2018年01月08日

最初の事件・1







12月の末。
イツキが部屋に帰って来たのは、真夜中に近い時間。
とにかく身体を綺麗にしたいと、すぐに風呂場に向かい、熱いシャワーを頭から浴びる。

黒川は、取引相手と泊りがけの忘年会で、戻るのは明日になると言っていた。
その良し悪しは別にしても、とりあえず、今はまだ、顔を合わせたくないと思っていた。




無理やり拉致され、強姦されるのは、珍しい事ではない。

だからと言って、慣れている訳でも、平気でいられる訳でも無い。

何度経験しても、怖い思いをすることに、変わりはないのだ。




風呂から上がり、なるべく鏡を見ないようにして、髪の毛を拭く。
こんな時の自分の顔を見るのは、一番、嫌いだった。
台所に行き、カップに牛乳を注ぎ、レンジで温める。
熱くなり過ぎたカップを両手で持ち、湯気の立つ牛乳を啜るも、少しも身体は温まらない。
半分ほど飲み、諦めて寝室に向かい、ベッドの中に潜り込む。
布団を頭から被り、身体を丸めてみるのだけど、カタカタと身体の芯が震える。




やはり、
黒川に会いたいと思った。
電話やメールでは、上手く説明出来そうもない。
直接、目の前にして、事の次第を話し、
馬鹿だの、迂闊だの、一通り叱られてから、
抱き締めて欲しいと思った。




イツキはまだ混乱していて、
自分の身に起きた事を、きちんと、処理出来ては、いなかった。








あけおめことよろでございます。
そして新年一発目がコレでございます。
今年もいっちゃんには色々起こりそうな予感。
みなさま今年もどうぞ、ご贔屓にw
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2018年01月10日

最初の事件・2







特別に油断して歩いていた訳でも、色気を振りまいていた訳でもなく。

普通に学校の帰り、駅までの途中、たまたま人の目が無くなった頃合。
気付くと恰幅の良い男が数人、イツキの周りを囲み、銀色の刃物をチラつかせながら、車に乗れと誘導する。
まず、無理な事は解っていたが、一応の抵抗はしてみる。
けれど案の定、簡単に捕まり、車に押し込められ、目隠しと手枷をされる。

付け込まれる隙を見せたと言われれば、そうかも知れないが、それではどうやれば防げるのかを、逆に教えて欲しい。




『……誰?……俺、知ってる人?………こんな事、オカシイって…、……あとで酷い目に遭うんだから…』



と、もっともな事を言って、通じる相手ではないだろう。
明らかにイツキを知っていて、手を出しているのだ。
以前関係を持った誰かが、ただもう一度、イツキを抱きたかっただけなのか、それとも、

何らかの思惑で、黒川の女を貶めたい輩がいるのか。
理由はまだ、解らないが。



『…大人しくしていれば、怪我はさせない。…夜には、帰してやる』



囁かれる声は意外に優しく、イツキは戸惑う。
戸惑う事は、それだけでは無く、他にもあって…
イツキはそれを考えないようにと、目をぎゅっと瞑り
とにかく時間が過ぎることだけを、ひたすらに待っていた。








翌日の昼過ぎ。
何も知らない黒川が、部屋に戻る。





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最初の事件・3







帰って来た黒川は、普通に、疲れたとネクタイを解きながらソファに座る。
イツキはコーヒーを淹れ、黒川の前に置き、自分は
いつもの黒川の足元…ではなく、ソファの黒川の隣に座る。


「……うん?」
「俺、レイプされちゃった」


別段、何でも無かったことのように、イツキは明るく、そう言って見せる。
黒川も一瞬驚いた顔をしたものの、すぐに、どうでもいいという風に、ふんと鼻を鳴らす。


「馬鹿め。酔っぱらって、街中でも歩いていたのか?」
「違うよ。…学校の帰り。………急に…」
「知っている奴か?」
「わかんない。……知らない人…だと、……思う」


黒川はもう一度、ふんと鼻を鳴らし、煙草を口に咥える。
ライターをカチカチとさせるも、火は、なかなか着かない。



「………ちょっと、…………怖かった……」





小さな、小さな声で、隣のイツキが呟く。


黒川は、火の着かないライターをテーブルに投げ、


傍らのイツキを抱き締めた。






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2018年01月11日

最初の事件・4








「……学校の帰りという事は…、お前のコトをかなり調べているんだろうよ。
行動範囲が解っていて、その中で、人の目が少ない所を選んだのか…」
「……マサヤ、心当たりって…、……ある?」
「あり過ぎて、解らん」



また数時間後には出掛けなければいけない黒川は寝室には行かず、
ソファに横になる。
腕の中のイツキはソファから落ちないようにと、ぎゅっと黒川に、しがみつく。


「…俺、…ちょっとだけ、顔、見たよ。……目が、しゅっとした感じの…、若い人」
「……ふん」



それだけの情報では、どうにもならないのか、黒川はつまらなさそうに鼻を鳴らす。



「…まあ、何か思惑があるなら、向こうから、アクションがあるだろうよ。
……お前、しばらくは大人しくしていろよ。一人でプラプラ出歩くな。学校だって、もう、休みなんだろう?」
「……ん」
「気を付けていたって、ヤられるのがお前の十八番だからな。まったく…」
「……ねえ、マサヤ?」



半分ソファから落ちかけていたイツキは、身体を起こし、黒川の腹に乗る様に覆いかぶさる。
間近で正面から顔を見据え、何か言いたいことがあるのか、口を薄く開き…

…やはり、止めたという風に、口を噤む。





「……なんだ?」
「……ううん。……なんでもない」








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2018年01月12日

最初の事件・5








「……なんだ?」
「……ううん。……なんでもない」
「…思い出して、その気になったか?…今は、ヤらないぞ?」
「違うよ!……………ばか」


黒川の軽口にイツキは声を荒げ、そして、顔を隠すように、黒川の胸に顔を埋める。
黒川も、それ以上は詮索すること無く、そのまま、イツキの身体を抱く。

二人にしては珍しく、服を脱ぐこともなく、黒川が出掛ける時間のギリギリまで
そうやって狭いソファに、身体を寄せ合っていた。








数時間後には黒川は事務所に赴き、細かい仕事をいくつか片付ける。
天気の話のついでのように、一ノ宮に、イツキが乱暴された事を伝えると、とたんに一ノ宮の顔は険しくなる。




「………池袋、ですかね?」




思い当たる事でもあるのか、咄嗟にそう言う。
黒川も、それは思っていたようで、別段表情も変えない。


池袋には、黒川の叔父がいる。勿論、本当の血縁ではなく、その筋の繋がりだ。
もう還暦を迎えたあたり。情に厚く、義理堅く、黒川とも良い関係を保っているのだが…
ここ数か月、叔父の身内で、多少のイザコザが起きていた。
平たく言えば跡目争いで、叔父の台頭を快く思わない若い勢力が、あちこちで争いを起こしていた。


黒川も何度か赴き、事の調停に関わっていた。
その争いが、イツキにまで被害を及ぼすとは思えなかったが…、不安材料の一つではある。



「……どうだろうな。……まだ、解らんがな。……そうじゃなくとも、あいつを狙う奴は、多過ぎる」
「…安売りし過ぎましたからね。今更、イツキ君があなたの恋人だと言っても、なかなか信じ難いでしょう。まあ、自業自得ですが…」



さらりと一ノ宮は正論を突くも、自分がそれを言ったことに気付いていない。

黒川だけが驚いた顔をして、目を丸くし、一ノ宮を見遣るのだった。





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2018年01月13日

最初の事件・6







黒川が出掛けてしまい、イツキはまた部屋に一人。
ソファに寝転びながら、思い出したくも無い、あのレイプの時間を思い出す。








『…大人しくしていれば、怪我はさせない。…夜には返してやる…』


目隠しをされ、胸の前で両手首を束ねられ、腰の上に馬乗りされては、いくら優しい声で囁かれても、簡単に信じられるものではない。
とりあえずイツキは両手ごと、闇雲に振り回してみるのだが、結局その手は頭の上に引き上げられ、おそらくベッドの支柱に結ばれてしまった。


『……………や…』



無防備に晒された胸に、男の手が伸びる。
こうなってしまったら諦めるしかない。時間が過ぎるのを待つことだけが、唯一自分に出来ることだと、イツキには痛いほど解っている。
唇を噛みしめ、感覚を遮蔽し、ただただ、行為が終わるのを待っていた。



けれど、どうも、様子が違う。
今までに経験した、乱雑なレイプとは、……勝手が違うのだ。



身体の自由が利かなくなったイツキの胸を、男は、丁寧に舐めつくす。
好き嫌いはともかく勃ってしまう乳首を喰み、舌先でコロコロと転がす。
痛みの半歩手前。くすぐったさと感じてしまう所の中ほど。丁度良い加減で責め続け、同時に手が下半身に伸びる。

弄られる、と思ったが…、なかなかそこに、刺激は来ない。
イツキが無駄に腰をビクつかせると、男はイツキの耳元に顔を寄せ、聞き取れるかどうか境の小さな声で



『………かわいいな。………いい、反応だ。………もっと、気持ち良くしてやる』



と、囁く。



イツキは、今、自分を抱いているのは、…………実は、黒川なんじゃないだろうかと、……思う。





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2018年01月15日

最初の事件・7








吊るしたハムかベーコンのように、くるんと身体を裏返される。
両手を繋いだロープは軋むも、腕はそう、痛くはない。
ジェルを垂らされ、そこいらに塗りたくられる。
男は背中に重なり、自身の塊を、イツキの尻の膨らみの間に挟む。

硬さと、大きさと、熱が解る。
すぐに挿入されるでもなく、ゆっくりと前後に動かされると、息が止まる。



「………ふ……」



うなじにチロチロと舌を這わされ、声が漏れる。
……イツキも勃起しているのか、うつ伏せだと挟まれ擦れる。
けれど、腰を浮かせると、まるで男のモノを欲しがっている格好になる。



「……まだ、時間はあるでしょ?……慌てなくていいよ」
「…………や、………ちが……」




耳元で囁かれ、耳たぶを舐められ、イツキがくすぐったそうに肩をすくめる間に、
男の指が一本だけ、イツキの中に差し入れられる。

指先を鉤のように曲げ、中を引っ掻き、ぐるりと回し、
抜けるか、抜けないかの所を何度も往復し、また奥まで差し入れ、揺らす。

男の舌先はイツキの耳たぶから首筋、肩を伝って、背中へ。
執拗に真ん中のくぼみを舐め、同時に、中に挿れた指を少しだけ動かす。



イツキは「………く」と小さく鳴いて、中で、達してしまうのだった。






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2018年01月17日

最初の事件・7







一度、始まってしまえば、止められないのはイツキにも解っていた事で
感じてしまわないようにと、どんなに強く唇を噛みしめてみたところで、身体の芯が溶け出してしまう。
こうなっては、手遅れ。
手の平で背中を摩られただけでも、後ろ髪を軽く引っ張られただけでも、新しい快楽の波が襲い、飲み込まれていく。


後ろで、男が可笑しそうに、ほくそ笑んでいる様子が解る。
こんなに良い玩具は、そう、あるものでは無い。




「……やっ、………やだやだ、やだ……、や…あ………ん」




我慢していたのに、一際大きな声が漏れてしまったのは
男が、今度はイツキの入り口を、舐め始めたからだった。
すでに十分解され、挿入するための準備はいらない状態なのに、ただただ、イツキが悦ぶためだけの愛撫を施す。
くちゃくちゃと指で掻き回し、押し開き、舌を差し入れ、汚い水音を立てる。
一度達した身体は敏感になり過ぎていて、イツキは腰をくねらせ、悶える。





「……………や………」
「うん?…………ふふふ」




同意もなく強引に連れ去られ、乱暴されているという事を、忘れてしまいそうになる。
必死に嫌がり抵抗し、隙があれば逃げ出さなければならない、など、思いもつかない。





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最初の事件・8








喘ぎの合間に扉がノックされる音がした。
時間を急かされているようで、男は顔を上げ、「……ああ」と短く応える。
身体を離すとイツキはぱたりとベッドに伏せる。
このまま流されてしまえば、もう、どこに行ってしまうか……酷く不安。


男はもう一度イツキの身体を返し、仰向けに戻す。
その時、少し目隠しが外れ、一瞬だけ、男の顔を見る。
男はすぐに目隠しを直し、そのまま、唇を合わせる。
イツキは、入って来た舌を噛み切ることを、忘れる。



「…悪いね。…次はもっと、時間がある時にね」


唇の上でそう囁き、また身体をずらし、イツキの両足を抱える様に持つと
中心に自身のものを押しあて、何の躊躇いもなく、挿入した。
一突きで、イツキの中は十二分に満たされる。
それだけの硬さと質量だった。




当然。
イツキにはもう、物事を考える余裕は残っていない。


激しく動かれ、擦られ、打ち付けられて、頭の中がチカチカと光る。

一際強い押しの後、男の動きが止まり、そこでようやく、終わった事を知る。

ずるりと引き抜かれる時には思わず、「………ああ…あ…ん」と、声が漏れてしまった。





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2018年01月19日

最初の事件・9







終わると男は何の情緒も残さず、イツキの身体を離れる。
入れ違いで別の男が入って来たようで、何か小声で話をした後、まだ息も整わないイツキに服を着させる。
あちこちが濡れ、痺れ、シャツのボタンも半分しか留められていない状態で、引きずる様に歩かされ、
車に乗せられ、突然拉致されたように、突然、道端に放り出される。


それでも、そこは、事務所の近くの、イツキも知っている道で
わざわざそこに降ろすという事は、イツキの事を、本当に良く知っている人物の犯行なのだろう。





それが、昨日の夜の話。





イツキはマンションの部屋に一人、黒川と別れた時のままソファに寝転び、まだその事を考えていた。




途中、本当に、………相手は黒川なのではないかと思ったのだ。
力の加減も、差し引きも、酷く、自分に丁度良くて、……それ以上で。
黒川が変な趣向で、自分を驚かせて、遊んでいるのではないかと…、…一瞬、相手の男の顔を見た後でさえ、そう思ったのだ。


『……ねえ、マサヤ。……マサヤ、……だった?』


言いかけて、口を噤む。
そんな筈はないのに、半ば、そうだったら良かったのにと、思った。






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2018年01月20日

最初の事件・終








イツキは自分で、自分が、……セックスに溺れ易いという事は解っていた。
好きでも嫌いでも、合意があっても、無くても…、始まってしまえば拒むことは出来ない。
今までの経験上、そうしてしまうことが一番、自分の心と身体のリスクが低いのだと、言い訳にしてきたのだけど。
それにしても、あまり欲しがり過ぎては、ただの色欲にまみれたケダモノになってしまう。


自分をケダモノにするのは、黒川だけで十分だと言うのに。




「………いや、別に。……良かった訳じゃないし、…たまたま、なんか、ツボに嵌っただけ。……うん、………そう」



自分自身に言い聞かせるように、声に出して、言ってみる。
腕を回し自分の身体を抱き、ソファの上で小さく丸まる。



「……馬鹿、……俺。……ただ乱暴されただけじゃん。……事故だし。……これっきりだし………」





形にならない、なんとも言えない不安を、必死に拭い、無かったものにする。



それでもイツキはやがて、自分が何を怖がっていたのかを、知ることになる。



これが、最初の事件。





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2018年01月22日

確認







アレコレ仕事を片付けて、部屋に戻ったのは深夜三時。
夕べは泊まりの付き合いで、帰ってからはイツキの話に付き合い、事務所では揉め事が起きたと西崎の話を聞く。
さすがに、眠気と疲れで頭がチカチカする。

風呂に入るのも諦め、台所で水を一杯飲んでから、寝室に向かう。
すでに眠っているイツキを壁側に追いやり、空いた場所に、身体を横たえる。




「…………マサヤ」




起こしたのか、起きていたのか。
イツキは身体をこちらに向け、腕を伸ばし、俺に抱き付く。



「………おかえり」
「…ああ。……起こしたか」
「…半分」
「…なんだよ、半分って…」


寝ぼけ具合も丁度半分。
小さく笑い、イツキの頬に手をやり、唇を合わせる。






眠る前に、イツキを抱く。

イツキは、それを待っていたように、素直に綺麗な声を上げる。

いつもより、俺の名前を呼ぶ回数が、多いような気がする。





目の前にいる男を、確認しているのだと、思った。





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2018年01月23日

嫌な予感








朝、と言うよりは昼に近い時間。
清水は、学校へ向かう。

高校三年生の12月の末。
年明けに受験を控えている者は家で勉強をしていたり、それ以外の者は家でのんびりしていたりで、学校は、ほぼ、自由登校状態だった。
それでも出席日数を稼ぐため、とりあえず顔だけ出す程度と、清水は欠伸を噛み殺しながら校門をくぐる。


同時に清水の後ろで車が停まる。
学校には似合わない、黒塗りの高級車。

……嫌な予感は、ピタリと当たる。




「……解ってるってば。帰りはタクシーで帰るよ。……俺だって、ヤだもん、もう。
……事務所に行けば良いんでしょ?……電話するから。
……ちゃんと、するから。………あっ」



助手席が開いて、イツキが運転席の男に話をしながら、下りて来る。
ふと、視線を感じたのか振り返り、清水を見つけると、小さく声を上げる。



「……お、……は、よう…ございます……」
「………はよ」



あまり良くは見えないが、運転席の男は、黒川なのだろう。
清水は取りあえず、睨みつける。

黒川とは先日、イツキとドライブの後に、一揉めあったきり。
黒川はイツキを粗雑に扱い、かと思えば気まぐれに溺愛し、イツキを惑わす。
いくらイツキがそれでも良いと納得していても…、気に入らない事に変わりはない。





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2018年01月24日

黒川の気遣い







「……誰だ?」
「あ。…えーと。清水先輩…」
「……ふん」


車のドアに手を掛けながら、イツキと黒川はそんなやり取りをする。
ふいに黒川が、清水の姿が見える位置まで身を乗り出し、チョイチョイと手招きする。



当然清水は面白くはないが、無視するわけにも行かず、車に近寄る。




「……なんスか。…俺、何にもしてないっすよ、まだ」
「そう突っかかるなよ。……あのな、お前、今日、イツキの傍にいろ」
「……はぁ?」
「悪さはするなよ?まあ、タカが知れているがな。……じゃあな」



最後の言葉はイツキに言ったのか。
黒川はイツキを見遣り、そしてもう行けとばかり手をひらひら振り、車のドアを閉めるのだった。






走り去る車を見送り、イツキは困ったように笑って、清水にぺこりと頭を下げる。
つい先日には、イツキと清水が一緒にいたからと目くじらを立てて激怒していた男が、今日は「傍にいろ」とはどういう事なのか。
清水は呆気に取られた顔で、イツキを見る。


「……なんだよ、アレ」
「えーと。…何でしょうねぇ…」




得体の知れないレイプ犯より、清水の方が安心と、判断したのだろうか。


黒川の気遣いは、イツキにも清水にも、解りにくいものだった。





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2018年01月26日

さみしい清水








登校してみたものの、教室に人はまばらで、ほとんど、自習の状態だった。
梶原も、どこかで別の勉強をしているらしく、姿は見えない。
最近はメールも控え目で、あればあったで面倒なくせに、連絡が無いとなると…少し寂しい。


「……みんな、大変そうだね…」


空いていた隣の席に腰掛けていた清水に、そう呟く。
清水は暇そうに頬杖を付き、何か言いたげに、イツキをジロジロと見る。


「……お前は、最近、どうなんだよ…って、もう、聞くのも、飽きたよな…」
「……ふふ」
「黒川さんも、訳わかんねー。今日はお前の傍にいて、黙って、指でも咥えて見ていろってか?」
「…ごめんなさい。あんまり、気にしないで…。マサヤの考えてるコト、俺にもよく解らなくて…」


そう言って困ったように微笑む割には、イツキと黒川の間には、お互いにしか知り得ない親密な絆があるようで、清水は、妬ける。
いつの間にか、すっかりイツキは、黒川に戻ってしまったのだと気付く。


「……ふん」


つまらなそうに清水は鼻息を鳴らす。



「……ああ、俺、就職決めた。……埼玉の鉄筋屋」
「……えっ」
「…春から寮暮らし。…まあ、まだ、間があるけどな…」
「…そう、……なんだ…」




清水の突然の宣告に、イツキは驚き、言葉を無くす。
明らかに動揺し落胆する様子に、清水は、それだけでも少し、嬉しい気がした。






posted by 白黒ぼたん at 21:29| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記
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