2017年09月01日

救世主?







「……いい加減にしろ」



いつもより低い、凄みのある声でそう言い
イツキの髪の毛を正面から掴み、頭ごと後ろの扉に押し当てたところまでは
まだ黒川にも若干、余裕は残っていたが

イツキがもう一度手を振り回し、黒川の手を外し、黒川の身体を押し退けようとしたあたりが限界だった。




とりあえず平手でイツキの頬を叩く。




「…落ち着け、…馬鹿が!」
「……そうやって…、結局、……手を出すんじゃん……」
「…はぁ?」
「俺の話も聞かないで…、結局最後には力ずくで…、……昔と、なんにも、変わんないじゃん……」


イツキがそう言い終わるか終わらない内に、もう一度、平手で叩かれる。
今度は耳の後ろに入ってしまい、くらくらと眩暈を感じ、足元がよろける。
それでもイツキは顔を上げ、黒川を睨む。
その態度が気に入らず、黒川は、イツキの胸倉を掴み、軽々と締上げる。



「………ふざけるなよ、イツキ…」




そのまま身体を持ち上げ、首を絞めるか、床に放り出し足蹴にするか……

そのどちらか…、という時に、イツキの後ろの扉がガタガタと動き出す。

誰かが扉を叩いている。

鍵が掛かっていなかった扉は、イツキたちを押し退ける様に開き、一人の男が事務所の中に飛び込んで来る。



男は、黒川とイツキの間に割って入り、イツキをかばう様に両手を広げ、黒川との間に距離を取った。





梶原だった。





posted by 白黒ぼたん at 18:36| Comment(2) | TrackBack(0) | 日記

2017年09月02日

4410円







『……これから仕事だから』




電話のイツキは気怠そうにそう言って、それきり。
イツキの『仕事』がどんなものなのか全く知らない訳ではない梶原は、気が気ではなかった。

学校も、普通の生活も、自分との約束も全部反故にされて、……売春…、まがいの事をさせられている。
イツキの心配以上に、そんな事をさせている、あの男への怒りがこみ上げて来た。

どうにかしてやりたいと…、でも、どうすればよいのか解らず…、足は自然とイツキのマンションに向かう。
梶原が到着した時、丁度、黒いスーツを着たイツキがエントランスから出て来る。
梶原は身を隠し、後を付いて行く。尾行するタクシーの代金がギリギリ足りたのは、ラッキーだった。




前にも訪れた事がある、黒川の事務所。

イツキが中に入ったのを確認してから、梶原も階段を上がり、扉の前まで来る。

けれど中に入るまでの勇気は、まだ、無く、扉に耳を当て、伝わる物音で、中の様子を伺う。




『……もう……嫌……っ』


切れ切れに聞こえる、言い争うような声。
イツキの、泣き叫ぶような声に、胸が苦しくなる。
やがて、ドン、ドン、と扉に振動が伝わる。

暴力を受けている、直感的に思った。



思った時には、すでに梶原は扉を開け、勢い中に飛び込んでいた。






posted by 白黒ぼたん at 22:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記

2017年09月03日

激情






突然目の前に現れた男に黒川は驚き、それ以上に、イツキも驚く。
自分と黒川の間に立ち塞がる梶原を押し退けようとするも。梶原は頑として動かない。


「……なんで、……梶原?……」


そう尋ねるイツキの声も、梶原には届いていないようで。
ただ強い意志で、黒川に向かい合うだけだった。




「……イツキに……、イツキに…酷い事するなよ。……これ以上、……イツキに…」
「…はぁ?………イツキ、何だ、こいつは?」


黒川は、目の前の男がイツキのオトモダチだという事は解っていた。
けれど何故それが、今ここに現れたのか、その理由が解らない。

捕まえて締上げて、無礼な侵入者に理由を問いただす。
……そうなる事を恐れて、イツキが身を乗り出す。


「……違う、マサヤ。……なんか、……来ちゃっただけで、別に…、何も…」
「イツキっ なんでこいつの言いなりなんだよ。 お前、嫌なんだろう? 嫌な事、あるんだろう!?」
「違う、梶原。…関係ないから…、違うから…、いいから…、帰って!」
「……違くないよ!………黒川さん…ッ」





梶原は自分を心配してここまで来て、見かねて、口を出してしまったのだろう。
気持は解るし、少しは、嬉しいのだけど……そんな同情が、こと、この男の前では何の役にも立たない事は知っている。

最悪の状況は目に見えている。
イツキはとにかく梶原を追い返そうとするが、梶原の、無駄に熱い激情は止まらなかった。




「…俺、知ってるよ!…あんたがイツキに、エンコーやら売春やらさせてるって。
イツキ、本当は、嫌なんだよ。そんなこと、考えなくたって解るだろ!
どうしたって、オカシイだろ! もう、止めてやれよ!  もう酷いこと、すんなよ!!」







無駄に熱い…



posted by 白黒ぼたん at 23:50| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記

2017年09月04日

こんなの絶対おかしいよ






最初の一発はイツキが止める間も、梶原が避ける間もなく
綺麗に、梶原の頬に入り、梶原は横に吹き飛ぶ。
黒川にしては力の半分も出してはいないが、気が立っている分、少々荒くなってしまったのは仕方がない。



「失せろ。ガキには関係のない話だ」



努めて黒川は感情を抑えた声でそう言って、うずくまる梶原の服を適当に掴み、扉の外に引きずり出そうとする。


梶原は、

馬鹿な梶原は手足を振り回し、しまいには黒川の腕を掴み、必死に食らいつく。



「…イツキだって…俺と同じ、ガキじゃんか。ガキに手、出してるのはあんただろう、おっさん!
オカシイよ、……こんなの絶対、オカシイよ!!」




イツキと出会い、アレコレを知ってしまって以来、ずっと抱えて来た疑問が
ここに来て一気に爆発してしまった梶原だったが
それは、最悪のタイミングだった。

この関係がオカシイ事ぐらい、黒川とて、重々解っている。
それをあえて、この、何も関係のない男に言われる筋合いは、無い。






「……マサヤ…、………駄目ッッ」




部屋に、鈍い殴打の音と、イツキの悲痛な叫びが響いた。







マサヤ「おっさん」
最近のNGワードw

そしてタイトルは「まどマギ」で☆
好きなんですよ〜ww
posted by 白黒ぼたん at 20:57| Comment(2) | TrackBack(0) | 日記

2017年09月05日

冷たい視線








「………相手は素人の高校生ですよ?………まったく、呆れた……」



床に散らかった書類やらを片付けながら、一ノ宮は盛大な溜息をつく。
黒川はソファに座りテーブルに足を投げ出し、憮然とした顔のまま、返事もしない。

 




一ノ宮が事務所に戻って来たのは数時間前。
扉を開けると仁王立ちの黒川と、足元にうずくまる梶原と、それを泣きながら気遣うイツキの姿が飛び込んで、
一瞬で、大体の状況を察した。

『……とにかく、出ましょう』

と、一ノ宮はイツキと梶原を事務所の外に出す。
ひとしきり暴れたであろう黒川は、怒りのピークは過ぎたようで、何も言わずに背を向けるだけだった。






「………イツキは、どうした?」

尋ねる黒川に、一ノ宮は冷たい視線を向ける。
しばらく黙っていたのは、せめてもの、抗議のつもりだった。


「………品川のマンションに送りました。……その前に、裏の病院に行きましたよ。
梶原くん、骨は行かなかったようです。打撲と…内出血と……」
「…ふん」
「……通報は…どうでしょうね。向こうの親御さんがどう出るかですが…。また後で話をしに行きますが……」
「適当に金でもやって、黙らせろ」



黒川の言葉に、一ノ宮はまた冷たい視線だけ向ける。
さすがに一ノ宮も、今回は、黒川に非があると思っていたし



実のところ黒川も

自分が悪いと、思っていた。





posted by 白黒ぼたん at 23:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記

2017年09月06日

築30年、団地の5階







病院で処置を終えた梶原は、イツキとタクシーで、自分の団地の部屋に帰る。
頬に青アザができ、口の端を切り、腹と太ももに蹴られた痛みが残るくらいで、幸い大きな怪我ではなかった。

あの男が手加減をした訳では無いだろうが。
まあ、脅し半分。怖い目に遭わせて追い返そうとして、多少、行き過ぎてしまったという所。





「……大丈夫だよ、イツキ。……俺、歩けるよ…」


そう言って気丈にも梶原は微笑むのだけど、イツキは梶原の身体を庇いながら階段を上がり、一緒に部屋に入る。
前に一度、訪れたことがある部屋。
イツキは梶原を居間に座らせ、自分は台所に向かい、水や、濡れたタオルやらを用意する。


「……イツキ…」
「…………ごめん。………梶原。………本当に、……ごめん……」


イツキは梶原よりも青い顔をして、嗚咽を噛み殺しながら、そう言う。
テーブルに水のコップを置くイツキの手は震え、カタカタと音を立てる。


「…ごめんは俺だよ、イツキ。出しゃばった。……なんかさ、言い争ってる声聞いたら、もう我慢出来なくてさ…。
ついカッとなって…、中、入っちゃった…。………ははは」

「………ごめん……」

「だから、いいって。お前こそ、平気?………あの人、怒らせたの…」




この期に及んでも梶原はイツキを気遣う。
イツキはそれが、ただただ申し訳なくて、泣きそうな顔のまま頭を左右に振るだけだった。





posted by 白黒ぼたん at 23:37| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記

2017年09月07日

呑んだくれ黒川







事務所の近くの赤提灯。
すでに日付は変わって深夜。
大将は店を閉めたくて黒川をチラチラと見るのだが、黒川は物憂い表情のまま、一人、コップの冷酒を飲み続けていた。



「……今日はご機嫌ナナメですね、社長」


顔なじみの大将は食器の片づけをしながら黒川に声を掛ける。
黒川はふんと鼻を鳴らし、お替りとばかり、空のコップをカウンターに置く。




「………ああ。どうせ、俺が悪いよ」
「ふふふ。いい子と喧嘩ですかい?」
「嫌なら嫌と、最初から言えばいい。……突然、ブチ切れやがって…、馬鹿が」



大将は日本酒の一升瓶をとり、黒川と、自分のコップにも酒を注ぐ。
もう他に客はいないのだし、これは長くなりそうだなと、半分、諦める。

黒川は注がれたコップを受け取り、勢い、煽る。
実は大分飲み過ぎていた。呂律も多少、回らない。



「……俺だって、考えていない訳じゃない。……まだ、イケるトコロだろう?……クソ」
「まあ、構って欲しいとか、甘えたいとか…。そんなんじゃないんですかねぇ」
「……甘えたい?………そんなタマかよ、あいつが…」


勿論大将は何の事情も知らないが、まあ、商売柄、適当な相槌は打てる。
そしてそれはあながち、間違えてもいない。



「…誰だって、いつだって思ってるんでさ。本当は甘えたいってね。……可愛いモンじゃないですか」




大将の言葉に黒川はもう一度鼻を鳴らして、手元の酒を、飲み干すのだった。





posted by 白黒ぼたん at 22:54| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記

2017年09月09日

普通の毎日の続き








次の日の朝。
聞きなれないアラーム音で、イツキは目を覚ます。
一瞬、ここがどこなのか戸惑うものの、すぐに梶原の部屋だと気付く。


『おはよう。用事があるから先に出るぜ。身体はもう大丈夫!
お前も、遅刻でもいいから学校来いよ!!』


テーブルの上に目覚まし時計と、梶原のメモ書きが残されていた。
とりあえず、問題なく学校へ行ける状態なのだと、一安心する。

イツキは、
とても、学校に行ける状態ではなかったが……
それでも、梶原が「来いよ!」と言うのなら、…義理というか、友情というか…、無理をしてでも行くべきなのだと思う。

テーブルに残されていた鍵で戸締りをして、イツキは一度、自分の部屋に帰った。




黒川がいたらどうしようかと、まず、気配を探るも、その姿は無かった。


夕べからあの男は、謝罪どころか、電話もメールも、夢さえも、何一つ連絡が無かった。


イツキはまだ、この先を、考えていなかったが。
それを考え始めると、もう何も手に付かなくなってしまうことが解っていたので
今は、止めておく。



目の前にある事をひとつ、ひとつ、片付けていく。

シャワーを浴び、制服に着替え、牛乳を一杯飲んで、学校へと向かった。






「お、意外と早いじゃん。エライエライ」

イツキが学校に着いたのは、3時間目が終わる頃。
教室に入るといつもと同じように、梶原が明るく声を掛ける。
顔には、大きめの絆創膏と、そこからはみ出す青馴染みが見えたけれど

後は、別に、何も。変わらず、普通の毎日の続きがあるようだった。





posted by 白黒ぼたん at 21:51| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記

2017年09月11日

思い出した事






昼休み。
イツキと梶原が食堂でコーヒーを飲んでいると、大野が血相を変えてやって来る。
梶原が怪我をしたのは、どこかから聞いて知っているらしい。

梶原…ではなく、イツキの前に仁王立ちになり、勢い余って、イツキの肩口をトンと小突く。



「……イツキ、お前のせいなのかよ?……コレ」
「………えっ……」

「大野。やめろよ」



イツキが事を理解する前に、それを察した梶原が大野を止める。
けれどそんな事で大野の怒りは収まらない。
大野にしては珍しい、強い口調で、イツキに捲し立てる。



「…お前絡みなんだろ?…こんな物騒な事、そう、ねぇだろ? 喧嘩か?お前の周りのアブナイ奴らと…、…お前……テルが今、どんな時期か、知らない訳じゃねぇだろう!?」

「…止めろって、大野」

「止めねぇよ。お前もよく普通でいられるな? …今日だったんだろ?…面談……理事センセー達の。
……優等生の、…特待生が、…こんな顔で、……!!」



後半、言葉を詰まらせた大野は……梶原の代わりに泣いているようだった。




それで、イツキは


梶原が、大事な面談を控えていた事を思い出し
それが、今日の午前中に行われた事を、知ったのだった。





posted by 白黒ぼたん at 20:48| Comment(2) | TrackBack(0) | 日記

2017年09月12日

決意







「……もう気にすんなよ。……別に、大したアレじゃないよ。
自転車で転んだ、とか…言ってさ。うん。…別に、平気。
……まあ、ちょっと…渋い顔されたけど…。大丈夫。合格すれば問題ないから…」




午後の授業も放課後も、イツキはずっと机に突っ伏したまま。
逆に梶原の方が気を遣い、イツキに明るく、話を振る。

勿論、まったく問題が無いはずが、無い。
特待生の条件は、学業優秀はもとより、模範的な生徒であること。
それが、顔面に、明らかに暴力を受けた傷を付けていたとなれば、面談の教師たちが渋い顔をするのも当たり前だろう。



「な。とりあえず、メシ食いに行こうぜ。結局、約束、まだだったもんな」



梶原がイツキの背中をぽんぽんと叩くと、ようやく、イツキは顔を上げる。
泣き腫らした目と、頬に残ったシャツのシワの跡が、なんとも痛々しい。


目が合うと、梶原は、優し気に微笑む。
それだけで申し訳なくて、イツキは顔を背け、視線を逸らす。
立ち上がり、カバンを取り、荷物を片付け始める。

逆に、困ったように梶原は、小さく鼻息を鳴らす。




「イツキ。本当に。昨日も言ったけどさ。コレは俺が勝手にやった事なんだから……」
「梶原」
「…ん?」

「もし、梶原が困ることがあったら、俺がどうにかするから。……絶対」




視線は合わせないまま、イツキはそう強く、静かに呟いた。




posted by 白黒ぼたん at 21:37| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記

2017年09月14日

チョコレイトパフェ







イツキと梶原が駅前のファミレスで食事をしていると
イツキのケータイが鳴る。
一瞬、呼吸と心臓が止まる。



「………はい。………はい、…一緒です。……駅前の…、………はい」



そして、程なく二人の前に現れたのは




一ノ宮だった。




「……ああ、やはり。腫れが目立つようになりましたね、痛みはありませんか?」
「…大丈夫です」
「お食事中に申し訳ない。…少々お話をと思いまして…」

「………一ノ宮さん、………マサヤは?」


来ても困るのだが、当事者がいないのもどうかと。
それでも、一ノ宮が苦い顔で、頭を左右に振るので、イツキは少し安心する。

今は、まだ、会いたくはない。






「……単刀直入に。…梶原くん」
「…はい」
「…どう、されますか?……今回の件、親御さんは、何か仰ってましたか?」
「え?……親…は、知らないです。……俺、今、一緒に住んでないので…」


運ばれて来たコーヒーを一口のみ、一ノ宮は話を切り出す。

イツキは食後のデザートを食べながら、ちらりと、二人の様子を伺う。





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2017年09月15日

一ノ宮の提案







「…それは…、良かった。…いえ、こちらとしては穏便に、事を収めたいと思っていまして。…出来れば、梶原くんとの話し合いのみで、解決出来ればと思っています」

「……それ以外の解決方法って…、あるんですか?」




イツキの隣に座った一ノ宮は正面の梶原に、穏やかに、…それでもいつになく威圧的な空気で話を進める。
イツキはチョコレートの付いたスプーンを舐めながら、自分は、どちらの立場にいるのだろうかと考える。




「明らかに暴力事件です。警察に届け出をし、しかるべき法的措置を取る事も出来ます」




そう話す一ノ宮を、驚いた顔で見遣るのは、イツキだった。
それはごく、当たり前の提案なのだろうが、とても画期的で斬新なもののように思えた。




「しかし、それには、イツキ君の事を説明する必要もあるでしょう。
ご存じかと思いますが、……我々とイツキ君の関係は、特殊で…
結果によっては、少々困る事態になるかと………」


一ノ宮は言葉を濁し…、わざわざ、小さく溜息を付き、隣のイツキを憐れむように、見る。



「…我々は勿論、相応の処罰は覚悟しておりますが…、イツキ君は……

場合によっては病院や、……矯正施設などにやられてしまうかも知れませんね……」




一ノ宮の話は提案のように見えて、その実、選択肢などは無いのだ。




posted by 白黒ぼたん at 22:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記

2017年09月17日

示談







「……俺、別に、警察とか…訴えるとか…、そんな事は考えてません。
…イツキが困る立場になるとか、そんなのも、嫌だし。

今回の事は、俺が急に飛び込んで、口出して…、勝手にやった事だから、
……怪我も、自業自得だと思っています。

ただ……、俺……。やっぱり、黒川さんの、イツキへの態度はオカシイと思います。
…イツキだって、嫌だって言ってるんだし、もっとちゃんと…、話し合いとかちゃんとした方がいいと思います。

それが出来ないんだったら、イツキが今のまま、酷い状態なんだったら、俺も黙ってられません。なんか、手、考えます!」




鼻息も荒く梶原は、そんな正論を吐く。
正し過ぎて頭がクラクラしそうになりながらも、イツキはどこか嬉しい。
一ノ宮は、どう思っているのかは解らなかったが、変わらず、静かに微笑む。


「ありがとうございます、梶原くん。あなたのような方がイツキくんの友達でいてくれて、本当に良かったと思いますよ」


そうやって、示談交渉は無事に終わるのだった。







一ノ宮から出された封筒を、梶原は一度は拒否するのだけど、怪我をさせてしまったお詫びと治療費なのだからと、強引に受け取らせる。

ファミレスの会計も一ノ宮が支払い、地下の駐車場に停めていた車で梶原を家まで送り、帰り際には用意していた菓子折りまで持たせた。

後で梶原に聞いた話だと、その菓子折りにも封筒が入っていて、そこにも多額の現金が入っていて、

返そうと連絡を入れたものの、どの封筒ですか?と、はぐらかされてしまったそうだ。






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2017年09月19日

水溜り







一ノ宮に車で送ってもらい、イツキは、自分の部屋に戻って来た。
実際、ここ数日の出来事が目まぐるし過ぎて、どこか現実味がない。


続いた、仕事と、小野寺とのやり取りで、身も心も擦り切れ…、とうとう、堪えが効かなくなってしまった。
黒川に啖呵を切ったことは後悔していないけど、やはり、そのせいで梶原に迷惑を掛けてしまった事は、自分のせいだと思う。




梶原のお節介と、黒川の暴力気質を差し引いても、………自分が悪い。
頑なにそう思い込んでしまうイツキが実は一番の被害者なのだけど、もう、そんな事には気付きもしない。





黒川からの連絡は、未だ、一切無かった。
一ノ宮に様子を尋ねてみたが、『さあ、どうでしょう…』と首を傾げるばかりで、何をしているのかも解らない。

怒っていると、思う。

自分を、以前のような「商品」として扱えばいいと、自分で言ったのだから
実際、そうなったとしても、文句は言えない。
もっともそれは、今までと、さして変わりのない生活なのかも知れない。






「…………あっ…」



ぼんやりと考え事をしていたら、
水の入ったグラスを、テーブルに倒してしまった。
慌てて、そこいらにあったタオルで、テーブルを拭くのだけど




水溜りには、知らずに零れた涙が、ぽたぽたと落ちていくばかり。







posted by 白黒ぼたん at 22:07| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記

2017年09月20日

報告







「……まあ、梶原くんの方は大丈夫でしょう。幸い、怪我も大した事はありませんし、親御さんにも見られてはいないようですし。
何より、イツキくんの為にと、事を公にすることを避けてくれると……、ふふ。良い子ですね」



事務所に戻った一ノ宮は、ざっとそんな報告をする。
黒川は相変わらず不貞腐れた様子で、足をテーブルに投げ出し、ソファに深く座っていた。




「…ああ、ただ、彼、受験を控えているそうで…、奨学金を貰うそうなのですが、そちらの方で問題が少々…。
大事な面談があったそうなのですが、あの顔の怪我ですからね…、どうでしょうね…。
影響が無いとよろしいのですが……
イツキくんが酷く心配していましたよ。自分のせいだと気に病んでしまって……」




そう話しながら、一ノ宮は部屋の隅の冷蔵庫から缶ビールを二本取る。
ソファの、黒川の向かいに座ると、一本は黒川にやりもう一本は、お疲れさまという風に少し傾けてからタブを開ける。

飲みながら、ちらりと、黒川の様子を伺うも
黒川はまだ、そっぽを向いたまま。子供じみた態度を見せる。





黒川のような男が、
素人の、しかも高校生に手を上げるなど、あってはならない事だった。
それを、簡単に、してしまう程、
イツキが絡むと、黒川は、実は冷静ではいられない。
………それは、本人が一番良く解っている事で、……一番、認めたくない事だった。





『それほどまでに、イツキくんが愛しくて、大切なのでしょう?』と
言えば、また機嫌を損ねるのだろうと思い

一ノ宮は小さく、小さく、笑った。





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