2017年03月29日

幕引き






不機嫌そうに鼻息を鳴らす加瀬の傍に、イツキは近寄る。
デスクの横に立ち、項垂れ、口ごもる様子は、叱られた子供のようだったが
どこか悪戯っぽく微笑み、無意識の色気を垂れ流す。


「………俺、……学校、…平気?」
「…はぁ?」
「…加瀬せんせ、怒らせて…、学校、退学とか、ならない?」


何度か瞬きをし、視線を流し、赤い唇を揺らしながら、そんな事を言う。
実際、イツキが加瀬と関係を続けてしまったのは、そういった事態が怖かったからだ。

逆に、加瀬と懇意にしていれば、卒業は無事に出来るものだと思っていた。


「…退学、ね。そうね。君ほど素行の悪い生徒はいないものね」


自分の素行は棚に上げ、加瀬はそう言ってニヤリと笑う。
イツキは、首を傾げ、困ったような表情を浮かべ、どうしたものかと、指先で髪の毛をくるくると巻く。
もう一度、加瀬と取引をしたところで、また深みに嵌るのは目に見えている。
結局、困ることになるのは自分なのだけど、それ以外に方法が解らない。

けれど、引き際を知っていたのは、加瀬の方だった。



「……まあ、私はもう関与しないよ。また怖い奴が出て来ては嫌だからね。後は好きにするんだね」
「……え?」

「……無し、だよ。ナシ。今までのことは全部無しだ。頼み事も、特別扱いも全部無し。見返りも、無し。
あとは普通の生徒だよ。無事卒業できるだけの学力があるかは解らんがね。
さあ、もうお終いだ。行きなさい」



加瀬は意外に呆気なく幕引きをする。
黒川という男に関わるのは得策ではないという判断は、正しかった。
そしてこれ以上イツキを目の前にしては、その判断が揺らぎそうだと

追い払うように、手をひらひらと振るのだった。







posted by 白黒ぼたん at 00:00 | TrackBack(0) | 日記

静かな時間






午後の授業が終わり大野が図書室へ行くと
隣の秘密の小部屋、資料室で、イツキが昼寝をしていた。
窓側に置かれた古い長椅子に寝転び、くうくうと、寝息を立てている。

大野は軽く驚くのだが、イツキがここを、授業をサボる時の避難場所にするのはよくある事だし、そもそも、ここの合鍵を渡したのは自分なのだし。
それは、それで。二人だけの秘密のような気がして、少し嬉しかったりする。



「……ん。……おーの、だ。……いま、何時……?」
「もう3時だよ。授業、終わったぜ」
「うそ。……俺、昼休みだけ…、ちょっと、寝ちゃおうかなって……って、思ったのに」



物音で目を覚ましたイツキは、長椅子の上で猫のように身体を伸ばし、丸める。
うっかり寝過ぎてしまったと言う割には、別に、反省する様子もない。


「相変わらず呑気だな、お前。3年のこの時期に、授業サボりとか、よくやるわ…」
「…今日だけ。…ちょっと、気が抜けたって言うか…、ほっとしたって言うか、……ひとだんらく、したから……」
「…ん?……何か、あったのか?」
「……んー。……でも、もう、おしまいになった…」



あまりに穏やかに微笑んで、イツキがそう言うものだから
大野はイツキから目が離せなくなってしまう。

しばらくして、午後の授業に出なかったイツキを心配して、梶原が部屋を訪れるまで

二人きりの、静かな時間は続いた。




posted by 白黒ぼたん at 21:33 | TrackBack(0) | 日記
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