2017年08月01日

一ノ宮の進言






一ノ宮が事務所に戻ると、黒川は一人でパソコンに向かっていた。
真面目に仕事をしていると、一ノ宮は感心し、コーヒーを淹れ、黒川のデスクに置く。
ふと、パソコンの画面を覗くと、そこには文字が並ぶ契約書でも、計算ソフトの升目でもなく
新緑豊かな、どこかの温泉宿の、案内があった。



「………ご旅行ですか?」
「ああ。…まあ、その内な…」
「接待でしょうか?」
「いや、イツキとだ。たまには息抜きも必要だろう?」


そう言って黒川は、画面を見ながら、何の含みも無い笑顔を浮かべる。


自分の都合で無理な仕事を押し付けてしまっているイツキに
たまには、息抜きに、景観の良い温泉地で、のんびりと過ごさせようと
端から見れば、優しい、良い話なのだけど
そもそも、無理な仕事をさせなければ良いのにと、一ノ宮ですら思う。



「……これ以上、小野寺会長のオファーが無ければ…良いのですけどね」
「まあな。まあ、今回はそう酷い目にも合わんよ、……色々、条件を出している」
「それでも、イツキくんには、辛いものでしょう?」
「…俺と一緒にいる以上、多少は仕方ないだろう?……まあ、我慢してもらうさ」


黒川はコーヒーを飲み、少し目を伏せ、溜息などをつく。
おそらく心のどこか、片隅の奥の方では、イツキに対して申し訳ないと思っているようなのだが、
それは、隠す。



「……ちゃんとイツキくんと、話をされた方が良いですよ?」
「…うん?」
「……面倒臭がらずに、…素直に。自分を理解して貰う努力を、なさい」



いつもに増して厳しく、キッパリと言い放つ一ノ宮に、
黒川は少し驚いたように、視線を向けるのだった。





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2017年08月06日

時間貸し






「……まあ、時間貸しみたいなもんだ。19時から21時まで、2時間。
小野寺のくだらんパーティの付き合いだ。適当に笑ってろ。
小野寺は、手は出さないと言っていたぜ、良かったな。……残念か?
まあ、気楽にしていろ。飲み過ぎるなよ?飲むとお前はロクな事がないからな」



パーティーの会場へと向かう車内で、黒川はハンドルを握りながら、助手席のイツキに話しかける。
いつもより饒舌なのは、自分でも多少、やましさを感じているからだろう。
まるでこんな事は、大した事ではないのだという風に、冗談めかし笑う。

勿論イツキがそれで安心するはずもなく。

窓に頭を預け外を向いたまま、返事もせずに、頬を膨らませている。



「ふふ、そう拗ねるなよ、イツキ。小野寺は、今だけだ。しばらく東京にいるらしくてな。
すぐに九州に帰る。その間にせいぜい、恩を売っておけ。あんなクソ男でも役に立つ」



信号待ちで車が停まると、黒川は左手を、イツキの太ももの上に置く。

イツキはそれを、すぐさま、手で払う。

一瞬、黒川が激昂し、その左手でイツキを打つのではないかと緊張感が走ったが

それは気配だけで終わる。




「……いつまでも不貞腐れるな。大人しく、行け。2時間したら、迎えをやる。

…なあ、イツキ…、これでも感謝はしているんだぜ?」


やがて車は目的に到着する。
車を車寄せに停め、黒川は取って付けたような笑顔を浮かべ、イツキに甘く囁く。



「今度、何か、してやる。……何でも。……お前の好きな事を……、な?」



それでもイツキは、そんな黒川に一瞥の視線を投げつけ、

「そんなの、いらない。迎えもいらない。俺、一人で帰る。
俺がどうなっちゃったって、知らないんだからね、マサヤの馬鹿!」

そう言い捨てて、車の外に出てしまうのだった。





posted by 白黒ぼたん at 14:12| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記

2017年08月07日

刷り込み







多分、どう考えたっておかしいのは解ってる。
俺がしている事も、俺とマサヤの関係も、どう考えたって、マトモじゃない。
今だって、一応、恋人…っぽい立場の俺を、大嫌いとだと言っていた男に、平気で差し出す。
俺が、そこで、何をされようが、別にお構い無しで。


俺だって


おかしいと思っているなら、逃げ出せばいいのに。
マサヤの元から離れて、隠れて、別れてしまってもいいのに。
好きでもない男と、好きでもないセックスを強要される日常から
逃げて、離れて…、…普通の、普通の生活を、送ったって良いはずなのに。


俺の、足は、小野寺が待つ、ホテルへと向かっている。
まるで、これは、確実に決められた事で、俺自身には、変えようもない事みたいだ。




なんか、ほら。

生まれたてのヒナは、一番最初に見たものを親だと思っちゃうとか。
何度も経験した事は、頭より、カラダに染み付いちゃうとか
小さい頃、駄目だと思ってた事は、大人になっても駄目だと思い続けちゃうとか。

そんな感じで。



俺は、マサヤから、どんなに酷い扱いを受けたって
離れる事なんて、思いも付かないんじゃないかって……ふと、思う。




それは多分、マサヤも同じで




どんなに俺を雑に扱ったって、俺は、マサヤから離れないって

思ってるんじゃないかって、


思う。





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2017年08月08日

半分








「…何?一人で来たの?…ああ、黒川くんの車ね。何、彼、帰っちゃったの?
まったく、顔ぐらい出して行けばいいのにね…、まあ、話す事もないか…はっはっは」


大きくもなく小さくもなく、都心の、洒落たホテルのロビーで
小野寺はイツキを出迎える。
少し緊張した面持ちのイツキの肩を気軽にぽんぽんと叩き、軽口を叩き
パーティーの会場へと案内する。



「そんなに硬くならくていいよ。ふふ。可愛い君を横に連れて歩きたいだけだよ。
別に、何もしなくていい。

本番はナシって聞いているだろ?……それとも、残念?」


黒川と同じ、くだらない冗談を言い、小野寺は部屋の扉を開ける。
薄暗い室内。パーティーと言うよりむしろ、クラブやライブのような雰囲気で
すでに始まっているバンドの生演奏に合わせ、それぞれ、酒を飲みながら身体を揺らしている。
小野寺はすれ違うボーイからカクテルグラスを二つ取り、一つをイツキに渡す。



「はい、乾杯」



グラスをカチンと鳴らして、小野寺は、実に紳士的に微笑む。
そんな笑顔で気を許すほど、イツキは馬鹿ではなかったけれど


どうなっても良いと、口当たりの良い甘いカクテルを勢い煽ってしまったのは


半分は、喉が渇いていたためと、もう半分は


自分を放り出した黒川への、当てつけのようなものだった。







posted by 白黒ぼたん at 23:41| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記

2017年08月09日

展示会







とりあえずイツキは小野寺の一歩後ろに立ち、手元のグラスに口を付けつつ
小野寺の元に来る人たちに、小さく微笑み、ぺこりと頭を下げる。
当たり障りのない挨拶に、お約束のような次の仕事の予定。
お互い、連れているお飾りを褒め、小声でヒソヒソ何やら話し合う。

突然、手を引かれて、ホールの片隅に追いやられ、騒ぎに乗じて犯される。
……そんな事は、無かったけれど、別段楽しい事がある訳でもなく
イツキは何となくそこらを眺め、雰囲気のあるジャズの演奏を聴き、時間が過ぎるのを待った。



「………写真の子?」
「そうそう…」



ふと、小野寺と、男が、小さな声で話している内容が聞こえてしまった。
反射的に顔を上げると、相手の男と目が合う。
男はいやらしくニヤリと笑う。


「まだ未成年だよね、…ヤバイよね、この子……」
「ええ。……ふふ、今日は借り物でね…、……まあ、また……」


明らかに、自分の話をしている二人は、解りやすくこっちをジロジロと眺め、耳打ちし、笑う。


同じようなやりとりが、相手を変え、何回か繰り返される。


「……ああ、この子。………見たよ、あれ…」
「どうにか手配しますよ。……ええ、大丈夫……」
「…いいね。…ビデオも……」





思えば、自分の周りにいる男たちが全て、そんな目で、自分を見ているような気がする。
それは、概ね、間違いではないだろう。


まるで、展示会の商品になったようだ。






posted by 白黒ぼたん at 23:19| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記

2017年08月10日

別の話







「小野寺さん。……何の、話?。………俺の、こと…?。………写真って…」
「ふふ。まあね、君は有名だから。…誘われる事も、多いだろう? みんな、君に興味があるんだよ」
「……俺、……そんなんじゃ…、ないです。……もう、そういうのは…、してないです」
「解ってるよ。だから、今日は、話だけ。……まあ、後は黒川くんと、交渉次第だけどね」



小野寺は、悪びれる事もなく、取り扱う商品の説明をするように、男たちにイツキを紹介する。
イツキは、…すっかり気が滅入り、作り笑いも忘れて、顔を俯かせる。




写真は、前に小野寺に抱かれた時に、撮られている。
自分の母親が見た、アレ、かも知れない。
ビデオも、撮られたかも知れない。もしくは、他の、出回っている物かも知れない。
思い当たるものは、あり過ぎて、どれだか解らない。

自分の恥ずかしい姿が、自分の知らない所で晒されていることは、知っているけど、

それを「知っているよ」と、目の前で言われるのは、……話が別。




「……可愛いね。……スゴイんだって?……メスイキしちゃうんでしょ?
ぱっくり開いて、なんでも咥えるって。……いいなぁ、一度、ヤらせてよ。ね?

何?……照れてるの?……まさか、そんなタマじゃ、ないんでしょ?


……おじさんのおちんちん、欲しくてたまらないって顔、してるよ?」




中年小太りのハゲ親父が、イツキの耳元でそう囁きながら、自分の膨れた股間をイツキに摺り寄せる。
嫌そうに顔を背け、身を固くするイツキを

小野寺は、楽しそうに、眺めていた。




posted by 白黒ぼたん at 22:45| Comment(2) | TrackBack(0) | 日記

2017年08月14日

フル回転







気付けば
ホールの照明はさらに落とされ、間近でなければ相手の顔も解らない程、薄暗く。
バンドの楽曲は、ムードのあるものに変わり、中央では男女が身体を密着させ踊っていた。

片隅のソファで抱き合う二人は、すでに、そこで、始まっているのかも知れない。

燻る紫煙と、酒の匂い。この空間にいるだけで、酷く酔ってしまいそうだった。



イツキは犯されこそしなかったが
いっそ、そうされてしまった方が良かったと思った。

服を着たまま、立ってはいたけれど
声を掛けてくる男たちは、そんな布切れの事など、微塵も気にしていなかった。

耳から犯され、身体が、溶けていく。




「写真?…ああ、写真ね。いや、あれ以外にも沢山あるよ。…ふふ。
だって、君、ほとんど意識飛んでたでしょ?…覚えてないでしょ?

君のお母さんに見せたのなんて、綺麗なヤツだよ。
……すごいよ?……ばっくり開いて、中まで見えそうなの。……見たい?」



小野寺の言葉に、イツキは返事もせずに、首を横に振る。
唇を噛みしめ、とにかく、早く、この時間が終わることだけを考えていた。





また別の男が、小野寺の傍に来て、イツキを指さして、ニヤニヤと笑う。

コソコソと小声で話す内容が聞こえない分、余計に、イツキは無駄に、身体を熱くし
フル回転した想像に、泣き出してしまうのを堪え、必死に、立っているのだった。






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2017年08月16日

意外と簡単







「お疲れさま、イツキくん。もう、帰っていいよ」



約束の時間になると、小野寺はそう言った。
意外と簡単に開放されるのだなと、イツキは安堵するよりも、不安になる。


「……良いんですか?」
「居たいのなら、ずっと居て構わないけど。…ふふ」
「帰ります!」
「そうだろうねぇ。……迎えは?……ああ、エントランスに車を用意させるから…」


小野寺はケータイを取り、何か話す。車の手配をしてくれているのだろうか。
イツキは、小野寺の気が変わらない内にと、慌ててペコリと頭を下げ、足早に、ホールを後にするのだった。





薄暗く気怠い雰囲気のホールを出ると、そこは、普通のホテルの廊下で、イツキは一瞬、頭がくらくらする。
何か酷い悪夢でも見ていたようだ。
身体の芯にはまだ熱が籠っていたけれど、それには気付かない振りをして
とにかく早く、早く、家に帰りたいと歩き……




歩き出したとほぼ同時に、身体がフラつく。
そして、それを待ち構えていたように、すぐに後ろから抱きかかえられる。




「……大丈夫かな?。……疲れちゃったかな? ……こっちで少し、休んで行くといいよ」
「……えっ?……いや、おれ………」
「いいから。こっちに。………早く!」




確認出来たのは、見知らぬ男が二人いたという事だけ。

イツキは口を塞がれ、後ろから羽交い絞めにされ引き摺られ、半ば拉致のように、近くの小部屋に連れて行かれる。




そうやって、意外と簡単に、捕まってしまうのだった。





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2017年08月17日

親指と人差し指







『私は、してないよ? 時間になったから、イツキくん、帰って良いよって言ったんだよ?
タクシーも呼んであげたんだけど…イツキくん、途中で誘われて、付いて行っちゃったみたいなんだよねぇ…。

自分から、オネダリしちゃったって?
ふふ、さすがに、良い躾、されているねぇ……』



後で小野寺は、そう言って黒川に釈明したらしい。
それはあながち間違いでは無いけれど、勿論、正解ではない。







部屋は、ゲストの控室か休憩室のようなものだったが
わざわざ奥に長椅子が並べられて、ベッドのようになっていた理由は、不明で。
男の手で口を塞がれたイツキが必死に抵抗するも、そこに押し倒されてしまうのは、まあ、無理もない話。


一人はイツキの頭の方に座り、イツキの両手首を掴み、ベッドに圧し止め
もう一人はイツキの腹の上に跨り、動きを封じると、イツキの口の中にタオルのようなものを捻じ込んだ。



「…ちょっと、休んで行くといいよって…、言ってるだけだよ。……服も、脱いだ方が、楽になるデショ?」


腹の上の男は笑いながらそう言って、イツキのジャケットとシャツのボタンを外す。
下着を付けていないイツキは、すぐに素肌を晒してしまう。


「………んんっ…………んんん…っ」


イツキがくぐもった声を上げ、イヤイヤをするように首を左右に振ったのは


男が、イツキの乳首を、親指と人差し指で摘み、捏ね回し
強く引っ張ったからだった。





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2017年08月18日

楽しい遊び







男たちは30代半ばといったところか。
体格も良く、少し派手だが、見るからに良いスーツを身に纏っている。
胸もとには金のネックレス、腕には高級時計。
遊び慣れている様子で、イツキを、好き勝手に扱う。





「…へぇ。…乳首、勃っちゃうんだね。コリコリ。…舐められると、感じちゃう?
これだけでイっちゃうのかなぁ…。ふふ。

君さ、中でイクんでしょ?…見てみたいなぁ…。止まらないってホント?」



腹の上の男はイツキのあちこちを弄りながらそう言い、次第に身体を足元にずらし、
イツキのズボンを脱がす。
膨らんだ下着に鼻先を当て、「いやらしい臭いがするね」と言って笑う。
けれどイツキは、もう一人の、腕を掴んでいる男に顔中を舐められていて、それに反応することも出来ない。
とにかく目を閉じ、出来る限り身体を反らし、与えられる刺激に感じてしまわないようにと、耐える。



そうすればそうする程、イツキの中で、欲求が溜まっていく。
下着をずらされると艶めかしい姿の性器が頭をもたげ、イツキの決意と関係なく、ぴくんと脈打つ。





「ふふ。カワイイね。子供みたいだね。お尻の穴はどうかな?

……へえ、キレイじゃない。……使い込んでるとは思えないね。……ああ、開いた、開いた」



指先で突かれると、そこはキュッと窄み、すぐにパクっと開く。


何か滑りのあるものを塗られたのか、男の指を簡単に飲み込み、簡単に吐き出す。
指は本数が増え、動きを増す。ぐるりと掻き回され、勢い引き抜かれる。


その都度、イツキの腰がびくんと跳ねる。
その様子が面白くて、男は何度も、その遊びを繰り返す。





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2017年08月19日

同意







頃合を見計らい、イツキの腕を抑えていた男が力を弱める。
口の詰め物も外してやるが、もうイツキは暴れることも、嫌と大声をあげる事もしなかった。


代わりに、湿った息を、静かにゆっくりと吐き出す。
涙は、もうその前から、流れていたようだ。




「して、いい?…イツキちゃん」




足元の男は自分の物を取り出し、イツキの両足を抱えて開く。
いきり立った先端を入り口に当て、くすぐる様に揺らしながら、あえて尋ねる。


イツキは首を横に振る。
振りながら腰を突き出し、男の物を、少しでも良い位置へと導く。



「欲しいの?」



つぷんと先端をくぐらせ、すぐに離し、男は聞く。
一応、イツキから誘ったという、事実が欲しいのだろう。



イツキは黙ったまま、小さく小さく、首を縦に振った。









「ヤバい、ヤバイ……、こいつ…、マジ……ヤバイ。………持って行かれる……」


男は挿入しながら、うわごとのように叫び、夢中で腰を振る。
もう一人の男は早く替れと自分の物を扱き、それを、イツキの顔に擦りつける。

イツキは短い喘ぎを零しながら、何かにすがるように手を宙に上げ、

ぱたんと、落とした。





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2017年08月21日

電話







「…今、どこだ?」


真夜中。
何度目かの、何十回ものコールの後に、電話はようやく繋がり
黒川は安堵というよりも、むしろ怒ったような口ぶりで、捲し立てる。
イツキの小さな声を聞き洩らさまいと、ケータイを耳に押し当て、その向こうの、わずかな気配を探る。



『………いえ』
「品川か。どうしてこっちに来ない」
『…いきたくないから』



すでに小野寺からの連絡はあり、イツキが、どこぞの誰かに乱暴された事は知っていた。
…まあ、概ねそれは、想定内だった。
子供の使いでは無いのだ。男の元に赴き、無事でいられる訳はないだろう。

多少は慰め、労ってやろうとは思っていたのだが、どうにも風向きが、甘い方向にやって来ない。



「……ヤられて来たんだろう?……馬鹿が。…だから俺が迎えに行くと言ったのに…」
『そうだね。どうせ、おれが、悪いんでしょ』
「…ああ。…いや、まあ…、最初からそんな段取りだったんだろうよ」
『まあね。そうだよね。……そんな段取りで、俺を、小野寺さんのとこにやったんだよね』



棘のある物言が、黒川の癇に障る。
もっとも、この男が苛立つ権利も理由も無いのだけど。

「イツキ」と名を呼び、話しかけようとした、ほぼ同じタイミングで
イツキが口を開く。





『話、それだけ?マサヤ。俺、眠いから、電話、切るよ?
……今日は、……3人もエッチしたから、疲れちゃった。…じゃあね』




そうして、
黒川の返事も待たずに、イツキは一方的に通話を終えるのだった。





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2017年08月22日

鼻息






翌日夕方。
一ノ宮が事務所に入ると、そのあまりの煙草臭さに、顔を顰める。
勿論、空気清浄機などは設置してあるのだが
黒川のデスクの、吸殻が山盛りになった灰皿を見れば、その限界を超えていることが解る。



「……昨夜からずっとこちらですか?……何か、急ぎの案件でもありましたか?」



部屋中の窓を開け、空気を入れ替え、デスクの上の灰皿を片付ける。
黒川は険しい顔をしてパソコンに向かっているが、どうやら、仕事をしている訳では無いらしい。

時折ケータイを覗き込み、ふんと鼻息を鳴らす。



「…西崎さんが後で寄るそうです。パピヨンの収支報告とビルの改修工事の件で。
横浜の官庁への届け出は終了したと、リーさんから連絡がありました。
あと、小野寺会長からお礼のメールと手土産が…、ヴィンテージワインでしたよ、ボルドーの……」


小野寺の名前が出たところで黒川は一瞬顔を上げ、明らかに不機嫌な様子を見せる。
そこで、一ノ宮は、だいたいの事情を察したのだけど、とりあえず黒川に追い打ちを掛ける。




「そう言えば、昨夜でしたね。イツキくん。……大丈夫でしたか?
……彼、小野寺会長とだけは、どうしても嫌だと零していましたからね。
あまり酷い目に遭っていなければ良いのですけど。
……ちゃんとケアしてあげないと駄目ですよ? 雅也」



黒川は渋い表情のまま一ノ宮の話を聞き、視線を他所に向けたまま
もう一度、ふんと、鼻息を鳴らすのだった。




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2017年08月23日

言葉が雑







黒川とて、イツキを気遣っていない訳ではなかったが、
そのやり方はあまりにも黒川本位過ぎ、肝心のイツキには伝わっていない。

そもそも、
イツキの心や身体を、心配をしなければいけなくなる程の状況に
追いやっていること自体がおかしいのだとは、気が付いていない。







「……まだ拗ねているのか。…夜はこっちへ来い。
…………いいから、来い。四の五の言うな。……8時だ、いいな」


仕事の手を止めて、黒川はイツキに電話を掛けていた。
事務所で待ち合わせをして何か美味しい物でも食べに行き、夜は二人の部屋でゆっくりと過ごすつもりなのだろうが
それにしては言葉が雑だと、端で聞いていた一ノ宮が呆れたように黒川を見る。



「…何か言いたそうな顔だな、一ノ宮」
「いえ、別に」
「…いいんだよ、あいつには、この位で」
「そうですか?」




含みのある一ノ宮の言葉に、黒川は、ちらりと視線を寄越すだけで、返事はしなかった。
一ノ宮の言いたい事は解っていたが

他人を思いやることに慣れていない黒川は、これでも十分だと思っていた。





しばらくすると事務所に西崎がやって来る。
仕事の話をいくつかした後に、一ノ宮と一緒に、どこかへ出て行く。


事務所には、イツキを待つ、黒川一人だけになった。





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2017年08月24日

忘れられた約束







連休中、詰込みの勉強が一段落したら
ファミレスでゆっくり晩御飯を食べ、足りない勉強のサポートをする。


そんな程度の約束を
梶原はとても大切に、楽しみにしていたのだけど


その予定の日も、次の日も
イツキは学校に姿を見せないどころか
メールも、電話も、連絡が付かない。
これまでも度々、イツキは、何も言わずに学校を休む事があったが

そのどれもが、大抵、あまり良い状況ではないことを、梶原は知っている。





その日の授業終わりに、ようやく、イツキと電話が繋がる。




『…………なに?』
「…え、…あ、…どうしてるかなって…」
『…あ、梶原か…。……ごめん…』



勢いワンコールで電話に出たイツキは、誰かと、間違えていたようだった。
相手が梶原だと解ると、とりあえず謝り、素っ気なくもう一度、『……なに』と聞く。




「…いや、……メシの約束してたし。……お前、学校、休んでるし…。……どうしたのかなって…、…思って……」
『あ。…そうだっけ…。…ごめん』
「どう?…元気?、……今からとか、会う?」
『無理。………これから仕事だから。……じゃあね』




そう言って、ぷつんと
イツキとの電話は切れてしまった。
後に残るのは
得も言われぬ不安ばかり。




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