2017年04月01日

西崎の愚痴







黒川と西崎はクラブ「花うさぎ」にいた。
少し前までもう一人、仕事仲間がいたのだが、真面目な話も終わり、
後はホステスを両側に座らせ、適当に高い酒を飲む。

最初の内は、西崎は、先日の加瀬の一件が引っ掛かっていたのか少し…微妙な態度だったのだが、
当の黒川は何も気にしない素振りなので、西崎の怒りもやがて薄れ、しまいには、呆れて来る。
隣に座ったホステスの真由子の腰を抱き、胸に顔を埋め、わざと馬鹿騒ぎをしてみせる。



「…やーん。西崎さま、駄目ですってばー」
「いいだろ、真由子。この後、寿司でも行くか、な?」
「ええー、でも、……まゆ、黒川さまと一緒じゃないと、嫌ですよ?」



真由子は西崎をあしらいながら黒川に笑みを投げかけるも、黒川は面倒臭そうに、行ってこいとばかりに手をひらひらと振る。
その様子を見て、西崎は笑う。


「残念だったな、真由子。社長は無理だぜ。家に、イイ子が待ってるからな」
「ええー、本当なんですかー?」
「本当、本当。社長のベタ惚れ…」

西崎の言葉に、黒川はチラリと視線を寄越し、それを見て西崎はまた笑う。





「…社長は、…イツキが大事なんだったら、もっとそういう扱いをして下さいよ。
俺らだって、困りますよ。…あいつから仕掛けて来る時だってあるんですから。
昔とは違うんでしょ?…好き勝手されちゃ、困るんでしょ?
だったらもっとちゃんと、あいつの面倒見て下さいよ」

「………西崎。……飲み過ぎじゃないのか?」



愚痴が過ぎる西崎に黒川は怒る訳でもなく、ふふと静かに笑い、グラスに口を付けた。





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2017年04月02日

夜のふたり







「おかえりなさーい」


黒川が部屋に戻ると、まさに西崎が話していた通り、そこにはイツキがいた。
実を言えば、今日は、その予定ではなかったので…黒川は軽く驚く。
イツキはソファに寝転び、深夜の適当なテレビ番組を眺め、黒川の姿を見るとニコリと笑う。



「……なんでこっちにいる?……何か、約束したか?」
「ううん。…服とか本とか、取りに来ただけ。でもご飯食べたら、眠くなっちゃって…」


テーブルの上には、お気に入りのエキナカの店舗の包みが並んでいた。
シチューや、バゲット、サラダにパスタ。どれもイツキが一人で食べるには多すぎる量だ。


イツキ自身、黒川を待っていたという事実が照れ臭いようで…少し、落ち着かない。
飲みかけだったワインのグラスを手に持ち、「……ちょっと、飲んじゃったし…」と、言い訳を足してみる。



「花うさぎに行っていた。俺も少し、飲み過ぎたな」

黒川はネクタイを解きながらそう言い、イツキの隣に座る。
揚げたポテトを手で摘み、口に放ると、そのまま指先をぺろりと舐める。

「…あ、何か飲む?…水、入れて来ようか?」
「いや」


立ち上がりかけたイツキを止め、黒川は、イツキの身体に寄りかかる様にもたれる。
そしてそのまま、特に何を話すでもなく、テレビ番組の続きを眺めるのだった。





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2017年04月03日

朝のふたり






朝。
イツキは学校に行くと言うし、黒川は、真面目な仕事があると言うので
二人は渋々ベッドから起き、リビングで熱いコーヒーを飲む。
最近、購入したコーヒーメーカーは、ボタン一つで一杯ずつ抽出できるポーションタイプのもので、誰が淹れてもそこそこ美味しい。
黒川はブラックを、イツキは牛乳を入れ、ニュース番組を眺めながら、昨日の残りのバゲットを食べる。


「マサヤ、…パンにサラダとコロッケ挟む?」
「いい。…俺はもう行くぞ。一ノ宮の車が来る。……乗って行くか?」
「んー。いいや。もう少しゆっくりしてから、出る」



慌ただしくコーヒーを飲み干した黒川は、ソファから立ち上がり、ジャケットを羽織る。
イツキも一緒に立ち、黒川のジャケットの襟の後ろを直したり、テーブルに置いてあった煙草を手渡したりする。



「…マサヤ、今日は俺、どうすればいい?こっち、来る?来ない?」
「…好きにしろよ」
「マサヤはどっちがいい?」
「知るか」



黒川が素っ気なく返事をしたところで、黒川のケータイが鳴る。
迎えの一ノ宮が到着した合図らしい。
黒川はケータイを耳に当てたまま玄関に向かい、振り向きざま、イツキに軽く手を挙げただけで、そのまま部屋を出てしまう。




「……じゃー、……来ないー…」


イツキはその場に立ったまま、拗ねたように口を尖らせ、そう、つぶやくのだった。



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2017年04月06日

朝の教室・1







清水は、以前ここの養護教諭だった美和と関係を続けていたが
歳が離れていることや、お互いの立場の問題から、どうにも、結婚を前提とした恋人同士…にはならないようだった。

今朝も一緒にホテルを出て、美和の車で学校へ送ってもらい、美和は自分の職場へと急ぐ。

午前の授業は場所を移動しているようで、教室には誰もいない。
…中途半端な時間に来てしまったと、清水はふんと鼻を鳴らし、自分の席でぼんやりとケータイなどを眺める。



どうにも、気が晴れない。
そしてその理由の一つが、教室に入ってくる。



「……あ」


清水と同じく、何かしらの理由で遅刻をしたイツキが、少し驚いた顔を見せた。

「……先輩。…おはようございます。……みんなは?」
「知らね。…どっか、ホールとかじゃねぇの?」
「……そうですか…」


二人きりで気まずいとはいえ、立ち去る事も出来なくて、イツキは自分の席に着く。
コンビニの袋をガサガサとやって、昼飯用にと買って来た菓子パンと缶コーヒーを開ける。
イツキの席と清水の席は、教室の端と端で、話をするには少々遠い。
無言でいることも、かといって大声で話をすることも、微妙で…、とりあえずイツキはメロンパンを食べ始める。


「…朝メシ?」
「……えっ……あ…」


おもむろに、清水は席を立ち、イツキの席の前に座り直す。





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2017年04月07日

朝の教室・2







「朝メシ?…何で遅刻?…黒川さんと一緒にいたの?」


清水はイツキの前の席に後ろ向きになって座り、机に頬杖を付き、イツキの顔を間近から覗き込む。
メロンパンを口に頬張り中のイツキに、答えを求めている訳ではない。
……答えなど、初めから解っていた。


「…仲良しさんだよなぁ…。それでも学校に来るんだな、エライエライ」


多少、小馬鹿にした言い方。
イツキはパンをごくんと飲み込み、コーヒーで流し、ムッとした様子で清水を見返す。


「…先輩だって、遅刻…」
「ああ、俺も。……美和と朝帰り。……お前、黒川さんと朝、シた?  …俺はシて来たよ」


何が可笑しいのか清水はクスクスと笑い、そして、イツキが飲んでいた缶コーヒーを取ると、勝手に飲んでしまう。
単純にイツキをからかっている…という訳でもないようだ。清水は清水で、何か答えを探しているようだった。


「………美和さんって…、保健の先生だった人だよね。今は?…他の学校にいるの?
先輩と、お付き合いしているの?」
「まあな」



清水はそう言う。
けれど、色恋めいた話をしているというのに、少しも楽し気ではない。
ふんと鼻息を鳴らし、ふと視線を窓の外にやり、しばらくそのまま黙ってしまう。





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2017年04月09日

朝の教室・3






「……先輩?」
「進路は?決めた?お前、バカだけど、卒業出来るの?」



無言の清水に、イツキが心配して声を掛けると、清水はまるで違う話を始める。
…正面切ってバカと言われて、イツキは少しムっとする。

「出来るよ、多分。…ギリギリだけど…」
「…へぇ。…まあ、お前は裏でイロイロあるもんな。…まあ、大丈夫か」


清水はそう言って、馬鹿にしたように、ふんと鼻で笑う。
先日の加瀬と西崎との一件を清水が知っているのかは不明だが、イツキが何かしているのかもしれないと、清水が思うのは…仕方のない事だろう。
内容の、どこからどこまでを、確認するのは止めておく。


「………そんなの、ないよ。……でも、ちゃんと卒業するよ…」


ただ、そう、小さな声で呟いてみる。


「…ふーん」
「…先輩は?……どうするんですか?大学、とか…?」
「…これ以上ガッコー行っても仕方ないからな…。シューショクするか。…オヤジの手伝いでもするか……、ふふ」



明らかに本心ではない言葉を吐いて、自虐的に清水は笑う。

そして、おもむろに、机にあったイツキの手に自分の手を重ねると




「……それとも。…どっか、逃げるか。……二人で」


そんな事を言うのだった。






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2017年04月10日

朝の教室・4







いい加減この頃になると、イツキにも、今日の清水は少しおかしいと気付く。
重ねられた手を引こうとするも、清水はさらに上からぎゅっと握り、様子を伺うイツキを見て、ニヤリと笑う。


「……先輩。……何かあったんですか?」
「何もねぇよ。……無いから、何かしたいのかもな……」
「……何も無いのって、……良いじゃないですか。……問題が無くて、穏やかって事でしょ?」
「……イツキ」



清水はぐっと身を乗り出し、イツキと顔を突き合わせる。
ふわりと立つシャンプーの柑橘系の匂いは、どちらのものか解らない。
お互い、数時間前まで、別の相手と一緒にいたくせに
その余韻も冷めない内に、他の相手を、感じてしまう。


「イツキ。問題が無くて、穏やかで、…お前は今、それで満足してんのか?」
「……満足、…してるよ。……俺は、別に……、不満なんて、ないもん……」
「…そう?……黒川さん、そんなに、いーんだ?」



まるでからかうような清水の口ぶり。
あきらかにカラダの満足度を伺っているのだと解り、イツキは初心な小娘のように顔を赤くする。

その顔を見て清水は、あらためて、イツキへの想いを、……思い出す。




身の内にどれだけ淫猥な欲情を隠していたとしても
イツキは素直で、可愛く微笑む。
抱き締めて、傍にいて、この幸薄さそげなコをどうにか守ってやりたいと

思った、あの時の熱が、ぶり返す。






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2017年04月12日

朝の教室・5





終業を告げるチャイムが鳴る。
廊下の向こうが少し賑やかになる。
じきにこの教室にも、人が戻って来るだろう。


「……先輩。……大丈夫ですか?」


どこか虚ろ気で、試すような、からかうような…そんな言葉ばかりを並べる清水を、イツキは無邪気に気遣う。
疲れているのかも知れない。美和との恋愛に悩んでいるのかも知れないと、単純に思う。
その悪意の無さが、また他の問題を呼び込むとも知らずに。


「……先輩?」
「…俺、お前のこと、マジで好きだったんだぜ?…イツキ」
「………あ」


薄く笑ったままそんな事を言われては、本気なのか、まだ、からかわれているのか区別がつかない。
それでも、嫌な気はしない。イツキは今度は耳まで赤くしてしまう。



「俺も。先輩のこと、好きでしたよ。本当に」
「…いつまで?」
「え?」

「……オヤジん所で、オヤジとセックスした時は?……まだ好きだったって事?」






一瞬、
清水の言葉の意味と、モノゴトの時系列と、自分が隠さなければいけなかった感情が、イツキの頭の中で渦巻く。
清水の事は軽い遊びだったのだと、最後まで言い通せなければ、あの時の辛い別れに意味が無くなってしまう。



「……まー、知ってたけどな……」



狼狽するイツキを他所に、清水は手を引き、席を立つ。
それと同時に、教室に、ガヤガヤと他の生徒が入ってくるのだった。



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2017年04月13日

朝の教室・最終話







「…なんだ。連絡してくれれば良かったのに。急に視聴覚室に移動になってさ、変なドキュメンタリー映画、見させられて……」


教室に戻って来た梶原は、留守にしていた理由をイツキに話すのだけど
イツキの返事は上の空で、大した興味もないようだった。

梶原はふと、イツキの視線の先を探す。

数名の女子の集まりの向こうに、清水がいる。

何故だか、梶原は胸が締め付けられるように苦しくなるのだけど、…あえて押し黙り、それには気付かないふりをした。







イツキと清水は、お互い、気持ちが無くなって、離れたわけではない。
嘘の理由を並べ立て、無理やり距離を取ったとしても、やはりどこかに、愛しい気持ちは残っているのだ。

イツキはともかく。
未だ、清水は、その整理がついていない。







その日の授業をどうにか終え、イツキはため息交じりに帰り支度をする。
久しぶりにどこか…ラーメンでも食べに行こうという梶原の誘いをあっさり断り、教室を後にする。
梶原は、とりあえず駅までは一緒に帰ろうと、横に付いて歩き、あれこれ、楽し気な話題を振って来る。

梶原の好意は、素直で、明るい。

断るのは申し訳ないのだが、それでも、イツキを少し、幸せな気持ちにさせた。







このお話、もう少し続きます!?
posted by 白黒ぼたん at 22:55 | TrackBack(0) | 日記

2017年04月14日

はやり病






その数日後。
イツキも、油断していた訳では無かった。


学校の昼休みや放課後や、常に梶原の隣りにいて、一人きりにならないようにしていた。
梶原がいない時には、さして仲の良くないメンバーの近くに寄り、いかにも友達ですという風に愛想笑いを浮かべた。
清水からの、お茶やお酒やホテルへの誘いのメールは、明るい冗談を交え丁重にお断りする。
とにかくこのまま波風を立てず、はやり病のようにふいに昂ってしまった清水の熱を、やり過ごそうとしていた。







イツキが、
清水をどうでも良い相手と思って、無碍に遠ざけた。

訳では、無いと、

今更清水にバレた所で、現状はなにも変わらないのだろうけど、



清水には、後悔の念があった。






「イツキ、今日、晩メシ一緒に食べない?現国の課題、一緒にやろうぜ?」
「やらない。じゃあね、梶原。ありがとう」


ボディーガードよろしく、梶原に家の近くまで送って貰ったイツキは、
ありがとうとニッコリ微笑み、ひらひらと手を振る。
…梶原には、いつかきちんと礼をしようと思ってはいるのだけど、それは今では無い。



怪しい人影がないかキョロキョロ伺いながらマンションに入り、エントランスの扉を開け、エレベーターに乗り込む。
こんな時には向こうの、二人の部屋に帰っても良いのだけど、黒川が仕事でしばらく不在の時に、あの街にいるのも、…少し、怖い。

まあ、こんな心配も取り越し苦労で、…何も、問題は、起こらないだろうと…自分に言い聞かせる。




部屋の鍵を開け、中に入る。



扉が閉まる一瞬の、その隙間に、ガツンと男物の靴が、挟まる。





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2017年04月15日

はやり病・2






「………先輩…」


閉まる直前のドアに挟まれた足は、……清水だった。
清水はそのまま身体を滑り込ませ、ドアを閉められなくする。


「……どうして…?」
「…ん。…お前、メールも電話も、返事、くれないじゃん」
「……どうやって…、入ったんですか……」
「はは。そんなのどうやったって入れるよ。裏の駐輪場、鍵、掛かってねぇし」


多少、悪知恵の働く者なら、オートロックのマンションに侵入することなど、そう難しい事ではないのだろう。
イツキは驚いてはいたが、予想内と言うか…、こんな事もあるのではないかと、心のどこかでは覚悟していた。


「……ちょっと、話、しようぜ。…この間の続き」
「……明日、学校で、します…」
「ガッコーで、出来る話かよ。…部屋、入れろよ」


ドアに清水を挟みながら、イツキは、ドアを押さえつけ、どうにかこれ以上清水を中に入れまいと抵抗する。


「……駄目です。……い、今、中に、…マサヤ、来てるし……」
「…ふーん?」


イツキの咄嗟の嘘に、清水はニヤリと笑う。


「丁度いいや。俺、黒川さんにも話しがあるんだよね。……黒川さん、黒川さーん!」
「…先輩っ、…声、大きい…っ」
「黒川さんっ、話し、しようぜ。イツキの話。…今日も、セックス、するのー?ねえ?」


部屋の中に、というよりは、マンションの廊下中に響き渡るように、清水は大声を出す。
案の定、丁度通りかかった住人が、何事かとイツキの部屋を伺い見る。




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2017年04月17日

はやり病・3







「なんだ、黒川さん、いないじゃん。やっぱり嘘か」



近隣の視線にイツキの手が一瞬緩んだ隙に、清水は、とうとう部屋に滑り込む。
困る、イツキを他所に上がり込み、部屋に誰もいない事を確認すると、ふふと笑う。



「……これから、……来る予定。……先輩、本当、…駄目です…」
「ふーん。……まあ、本当、少し話したいだけだよ。……すぐ、帰るよ」



本当は、今日は黒川が来る予定はないのだけど、それも嘘なのかどうかは、清水には解らない。
どちらにせよ、ここにはあまり長居しない方が良いのだと、思う。

思っていても、どうしても、イツキと二人きりで話がしたかった。



清水はリビングの入り口に立ち、部屋をぐるりと見回す。
イツキはまだ玄関近くに立ち、清水と距離を取る。
……もし、清水が迫って来たら、キッチンに逃げ込む。
……ああ、でもそれでは逆に袋小路になってしまう。
そんな事を考えながら、万が一の場面に備える。

もっとも、イツキの備えなど、役に立った試しはない。




「…イツキ」

2、3歩離れた間合いで、清水が声を掛ける。
イツキは廊下の壁にピタリと身を寄せ、恐々、清水を伺う。


「…もう少しだけ、傍に行ってもいいか?」


イツキは駄目だと言う風に、首を横に振るのだけど…、清水はゆっくりと、一歩前に出る。
勢い、手を伸ばせば、イツキに届く距離になる。



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2017年04月19日

はやり病・4






「……先輩、俺…。今、マサヤと…、…いい感じなんです。…イロイロ、あったけど、今は落ち着いてて…、…だから……」


イツキと清水はキッチン前の廊下で、少しの距離を残して向かい合い、立ち話をする。
先にイツキが口を開いたのは、清水に対する牽制だったのだが、それは間違いではない。
清水を嫌いな訳ではないが、今は、黒川との間に無用な波風は立てたくない。


「…いい感じ、ね。…あんな、ヒデー男なのにな…」
「……本当だね…」


黒川がどれだけ酷い男なのか、イツキが一番良く知っている。
それでも今は、自分がこんな事を言ってしまうのが可笑しくて、少し照れてしまう。

くすっと笑い、はたと、今はそんな空気ではない事に気付く。

清水の様子を伺い見ると、清水は、穏やかに微笑んでいるように見えて、実は違った。




「…えっと、だから……」




のろけではなく。とにかくどうにかして清水を説得し、遠ざけようとするイツキの口を、清水は簡単に塞ぐ。



ちょっと身体が傾いたかと思う間に、清水はイツキに迫り、勢い、壁に押し当て

開いた、イツキの唇に、自分の唇を重ねた。




イツキは驚き、すぐに離れようと、清水の身体を押しのけようとするのだけど
逆に清水は腕をイツキの腰に回し、きつく抱き締め、身体をさらに密着させた。




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2017年04月21日

はやり病・5







イツキは腕を突っ張ったり、振り回したり。清水の髪の毛を掴んだりして、どうにか唇だけを離す。


「…駄目です……」


半ば、泣きそうな声でそう呟くも、抱き留められた清水の手は緩む事は無かった。
このまま力づくで押さえられ、コトが始まってしまうかも知れない。
そうなった時に、本気で嫌がる自信が、イツキには無い。
…しかも、…今日はこちらには来ないと言った黒川が、本当に来ないかはどうかは、イツキには解らないのだ。



「……駄目。……先輩、駄目です」
「…大丈夫だよ」



何が大丈夫なのかと、イツキは目の前の清水の顔を覗き込む。
清水は笑い、もう一度イツキにキスをして、そして

イツキの肩に手をやり、とても重たいものをどうにか動かすようにして、その身体を、自分から少し、離すのだった。





期待していた訳でも覚悟していた訳でもないが、イツキは拍子抜けし、驚いた顔で、清水を見直す。
その顔を見て、清水はまた笑う。


「何だよ。続きが無くて残念って顔だな」
「…そ、そんなこと、思ってません」
「大丈夫だよ。…無理やりなんて、やらねぇよ」



そう言って清水は、廊下の壁にもたれ掛り、ポケットから煙草を出し、口に咥えるのだった。





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2017年04月23日

はやり病・6






ほんの数分前の荒々しさが嘘のように、清水は静かに、煙草を吸う。
イツキは半ば呆気に取られてその様子を見ていたのだが、思い出したように慌てて、キッチンから灰皿を持って来る。

吸殻は、後でちゃんと捨てる、と、頭もきちんと働いていた。







「…ちゃんと、お前に、謝りたかったんだ…」

紫煙を吐きながら、清水はそう言う。
イツキは、清水が何か謝るような事をしたのだろうかと、思う。


「……え?」
「……お前が、……俺から離れた時。……俺、結構、酷かったよな」
「…そ…う…?」
「…覚えてねぇか?……前にも俺、こうやって部屋に来て…、お前のコト、金で買ったぜ?」


楽しい思い出でも話すように、清水はクスクスと笑う。
言われて、イツキも、……そんな事もあったなと、思い出す。


「あの時は、…お前が…無理やり俺から離れた理由が解らなくて、お前の気持ちが解らなくて…、悪かったな」

「……先輩は、……悪くないです。……俺が…」

「……もう、いいよ。何も言わなくても。ごめんな、イツキ。
俺が、ちゃんとお前の事信じて、待っていれば良かったのにな…」




清水はそう言って、イツキの頭にぽんと手をやり、その上から軽くキスをした。





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