2017年01月04日

二人の部屋の二人






8月も終わり、美容室での仕事も終わり、イツキは黒川との部屋で日々暮らす必要も無くなった。
明日から学校も始まるし、黒川も相変わらず仕事が忙しい、忙しいと愚痴を零す。


「早く帰れよ。べったり過ごすのもたまには良いが…。いい加減、飽きた。
毎日お前に付き合ってられるほど、俺は暇じゃ、無いんだぜ」
「……あ、そう。……はーい」


部屋で、簡単な夕食を済ませた後、イツキは散らかった部屋を片付け始める。
ソファの裏側や乾燥機の奥から自分の服を回収し、カバンに詰め込む。


「とりあえず、週末には来るけど。…冷蔵庫の中とか、平気かな。
昨日買った玉子のサラダ、多分、2,3日しか持たない……。…牛乳は、捨てる?」
「……主婦かよ。……くだらない心配、するなよ」


黒川は馬鹿にしたように鼻で笑い、吸っていた煙草をキッチンの流しに捨てると、なんとなく、冷蔵庫を開けてみる。
食べきれなかった総菜がタッパーに入っていたり、ラップの掛かった皿がいくつか並んでいる様子は
所帯じみていて、どこか滑稽で。


「…マサヤ、もう、ゴミ捨てちゃ駄目だよ。お部屋、臭くなるよ…」




何か他に忘れ物はないかと、パタパタと小走りでキッチンにやって来たイツキを、黒川は捕まえる。
腕を引き、抱き寄せ、キスをする。



「………まだ、片付け、……しなきゃ……。マサヤだって、仕事…忙しいんでしょ……」
「……ああ」



そう言いながらも


二人の身体が離れることは、無かった。



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2017年01月05日

二人の部屋に一人






真夜中。
黒川はベッドにイツキを残し、寝室を出る。
イツキは物音で目覚め、しばらくぼんやりとしていたのだけど
やがて、玄関の扉が閉まる音がして、黒川が出て行った事を知る。


「……帰ったんだ…?…」


黒川はトイレにでも行ったのだろうと思っていた。
ついさっきまで、一ミリだって離れることは許さないと、あれだけ身体を重ねていたのに。

黒川の腰の上に跨り、黒川のものを埋め、息が止まる。
じりじりと熱が広がり、痛みは麻痺し、すぐに別の感覚にすり替わる。
もどかしさに腰を浮かそうとするイツキを、黒川は追い詰め、
そのまま、短い悲鳴を上げ達してしまう様子を、可笑しそうに見上げる。


『……いい顔だ。……イツキ。……もっと、俺を欲しがれよ…』


そんな事を言って、その実、
イツキを一番欲しがっているのは黒川で、
欲のまま、お互いの身体を貪っていたのだけど



終われば簡単に手放してしまうらしい。
その執着の無さが、憎たらしい。




「……勝手な奴。……まあ、その方が、俺もいいけどさ…。朝まで一緒にいたら、また、……離れらんなくなる……」

イツキはもう一度、布団の中に潜り込む。


そこにはまだ黒川の匂いと温もりが残っていた。




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2017年01月06日

一ノ宮、しみじみと思う






やり残した書類があると、一ノ宮は珍しく午前中のうちに事務所に行く。
鍵を開け、中に入り、デスクに荷物を置いて、ブラインドを開ける。


「……!!!」


その時になってようやく、ソファの上に黒川が寝転んでいるのに気づき、声にならない叫び声をあげる。
もっとも黒川の方は気が付いていたらしく、薄目を開けて一ノ宮を見ると、ふんと鼻を鳴らす。



「……社長、どうしたのですか…?こちらにお泊りになったのですか?
…イツキくんの所に行かれたのだと思っていましたが……」
「……ああ」


黒川はもぞもぞと身体を起こし、無精者のように髪の毛を掻きながら、テーブルの上の煙草に手をやる。
一ノ宮は部屋の隅の流しに向かい、コーヒーを淹れるための湯を沸かす。



「…イツキの所は夜中までいたんだが…、途中、煙草を切らしてな。……取りに来た」
「…戻られなかったのですか?」
「午後から横浜だろう。あいつも今日から楽しいガッコーだ。品川に帰るだろうよ」
「おや。…ではまた、寂しくなりますね」


コーヒーカップをテーブルに置きながら一ノ宮がそう言うと、黒川は少しむっとした顔で一ノ宮を見上げる。
本気ではない。冗談でもない。そんな事は解っている。



「……あまり、あいつと一緒に居過ぎると、無駄な情が沸く。…鬱陶しい…」



黒川はそう言って、コーヒーを飲む。


一ノ宮は、黒川を横目で見遣りながら…

無駄でも、情が沸いている自覚はあるのだなぁ…と、しみじみと思った。




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2017年01月08日

変なプライド






いつものように遅刻ギリギリの時間にイツキは教室に入る。
席についていた梶原は待ちくたびれたという風に席を立ち、イツキに駆け寄る。


「おはよ……イツキ……」
「おはよう、梶原」


イツキは普通に挨拶をして、自分の席に着く。
梶原は落ち着かない様子でイツキの周りをウロウロしていたのだけど、すぐに始業のベルが鳴り、担任の教師が教室に入って来る。

仕方なく、梶原は自分の席に戻る。



夏休みの間、ほとんどイツキと連絡が取れなかった事が寂しかったのだ…と、
そんな事は、嫌という程、解っていた。
だからと言って、それを正直に打ち明けてしまうことも
変なプライドが邪魔して、出来ないのだ。




「おっ、イツキ。久しぶりだな。そう言えばお前、バイトしてたんだって?
何、何? 話、聞かせろよ。
それじゃなくても、夏休み、お前と全然会えなくて、つまらなかったんだからさ」



休みの時間になると、清水がイツキの傍にやって来て、そんな事を言う。

梶原は耳をそばだてながら、自分もあんな風に顔を近づけて、気軽に話しかければ良かったと思った。




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2017年01月09日

意地悪な梶原







気に入らない事と言えば、
やたらとイツキに顔を近づけて話をする清水や、それに向かって穏やかに微笑むイツキや。

いつの間にか始まって終わった、美容室のバイトも気に入らない。
様子を見に行ったそこは、自分とは違う世界の様で、落ち着かなくて。
ミツオとかいう男も気に入らない。
普通に恰好良くて、大人で、イツキに…自分よりも多くの事を教えてあげられそうで…嫌だ。

何もかも、単純なヤキモチだとは、解っているけど。

梶原は溜息をついて、手に持っていたペンを、くるくると回し続けた。




「ね、梶原。聞きたい事があるんだけど…」



ふいに、イツキが目の前に来て、梶原は驚いて顔を上げる。
相変わらずの白い肌。夏を過ぎたというのに、日焼けした様子もない。
ふわふわと揺れる茶色い髪は、美容室でのバイトのおかげなのだろうか、以前より整い綺麗に見える。

甘い、匂いもする。



「…な、なに?」
「あのさ。……例えば、なんだけどさ。……俺が、美容室とか、そういう所で働くのって…、何か、資格とか…何か。…必要なものとか、…あるのかな?」
「……美容師になりたいの?」
「そこまでは考えないけど…、ああ、でも、そういう勉強が必要なのかな…、仕事の手伝い…的な…?」


どこか照れたように微笑み、大切な秘密をそっと打ち明けるように話すイツキに
意地悪を言うつもりは…なかったのだけど。



「美容師なんて国家資格だよ。ちょっとバイトしたからやってみようかな、なんて、簡単なもんじゃないよ。
専門学校だって、今からじゃ無理だろ。卒業だってギリギリなんだからさ」



そんな言葉が口をついて出てしまった。



posted by 白黒ぼたん at 23:08 | TrackBack(0) | 日記

2017年01月11日

オブラート







二学期初日の今日は、学校は午前で終わり。
プリントを配布し、課題を回収し、これからの行事予定などを確認して、終了する。
皆、ガヤガヤと席を立ち、どこで昼食を取ろうかとなどと、相談し合う。

イツキに多少、意地悪な事を言ってしまった梶原は
気まずい空気を取りあえず飲み込み、笑顔を浮かべ、イツキに、どこかに出かけようかと振り返るのだけど…

その時にはもう、イツキの姿は教室には無かった。



「イツキ?…ベルと同時に出て行ったぜ?……何?もう、喧嘩したのかよ?」



不安げな顔で教室中をキョロキョロと見回していた梶原に、清水が面白がって声を掛ける。
梶原は「……別に、そんなんじゃないです…」とふてくされ、カバンに荷物を詰め込むと、自分も教室を出るのだった。




『美容師なんて無理だろ。卒業だってギリギリなんだからさ!』



そう言った後のイツキは、少しだけ顔を曇らせた後、
『まあ、そうだよね…』
と言って、微笑むだけだった。

梶原が自分の発言を後悔しても、後の祭り。
今までさんざん、イツキに、自分の将来について真面目に考えろ、などと言っておきながら、実際、真面目に考えたイツキに、酷い事を言ってしまった。


確かに、本当の事かも知れないけれど。

もう少し、やさしく何か、包んでやれば良かったと思う。




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2017年01月12日

気の毒な梶原







梶原がイツキと連絡が付いたのは、その日の、夜になってからのことだった。
心配して何度か電話をしたものの、イツキの電話は相変わらず気まぐれで、本当に、その向こうに本人がいるのか、いつも不思議に思う。


『…なに?』
「え…、いや、あの…。お前、すぐ帰っちゃったし…、どうしたかなって…」
『ふふ。…べつに。…なにも、ないよ……』
「…イツキ?」


いやに甘い、舌ったらずな口調。耳元が溶けそうな気がする。


「……あのさ、俺、ちょっとキツイ事、言ったかなって……」
『ん?……なに?』
「いや、お前が美容師になりたいって話…。……無理、みたいな事、言っちゃって…」
『ああ…、ふふ。…まあね。…本当の事だもんね…、ふふ…』


切れ切れの言葉に、ようやく、梶原も疑いを持つ。


「……イツキ。……お前、今、酔っぱらってる?」
『……んー?……ちょっとだけだよ…』
「マジかよ。…今、どこにいるんだよ?……誰と……」


『……誰と電話?、…イツキちゃん』



イツキは、どこかで、酒に酔っているらしかった。
梶原はケータイを耳にぴったりと押し当て、どうにか、その状況を探ろうとする。
イツキの吐息と、カサカサと衣擦れの音と、その奥から…

イツキを呼ぶ、男の声が聞こえる。



「……イツキ、お前、大丈夫なのかよ?」
『ん。大丈夫。梶原も気にしないで、俺のこと、ね。大丈夫だから…』
「イツキ。…おい、イツキっ」



梶原の言葉の途中で、電話はプツリと切れてしまった。
気の毒な梶原。

こんな事なら、電話など、繋がらない方が余程マシだったかもしれない。



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2017年01月13日

イツキの思惑






「誰と電話?……カレシ?」
「…ううん。…友達」


イツキはケータイを横のクッションの上に放ると、差し出されたグラスを受け取る。
新しい氷がカラカラと鳴る。
綺麗な色のカクテルは、見た目とは違い、実はなかなかアルコール度数が高い。

勿論それは、イツキを早く酔わせる為のもので
その事にはイツキも、半分、気が付いている。


ミツオも自分のグラスを持って、イツキの斜め向かいの椅子に座る。
まさかこんなに気軽にイツキが自分の部屋に来るとは思っておらず、少し、緊張する。


「もう、こんな時間だもんね。…平気?」
「……んー。これだけ頂いたら、…帰ろうかな…」
「帰る?」
「……帰る?」


ミツオの問いかけに、逆に問いかける様に同じ言葉を返し、イツキは微笑む。
誘い文句がどこまで本気なのか、ミツオはグラスに口を付け、イツキの色香に飲み込まれないように気を張る。

相談したい事があるとイツキから連絡があったのは、丁度、早上がりの仕事が終わった時だった。
冗談交じりに、自分の部屋なら酒が飲めるよと言うと、イツキは、そうしようかなぁと、言う。
駅前で待ち合わせ、途中、コンビニに寄って、缶チューハイや菓子などを買う。
買い物袋を持ち、二人で並んで家に帰るなど恋人同士のようだねと、二人で笑う。


「…イツキちゃん、二週間ちかく一緒に仕事してて、その間は、全然、その気、無かったのにね」
「仕事の間はね。…ミツオさんだって、全然、だった…」


部屋に上がる頃には、二人は、手まで繋いでいた。



実はこれだけ緩く無防備なイツキは珍しく、……こんな時には決まって何か、別の思惑があったりするのだけど……
ミツオはそれを、知らない。



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2017年01月15日

時間は少し遡り






昼間、教室をすぐに出たイツキは、進路相談のための資料室へ向かった。
梶原に言われた事は、実は、そう、傷つく程の事ではなかった。

今まで自分が不真面目だった事も学力が足りていない事も、改めて言われなくても、自分が一番良く知っている。

資料室には大学や専門学校などの案内や書類が並んでいた。
この手のものにはまるで縁の無かったイツキは、どれを見ていいのかすら解らなかったが、とりあえず、「首都圏専門学校ガイド」という冊子を手に取る。
ぱらぱらと捲ってみるも、やはり、よく解らない。


実際、美容師になりたい訳ではない。
なりたくない訳でもない。


まだ本当に、何も決められず、ふわふわした状態で…
その中で、自分が今、何を選べて進めるのか…少しでも見えればいいのに、と。
高校三年生のこの時期にしては遅過ぎる気持ちで、ふうと、大きなため息をついた。





「……おや、熱心な生徒がいると思ったら、…君か。……どうしたの?」

ふいに後ろから声を掛けられる。振り返るとそこには一番会いたくない男、加瀬がいた。

「……ちょっと見てただけです。なんでもないです」

イツキは持っていた冊子を棚に戻し、資料室を出ようと、加瀬の横をすり抜ける。
すかさず加瀬はイツキの腕を掴み、自分に引き寄せる。
もっとも、開いたままの扉の前では、そう悪い事も出来ない。


「…君には、こんなもの、必要ないでしょ?……相談なら、私が乗るよ?
…なぁんでも、ね」


そう耳元で囁き、ニヤリと笑うだけだった。



posted by 白黒ぼたん at 18:10 | TrackBack(0) | 日記

2017年01月16日

迷走イツキ







加瀬の腕を振りほどき、今日のところは何事もなく、その場から逃げ出すことが出来た。
とりあえず早く学校を出てしまおうと、小走りで廊下を抜け、階段を駆け下りる。


もし、自分が何か、進路先を決めたら……そこに加瀬は介入してくるのだろうか。
それ以前に、卒業できるかどうかの判断に、加瀬が関わってくるのだろうか…
その、どの場合にも、相当の対価が必要なのだろうと……イツキは頭の片隅で考える。

どうして自分の学校生活に加瀬を絡ませてしまったのだろうかと

思い悩みそうになってしまったが、それは酷く落ち込みそうな問題なので、今は止めておく。





駅前の賑やかな通りをふらふらと歩く。

大きな書店が目に付き、なんとなく、入る。
そこでも大学や専門学校の案内のコーナーに行くのだが、ただ立ち尽くし、背表紙だけを眺める。
すぐ横に、制服姿の男子高校生が来て、「…すみません」と、イツキの目の前にあった本に手を伸ばす。
イツキは、自分がこの場所に酷く不釣り合いな気がして、そこからも、逃げ出す。



「……どうしようかな…」



何の答えも見つけられないまま、部屋に帰る気もせず
また、なんとなく、ふらふらと街中を歩きだす。

次に目に付いたのは、目抜き通りに面した、スタイリッシュな美容室だった。




posted by 白黒ぼたん at 23:45 | TrackBack(0) | 日記

2017年01月17日

時には不審者のように







前面がガラス張りの店舗の前にイツキは立ち、不審者のように中の様子を伺う。
ミツオの店と同じくらいか…もう少し広い感じの店。
客は若い女性が多く、ネイルなどもやっているのか、そんなアイテムの並ぶ一角もある。
揃いの黒いシャツを着たスタッフは忙しそうにキビキビと動き、しかも、皆、笑顔を浮かべていた。


扉が開いて、客が出てくる。
男性スタッフが外まで見送り、頭を下げる。
思わず見入っていたイツキは、そのスタッフと目が合ってしまう。



「……ご利用ですか?……今なら待ち時間もありませんよ?」



開いた扉の前で、そうにこやかに言われて、イツキはつい、中に入ってしまった。




髪の毛はつい数日前に、ミツオに、カットして貰ったのだけど
仕方なく、後ろを、一センチだけ切って貰った。
担当したスタイリストはお天気の話から、自分の昨日の夕食の話まで、実に楽し気に語り、
そして、イツキの茶色い猫っ毛や、男子とは思えないほどのきめの細かな、吸い付くような白い肌を褒めた。

『どこか事務所とか入ってるんですか?…モデルさんとか?』

そう言われても、どこの事務所の話なのかは解らない。
イツキは曖昧に微笑み、『いえ、別に』などと言い、会計を済ませ、逃げるように店を出る。


レジのカウンターの片隅に「スタッフ募集」のペーパーがあったので、ついでのように、持ち帰ってみる。


「有・資格」も「実務経験2年以上」もハードルが高かったが、なにより、
スタッフのあの笑顔は、真似が出来ないなぁ…と、イツキは思うのだった。





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2017年01月19日

イツキとミツオ@






イツキがミツオと連絡を取ったのは、その数時間後。
新宿から地下鉄で二つほどの、ミツオの自宅の最寄り駅で待ち合わせる。
コンビニで缶チューハイやスナック菓子を買い、部屋に上がる。
黒を基調としたインテリア。雑誌で見るようなオシャレな部屋。それでも片隅には部屋干しの洗濯物などが掛かり、ミツオがここで生活をしているのだという感じがする。





「……で?……どうしちゃったの、今日は?」


缶チューハイを2,3本飲んで、一通りありきたりの話をした後に、ミツオが切り出す。
イツキは半ば、ここに来た目的を忘れかけていたようだが…目を丸くしたままミツオを見つめ、グラスに口を付ける。


「……俺、……美容室のお手伝い出来たの…、楽しかったです…」
「そう!?……ああ、そう言って貰えて逆に嬉しいな。…急に頼んじゃったのにね、本当に、良く頑張ってくれて……」
「……おれ、何か仕事って…、出来ると思う…?……おれみたいなのでも」


幾分酒に酔っているのか、イツキは若干、舌ったらずな口調になっている。
その様子が可愛いと、ミツオはこっそりソファの、隣に座るイツキとの距離を縮める。


「イツキちゃん、ちゃんと仕事してたじゃない。本当に。もっと、ずっと一緒に、仕事したかったよ?」
「おれ、馬鹿だよ?……学校だって、あんまり行ってない。……得意なことなんて…、……えっちなこと、ばっかりだよ……」
「……うん?」

「ミツオさんだって、おれの、そういうトコ……知ってて、おれに声、掛けたんでしょ?
…もしかしたら、…そういう機会があるかもって…、ちょっとは思ったでしょ?」



イツキは持っていたグラスをテーブルに置くと、距離を縮めたミツオに、さらに近づく。
身体を摺り寄せ、顔を近づけ、甘えるように下から見上げる。





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2017年01月20日

イツキとミツオA






「……グラス、空いちゃったね。……何か入れて来るよ」


擦り寄るイツキを一度置いて、ミツオはキッチンに向かう。
空のグラスに氷を入れ、缶チューハイを注ぎ、自分は、ワインのボトルを開ける。


イツキは勿論可愛くて、好きだ。
身体を交えたのは、実は、最初に会った一度きりで…、出来ればもう一度、きちんと…そう出来れば良いと思っている。
けれど、今日の展開は急過ぎる。

何か、おかしい?

と、イツキよりは多少オトナのミツオは、コップの水を一杯飲んで、あまり流されないようにと自分に言い聞かせる。




イツキが梶原と電話をしていたのは、この合間だった。
ミツオが新しいグラスを手にソファに戻った時、イツキは通話を終え、さも邪魔なもののように、ケータイを脇に放り投げていた。

「……電話?……カレシ?」
「ううん。……梶原」
「カジワラ?」
「学校の、……人。……俺に、仕事とか、無理って……いった」


イツキは、ミツオが持って来たグラスの…ワインの方に手を伸ばす。
ミツオが制する間もなく、注がれた白を一気に飲み干す。
残念ながらイツキは、言いたいことを言う為にアルコールの力を借りるものの
あっという間に、それに飲まれてしまう。

それでも必死に、言葉を繋ぐ。



「ミツオさんも、…無理だって思う?……おれが、ちゃんと、しごと、するの。
…えっち、…抜きで。……おれがいる、意味、ある?」





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2017年01月21日

イツキとミツオB







イツキは、本当はミツオを試すつもりで来たのだった。
ミツオが、イツキの、セクシャルな部分抜きで、本当に一緒に仕事がしたいと思えば、吉。
少しでも自分のカラダ目当てなのだとすれば、アウト。

今のイツキには、自分を判断するのは、セックス有りか、無しか、そのどちらかで
そしてそれを測るには、自分の身体で試す以外、方法を知らなかった。






ミツオは、
意外と、良い男だった。
イツキとの出会いは電車内の痴漢行為からだったが、
それは純粋に、イツキを、可愛く思ったからだった。


イツキを部屋に招いた時点で、すでに股間はパンパンに張っていたが
イツキが、何かに、悩み迷っている事は解っていた。





「イツキちゃん、それを、聞きに来たの?」
「…………別に。………どうでもいいんだけど……」



イツキの嘘は、下手糞過ぎる。




「……イツキちゃんとの仕事、良かったよ。……そりゃ、足りない部分はあったけどさ。
こう、場が、穏やかになるって言うか、和やかになるって言うか…。
ホスピタリティって言うのかな…、人と接するっていうのが…その、尽くすって言うか、してあげるっていうのが自然に出来てて、その…エロい意味じゃなくて…

自然と相手の気持ちになってあげられる…、そういう感じが…、イツキちゃんに合ってたと思うよ。
そういう仕事、美容師に限らずさ、イツキちゃんに合う仕事、あるよ、絶対」



そう話してから、ミツオは、自分がいやに恥ずかしい言葉を並べたと、赤面する。
ワインを飲もうとグラスを持つも、すでにイツキに飲まれてしまい空で、慌てて立ち上がりキッチンに向かう。
そしてボトルを持ち帰り、グラスに注ぐ。


「は、は、は。クソ真面目な事言っちゃった。いや、でも、マジで………」


グラスにワインを注いで、イツキを見ると

イツキはぽろぽろと涙を零していた。



誘っているつもりは、毛頭、無く。




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2017年01月23日

イツキとミツオC







涙をぽろぽろと零すイツキに、ミツオはティッシュを箱ごと差し出すと
イツキはそれを取り、2,3枚引き出し、顔をぐしゃぐしゃとやった後、鼻をかむ。
それを何度か繰り返し、ようやく落ち着くと、照れたような笑顔をミツオに向ける・


「……ごめんなさい。……なんか、おれ……、ぐっと来ちゃった……」
「…大丈夫?」
「…うん。…大丈夫。……ありがと、ミツオさん。……おれ、何か…、解んなくなっちゃって……」


顔が火照って熱いのか、手の平をぱたぱととやる。
そして姿勢を変え、ソファの上に膝を抱えて座る。
丸くなり、今度は自分への反省のように、ミツオの顔を見ずに呟く。


「…俺が普通に仕事するなんて、向いてない事は知ってたけど…、でも、もしかしたら…出来るのかもって…思っちゃって。
…俺みたいなのでもいいよって、…大丈夫だよって…、…言って欲しかったのかもしんない……。
ありがと、ミツオさん。…俺、ちょっと、頑張れるかも知れない……」

「……それを聞きたくて、……来たの?」

「………そうか…も」




頭の上に気配がして、イツキが顔を上げると
すぐ近くにミツオの顔があり、ソファに座るイツキに覆いかぶさっていた。

ミツオはイツキの頭に手をやり、そのまま頬に手をやり、親指で、少し残る涙の粒を拭う。




「仕事するイツキちゃんも、勿論、好きだよ。…でも、それとこれは、話が別だよ。
イツキちゃんは俺を、買い被りすぎているよ?」




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