2018年04月02日

黒川のヒミツ・3







現れたのは、若い女だった。
切れ長の目、無造作にまとめた金髪。派手なラメの入ったジャージの上下。
訪問者のイツキを上から下まで何度か往復して見遣り、何ごとかと、いぶかしむ。



「………ナニ?」
「……あ、えっと。……黒川に…言われて…来たんですけど………」
「……アー、黒さんねー」



女はようやく事情が呑み込めたという風に頷き、ニコリと笑う。笑うと、普通に可愛い。
イツキは、黒川が『黒さん』と呼ばれた事に、まず、驚く。


「ハルモニから聞いてるヨー。ハルモニ、腰、悪くして、病院行っちゃったんだよ。
…ヤダー、黒さんにこんな息子さんいたなんて、知らなかったよ、アハハー」


女は声を上げて笑う。どうやらイツキを黒川の子供と勘違いしているようだ。
もっとも、年から考えれば仕方が無いことかも知れない。初見で、イツキが黒川の恋人だと気付くのは稀だろう。


「…あ、…その、……子供じゃないです…」
「待っててね、今、持ってくるから」



イツキが慌てて誤解を解こうとしている内に、女はそう言って、一旦部屋の中に戻る。
そしてすぐに、手に、何かビニール袋のようなものを持って、出て来る。





危ない荷物。……薬物や何か…。秘密裏に取引されるようなものだろうか……。

イツキは緊張して身構える。






「ハイ。ちょっと辛く漬かたかも。今回のキムチ」






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2018年04月03日

黒川のヒミツ・4







「……何度か店に行くうちに、そんな事になってな…。持って行け、持って行けと煩くてな。……終いには、丁度いい頃合になると、取りに来いと催促まで来る。…ババアめ…」



翌日。
部屋に戻って来た黒川は、冷蔵庫のキムチを取り出し、忌々し気にそう言う。
タッパーを開け、指先で少し摘まみ、味見のようにぺろりと舐める。
イツキはもうソファに座り、グラスに、黒川の土産の日本酒を注いでいるところだった。



「マサヤにそんな仲良しさんがいたなんて、驚いちゃった。おばあちゃん、腰イタで病院なんだって」
「仲良しかよ、お節介なだけだろう。……まったく」


ふんと鼻息を鳴らし、黒川もソファに座る。それでも心底嫌そうな様子ではないのが解る。
……黒川にも、そんな部分があるのが、どこかくすぐったくて……、イツキはくすくすと笑う。



「……何だよ」
「…んー。別にー」
「……他に、リカコとは何か話したのか?」
「リカコ?……ああ、あのお姉さん。……えーと」


イツキは日本酒のグラスに口を付け、黒川をチラリと見上げる。


「……俺のこと、マサヤの子って、言ってた」



そう言って、思い出したように、またくすくすと笑う。




けれど、リカコと話をしたのは、それだけでは無かった。





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2018年04月04日

黒川のヒミツ・








それは帰り際。
行きはタクシーで来たイツキは、帰りは電車で帰ろうと、リカコに駅までの道を聞いた。
リカコは階段の手摺りから身を乗り出すようにして、通りの向こうを指さす。

『……この道行って、角に薬屋さんあるとこ、右に行くと、駅……』




リカコのジャージのポケットから、ケータイが鳴る音がする。
リカコは電話に出ようと、それを取り、それから話す事を思い出したという風に慌てて顔を上げ、反対の手で、今度は焼肉店の裏側を指さす。




『……アー、あと、駐車場の木、切っといたヨ』
『……駐車場?』
『アパートの。黒さん、邪魔だって言ってたやつ。……じゃあね』




リカコはそれだけ言うと、イツキにバイバイと言う風に手を振り、次の間にはケータイを耳に当て、部屋の中へと入ってしまった。





『………駐車場。……アパートの…?』




イツキは、キムチの入ったビニール袋を持って、階段を下りる。
駅へ向かう道を確認してから、やはり、気になって、焼肉店の裏側に回る道に入ってみる。


細い路地を少し行くと、アパートとマンションの中間のような、古い建物がいくつか並んでいた。
その敷地内の駐車場は、あまり整備されていないようで、あちらこちらに雑草や木が生い茂っていて





その一角に
イツキも見た覚えのある
黒川の車が停めてあった。








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2018年04月06日

ヒミツ・最終話








「……他に、リカコとは何か話したのか?」
「……俺のこと、マサヤの子って、言ってた」
「馬鹿か。……それだけか?」




日本酒のグラスに口を付け、視線だけ、ちらりと寄越すイツキに……何か感じるところがあったのか、黒川が再度尋ねる。
イツキは、「……んー?」と呑気な声をあげるだけで、何も言わない。



おそらく、料理屋の裏のアパートには、黒川の部屋があるのだろう。
車は、自ら運転して移動することもあれば、どこぞに置いて来ることもある。
事務所の駐車場や二人のマンションの駐車場…、その都度、どこに停めているのか、イツキも気にした事は無かった。




別に、黒川のような男が、他に部屋を持っていたとしても不思議ではない。
そこに、誰か……他の恋人を囲っていたとしても、……無い話ではないだろう。
それでもその近辺にイツキを行かせたとなれば、隠す話でもないのか。



黒川にすれば、あえて話しはしないが、という程度の話。
イツキにすれば、黒川が話さないヒミツを一つ知ったという事が、なんとなく楽しい。





「……そう言えば、キムチ、浸かりすぎちゃったかもって…言ってた」
「…確かにな…」





酒のアテにと皿に出したキムチを、また指で摘まんで
黒川は、ふふと、鼻で笑った。







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2018年04月07日

イツキ三杯目








イツキは、部屋に帰るなり、キッチンに入り
棚から日本酒の一升瓶を取り、コップに注ぎ、水のようにごくごくと飲み干す。
自分に、アレコレ嫌な事を考える間も与えず、どうでもよい事と流してしまうには、度数の高いアルコールに頼るしか無くて、
二杯目をグラスに注ぎ、それも途中までは飲んで、溜息を付き、口を真一文字に結び……、残りを飲み干す。



「……はは…は」




意味も無く乾いた笑いを浮かべる。
酔いが回って来るのは、もう少し、先。






帰り道の途中で、苦手な相手に会った。
以前、何度か、相手をした相手。
白昼最中だと言うのに、下品に笑い、イツキの腰と尻を触り、がなり立てる。


「…なんだよ、勿体ぶってねーでヤらせろよ、イツキ。お前のケツなんざ、精液便所だろう?チンポ下さいって、自分で穴、広げて、オネダリしてたじゃねぇか?
…はは、そん時のビデオもあるぜ?今から上映会でもやるか?
たまんねぇよなぁ…、早く、ヨがれよ、オイ!」


他にも、およそ聞くに堪えない暴言を吐き、それは連れの女性が止めに入るまで続いた。





男が言った事は本当の事だし、今更、そんなもので落ち込む程、初心でも素人でもないのだけど、やはり、嫌なものは嫌で
気分を変える為に、ついつい、酒に頼ってしまう。




三杯目の日本酒をグラスに注いだ時、部屋に、黒川が戻って来た。






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2018年04月09日

うそ







日本酒は程よく身体に回り、ふわふわと思考が定まらない頃。
時間は夜の8時。
台所に立ったまま、三杯目のグラスを手に持つイツキは、一見、ただ、水を飲んでいる様にも見えて


黒川は、ちらりと横目で見ただけで素通りし、リビングに入る。



「……早いね、……マサヤ…」
「書類を取りに来ただけだ。……封筒が…、ああ、コレコレ。すぐに事務所に戻る」
「……行っちゃうの?」
「西崎を待たせている」


封筒を手にした黒川はすぐに玄関へと引き返す。
どうやら本当に急いでいるらしく、イツキの様子には気付かない模様。

イツキも、黒川を追って、玄関へと向かう。
身体を斜めにし、ぺたんと壁に頭を付け、靴を履く黒川を眺める。



「………行っちゃうんだ…」
「明日までは帰らない。…夜には出掛けるから支度をしておけ。……黒スーツだ」
「………仕事?」
「いや、違うが…、……まあ、連絡する。……じゃあな」



それだけ言うと、イツキの頭をぽんぽんとやって、そのまま、部屋を出ようとする。






イツキは、自分から離れていく黒川の手を、咄嗟に掴み、腕にしがみつく。





「………なんだよ?」
「俺。……今日はマサヤと一緒にいたい」
「…ハァ?」
「………なんてね。……うそ…」



そう言ってイツキは黒川を見上げ、小さく笑う。





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2018年04月10日

攻防








「……行ってらっしゃい」



イツキは黒川の腕を掴んだまま、そう言う。
黒川は身体を半分玄関の扉に向け、もう片方の手をドアノブに掛け……



もう一度、イツキに向き直る。
そしてようやく、「…何か、あったか?」と尋ねる。
一歩、イツキに近寄り、表情を探る様に顔を覗き込む。
別段変わった様子もないのだけど、…息が若干、…酒臭い。



「……飲んでいたのか?……酔っ払いめ…」
「…だって。ヤなコトあったんだもん」
「何だよ?」
「……大したコトじゃないよ。……行きなよ、マサヤ。……急いでるんでしょ?」


あまり、呼気を嗅がれたくないのか、イツキは顔を背けてみせる。
それはまるで、何かを隠しているのか、拗ねているようにも見えて、余計に気になる。

顔を、こちらに向けようと、黒川は掴まれていた腕で、イツキの身体を引き寄せる。
けれど意外にイツキは身体を強張らせ、逆に、黒川を押し出すように腕を突っぱねる。



「……ほんとに。……大したことじゃ、ないよ。……うそ、うそ。……行って、マサヤ。……俺、何でもないから………」



そう言ってイツキは、明らかな作り笑いを浮かべ、黒川を扉に押しやる。
今になって酔いが回ったか、呂律の回らない口調が、哀れを誘う。



これで『そうか、解った。じゃあな』などと、簡単に引き下がれるハズもないのだけど。
当のイツキは自分が、黒川を惑わし誑かしているなどとは、露にも思っていないのだ。







タチの悪い子だ…笑
posted by 白黒ぼたん at 23:23| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記

2018年04月11日

あと5分









ずっと鳴らし続けていた電話がようやく繋がる。
何か、深刻な事態でも起きているのではないかと心配していた西崎は、その向こうの様子を探る様に、ケータイを耳に押し当てる。


「……社長?……どうしました?……何か、問題でもありましたか?」
「…………ああ、いや。…………大丈夫だ………」


黒川の言葉の合間に、ガサガサと何か音がする。
…まだ探し物が見つからないのか、それともすでに移動中なのか。


「…先方さん、もう着いてるようですよ。……時間が……」
「…ああ。……すぐ、行く。………西崎、マンションの前に車を回しておけ。……あと、5分で降りる……」
「……は……」


西崎の短い返事も待たずに、電話は切れた。









「……クソ…」


黒川は電話を切り、床に放り投げ、小さく悪態をつく。
そして、抱えていたイツキの足を、もう一度持ち上げ、挿入している箇所をさらに密着させる。


玄関先で二人、立ったまま。
イツキは背中を壁に預け、黒川に腰を抱えられて、いわゆる駅弁スタイルで。


こんな所で始めるつもりは無かったのだが、始まってしまったものは仕方がない。



「……少し、イジられたくらいで、ヤケ酒煽りやがって…、馬鹿が……」
「…マサ…ヤ…、……まだ、……むり………」
「…………そんな顔を見せる…お前が、悪い……」






posted by 白黒ぼたん at 21:10| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記

2018年04月12日

みだれ髪








「……なるべく早く、帰る。……それまで部屋から出るな。……そんな、垂れ流しで人前に出てみろ、すぐに、ヤられるぞ……」
「………ヤッたのは、……マサヤじゃん……」



どうにか手短に終わらせて、黒川はトイレでも行った後のように、カチャカチャとズボンとベルトを直す。
イツキは床にぺたんと座り込み、少し恨みがましい顔をして、黒川を見上げる。

確かにヤケ酒を煽り、黒川に愚痴の一つでも零そうかとは思っていたが……
……それでもこんな風に、抱かれるつもりでは無かった。




別に、嫌では、無いけど。




「……夜には、帰る?」
「なるべくな。…鍵、掛けろよ」



情にほだされ、イツキを抱かずにいられなかった自分が、多少滑稽で、照れ臭くて。
黒川は今度は顔も見せずに、慌ただしく部屋を出て行くのだった。













「…社長。…何かあったんですか? 書類に不備でも…?、ああ、俺もこの間、ハンコが無くて大慌てした事があって……」

予定の時間を大幅に過ぎて、黒川は西崎の車に乗り込む。
西崎はミラー越しに黒川の様子を見遣り、真面目に、仕事の心配をしていたのだが、


少し乱れた髪と、緩んだネクタイを見て、直感で、『イツキだな』と、思った。







posted by 白黒ぼたん at 22:44| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記

2018年04月14日

ある日








西崎が黒川の事務所に行くと、ソファで、イツキが転寝をしていた。

「……不用心な奴…」

と、西崎は鼻で笑い、静かに、向かいのチェアに座り、黒川を待つついでにイツキを眺める。






最近は、黒川もイツキにご執心の様子で、片時も離れたくないという風にどこにでも連れ歩いているようだ。
仕事の合間に、ヤリまくっているらしい。……先日も、そうだ。
それでも、まだ、『仕事』にも出すらしい。
今だって、それ用の黒スーツだ。ワイシャツのボタンが2つ目まで開いている。

髪は濡れ、かすかに、石鹸の匂いがする。






西崎はイツキを、ただの淫乱だと馬鹿にしていた。
たまたま、多少、黒川に気に入られたぐらいで、つけあがっている子供だと。
そうなってしまった事情も、今の状況も知ってはいるが、同情はしない。
今、黒川がイツキに構うのは、単純に、カラダが良いからだと思っていた。




無防備な寝顔と、その奥に潜む卑猥さと。
ギャップに、相変わらず、気がおかしくなる。





寝惚けているのか、何か、話しかける様に、赤い唇がぱくぱくと開く。
そこにペニスを押し当てたら、おそらく、無意識に舐め始めるだろうと思う。


西崎は事務所のドアを伺い、まだ誰も来ないだろうと様子を伺うと


おもむろにチェアから立ち上がり、イツキの目の前で、腰を突き出すのだった。





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2018年04月15日

とんだ情事








おそらく、
寝惚け眼のイツキは、
顔の前に、あの独特な臭いを持つ肉の塊があったら…
口を開き、舌を這わせ、愛撫を始める。


それはもう、自動的に、そうなるもので、
ちゅぱちゅぱと水音を立てながら、喉奥に誘い、吸い込む。
もし、途中で正気に戻り、自分が何をしているのか気付いたとしても
それを吐き出したり、歯を立て抗ったりすることもない。
それどころか、そんな事をしている自分自身に酔い、勝手に、昂り、一人でその気になっていく。


膨らんだそれを口から抜き、次の穴に押し当てる頃には、そこはすっかり湿り、物欲しそうにひくついて、淫らに、誘う。





そんな事が、容易に、想像出来てしまう。







ガチャンと扉が開き、黒川が事務所に戻って来る。

「ああ、西崎か。待たせたな…、……すぐに銀座に向かう、車を……」

話の途中で、イツキを、ソファに寝かせたままだった事を思い出し
その前で、西崎が、少しバツの悪そうな顔で立ち、気付かれないようにズボンのチャックを上げているのを見る。


あと数分遅れていれば、とんだ情事を見せられていたな…と
黒川は、静かに、鼻で笑った。






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2018年04月16日

二人の会話









「……マサヤ、…一緒にご飯食べに行くって…言ったのに……」
「ああ、悪いな。仕事が入った」
「……」



事務所で。
転寝から覚めたイツキはソファに座り、不機嫌そうに黒川を睨む。
……少し休んだ後で、黒川と食事に行く予定だったのだが、西崎が仕事を持ち込んだせいで、フイになってしまった。



「…先に部屋に帰っていろ。……一人で、…帰れるだろう?」
「知らない!……途中で何かあったら、マサヤが悪いんだからね」
「この距離で、何か、起こすのかよ?……さすがだな、イツキ」



痴話げんかのような二人のやり取りを、西崎は、黙って、聞いていた。
黒川の有無を言わせない、上からの物言いは相変わらずなのだけど…何か、以前と雰囲気が違う。
口答えをするイツキは怒っている感じではなく、どこか、黒川を試すような、からかうような様子で、それは二人にしか解らない、間合いのようなもので。

言葉と言葉の合間に、濃密な視線を交わす。




「………帰る。………帰って、寝る…」
「…イツキ」



イツキは拗ねた素振りのままソファから立ち上がり、上着の袷を直す。
黒川はイツキの傍に寄り、腰に手を回し、ドアまで見送る。





「悪かったな。気を付けて帰れよ。……帰りに、何か、買って行ってやる」
「……武松の、……厚焼き玉子がいい…」
「ああ」




最後に小さくキスをして、黒川はイツキを送り出す。

端で聞いていた西崎は、聞いたこともない黒川の優し気な口調に、逆に肝を冷やし……なかなか、顔を上げることも出来なかった。





posted by 白黒ぼたん at 22:17| Comment(2) | TrackBack(0) | 日記

2018年04月17日

泥沼








一仕事を終えた黒川と西崎は、また、事務所の近くまで戻り
馴染みの焼き鳥屋で、一杯、やっていた。
カウンターしかない、狭い店内。
炭と、煙草の煙。古い昭和の歌謡曲。冷で注がれたコップ酒が、身体に染みる。


程よく酔いが回って来たところで、つい口を滑らせたという風に、西崎がその事を聞く。



「……社長、最近、随分、イツキに甘いんじゃないですか?」
「……うん?」
「…へへ、まああいつ、可愛いですからね…。手元に置いておくのも解りますが…」



西崎にしてみれば、ウリで商売道具で、少なからず迷惑も掛けられたイツキが、大きな顔で黒川の傍にいるのに、不満があるといった様子。
……それを、許している黒川に、どんな心境の変化があったのか、知りたい所。

黒川は西崎をチラリと見遣り、グラスに口をつけ、ふふ、と笑う。



「まあな。…なかなか、具合がいい。…機嫌を取っておけば、言う事も聞く。
…まだ、あいつを抱きたいという客もいるし、…上手く、使わないとな…」



まるで「仕事」のために、イツキに甘くしているという風に言うのだけど、
それにしては、今日だってわざわざ遠回りして、イツキの好きな寿司屋に土産物を買いに行っているのだ。

度が過ぎてハマっていますね。とは、さすがに言えない。



「……ああ、まあ、そうですね。俺んところにも、まだ、イツキを紹介しろって言って来ますよ。…はは。
あいつは本当に、そっちは、イイですからね。泥沼って言うんですか、一度ヤったら、忘れられなくなる……」




そろそろ頃合という風に、黒川はグラスの酒を飲み干し、カウンターに飲み代を置く。
立ち上がり、掛けてあった上着に袖を通し、最後にもう一度西崎を見て、ふふ、と笑う。





「お前もな。……魔が差さないようにせいぜい気を付けろよ、西崎」





そう言って、店を出て行くのだった。






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2018年04月19日

学校にて








もう、ほとんど授業も無く、出席日数のためだけに顔を出している程度。
当初ほどの熱意はもう無いものの、一応卒業はしてみたくて…、…昼休みの食堂の手作りプリンが食べたくて、通う。

そんな中、久しぶりに梶原の姿を見掛けて、イツキは駆け寄る。



「梶原?、梶原!。久しぶり。元気?元気?」



梶原に、まるで保護者のように干渉されていた時は、付き合いが面倒に思えた時もあったが……あまりにそれが無いのも寂しすぎる。
何せ梶原はイツキの、数少ない、普通の友達なのだ。



「……お、イツキ。久しぶり。ちゃんと学校来てるんだな、偉い偉い」
「偉いよ。でも、つまんないよ、来ても、何か変なプリントやらされるだけだもん」



朝も、夜も、黒川に抱かれる生活を送っていたイツキは、途端に高校生の顔になり、満面の笑顔を浮かべる。
…実は、梶原も学校生活も、イツキにとっては楽しいものだったと、今になって思う。



「何?もう帰る?……ご飯、食べに行く?……俺、結構、話したい事、あるかも…」
「………あー、ごめん、イツキ。俺、無理…」
「…忙しい?」
「……まだ、試験、続いてるし。今日は書類貰いに来ただけだから…、ごめんな」



そう言って梶原は力なく素っ気なく、イツキに、じゃあねと片手を上げて、向こうへ行ってしまうのだった。





残されたイツキはただ、唇を尖らせて、拗ねるのみ。






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2018年04月20日

廊下にて








「…あ、センセ。……お久しぶりです」


と、イツキに笑顔で挨拶をされて、驚いたのは加瀬の方だった。

あまり人通りのない廊下とは言え、加瀬はキョロキョロと辺りを伺い、誰も気に留めていないことを確認すると、壁際に身を寄せる。


「……キミ。……よく私に話し掛けられるね……」
「ね、センセ。ちょっと聞きたいんだけど…」
「……」


戸惑う加瀬の様子など全く意に介せず。
二人の間にあった出来事など、何でも無かった事なのか、それともすっかり忘れてしまったのか。



良くも悪くも、
すぐに、気にしなくなってしまうのが、イツキの取柄で。
逆に、どんな酷い出来事でも、早く消化してしまわなければ……今まで、生きて来られなかったという所。



「…梶原ってさ、受験、どうなのかな?……上手くいってるのかな…?」



一応、内緒の話をしているつもりなのか、イツキは加瀬の傍に寄り、ごく小さな声で話しかける。
加瀬より背の低いイツキは、加瀬を見上げ、……少し、近くに寄り過ぎたと気付き、小さく笑う。



「……キミは…、………まったく……。………ああ、まあ、大丈夫じゃないかね。あの子は、キミと違って、真面目に頑張っているからね」




そう言って、加瀬は、もう本当に勘弁という風に溜息を付いて、イツキを追い払うように手をヒラヒラと振るのだった。






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