2018年02月22日

病院にて・2







「……マサヤ、俺……」
「ああ、お前は車で待っていろ。そう時間は掛からない…」
「………トイレ、行く…」



黒川は、地下の駐車場にイツキを残して行くつもりだったのだが、それも出来ず。
あまり連れて歩いて、どこで誰に会うとも解らないのに。
仕方なく一緒に車を下り、階段を上る。


「子供か。…まったく。……用足しが済んだらココに座っていろ…、年寄りの隣にいろよ」
「…はーい」


上がった先は病院の総合受付で、広いフロアには人が溢れていた。
まあ万が一、池袋の関係者が来ていたとしても、これだけ混雑していれば紛れてしまうだろう。
黒川は待合のベンチを指さし、自分は入院患者のいる別の病棟へと向かう。
イツキは少し、黒川の背中を見送り、それから小走りでトイレを探し、用を済ませ、ほっとした表情で待合のベンチに戻って来た。


「年寄りの隣」に、座る。


あまり、自分を、外に、……池袋の知り合いに合わせたくないと、思っていたり、
人混みの中、年寄りの隣に座れと言ってみたりするのは…、黒川なりに自分を守ろうとしているのだろうと、…思う。

黒川は今まで散々、自分を雑に扱い、心配することなど微塵もなかったのに
今回は少し、…気を使っているように見える。
実は、全ての元凶は、黒川なのだけど、……身を案じてくれているのが解ると、少し、嬉しい。

受付の順番待ちのアナウンスや、会計の用意が出来たとベルが鳴る毎に、顔を上げ、辺りをキョロキョロ見渡し、黒川が帰ってくるのを待つ。

さすがに、こんな場所では危険はないだろうにと、小さく笑う。





そんなイツキを、少し離れた柱の陰から伺う、黒服の男がいた。



posted by 白黒ぼたん at 22:54| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記

2018年02月23日

病院にて・3







黒川は連絡のあった病室へ向かう。
少し離れた廊下から、見張りとおぼしい男が点々と立つ。
一瞬、空気が凍るが、その内の一人が黒川の顔を知っていたらしく、頭を下げる。

「ご足労頂きありがとうございます。こちらです」

案内され、中へ入る。
個室のそれはまるでホテルの一室のような趣で、叔父貴の腕が点滴に繋がれていなければ、病人だと気付かなかっただろう。



「……いよいよ死んだかと思いましたよ。このクソ忙しい時に、勘弁して下さいよ」
「あっはっは。相変わらず口が悪いな、雅也」


黒川の事を雅也と親し気に呼ぶ男は、名を、円城寺と言う。
黒川もこんな口の利き方をしているが、それだけ気心の知れた間柄という事だった。
他の手持ちで多忙な池袋の組長に代わり、若頭である叔父貴がほぼ全権を握り、組織をまとめていた。
年明けには正式に組長が下がり、跡目を継ぐという話になっているのだが……
……下に控える若頭補佐の笠原が、少々、悪さを企んでいるようだった。




「…肝臓の数値が高くてな、まあ、それだけだ。検査入院だよ」
「相変わらず酒ばかり飲んでいるからでしょう」
「お前に言われたくはないよ、似たようなモンだろう、はは」


そう言って円城寺はまた笑う。
想像よりは悪くは無さそうな顔色に、黒川は一息つく。
煙草を吸おうかと内ポケットに手を掛け、さすがに、止める。
その黒川を尻目に、円城寺はどこぞから煙草を取り出し、口に咥える。




「……笠原が、動いている。……お前の所にも影響があるかも知れん」


火の着いていない煙草を一服やって、円城寺はふんと、鼻息を鳴らした。





posted by 白黒ぼたん at 22:02| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記

2018年02月24日

病院にて・4







待合室のイツキは若干暇そうに脚をプラプラさせ、黒川の戻りを待っていた。
探しに行こうかとも思ったが、止めておく。

…そう言えば以前、…修学旅行の折に、黒川の代理で病院にお見舞いに行った事があった。
…物々しい警護がつく、隠居の元大物ヤクザといった風。確か名は吉田と言った。
黒川とどんな関係なのか、結局聞くことは無かったが…、あれは何だったのだろうかと、そんな事を思い出していた。




突然、カタンと物音がし、驚いて顔を上げる。

目の前を通り過ぎる老人が、持っていた杖を倒してしまったらしい。

イツキは手を伸ばし、それを拾い上げようとする。

ほぼ同時に、別の男がその杖を拾い、老人に手渡す。





「……大丈夫ですか?…お気を付けて」





黒い服を着た男は穏やかに微笑み、そう言い、相手を気遣う。
杖を受け取り老人は礼を言い、その場を去って行った。





イツキは





同じように杖を拾おうと手を伸ばしかけたまま、顔を上げ、男を見る。





男はイツキにちらりと横顔だけ見せ、
……それでも明らかに、イツキに対し、視線を送り……、
何事も無かったかのように通り過ぎて行った。






その声と、纏う空気感を、イツキは知っている気がした。





posted by 白黒ぼたん at 22:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記

2018年02月28日

病院にて・5








イツキは男の背中を見つめる。
一瞬覗いた横顔、視線。声。……黒服に包まれた身体、肩幅、印象、雰囲気。
どれも小さな断片でしかないが、それらを掻き集めて、記憶の先に繋げる。

まさか、そんな筈は無いだろうと思う。
たまたま訪れた病院の待合で、擦れ違うことなど無いだろうと。


それでも、なんとなく、感覚的に




あれは、先日自分をレイプした男なのだと、思った。







男はフロアの奥で他の数名の男と落ち合い、立ち話をしていた。
遠目でも解る体格の良い男達は同じように黒い服を着ていて、その一角は、一種異様な光景だった。


そこに、さらに、見舞いの病棟から戻って来た黒川が通り掛かる。


お互い、顔見知りのようで、軽く会釈をする。
二言三言、会話もあったようだ。
イツキは、あまりそちらを見ないように顔を背け、自分は関係がないという顔をする。
呼ばれて、紹介などされても、今はまだどうすれば良いのか解らない。




しばらくすると、黒川がイツキの傍に戻って来た。
多少不機嫌な顔で「…行くぞ」と声を掛け、地下の駐車場に向かうのだった。







posted by 白黒ぼたん at 23:37| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記
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