後に、迷惑掛けちゃった……」


グラスに注がれたビールに口を付け、イツキはふうと溜息をついた。


予約を見落とし、来店の客を1時間近く待たせてしまったり
預かったカバンを落とし、中身をぶちまけてしまったり、
コーヒーを零し、濡れた床で、髭の店長が滑って転んだりと…

まあ、その程度の失敗だったが、それまでそこそこ仕事が出来ると自信を持っていただけあって、反動は大きかった。



「…毎日仕事してりゃ、たまにはあるよ、そういう日も。俺も、カットで、酷い失敗したことあるよ、お客さんにはナイショだけどさ。はは。
イツキちゃんは、よく頑張ってたよ。本当、俺、助かったもん」



そう、ミツオに慰められて
イツキも少しは、気持ちが落ち着くのだった。



posted by 白黒ぼたん at 20:26 | TrackBack(0) | 日記

2016年12月27日

お疲れさま会・2






食べ物と酒が少し入ると、イツキもようやく今日の失敗から立ち直る。
二週間。おおむね、よく頑張ったのではないかと思う。


「今までバイトした事無かったんだ?ちゃんとしてたじゃない。接客とか、妙に落ち着いたトコもあって、感心してたんだよ」
「…そうかな…。…お客さんが、お姉さんばっかりだったから…、それも良かったのかも…」
「何?見かけによらず、女好き?」
「違います。……安心って言うか…、構えなくもいいって言うか…」
「ふぅん?」


イツキの言う事が解るような、解らないような気もする。
ミツオは自分のグラスに口を付けながら、はにかんだ笑顔を見せるイツキを眺める。



「…カレシは、何か言ってた?…イツキちゃんがバイトするの、心配だったんじゃない?」
「彼氏…。…別に、いつも馬鹿にされるだけです…。…心配なんて、しない……」
「でも、様子、見に来たじゃない」


ミツオがそう言うと、イツキは何故か照れて耳まで赤くする。
ようやくこの話が聞けると、ミツオは慎重に話の糸を手繰る。
ミツオはイツキに気が無い訳ではない。
仕事中は我慢していたとはいえ、聞きたい事は、山のようにあるのだ。


「思ったより年上の人で驚いたよ。ふふ。イツキちゃん、可愛がられてるんでしょ?」
「…まさか!…全然だよ!」
「あはは…」



軽く笑って、流しながら…、酒を飲みながら、ミツオはイツキとの間合いを詰める。




posted by 白黒ぼたん at 22:16 | TrackBack(0) | 日記

2016年12月28日

お疲れさま会・3






「イツキくん、本当にお疲れさま。これ、お給料です。本当に助かりました、ありがとう」
「……あ、……はい。ありがとうございます」



ミツオが身を乗り出し、イツキの顔をまじまじと眺め、イツキとカレシの関係を根掘り葉掘り聞こうとした矢先、
仕事を終えた髭の店長が、妻のアヤコと一緒に、お疲れさま会に合流する。

とりあえず、仕切り直し、皆でビールで乾杯する。
ミツオは、イツキと二人きりの時間が終わり、少し不満そうな顔を見せたけれど…それも仕方が無いと直ぐに明るい笑顔を見せる。

軽さ、と言うか…さらりと表面を撫ぜるくらいの立ち入り方が、意外とイツキの好みで、
ミツオと一緒にいる事が苦ではないのは、その辺りが理由なのだろうと思う。



「イツキくん、本当に、バイト続けないの?…学校始まっちゃうから?」
「……はい」
「平日夕方とか…土日のどっちかとか…、来てくれると嬉しいんだけどなぁ…」

店長にそう言われ、イツキは嬉しい反面、困った様子で口を噤む。
もう少し続けて働いてみたい気持ちはあるのだけど…、なかなか、固定の時間を決めることが難しい。


「いっちゃん、ウチの店、品川にあるのよ。ウチの方、手伝いに来てくれてもいいのよ?」


アヤコにも誘われ、イツキは微笑んで、頷いてみせる。
こんな風に人に望まれるのは初めてで、イツキは、お腹の奥がくすぐったくなるような、不思議な気分になるのだった。





posted by 白黒ぼたん at 23:30 | TrackBack(0) | 日記

2016年12月30日

お疲れさま会・終






24時を過ぎて会はお開きになる。
髭の店長は会計に向かい、アヤコは化粧室に行き、店の外にイツキとミツオの二人になる。

「…こんな遅い時間になっちゃって…、大丈夫?…カレシ、怒らない?」
「大丈夫です。ちゃんと、言って来たから…」
「これから帰って…、……エッチとか、…しちゃうの?」


実は程よく酔いの回っているミツオが、真面目な顔をして、イツキにそう尋ねる。
…イツキは返事に困り、赤い頬をして、視線を逸らす。


「やっぱり、イツキちゃん、可愛いね。…あーあ、この二週間の間に、手、出しちゃえば良かったなぁ…」
「…ミツオさん!」
「ずっと我慢してたんだぜ?…一応、仕事、手伝って貰ってるしさ…」


確かに。この二週間、ミツオはいたって紳士だった。
…ミツオとの最初の出来事や、その後の猛烈なプッシュを思えば、不思議な位。

そして、店の外に、店長とアヤコが出てくる。
丁度、イツキの為にと呼んだタクシーが到着する。

名残惜しいイツキは店長とミツオの顔を何度か交互に見遣るのだけど
…帰らない訳には、いかない。



「……ミツオさん。…ありがとうございました。俺、仕事、すごい、楽しかった」


最後にそう言って、イツキはぺこりと頭を下げる。


この二週間の仕事の経験は、イツキの人生に深い影響を与えるのだけど
それが解るのは、まだ先の話。






いっちゃん、美容室編、終わり



そして年内更新、最後でございます。
今年もご愛顧いただきまして、ありがとうございました!
来年も是非。イツキとマサヤ、不器用な二人の行く末を一緒に見守ってやって下さい。
posted by 白黒ぼたん at 21:20 | TrackBack(0) | 日記
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