2018年03月23日

小話「声色」








それだけで、それが、良い事なのか悪い事なのか、大体わかる。
夜。事務所で黒川の仕事が終わるのを待っていたイツキは、黒川が応対する電話の声に、耳を欹てる。



「………いえ、それは…。は、は。……まあ、そうですが……」



歯切れの悪い物言い。時折、黒川はイツキの顔をチラリと見る。
おそらく、黒川よりも立場の強い相手。もしくは、何か大きな借りでもあるのか。
敬語とまでは行かずとも、丁寧な口調。怒鳴りつけ、電話を投げつける事もない。



「………そうですね。………では、それで…、ええ、明日」



話が付いたようで、電話を切る。
それから、小さく、「……糞」と呟き、深く、溜息を付く。

それきり、部屋は暫く静かになる。








「……イツキ」


重たい緞帳が開くように、黒川はゆっくりと身体の向きを変え、イツキを呼ぶ。

その、声色も、どんな意味を持っているのか、嫌という程、解る。





「……いいよ、別に。……明日でしょ?」





下手な嘘も言い訳もおべっかも、特に聞きたくは無くて、イツキは自分からそう言う。

黒川は、………多分、本心だと思うのだけれど、「…悪いな」と、言った。






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2018年03月24日

小話「梶原」







梶原は受験の真っ只中だった。
直前の模試ではまあまあいい結果が出ていたので、このまま順当に行けば、おそらく、何とか…と、いう所だったが、
こればかりは、結果が出てみなければ解らない。

この時期、授業はほぼ、無い。
梶原は自宅で学習か、登校しても、ずっと図書室に籠りきりになっていた。
場所を変えても勉強の内容はさほど変わらないのだけど、人の目がある外にいる方が、集中出来るような気がしていた。




その日も朝から図書室にいた。
一段落つき手を止めたのは、もう昼に近い時間。
梶原は大きく伸びをして、椅子ごと引っくり返りそうになり、一人で慌てる。

コーヒーでも飲もうかと、食堂へ向かう。



自動販売機で紙コップのコーヒーを買い、いつもより多めに砂糖とミルクを入れる。
日の当たる窓側のテーブルに座り、閑散とする中庭とテラスを眺める。
……少し前に、イツキがテラスのバルコニーから落ちそうになって、慌てた事がある。
結局、慌てたのは自分だけだったのだが、それにしても、危なっかしい奴と、梶原は思い出して笑う。





最近は、イツキと、話もしていない。

これと言った重要な用事でも無い限り、連絡も、して来ない。

もうすぐ受験本番の梶原を気遣っているのか、それとも、本当に、用事が無いのか。

多分、後者なのだろうと思い、梶原はまた笑う。





「……早くケリつけて、メシでも食いに行こう……」

そう独り呟いて、コーヒーを飲む。
そう思うだけで、梶原は、元気になれるのだった。










安上がり…、いやっ、素直なええ子や!

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2018年03月26日

さしたる問題







いつベッドに入ったのか、覚えていない。
部屋で、二人で、買って来た総菜をツマミに酒を飲み
馬鹿笑いを繰り返すテレビに文句を言い、スポーツ中継などを眺める。
ソファの上で半分始まってしまうのは、いつもの事だったけど、
日本酒のせいで、少し酔いが回るのが早かったのかも知れない。


「……あ、大変。ラザニア…、食べないなら、……冷蔵庫、入れとか…な……きゃ……」


と、まるで主婦のような事を言いながら、イツキは簡単に、ソファの上でイかされてしまう。
それから手を引かれ、寝室に向かったのだけど

途中、懸案のラザニアは、きちんと仕舞われたらしい。





一度達した敏感な身体を、再度、最初から、黒川は抱き始める。
逆にイツキは焦れったくて、まだるっこしくて、腰だけを器用に上下に引くつかせ、黒川の腰に摺り寄せる。


「……盛った、猫かよ……」


そう言って黒川は笑い、笑われたイツキは恥ずかしそうに顔を背ける。


その背けた顔を、力ずくで正面に向かせ、黒川は唇を重ねる。


欲しくて堪らないのはお互い同じだったが、せっかくの夜なので、長く楽しむ事にする。




「……あ、」



体勢を変えようと身体を起こしたイツキが、何かに気付き、小さく声を上げる。
ベッドサイドの時計を見たらしい。丁度、0時を回ったところ。



「……今度は、何だよ?」
「…マサヤ、年、明けちゃった……」
「…それが、どうした……」



確かに、大晦日の夜だったのだけど。
ベッドの中の二人には、それはラザニアほど、重要な問題ではなかったようだ。







取りあえず年越しっ(…今頃?)
タイトルが中々決まらず、苦戦……
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2018年03月27日

小さな笑顔









街中は人で溢れ返っていた。
都心の高級店が立ち並ぶ一角。イツキはお使いで店をいくつか回り、すっかり疲れたという様子で、ベンチに座っていた。

年が明けたばかり。
店先のディスプレイも、流れる音楽でさえ、どこもかしこも新年の晴れ晴れしさに溢れている。
行き交う人たちも皆晴れ着を纏い、楽しそうに、幸せそうに、微笑む。





イツキは、この雰囲気が、苦手だった。





およそ、家族や友人や、心許す仲間と過ごすイベントには縁が無い。
羨ましくて妬ましい、と言う程では無いのだけど、自分には関係の無い世界だと思い、居心地が悪い。

笑い合う普通の親子連れなど、一番の鬼門で、イツキはなるべく意識しないように視線を逸らせ、買い物の袋をガサガサとやってみるのだった。











「……買えたのか?……ん、大丸屋の鰹本枯節…そうそう、コレ……かつお節なんざ、どれでも同じだと思うが…、あのジジイ、コレじゃないと機嫌が悪い……」

待ち合わせをしていた黒川が現れ、イツキの荷物を覗き込む。

「お店、すごくいい匂いだったよ。これでおかかご飯とか、美味しそうだよ、絶対」
「……ウチの分も買ったのか。………羊羹の箱も多いな、それも買ったのか……、まあ、いいが……」




ちゃっかり自分用の品物も買っていたイツキに、黒川は呆れたように、鼻を鳴らす。





イツキは、ふふと、小さく笑い、

「……マカロンも、買っちゃった」

と、言うのだった。






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2018年03月28日

留守番イツキ









「明後日の夜には帰る。…別に用事も無いんだろう?無暗に外に出るなよ。
何かあれば佐野に連絡しろ、ああ、でも、部屋には上げるなよ、…どうせ……」
「大丈夫だよ。子供じゃないんだから……」
「そう言って、お前はすぐ揉め事を起こす……」


黒川は新年の集まりで出掛けるらしい。
2,3日留守にするだけなのだが、過保護の親のように、イツキにアレコレ指示を残す。

もっとも、イツキには心配をされるだけの前科がある。
どれだけ気を付けていたとしても、すぐに、問題を引き寄せる、癖がある。



「新潟だっけ?…雪降ってるかな?…お土産、日本酒ね」
「……ふん。呑気な奴」
「…大丈夫だよ。部屋から出なきゃいいんでしょ?…ご飯も、お菓子も一杯あるもん、大丈夫」
「お前の大丈夫はアテにならん」



別に。
イツキが外で、オトモダチ連中と遊ぶ分には、構わない。
けれど今はそれ以外にも、イツキを狙う輩がいる…気配がある。
自分が傍にいない時に、無用なトラブルは避けたい所。
……決して、イツキが心配で心配でならない……、と、いう訳ではない。

と、装う。




「もう、マサヤ。そんなに心配だったら、首に縄でも付けて、部屋から出られないようにしておく?」





イツキはそう言って、笑ったのだけど

黒川の顔を見て慌てて、「……冗談だよ!?」と、付けたすのだった。






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2018年03月30日

黒川のヒミツ・1







「………外に出るなって言ったの、マサヤだよ?」
『ああ。まあ、大丈夫だろう?』
「………まあ、そうだけどさ……、別に、いいけど…」



イツキ、留守番中。
言われた通り大人しく、部屋で適当に過ごしていたのだが
昼間、ふいに、黒川から電話が入る。
馴染みにしている料理屋に、顔を出せとか、なんとか……急いで捲し立てるばかりで、理由は良く解らない。



『今から行けば開店前だ。ちょっと行って、ババァに会って来い、じゃあな…』
「えっ…、お婆さん?……えっ、マサヤ……、え?」


言われた店の名前をメモに残している間に、電話は切れてしまった。
身勝手に、要求を押し付けられる事はしょっちゅうだったが、さすがに呆れて、溜息をつく。

……また、暴漢に襲われてはかなわないと、心配している素振りはなんだったのか。



とりあえずイツキは顔を洗い、濡れた手で髪の毛を整え、服を着替える。
不安が無いと言えば嘘になるが、部屋に引き籠ってばかりもいられない。
まして黒川が行けと言うのなら、行くしかないだろう。
少し、面白い。イツキは、ふふと笑い、半分楽しみながら、出掛けるのだった。






言われた場所は駅から一駅の近さだったが、これも指示通り、タクシーで向かう。
ごちゃごちゃとした街並み、あちこちにハングルの看板がかかり、まるで日本ではないような雰囲気。

その一角の古びた焼肉店。

イツキはタクシーを降り、店の名前の書かれたメモと確認しながら、まだ準備中と札の掛かる扉を開けてみた。





posted by 白黒ぼたん at 21:17| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記

2018年03月31日

黒川のヒミツ・2








店内は普通の焼肉店だったが、壁に掛かるメニューは日本語ではなく、本当に、違う国に来てしまったように感じる。
カウンターの中に若い男の店員がいて、開店前に入って来たイツキに、怪訝な顔を向ける。



「……まだ、だヨ」
「…えっと。…パクさん、いますか?」
「…上。オモテの階段で…」



イントネーションの違う言葉で、扉の外や上方向を指さしながら、そう言われる。
どうやら二階にいるらしい。階段は、外にあるのか。
イツキはぺこりとお辞儀をして、一旦、表に出た。


店の横の細い路地を覗くと、店員の言う通り、階段がある。
二階が住居になっているのかと、イツキは階段を上る。
…こんな焼肉屋に黒川が来ていることは、知らなかったけれど。…別に不思議ではないけれど。
それでもわざわざ訪れるほどの用事とは、何なのだろうか。

『…今日、来いと言ったくせに、連絡が付かん。…ババァめ』

電話口で黒川はそう悪態を付いていたが…、黒川にそんな事を言える人物は、そう多くはないだろうと思う。




階段を登り切った所はアパートのような扉。郵便受けには「朴」と書かれている。
イツキは少し…、ドキドキしながらも…、……来てしまった以上は仕方が無いと、扉をノックする。



『………ハーイ?』


扉の内側から女性の声がする。

「……黒川の、……使いで来ました。……パクさん、いますか?」

『………』




返事の後、少し間が空いて…、ガサガサと音がする。
カチャンと鍵の開く音。外開きの扉が、イツキを押し退ける様にして、開く。






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