2017年09月21日

一ノ宮のおススメ








缶ビールを2,3本空けて、仕事の話も一通りし尽して、時計を見ればすでに深夜3時。
一ノ宮はテーブルの上を片付けて、そろそろ、帰ろうかという所。


「明日は池袋に寄ってから来るので、遅くなります。…20時に渡辺建設と打ち合わせの予定は、変更ナシですか?」
「……ああ」
「…イツキくん、同伴で?」
「あいつは『仕事』なら、別に構わないらしいぜ」


黒川がそう言って、馬鹿にしたように鼻で笑うと
一ノ宮はチラリと一瞥し、「はあ、そうですか」と、どうでも良い返事をする。

上着を羽織り、カバンを持ち、戸締りをして事務所を出る。
どこかに飲みに行くかと黒川が誘うも、一ノ宮は丁重にお断りする。
通りに出て、タクシーを止めようと手を挙げる。




「………今回ばかりは…」



背後の黒川を振り返りもせず、一ノ宮が呟く。


「…何だよ」
「早急に、素直に、イツキくんに謝る事をお勧めしますよ」
「俺がか?…悪いのは、俺か?」

「そうでしょうね」





やがて止まったタクシーに乗り込み、一ノ宮は、帰ってしまった。
一人残された黒川は、…誰もいないマンションに帰る気もせず…、どこかまた、夜の街へと消えていくのだった。






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2017年09月22日

五分五分







学校の廊下の奥で角を曲がろうとしている加瀬を見付け、イツキは猛ダッシュでその後を追いかける。
加瀬は途中からイツキの存在に気付いていたようで、逃げる様に小走りになるのだが、
所詮、校内のことなので、やがて追い付かれてしまう。



「………加瀬…先生、………話が………」
「困るよ、私に話し掛けないでくれよ」
「……だって…、……電話も、メールも…出てくんな…い……」



イツキにしては頑張ったようで、息を切らし、無駄に喘ぎながら加瀬のスーツの後ろを捕まえる。
加瀬は観念したようで、辺りをキョロキョロ伺いながら、なるべく人目に触れない物陰へと身体を移動させる。



「何?……もう、困るんだよね、君……」



以前とは打って変わったつれない態度。
もっとも、黒川に脅され、下半身丸出しの哀れな恰好で逃げ出す羽目になったとあれば、それも仕方が無い。


「……せんせ…、………梶原…、どうなったの……?」
「…ハァ?」
「梶原。…面談、あったんでしょ?……何か、言われた?」
「……ああ、あれね…」


加瀬は一度眼鏡を外し、また、正しい位置に掛け直す。
目の前のイツキの距離が近すぎて、一瞬欲望がよぎるも、どうにかそれを堪える。




「……あの怪我、君絡み?……あのヤクザ相手?
あれはマズいよ。どこが模範的な生徒だって、スポンサーから怒られたよ。
志望校に全部受かって五分五分。
奨学金の返納はどうかな……。まあ、進学用の補助金は…、無理かもね……」



それだけ言って、後は取り付く島もなく、加瀬はイツキから離れて行ってしまうのだった。





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2017年09月23日

カネカネカネ






「…だから、大丈夫だって。……まあ、ちょっと渋い顔はされたけどさ…。
それでも必要な成績は取って来てるんだし、受験も…、まあ、合格圏内だしさ。そこは、頑張るし……」



教室の隅で、イツキと梶原は、努めて小さな声で内緒話をする。
イツキと加瀬に以前身体の関係があった事や、そのせいで加瀬と黒川が一揉めあった事は伏せながら、イツキは梶原に、今回の影響がどれくらいあるのかを聞く。

それなりの大学に合格しさえすれば良い、という訳ではない。
学校としては、今後の指針となるべく梶原に期待し、投資をしたのだから、それが回収出来ないのであれば、相応の手段に出るだろう。
梶原がこの学校に入るにあたっての奨学金。受験に際しての準備金、大学進学のための補助金…、何とか金、何とか金………

仮に全てが駄目になって、梶原が全額負債しなければいけなくなったら、それはいくらになるのだろうか。
イツキはそれが知りたくて梶原に詰め寄るのだけど、それは梶原にも解らないのか…うまく、話しをはぐらかされてしまう。



「………あのさ、梶原。………変な話だけど…。もし、その…、お金の事でどうこうって事があるなら…、俺……、ちょっとは助けられるかも知れない…」
「止めろよ、イツキ。そういう話」
「……でも、……梶原の学校のこととか…、問題があるのって…、俺が全部原因だと思う…、多分……」
「止めろって言ってんじゃん。イツキのせいじゃねーし」



微笑みながらも梶原の語気は強い。



「…確かに…、シビアに金の話になったらキツイさ。でも、そんなの、自業自得って奴だろ。俺が自分で考えるよ。
なんて言うかさ。…俺も、偉そうな事言っても、…結局自分では何も出来ないのかなって…、それが……、悔しい。
はは。お前も助けてやれない、自分もどうにもなんない、じゃ、本当、救いようがないよな……」



そう言って、笑いながらも、気落ちする梶原に
イツキは、掛ける言葉が見つからない。





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2017年09月24日

馬鹿な子たち







「……なんだ、本当に来たのか。
自分から言うだけあって、仕事熱心だな、イツキ」




三日ぶりに顔を合わせた黒川が最初に言った言葉がそれだった。







馴染みの客と会食だと、時間と場所を指定されたメールが来て
イツキは、とりあえず黒いスーツを着てその場へと赴く。

……自分だって、少々ヒステリックになり過ぎたのだし、
黒川から、詫びの言葉の一つでもあれば、……まだ考えがある。
そう思って来たのだけど、相変わらず

黒川は、馬鹿にしたような薄笑いを受かべ、軽口を叩く。





黒川は

イツキの出方を伺っていた。

『仕事』の予定を伝えたら、どうするのか…。拗ねて、もう嫌だと言うのなら、それでも良かった。
確かにここ暫く無理をさせたとは思っていたし、行き過ぎて、手も出てしまった。
涙を浮かべて甘えてくれば、それを許してやるくらいの寛大さは持ち合わせていた。



それでも、
時間通り目の前に現れたイツキは、きっちりと、仕事用のスーツを纏い
泣き言も言わず、表情も変えず、黒川をチラリと一瞥しただけで、大人しく部屋へと入って行く。



それを見て黒川は、つい


掛ける言葉を、間違えてしまった。






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2017年09月25日

営業用イツキ







黒川と二人の時は何も話さず、そっぽを向いていたイツキだったが
客人が来ると、営業用の笑みを浮かべ、いつもと変わらない素振りを見せる。
目の前に並ぶ料理を嬉しそうに眺めたり、日本酒に、少し酔ったフリをしてみたり、
男の下品な冗談も軽く流して、艶っぽくはにかんで見せる。


黒川は、そんなイツキを端で見ながら
本当は、いつもと何一つ、変わっていないのではないかと思う。
この後、男とホテルに行けと言えば、やはり、拗ねて不機嫌になり、


それでも従い。



終わった後に迎えに行き、濡れて疲れた身体を抱き締めてやれば
今まで通り、元通り。
朝には、自分の腕の中に納まり、普通に、「お腹が空いた」とか言っているのではないかと思う。


そうであったら、楽だな、と思う。







「………黒川くん、…いいかな? イツキちゃん、ちょっと借りても…」
「……そうですね…。……イツキが、良いと言うなら……」



お約束のやりとりをして、イツキを見遣ると、イツキは酔っぱらった風なとろんとした目をして、「…はぁーい……」と甘ったれた声を出す。

そして、黒川の方に顔を向けると




一瞬で、酔いの醒めた厳しい表情に戻り、しばらく無言で睨んでは…

いつもの営業用イツキに戻るのだった。





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2017年09月26日

秋明菊







店を出て門扉までの少しの間。
石畳のアプローチに、ほろ酔いのイツキが足元を引っ掛けそうになると、すかさず、黒川が腕を掴む。



庭木のナナカマドの葉は赤く、秋明菊は薄紫の花を咲かす。



「…大丈夫か?」
「……大丈夫」
「そうじゃない。……いいのか、この後?」



向かい合って、視線を絡める。
イツキが姿勢を直した後も、黒川は腕を掴んだまま、一応、この後の予定を確認する。
自分から「仕事」を振ったくせに、イツキがそれを二つ返事で引き受けると、それはそれで…気にはなるのだ。

どうにも、このところ、イツキの行動が、オカシイ。
もっとも、おかしい訳ではなく、単に黒川がイツキを理解出来ていないだけ。



「………俺は、……いいけど。……マサヤは?」
「……ん?」
「マサヤは、いいの?……俺が、…行くの」





「…イツキちゃん、車、来たよ。さ、早く、早く」



黒川が返答を探している間に、門の外にいた男がイツキに声を掛ける。
イツキは「はーい」と返事をして、黒川に捕まれていた腕を、引くと

「………帰りは、送ってもらうから。……迎えに来なくても、いい…」

そう言って、黒川の元を、離れるのだった。






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2017年09月27日

串5本盛り合わせ、塩






事務所の近くの焼き鳥屋で、黒川は一人、酒を飲んでいた。
カウンターしかない、小さな、細長い店。
一ノ宮を誘ったのだが、まだ仕事が残っていると、フラれてしまった。
呼び出せば、喜んで飛んで来る女性が、いない訳ではないけれど
あえて、そういった手合いと飲みたい気分でもなく、手酌で日本酒を煽る。


イツキは
今までなら、少しくらい機嫌を損ねても
なんとなく流れて、元に戻って来た。
今回は
何かが違っている。
どこか見えない場所の大切な糸が、ぷつんと切れてしまったようだ。





店の扉がガラリと開く。
暖簾をくぐって入って来たのは、佐野だった。


「…社長、すんません。コレ、オヤジさんが持って行けって……」
「佐野、か。よくここが解ったな」
「事務所に寄ったら一ノ宮さんが教えてくれたんすよ。…一人なんすか?」


佐野は西崎からの預かり物を届けに来たらしい。
小さな紙袋を黒川に渡すと、黒川は興味なさそうにそれを脇に置き、代わりに、隣の席に新しいグラスを用意させる。

付き合えと言うことなのか、佐野はぺこりと頭を下げて隣の席に座る。



仕事の話と、新しくオープンしたクラブの話。先日、西崎と言った焼肉屋の話など、どうでもいい話をいくつかして、煙草に火を付ける。

注文した盛り合わせの皿が出て来たあたりで、ようやく黒川は



「佐野。……最近、イツキと、会ったか?」



と、尋ねる。


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2017年09月28日

多少、気掛かり







「え、イツキっすか?……いや、俺、最近は……、…多分…」


突然、聞かれて、佐野は戸惑う。
社長の目の届かないところでイツキと関係を持っただろうかと思い返してみるが…、ここ近々はおそらく、無い。


「……イツキ、また何かあったんですか?…いなくなったとか?」
「いや、なんでもない。……お前が三人目じゃないのか」
「…へ?」


佐野が聞き返すも、もう黒川は、何も話さなかった。
佐野は大人しく出された焼き鳥を食べ、酒を飲み、またどうでも良い世間話を繰り返すのだった。








別に、特に、問題がある訳ではないのだけど
それは多少の気掛かりで、黒川の胸に引っ掛かっていた。

イツキは、小野寺の元で、二人の男に乱暴されたと言った。
けれど前の晩には確かに、三人とセックスをしたと言っていた。

勘違いかも知れない。単純に言い間違いかもしれない。話を盛っただけなのかも…
それとも、帰り際にタクシーの運転手とでも、ヤったのかも知れない。

よくある話だとは思うのだけど。




「………糞。淫乱ビッチめ。………三人目は誰だよ…」



独り言にしては、黒川の声は大き過ぎて
佐野は困って、酒を、飲み続けるしかなかった。




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2017年09月29日

三人目







三人目は





ミツオだった。






小野寺の元で二人の男に乱暴された日、イツキが開放されたのはもう、明け方に近い時間だった。
身体のあちこちが痛み、泥のように疲れていたけれど、頭の中は変にチカチカして落ち着かない。
真っ直ぐに部屋に戻る気もせず、なにより、あまりにも惨めな自分を慰めたくて、……適当な相手を探す。



佐野は、黒川に近すぎる。
清水では、後々、面倒が起こりそうだ。
誰でも。それこそ、帰りがけのタクシーの運転手でも良かったのだけど、
結局、イツキは、ミツオの元に行ったのだった。



当然、こんな時間に突然やって来たイツキに、ミツオは酷く驚いたが、追い返す理由もない。
部屋に入れ、熱い茶を淹れ、冷えた手足を温めてやる。

『……ごめんなさい、ミツオさん。……おれ、…ヤな事があって……、まだ、一人になりたくなくて……』



そう言って小さく震えるイツキを、ミツオは抱き締める。

最終的に行為は同じだとしても、それは、イツキの周りにいる男達にくらべればはるかに丁寧で、優しいものだった。





posted by 白黒ぼたん at 21:40| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記

2017年09月30日

左手








一人、黒川は部屋に帰る。
リビングのソファに座り、パソコンを開き、残った細かな仕事を片付ける。

特に急ぎの案件でもないのだが、
一人でやる事もないので、忙しい様子を装う。

水割りの氷が解け、からんと音を立てる。




よく、イツキは黒川の足元の床に座り、テレビを見たり食事をしたりしていた。
黒川は仕事が一区切りつくたびに手を伸ばし、イツキの髪の毛を指に絡めたりしていた。
イツキは大人しくされるがまま。たまに、髪を引っ張られると痛がり、手で払おうとして…
その手を、握られて、そのまま引き寄せられたりするのだった。




傍にいない事が寂しいなど、そんな事を言うつもりはないが
やはりどこか、違和感があり、落ち着かない。
ささいな言い争いや、ひりつく駆け引きが続く時もあったが、そう長くは続かず、すぐに手元に戻ってくると、
………イツキは、何をしても、自分から離れることはないと………、黒川は半ば本気で思っていたので

現状がまだ理解できていない。





無意識に左手を伸ばす。




その先にいるはずのイツキが、いなくて、初めて黒川は虚しさを覚える。
そして、もしかして何か自分のやり方が間違っていたのだろうかと


微かに、思った。







微かかよ!
posted by 白黒ぼたん at 21:04| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記
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