2018年01月27日

黒川の冗談







「…学校に行かせたんですか?……学校の帰りに拉致されたのでしょう?…危険ではないのですか?」
「昨日の今日でまた手を出すようなら、どこにいたって一緒だろう。…一人でプラプラ出歩かなければ、まあ大丈夫だろうよ」
「……はあ…そうでしょうかね…」
「行っておかないと、卒業出来ないんだと。……呑気な奴だ…」



事務所で一ノ宮にそう話し、黒川は笑う。
心配が無い訳ではないだろうが、部屋に一人でいても、自分と一緒にこの界隈にいさせても、万全ではない。
だとしたら、人の目が多い学校にいるのも、まあ悪い案ではないだろう。

ふいに黒川は手を出し、親指と人差し指で5センチほどの隙間を作る。


「……ふふ。あいつ、……これぐらい小さければ、ポケットに入れて持ち歩くんだがな…」




それが黒川の冗談だと気付いたのは、しばらく間が開いてからだったので
一ノ宮は特に反応することもなく、受け流す。






「……そうそう、池袋でまた一揉めあったようです。組の部屋住みが、金を持ち出して逃げたようで…」
「見つかったのか?」
「それがどうも、匿っている者がいるようです…。…おそらく、若頭補佐の笠原が絡んでいるのではないかと……」
「……そうか…」




煙草に火を付け、黒川は、深いため息を一つ付く。
叔父貴が若頭を務める池袋の組織では、こういった揉め事が頻繁に起きていた。






posted by 白黒ぼたん at 22:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記

2018年01月30日

呼び水







「うそ。マサヤ、いないの?……来いって、自分で言ったくせに…」
「はは。急に用事がはいりましてね。入れ違ってしまいましたね」
「……まあ、別に、いいけど…」


学校が終わり、言い付け通り黒川に連絡を入れ、タクシーで事務所に向かったイツキだったが、
黒川は不在だった。


イツキは不機嫌そうに頬を膨らませ、ソファに座る。そんなイツキに一ノ宮はコーヒーを淹れてやる。


「すぐに戻るので待つように、と。……学校は、どうですか?もう、冬休みの時期ではないのですか?」
「ん。今週いっぱいまで。……まあ、みんな、ほとんど居ないんだけどね……」


コーヒーを受け取るとイツキは両手で持ち、唇を寄せ、少し寂し気な表情を浮かべる。
……結局、今日一日会えず終いだった梶原や、春からは遠くへ行ってしまう清水の事を思い出したのか。
いずれ離れる進路の事は、あまり考えないようにしていたのだが、……心の奥底が不安定な時は、呼び水のように不安が増す。



自分でも気づかない内に、深いため息を一つ付く。




「……先日の、…事故も、災難でしたね。……身体に別状はありませんか?」
「………ん」
「社長も心配していましたよ。……突発的なものなら、問題も無いのですが…、…ああ、無い訳ではないですね、失礼」



うっかり言葉が過ぎた事を、一ノ宮が詫びたところで、
扉が開き、黒川が戻って来る。
ソファのイツキに軽く目をやり、そのまま待っていろと言う風に手を挙げ、一ノ宮に仕事の話を振る。




イツキは大人しくコーヒーを飲みながら、




「突発的」では無い「事故」なら、どんな問題があるのだろうかと、考えていた。






posted by 白黒ぼたん at 23:25| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記

2018年01月31日

ツンデレ







仕事も一段落し、黒川とイツキは事務所を出る。
部屋までは歩いて行ける距離だが、車を置いてあると、近くの駐車場に向かう。


「何か、食って行くか?……大久保の焼肉屋が……」
「んー。……帰りたい…かな。マサヤも車で出掛けちゃったら、飲めないでしょ?」


風邪が冷たい12月。
コートの襟を立て、気持ち猫背で、歩く。

黒川と一緒だとしても、
まだ、この街の夜を、出歩く気分にはならない。

さすがに外で、手は、握れないけれど
イツキは黒川の真後ろ、背中に隠れる様に、ぴったりと寄り添う。



「…くっつくな。…歩きずらい」
「……ねえ、マサヤ。……この間のアレ、犯人、解った?」
「さあな。……心当たりが、あり過ぎる…」



黒川はイツキを見る事もなく、ぶっきらぼうにそう答える。
イツキが不安げにうつむいている事には、気が付く由もなく。
先刻事務所では一ノ宮が、『黒川も心配している』と話していたけれど
それはどこまで本当の話だろうと、思う。




駐車場に着き、黒川の車に向かう。
手前でロックが解かれ、イツキは助手席側に回り、ドアを開ける。

座ろうと身体を傾けたところで、先に運転席に入っていた黒川が「気を付けろ」と言う。
イツキは何の事だろうと思ったが、助手席に小さな紙袋を見つけ、それを手に持ってから、座る。


何気に、目を落とすと



袋の中には、イツキの好きな和菓子屋の、塩豆大福が入っていた。





posted by 白黒ぼたん at 23:04| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記
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