2017年12月01日

タイミング・11








「……はい。…到着」



マンションの前に着き、清水は車を停める。
今度はちゃんと道の端。余裕で他の車がすれ違うことも出来る。

声を掛けてみたものの、清水はまだ名残惜しそうに、ハンドルに手を掛けたまま。
あのまま、本当に、どこか遠くに逃げてしまっても良かったのに。



「……なんか、上手くいかねぇよな、俺達。…ちょっとしたタイミングとかで、変わっていく…」



シートベルトを外し、ぺこりと頭を下げ、車を降りようとしていたイツキに、清水が最後に小さく呟く。
イツキは顔だけを清水に向ける。

本当は好きだった、とか、数日前ならオッケーだった、とか。
もう今更、言っても仕方のない事なので、とりあえず静かに微笑む。



「ご馳走様でした。……じゃあ…」
「……ああ」



けれど、タイミングが悪かったのは、それだけでは無かった。





イツキが車を下りると、丁度目の前を一台のタクシーが通り過ぎ、停まる。

タクシーからは、スーツ姿の男が出て来る。

そして、清水の赤い車が目に付いたのだろう、何気にこちらを振り返り、イツキ達と目が合う。

男は、黒川だった。





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2017年12月02日

タイミング・12







黒川は赤い車の前にいたイツキを見て、どうしてこんな所にいるのだろうと、怪訝な表情を浮かべる。
傍に寄り、車の中を覗き、運転席の清水を見ると、さらに眉間にシワを寄せ、不機嫌になる。

清水も、車の外の黒川を見て、しまった…という顔をする。
まるで無視をして、すぐに車を出してしまおうかとも思ったのだが、黒川がノックでもするようにフロントガラスをコツンと叩くので
仕方なく、外に出る。




「……どうも」

ぺこりと頭を下げ、挨拶をする清水。

「…ホテルにでも行っていたのか?」

清水を見て、イツキを見て、そう尋ねる黒川。

「ラーメン、食べに行っただけ。美味しかったよ」

イツキは意外と普通に、本当の事を言う。
勿論、黒川が信じるはずも無かった。






「…ガキのくせに、盛りやがって…」
「……は?」
「西崎もお前も…、親子そろってヤルしか能が無いのか?…サルか。
少し、大目に見てやっていれば、すぐコレだ。立場をわきまえろ」


珍しく黒川は声を荒げる。
やはり相手が若い男だと、多少、感覚が違うのか。
しかも、先日も問題があった西崎の息子。
ましてや以前、おそらく、好き合っていた二人なのだ。


「……親父と…、一緒にするなよ。……俺は、……違う!」


清水は清水で、父親と同列に扱われた事に腹を立てる。
臆せず黒川の前に立ち、啖呵を切って、睨む。





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2017年12月04日

タイミング・13







赤い車の前で黒川と清水は睨み合う。
背の高さは同じくらいだが、黒川の方が肩幅があり大きく見える。
父親の話を出されて、清水は、激高する。
それを持ち出される事が一番気に入らないのだと、本人も黒川もよく知っている。



「…西崎もお前も一緒だ。ヤル事は同じだろう?揃いも揃って、人のモノに手を出しやがって…」
「イツキは物じゃねぇだろう!……そんな風に考えてる自体が間違ってる…」
「偉そうな口を叩くなよ、ガキ。溜まってるなら、他所で抜いて来い。阿呆め」




口汚い罵り合いは、黒川に分がある様だった。

「…なんなら、相手を世話してやろうか?……穴が開いてりゃ、何でもいいだろう?」

と、最後に付け加え、馬鹿にしたようにニヤリと笑う。
さすがに清水もカチンと来たようで、鼻息を荒くし、拳を握りしめる。



殴ってしまえばいい。そして、イツキの手を引いて、車に乗せて
今度こそ、どこかに、逃げてしまえばいい。
そんな思いが清水の頭をよぎる。



一触即発の緊張感が漂う。








「………えっと…」



二人の間を割って、ようやくイツキが口を開く。



「まだ、話、続く?……俺、部屋、入りたいんだけど…、寒くて…」






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2017年12月06日

タイミング・14








「……はぁ?」



気の抜けたイツキの言葉に、黒川も清水もほぼ同時に振り返り、呆れた声を上げる。


「……お前、誰の話をしていると思ってるんだ?」
「えー、だって俺、今日は本当に、何にもしてないもん」


凄んだ顔のまま黒川がイツキに詰め寄るも、イツキはあっけらかんとし、それでも本当に寒いようで自分で自分の腕を抱えている。

コートの中は部屋着、足元は素足につっかけサンダル。
11月の夕暮れ時には、確かに寒い恰好だし、冷静に考えれば、こんなナリで男とホテルにしけこむとも思えない。

思えなくとも、今更、引っ込める訳にもいかない。




「……お前が、フラフラ遊び歩くから、面倒な事に……」
「マサヤ」




まだ、くだらない御託を並べようとする黒川の服の端を、イツキはきゅっと掴み、清水から距離を取らせるように、自分の側に引き寄せる。
その仕草に、黒川は少し驚いたようにイツキを見下ろし、イツキは、聞き分けの悪い子供をたしなめるような顔で、黒川を見上げる。



「マサヤ、もうお終いにして。そんなに心配しなくても、俺、ちゃんとマサヤの所に帰って来るでしょ?」





そんな事を言って、イツキは、ニコリと笑う。

そして清水は、部外者は自分なのだと、知る。




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タイミング・終








イツキに見つめられ、おまけにニコリとされた黒川は、とりあえず、ふんと鼻息を鳴らし、
最後にもう一度清水を睨んだ後、くるりと背を向け、マンションに入ってしまった。

どうやらこれで、一頻り済んだようだと、イツキもほっと胸を撫でおろし
清水にも、ふふ、と笑顔を向ける。



「……ごめんなさい、先輩。マサヤ、うるさくて…」
「あ、ああ…、いや、俺も悪かったな…、……疑われるような事、して」
「気にしないで下さい。ああいうコト言うの、マサヤのお約束なんです」
「……なんか、お前、……変わったな…」



少し寂し気に清水はそう言う。
黒川との関係に思い悩み、疲れて、自分に甘えて来た頃が懐かしい…などと感傷に浸る。

イツキが穏やかに過ごせるのなら、それが一番良いことなのだけど
無条件で喜んでやれるほど、まだ、気持ちの整理はついていない。



「…じゃ、先輩。…ありがとうございました」



イツキはぺこりと頭を下げて、小走りでマンションへ、……黒川の元へ戻っていく。


清水はその背中を見送りながら





自分は、どこで何を間違えてしまったのかを、考えていた。







おわり





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2017年12月07日

イツキの勝ち








「本当にラーメン食べに行っただけだよ。美味しかったよ、味噌味で、叉焼がとろとろで…」
「……ふん」



部屋では黒川がすでに、グラスに酒を注いでいるところだった。
イツキは冷蔵庫からチーズとプリンを取って、ソファの黒川の、足元に座る。


「だいたい、あいつがここに来る自体、オカシイだろう。いつも、入り浸っているのか?」
「今日はたまたま。本当は遊びに行こうかって言ってたんだけど、ナシになって…。でも、ご飯だけなら…って」
「ふん。そのついでに、ヤるんだろう?…どうせ」

「ちゃんと会って、話して、けじめ、付けなくちゃって、思って」



そんな事を言うイツキを、黒川は意外な顔で見下ろす。
イツキはプリンのスプーンを舐めながら、小さく小さく、溜息をつく。



「……けじめ、か。はは。まるでお前ら、デキていたようだな」
「デキてないけど。……良い人だったよ。……俺、色々、助けてもらった……」


言いながらイツキは、身体を傾け、黒川の足にもたれ掛かる。
足元にまとまる姿はか弱く、儚げで、妙な征服欲をそそる。
……解ってやっている訳ではないと思うのだけど…、甘える仕草。




「………マサヤは、もっと俺に優しくしないと、駄目だよ…」





仕上げに、そんな事を、言うのだった。





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2017年12月08日

前髪







「………あれ。……クロゼットの中、片付けたら、すぐ向こうに行くって…言ってなかった?」
「……ああ。明日の朝イチで仕事が入ってる…」
「…いいの?」
「…ああ。……また、一ノ宮に怒られるがな……」



ベッドの中で一仕事終えた後、イツキが思い出したように、言う。
この部屋を引き払い、本格的に向こうのマンションに居を移すために、色々と片付けものの最中だった。
黒川の私物はほぼほぼ無いのだけれど、それでも、多少は残っている。



「…適当に、段ボールにでも詰めておけ。……お前の好きなオモチャもな…」


向かい合わせの黒川は、そう言って意地悪く笑う。
崩れて、眉毛にかかる前髪。嗅ぎ慣れたワックスの匂い。
探せば、白髪もあるだろうが、そう目立つわけでもない。
おそらく、歳の割には若々しい。壮健というか、絶倫というか…。


「……マサヤってさ…」
「……うん?」
「……あー…」



『歳の割には若いよね』と言いかけて、やめる。
さすがにこれを言っては、黒川の機嫌を損ねるだろうと、イツキにも解る。



「………前髪、下ろしてると、……可愛いね」




代わりに、そう言うと
黒川は目を見開いて、驚いた様子で、息を飲み込むのだった。







はい。しばらく
ゆるふわラブラブ月間ですw
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2017年12月10日

夕方の事務所







『イツキの奴…、最近、…生意気だな…
少し様子が変わったか…?、調子に乗っているのか?

だいたい、仕事の話も、最初はあいつがヤルと言ったんだぜ?

……まあ、西崎のセガレとのアレコレを詮索されたくなくて、だろうが…、

それでいて、仕事が過ぎると、キレて、結局モメて、
面倒だからチャラしにしてやったら、いい気になりやがって…

遊ぶだけ遊んで、こっちに一緒に住むだの、何だの…
新しい炊飯器を買えだの、乾燥機を買えだの、女房気取りか?…まったく

……あいつの料理なんぞ、食えたもんじゃ無いぞ?
何でもかんでも醤油っ辛くしやがって…、……まあ、不味くはないが…、いや、

とにかく…、…クソ、……面倒だな……
ああ、明日、配達から連絡が来る。
あと、週末には用事を入れるな、イツキが、ウルサイからな……』







「……と、話していましたよ」



ざっと、おおまか、かいつまんで、一ノ宮はイツキに、黒川の愚痴を伝える。
イツキはふふふ、と笑って、その話を聞く。


「…ごめんなさい、一ノ宮さんに迷惑、掛けちゃってますか?」
「いえ、それは元々ですからお構いなく」
「……ふふ」



夕方の事務所で
イツキと一ノ宮は静かにコーヒーを飲む。

確かに、ここ数日で、二人の印象はかなり変わったと、一ノ宮も思っていた。






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2017年12月12日

静かな笑顔








「…なんだか、この間、爆発して、言いたい事全部言ったら…、楽になったっていうか…。
別に俺、好きにしてもいいんだな…って…、何、言っても、何、やっても……。
マサヤの傍にいたいなら、いればいいし……、本当に嫌になったら、出ちゃってもいいし…。

そう思えたら、すごい、気持ちが楽になって…、……えっと…」



コーヒーカップを両手で持ちながら、イツキは言葉を探す。
自分の心境を上手く説明したくても、まだ、イツキ自身にも良く解っていないのが実情なのだろう。

それでも確かに、心の枷が外れたように、軽くなったと感じる。
黒川に対しても素直に物が言えるし、思いのほか黒川がそれに対して、きちんと応えてくれるのが嬉しい。



「……だから、まあ、しばらくは……、こんな感じ。またマサヤが『仕事』とか、何とか…、酷いコトさせなきゃいいんだけどね…」

「……しばらくは控える…、みたいな事は言っていましたが…、どうでしょうね……」

「ね。…そう言ってて、また、俺を雑に扱うんだよね…。……繰り返しなのは、解ってるんだけどさ……」



イツキは空になったカップをテーブルに置いて、ソファの上で身体を横向きに伸ばす。
まるで警戒心の無い、気の抜けた様子。一ノ宮の前だから特別に、という訳ではなく、
誰にでも、こんな仕草をして、愛嬌と色気を垂れ流すのが、イツキの悪い癖。




「でも、まあ、それでも、社長の傍にいてあげて下さい。あなたがいないと、彼は、仕事になりませんから」




一ノ宮がそう言うとイツキは顔を上げて、ニコリと笑い
一ノ宮もその笑顔をみて、静かに、微笑むのだった。






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シャンプー







真夜中。
黒川は仕事を終えて、部屋に帰る。
この後の誘いを全て断るのは億劫だったが、取りあえずまた今度と、店の女性の手を振りほどく。

スーツに染みた、甘い香水の匂いが鼻につく。







「…おかえりなさい」
「………なんだ。起きていたのか」


玄関も廊下も真っ暗だったが、リビングには小さな照明が灯され、ソファにイツキが座っていた。
もっとも半分眠っていたのか、毛布に包まっている。


「寝るなら、ベッドに行けよ」
「ん。……マサヤの顔、見てからと思って…。……じゃあ、寝るね。……おやすみ」


そう言うとイツキは、ずるずると毛布を引き摺りながら、寝室へ入って行った。





帰りを、待たれるなど、若干面倒臭いな……などと思いながら、黒川は風呂に入る。
甘ったるい匂いもようやく無くなり、濡れた髪をタオルで拭きながら、水を飲もうとキッチンに向かう。
流しの横には、トレイに、伏せたままのグラスが二つと、取り皿と、箸。
冷蔵庫の中には何か作った料理なのか、ラップが掛けられた皿が入っていた。







黒川も、寝室へ入る。


ベッドの中ですでに寝息を立てていたイツキを、抱き締める。


イツキの髪の毛から、自分と同じ、シャンプーの匂いがした。






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2017年12月13日

功労者







「……引っ越しした?」
「うん」
「え。……あのマンション、もう、居ないの?……今、どこ?」
「…新宿の方。…前から言ったり来たりだったんだけど、まあ、そんな感じ…」



イツキが派手に遅刻をした日の昼休み。
イツキと梶原は食堂で、久しぶりに一緒に昼食を取る。
久しぶりだと、話すことも聞くことも多くて、梶原はどれから手を付けてよいのか、焦る。
とりあえず目の前のかき揚げうどんを流し込んで、今日の遅刻の原因を聞く。


「寝坊したし、電車でどれくらいかも解らなかったし。…やっぱり、タクシーにすれば良かったよ…」
「…へ…え。……それって、……あの人と…、一緒って事?」
「うん」
「……上手く、……行ってるんだ?」
「んー、……まあね」




イツキは少し考えながらそう答え、笑い、自分の山菜そばを食べ始める。



黒川と、上手く行っているのだと聞いて梶原は、正直なトコロ、少し複雑だった。
黒川と仲違いしたからと言って、自分と親密になる訳でも無いのに。

つい数日前まで、思い悩み、沈んでいたはずのイツキは、いつの間にか吹っ切れたように、明るく微笑む。
梶原は、その変化のどこにも関わることが出来なかったと、少し、気落ちする。





けれど今回の件の一番の功労者は、梶原なのだと

イツキはちゃんと、解っていた。

そして、いつか、助けて貰った分を、きちんと返すことが出来ればいいと

静かに、思っていた。






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2017年12月15日

艶声








本当の所を言えば梶原は、イツキと黒川の関係を、諸手を挙げて賛成している訳ではなかった。
理由は、今更。
ただ、イツキが辛くなく、不憫でなく、幸せに笑っていられるのなら、まあ、それも仕方がないのかな、と思っていた。


昼食を終え、トイレに寄った梶原は、廊下の隅で
先に教室に戻ると言っていたイツキが、電話をしている姿を目にする。
周囲の雑音に紛れてはいるが、意外と、普通の声。
話の内容が聞かれるのではないかと、こちらが、ドキドキする。






「……おはよ。……今、起きたの?……もうお昼だよ。……え?
俺、学校だよ。……行くって言ってたじゃん、……本当に学校だよ。ちゃんと、電車で……。
……朝?、声、掛けたよ?……マサヤ、返事してたよ?……ふふ、寝ぼけてたんじゃない?


…帰るのは…、夕方。……マサヤ、いないでしょ?……今日も遅い?……え?
…………やだよ、そんな時間から焼肉なんて。……今度、休みの日にね、……ん。


………ん。……解ってるってば。………」





通話を終えて、一人、くすくすと笑いながら、ケータイをポケットにしまい、教室に入っていくイツキを見ながら


梶原は、まあ、イツキが幸せなら、それもいいのかな…と、ぼんやりと思う。


そうして、梶原は、


収まりのつかなくなった愚息をたしなめに、もう一度、トイレへ戻るのだった。






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2017年12月17日

丁度ええ







午後の授業も終わり、
この後、ラーメンでも食べに行こうと言う梶原の誘いをサクッと断り
イツキは教室を出る。


端で見物していた清水が、自分は先日イツキと二人きりでラーメンを食べた、などと
つまらない自慢をするのは、また別の話。


前に住んでいた部屋を経由せず、新しい部屋に向かう道順は、まだ慣れない。
それでなくとも電車が苦手なのだ。同じホームに、違う行き先の電車が入って来ることが、意味が解らない。
それでもどうにか無事に目的の駅に辿り着く。
駅ビルの食料品街で、主婦に交じり、夕食の買い物などをする。



「……でも、マサヤ、食べないんだよなぁ…。ほぼほぼ、いないし。
俺が学校の間は寝てるし、夜は、仕事行くし。……すれ違いの生活ってやつか!」



総菜のパックを手にしながら、イツキはひとりごちて、笑う。
せっかく同じ部屋に暮らしているというのに、一緒にいられる時間は短い。
けれどイツキは言うほど、残念に思っている訳ではない。
むしろ、始終べったり寄り添われるよりは、この位が丁度良いような気がする。


一緒にいる時は、溶け合ってしまうほど、濃密な時間を過ごすのだから。







部屋に帰り、買ってきた食材を冷蔵庫にしまう。

流し台には、昨日用意していた皿が、空になって、置かれていた。




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2017年12月18日

食べ頃







その夜、黒川は一ノ宮と一緒に、取引相手の事務所を訪れていた。
仕事の話をいくつかして、不動産絡みの書類に押印する。
役所や、一般の企業も関わる案件は、とにかく手続きが面倒で手間が掛かる。
一通り終わった後は場所を変えて、取引相手と酒を飲む。
呼ばれて、華やかな女性が隣に座った時には、すでに日付は翌日に代わっていた。


黒川は腕時計に目を落とし、一ノ宮に、そろそろ出ようと目配せする。
一ノ宮も好きで同席している訳ではないが、なかなか、酒宴を抜けるタイミングは難しかった。



「…黒川くん、あの子、呼んでよ。…黒川くんの秘蔵っ子。…イツキくん、だっけ?」


少し白髪の交じった初老の男は、眼光鋭く、洋酒のグラスを傾ける。
イツキとは以前何度か、引き合わせた事がある。
別段変な趣向も無いし、金払いも良い、上客だった。


「……あれは、…最近、表には出さないんですよ」
「この前もそんな事、言ってたじゃない。…出し惜しみ?、…やらしぃなぁ…」
「はは、そんなものじゃ無いですよ。…あれも、もう、とうが立ちましたから」
「まさか、まだ未成年でしょ?……今が食べ頃じゃない」



男はそう言って、笑う。
黒川も付き合い、愛想笑いを浮かべる。

一ノ宮は隣で酒を飲みながら、成り行きを伺う。





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2017年12月20日

苦笑い








「…あの子、いいよねぇ…。可愛いのに、色っぽくて…。……会いたいなぁ…」
「……申し訳ない」
「…駄目?」
「…申し訳ない」


一度断られてもまだ食い下がる男に、黒川は、曖昧な笑みを浮かべ、やり過ごす。
代わり、にもならないが、新しいボトルを入れ、店の綺麗な女性を隣に並べる。

ムキになって大喧嘩をする程、男も馬鹿ではない。
過分な接待に、とりあえず、その場は収めることにする。



男とて、別に相手に不自由はしていない。
商売女も素人でも、イツキのような少年だって、用意できる立場だろう。

…それでも、「イツキ」は別格だったし、何より
自分の手に入らないという事が、余計に、男をその気にさせた。





結局、この夜はこれ以上何事もなく、終わる。
『次は必ずね』と、帰りがけに言う男に、黒川は最後まで苦笑いを浮かべる。






「………クソ。……あのエロジジィ…。…いい気になりやがって。……クソ」


帰りのタクシーの中。少し酒に酔った黒川は、憮然とした表情で悪態をつく。

横に並ぶ一ノ宮は、まあまあ、とたしなめながらも

どこか、楽しそうなのだった。







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