2018年06月22日

近状報告










駅を降りてすぐのファストフードで、とりあえず軽く腹ごしらえ。
丁度お昼時で店内は混み合い、イツキと梶原はカウンター席で身体を寄せ合う。
受験で暫く会えなかった間の事を、かいつまんで報告する。
イツキは相変わらず、良い匂い。梶原はこれだけでも幸せだと思う。


「……え?……お前、就職すんの?……あの美容室に?」
「一応、そんな話。5月か6月頃に…お店が新しくなるから…。ああ、でも、社員さんじゃないよ、ただのバイトだよ」
「へぇ…、まあ、良かったじゃん」


良かったと言いながらも梶原は少し複雑な表情。
美容室という事は、あの、ミツオが傍にいるという事。
詳しくは聞いていないが、あの男もイツキと…関係があって、今でもイツキをそういう対象として見ているのだろう。

そんな男の傍で働くことを、よく黒川が許したな…。本当のトコロ、イツキと黒川の間はどうなっているのだろうか………


「…そう言えば梶原、大野は?…大野も、もう、結果出た?」


またうっかり、答えの出ない問題を考えそうになった時に、イツキが声を掛ける。
梶原はハタと我に返る。
……今日は、難しい事は、考えるのも無しだ、と思い直す。


「…大野はな…、第一志望は駄目だった…」
「ええっ…、そうなの……」
「ああ、でもちゃんと決めたぜ。…某国立大、医学部」



その大学名は無知なイツキでもよく知っているもので、
しかもそれが第一希望では無いという事が、イツキを酷く驚かせた。










佐野は店外の喫煙スペースww
posted by 白黒ぼたん at 22:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記

2018年06月24日

回遊中








行き先を水族館に決めたものの、少し、子供っぽいかもと…思う。
しかも、学校の近くにはビルに入った水族館があったりして、そう目新しい物では無かったと…心配になった。






「…梶原っ、……すごいすごい、あれ全部マグロ!? すごいね、……すごいね!!」



心配する梶原を他所に、イツキは意外にも大はしゃぎで、声を上げる。
この水族館の一番の見どころ、大きなホール一面のガラス窓に張り付き、中を泳ぐ魚群に目を輝かせる。
100匹近いマグロ。
それがライトを浴び、背びれをキラキラと輝かせながら、ドーナツ状の水槽を回遊していた。



「……すごいね、……大きいね、……キレイだね……」



イツキは口をあんぐりと開けたまま、正直な感想を口にする。
その姿が可愛くて、梶原は魚よりも、イツキに見入ってしまう。

イツキも、多少、はしゃぎ過ぎだと、気が付いたのか
少しテンションを落とし、梶原をチラリと見て、恥ずかしそうに顔を背けた。









「……水族館、…好き。海とか水辺とか…好きなのかも。……俺、昔、スイミングやっててさ、……泳ぐ感じが…、気持ちいい……
水の中なら、自由に動けるのかも…、ずっと、もっと…、長く、遠くに……」



ホールを見渡せるベンチに座り、魚の群れを目で追いながら、そんな事を話すイツキは
楽しそうでいて、どこか、寂しそうな……そんな笑顔を浮かべていた。





posted by 白黒ぼたん at 23:33| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記

2018年06月25日

見守り中








黒川の指示でイツキに付き添っていた佐野は、イツキから数歩離れた場所に控え、大人しく、見守りに徹していた。
こんなに一般人が多い場所で、危険など、そうそう無いとは思うのだけど
そう、命じられたのだから、仕方がない。
どんなに馬鹿らしい話でも、黒川に言われては、逆らう余地はないのだ。



見れば、二人のガキは屋外に出て、ペンギンなどがいる岩場のエリアに張り付いている。
歩いただの、泳いだだの、可愛いだの…遠目でも、キャッキャと騒いでいるのが解る。



阿呆か。

可愛いのは、オマエだろう、と佐野は思う。








「……なあ、イツキ」
「佐野っち。今日は話すの、禁止」


梶原がトイレに向かった隙に、佐野はイツキに近寄る。


「もういいだろう?…帰ろうぜ?……メシ食いに行こう。……マグロとか?」
「……行かないよ!」


イツキはそう言ったものの、さすがに付き合わせている佐野を、気の毒に思う。
一歩傍に寄り、背伸びをし、佐野の耳元に顔を近づける。




「……ごめんね、佐野っち。今日は、諦めて。…替わりに、今度、何か…するから」




イツキはニコリと微笑み、佐野をねぎらったつもりなのだろうが

ただそれは、佐野に、余計な期待を持たせてしまっただけだった。





posted by 白黒ぼたん at 23:26| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記

2018年06月26日

観覧車







水族園を出て、海沿いの広場を歩く。
東京の海でも、ここは、まあまあキレイで、冷たい風も気持ちいい。
途中で温かい缶コーヒーを買う。手の中の温もりにほっとする。
お互い、顔を見合わせ、静かに微笑む。


梶原が観覧車を指さす頃には、イツキは若干、疲れていたのだけど
それでもどうにか辿り着き、チケットを買う。

「……ガキかよ」

留守番の佐野はベンチに座り、ゴンドラに乗り込む二人を見ながら、煙草を吹かしていた。









「……わ。……スゴイ、海。……キレイ、キラキラしてる…」
「天気、良くて、良かったな。遠くまで見える。……ほら、山があるトコ、ディズニーだぜ…。今度、一緒に行こう……」
「この間、海の上の道路、通ったよ…。…トンネル抜けて……」
「ああ、アクアライン。……それは、ほら……向こう………」


梶原がその方角を指さそうと身を乗り出すと、ゴンドラが傾き、ギギ…と音を立てる。
勿論、そんな事で危険な目に遭うわけではないけれど、イツキは少し驚き、身体を強張らせる。


「…怖い?高い所、苦手だった?」
「………平気。………多分。………もうすぐ、てっぺん?」




突然、梶原は、ガイドブックに書いてあった


『観覧車の頂上でキスを成功させるには』 の記事を思い出して


酷く、焦った。






posted by 白黒ぼたん at 23:45| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記

2018年06月27日

てっぺんにて








一通り景色を眺めてしまうと、意外と、する事が無くなってしまう。
向かい合い、ふと視線が合い。奇妙な間が空いてしまう。

何かよからぬ事を考えているのか、梶原はソワソワし、鼻の下などを擦ってみる。



「……ま、早いよな…。学校も、あとちょっとで終わりだもんな……」
「………そうだね」
「…お前と2年間…、楽しかった。……イロイロあったけど」
「……そうだね、イロイロ、あったね……」



観覧車の頂上まであと少し。
イツキは視線を外し、窓枠に頬杖を付いて、海を眺めていた。



「……イツキ」
「…ん?」
「…俺、お前のこと、好きだぜ?」
「………俺も…」




思わぬイツキの返事に、梶原は一気に高揚し、今にもイツキに抱き付こうかと前のめりになる。

けれど……





「……俺も、梶原、好き。……ほら、俺、……普通の友達っていなかったから、話したり、遊んだり、普通に付き合えるのが嬉しくて……。
俺がちゃんと高校生、出来たのも梶原のお陰だよ。
……ありがとう」




少し照れ臭そうにはにかみ、そんな事を言われては、

梶原は、浮かした腰を落とし、「……別に、そんな……」と、言うしかない。








それでも、イツキの言葉は
それは、それで、嬉しく誇らしいものだった。




posted by 白黒ぼたん at 23:05| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記

2018年06月30日

パラダイス中








夕食にと寄った、食べ放題の店は
パスタやカレーもあるけど、メインはケーキやアイスや甘いものがウリで
勿論、そんな場所は女子率が高くて、男二人で入るにはちょっと勇気が必要だった。



それでも、梶原は、…多分、イツキが好きそうだな…、と思ったし
案の定イツキは目をキラキラさせて、カウンターに並ぶ色とりどりのスイーツを眺めていた。


「すごいねー、全種類、食べられるかな…」
「いっこ、いっこ小さいけどな…。でも、多いな……」



誘った梶原は、実を言えばそんなに甘いものは好きではなく
最初から、皿にカレーを大盛にする。

佐野は、こんな店に立ち入る事すら向かないようで、店の外で待つのだけれど
それだけでも場違いな様子に、若干、不審者扱いされていた。



「お前って、いつもプリンとか甘いもの、食べてるイメージだったな…」
「……そうかな。まあ、好きは好きだけどね。ほら、甘いのって、食べててそれだけで幸せな気分にならない?」
「……まあな…」



梶原は、そんなものかな…と思いながら、
皿に山盛りになったスイーツを、嬉しそうに崩して行くイツキを眺める。

そして、これだけの幸福がなければ帳消しにならない、イツキの不幸を考えていた。







posted by 白黒ぼたん at 21:23| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記
最近のコメント
林田と松田 by はるりん (10/19)
余計な揉め事 by ぼたん (10/18)
余計な揉め事 by はるりん (10/18)
甘い欲求 by ぼたん (10/17)
足りないイツキ by ぼたん (10/17)
甘い欲求 by はるりん (10/16)
足りないイツキ by はるりん (10/15)
誘惑・5 by ぼたん (10/13)
誘惑・5 by A (10/12)
誘惑・5 by はるりん (10/12)