2018年08月01日

週末熱海夜話・3







「……梶原、ポテチ零してる。ヤダ、そのチョコ、俺の。
…おにぎりの中身、鮭だった。大野、ツナマヨ、ツナマヨ…

海!…海が見える、海!」




アレコレ心配しても仕方がないので、旅を楽しむ事にする。
不安も、杞憂も、黒川と一緒にいれば、いつもの事なのだし。
対面式の座席の小さなテーブルの上に、スナック菓子の袋を広げ、
この冬の間、あまり話す事が出来なかった分のおしゃべりを存分に楽しんだ。





「………俺は、まんじゅうを食う」


熱海の駅に降りると、大野が謎の宣言をする。
…特別、甘いもの好きでは無いはずだが、温泉まんじゅうには目がないようなのだ。
駅前に並ぶ土産物屋の店先では、あちこちでまんじゅうを蒸す湯気が上がっている。
大野は宣言通り、端からそれを食べ、イツキも一緒になり、食べ
最終的には腹が痛いと騒ぎ、その二人を見て、梶原が呆れたように笑っていた。




歩くこと数十分。少し距離はあったが、景色を眺めながらだと、そう苦にはならなかった。
山側に上った先、急に立派な庭園が広がり、新しそうな立派な建物が見えた。


「……ココ?……すげー…」


普通であれば、場違いな様子。あまりにきちんとしたリゾートホテルに、梶原も大野も一瞬怯む。

そんな二人に気付いているのか、まるで気にしていないのか、イツキは平然と中に入り、さっさとチェックインを済ませ、


「何してんの?……行こ?」


と、ベルボーイの後に付き、二人に手招きをするのだった。





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2018年08月03日

週末熱海夜話・4








上品なインテリアの広い客室。
ツインベッドとゲストベッド。ソファに冷蔵庫に、ウェルカムドリンク。
今日のテレビ欄が載ったホテルの案内をパラパラとやって
一通り、あれこれ、大騒ぎする。


「…イツキ、メシって何時?」
「早い時間にした。18時。…俺、19時から出掛けるから…」
「じゃあ、その前にプール行こうぜ。水着、持って来ただろう?」
「……来たけど……、………あんまり………」


ホテルには温泉を利用したプールがあり、最初から、そこで遊ぼうと話しをしていたけれど…
…当然、イツキは乗り気ではなく、返事を詰まらせる。
…素肌を見せることは…、どうも、……やはり…。

梶原と大野はすでにカバンを広げ、水着を取り出し、あらかじめ部屋から着て行ってしまおうと、ズボンを脱ぎ始めている。



「……俺、……やっぱ、プールは……」
「イツキ。気にし過ぎ。どうせ後で、風呂だって入るだろ? 一緒じゃんか」
「……んー……」
「女子かよ!……覚悟、決めろ!」



笑って、梶原はそう言って、勢い、自分のシャツを脱ぐ。
実を言えば梶原とて、妙に気恥ずかしかったりするのだが…、それを言ってはキリがない。わざと明るく振る舞う。
その様子に、イツキも決心したのか
大真面目な顔で、口を真一文字に結んだまま、こくんと一つ、頷く。









そして、イツキの水着姿は


大方の予想通り、むしろ、裸よりも…目のやり場に困るものだった。



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2018年08月04日

週末熱海夜話・5







「………イツキ、お前…、……それ?」
「……変…、………かな?……やっぱ…」
「いや……、すげー、似合うっちゃ似合うけど……、いや…」




とりあえず、コレしか無かったというイツキの水着は
数年前に、某ホテルで、某オヤジが用意してくれたという…、ぴっちりとした黒のビキニで
それはそれで素晴らしく似合うのだけれど、似合い過ぎて、見ている方が恥ずかしくなってしまうものだった。

ハーフパンツ型の水着の梶原と大野は若干顔を赤らめながら、ちらりとイツキの姿を横目で眺め、ニヤニヤと笑う。

その態度に、逆にイツキの方が、機嫌を損ねる。




「………もう! 覚悟決めろって言ったの、梶原じゃんか!
………水着なんて、水ん中、入っちゃえば、解んないでしょ!」



頬を膨らませ口を尖らせ、準備体操もせず、プールに飛び込むと、
その場から逃げる様に、向こう側に泳いで行ってしまうのだった。





「お、おい、イツキ。待て待て。……別に、オカシイ訳じゃねぇよ。…似合ってて、つい、見ちゃっただけ…で……」


梶原と大野もプールに入り、慌てて、イツキを追いかける。
追って捕まえて、じゃれあって…、水を掛け合ってギャハハと笑う…、つもりだったのだが…




イツキの、綺麗なフォームのクロールに、二人はいくら泳いでも追いつく事は出来ず。


そのまま、25メートルプールを3往復してしまい、
三人は、くたくたになるのだった。






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2018年08月06日

週末熱海夜話・6







プールの隣には、水着のまま利用するスパエリアがあり
1500メートルを泳ぎ切った三人は、そこで一息ついていた。

イツキは、まあまあ普通。
梶原と大野は疲れたようで、今にも沈みそうに肩までどっぷり湯に浸かる。


「………いや、マジ……、無理……。……ガチすぎる…」
「…別に、競争した訳じゃないじゃん…」
「…そうだけど、……追いつけないなんて……無いわ。……オマエ、スイミング、やってたの?」
「……んー。……小学校のとき、とか、だよ…」


イツキに追いつくことが出来なかったのが余程悔しいようで、大野がそう零す。

イツキは、小学生の時分にスイミングスクールに通っていて、それは地方の大会に出る程の実力だったらしい。
その話を知っていた梶原は、うんうんと頷きながら、両手で湯をすくい顔をバシャバシャとやる。


「早いのもそうだけど、やっぱ、泳ぎ、キレイだな。…すげぇな」
「……そんな事、ないよ……」
「意外と、筋肉あるのかな?…でも、腕とか、細いよな…」

「……そんなこと、ない。……俺、先、出るね……」





うっかり本気で泳いでしまった事が、恥ずかしいのか、何なのか、イツキは湯船から出て足早に更衣室へ向かってしまった。
……梶原も大野も口にこそしなかったが、ほぼ全裸のイツキの身体は、綺麗だった。



すらりとした手足。ほどよく筋肉がついた、身体。
きめの細かい白い素肌。水が滴る前髪をかき上げる仕草も。
…そして改めて、…身体中のムダ毛が無い事に、気が付いてしまった。



湯船に残った梶原と大野は、二人、静かに目配せして…
何とも言えない微妙な笑みを浮かべるのだった。







更衣室に戻ったイツキは、バスタオルで髪の毛を拭く。

そのせいで、解らなかったのだけど、物陰からずっとイツキの事を見ている、男がいた。






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2018年08月08日

週末熱海夜話・7









予約の時間にレストランに行くと、もうテーブルには食事が用意されていた。
豪華な船盛の刺身、上品に盛られた天婦羅、分厚いステーキは卓上コンロの上で湯気を立てていて。
およそ、高校生の夕食にしては、贅沢過ぎるものだった。



「……スゲー、やべぇ…、食べきれるかな…」

と、喜びながらも梶原は心配になるのだが
意外とイツキは平気な顔で、大海老の天婦羅に抹茶塩をパラリとやっていた。


「……イツキ、この後、……行くんだろ?」
「ん。……本館の方で、何か、パーティーがあるらしくて…、顔、出してくる…」
「あの人、来てんの?……黒川さん…」
「…んー…、……解んない……」


海老のしっぽを咥えながら、イツキはそう言う。
黒川が来ているかどうかは…、実際、イツキにもまだ解らないのだ。
あまりに連絡が無さ過ぎて、このまま、実は用事も何も、オシャカになってしまえばいいのにと思う。


「……そっか。……な、後で露天風呂、行くだろ?イツキ」
「…多分。…でも、梶原たちは先に行ってていいよ。俺、時間、読めないし…」
「…そっか。風呂さ、いつでも入れるみたいだぜ?。朝、日の出とか見てもいいな」

「……どんだけ風呂推しだよ、テル。ハダカの付き合い、しちゃう気か?…これ以上!?」


イツキと梶原の会話に、冗談めかして大野が突っ込み、三人で笑う。
笑ながらイツキは、……少し…、……杞憂する。








パーティーが、まるで心配が無い、訳ではない。
それに比べれば、さっきプールの更衣室で見知らぬ男に

『泳ぎ、上手だね。……とても、綺麗だったよ』

と、囁かれたことなど、些細な問題だった。







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2018年08月09日

週末熱海夜話・8







食後のデザートを泣く泣く諦め、イツキは一人、客室に戻る。
わざわざ、いつもの黒いスーツに着替えるのは、やはり…気持ちを切り替えるため。
この服を着ると、イツキは…ある程度のことなら、何でも平気で出来る…ような気がしていた。

良くも、悪くも。







地元企業の創立記念パーティーには、その従業員や家族なども招待されており、イツキぐらいの年の子が紛れ込んでいても、まあ、不自然では無かった。
立食スタイルのフランクな会場。
それでも上座の一角には、企業の役員らしい人物や、胸もとに花を付けた招待客がいて、近寄りがたい雰囲気にはなっていた。



とりあえずイツキは、何食わぬ顔をしてその一角の、本当にすぐ近くまで寄る、
ボーイが運ぶマティーニを一つ貰い、グラスに口を付けながら、あたりをそっと伺う。
……黒川の姿は、まだ、見当たらない。





ピコンと着信が鳴る。


『山野辺は招待客の中の、緑のネクタイ。途中でスピーチがあって、その後、脇の控室に戻るから、そこを狙え。隠し撮りのカメラがある』




黒川からのメッセージを読みながら、イツキは、小さく溜息を付く。
さて、この短時間で、何をどう狙えというのか…。



「……マサヤ、スパイ映画の見過ぎじゃん?……ふふ」



イツキは軽く笑って、残りのマティーニを一気に飲み干した






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2018年08月10日

週末熱海夜話・9







スピーチまではまだ間があるようで
イツキは取りあえず男を見つめながら、カクテルを飲む。
暫くするとさすがに向こうも気付き、面識はないはずなのに仕事柄か、笑顔で会釈などしてくる。

イツキも、ニコリと笑う。

ついでにカクテルを零してしまったのは、多分、本当の偶然。


やがてパーティーも進み、男も壇上に上がり、挨拶をする。
どうやら地元の代議士先生のようだと、この時始めて知る。
短いスピーチが終わり、袖から捌け、控室に消えた。









「……おつかれさまです」


男が控室に入ると、すでに、そこに、イツキは居た。


「……ええと。……キミ、ここのスタッフさん?」


質問に、イツキは微笑み、首を横に振る。


「……どこかでお会いした事、あったかな?」
「……いいえ。……ちょっと、お話出来たらと……、思って……」


思わせぶりな言葉と、表情。
おそらく、こんな手を仕掛ける以上、男もその趣味があると調べはついているのだろう。
例え、そうではなくとも、この状態のイツキに間近に迫られ、上目遣いで見つめられては…




マトモな頭も、オカシクなってくる。







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2018年08月11日

週末熱海夜話・10








「…はは。………キミ、ずっと私の事、見ていたでしょ?」
「……え。……気付いていました?」
「勿論だよ。……お酒、零したのも見ていたよ、はは……」



突然現れたイツキに警戒しながら、そして、得も言われぬ感覚を紛らわせながら…、男は話す。




「……そうなんです。……お酒、零しちゃって…、……シャツ、濡れちゃって……」




俯いたイツキは、自分の胸元に手をやる。
濡れてもいないくせに、ネクタイを緩め、シャツのボタンを外し、隙間に、自分の指を差し入れる。
撫ぜる様に動かし、小さく溜息を付いて、シャツの端をきゅっと掴み、


男を、見上げる。



「……脱いでも、……いい?…」
「…こ、…ここじゃ、……駄目でしょ……」
「じゃ、どこなら、いい…?」



そう言って、イツキは…笑って、……男の胸に、とん、と身体を寄せた。










部屋のどこかに隠しカメラがあって、この様子を映しているのだろう。
ハグかボディタッチで良いと。それっぽく見える写真が撮れれば良いのだと。
ならば、この程度で十分だろう。

芝居は終わり。


冗談めかして、「……なんちゃって」と笑って、イツキが一歩、後ろに下がろうとすると




男はイツキの腕を掴み、前に踏み込み、逆にイツキに身体を寄せて来た。








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2018年08月15日

週末熱海夜話・11







「……ちょっ……と、ま…って…、………」
「……キミが……、誘うから……、……キミが……」
「……んー……、………違くて………」


興奮した男は鼻息も荒く、イツキを抱き締める。意外と力が強い。
首筋を舐め、そのまま顔を舐め、唇を舐め。
イツキが両手で男の顔を押し退ける隙に、身体をさらに寄せ、腰を打ち付けてくる。


「……キミが悪いんだよ……」
「………センセ。……こんなトコじゃ、や…、……駄目…だって………ばっ」


思わず声を荒げ、男を蹴飛ばそうとした瞬間


……入り口の扉が開き、人が入って来た。


男は咄嗟に我に返ったようで、慌てて、目の前のイツキの身体を突き飛ばす。



「……山野辺先生?……どうかされましたか?」
「…い、いやっ……なんでもないよ」
「お戻りが遅かったので…。あちらで皆様お待ちですよ?………この子は?」
「知らんよ!…私は、知らんよ!」


…男は取り繕い、イツキを振り返りもせず足早に部屋を出て行く。
一瞬でも色香に迷い、自分が取った行動が、自分でも信じられないといった様子だった。




残されたイツキは呆気に取られていたが、ともあれどうにか、用事は済んだらしい。
後から入って来た男にペコリと頭をさげ、自分も部屋を出ようとする。



それでも、イツキが窮地に立たされるのは、これからが本番だった。






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2018年08月16日

週末熱海夜話・12








二番目の男は一番目の男よりも乱暴で強引で手練れだった。
脇を通り抜けようとするイツキの腕を掴み、ドンと壁際に押しやり、とりあえず唇を合わせる。



「……ッ、……や…っ……」


顎を掴まれ、無理やり口を開かされ、深いキスをする。
当然イツキは抵抗し、男のあちこちを叩いたり髪の毛を引っ張ったりするのだが、意味はない。



「……やっぱり、……そういう子だったんだ?……ふふ、僕とも、楽しもうよ……」


そう、ささやく男をイツキは見上げ、睨み付ける。
……それは先刻、プールの更衣室で、イツキに声を掛けて来た男。
どうやらパーティーの招待客で、山野辺の知人。

しかも、相当遊び慣れた様子。

片手でイツキの腕を束ね、身体を寄せ、体重を掛け動きを封じ、脚や腰を、イツキの敏感な部分に擦りつけて来る。



「……ちが…う。………ふざけんな……、……離せ…バカ…ッ」



イツキにすれば精一杯の悪態をつき、男から逃れようと身体を捩る。
けれど逆にバランスを失う。
それと同時に男はイツキの脚を蹴飛ばし、
イツキはその場に、腰を落としてしまう。



「………あっ……」



シャツの隙間に、手を差し入れられる。
……山野辺との小芝居の時に、外していたボタン。
男の手はするりと中に入り、イツキの乳首を見つける。
爪先で引っ掻かれると、思わず、声が出てしまった。


「……可愛い声だね」


男はイツキの耳をべろりと舐めながら、そう言う。






耳は、駄目だった。






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2018年08月17日

週末熱海夜話・13








部屋でくつろいでいた梶原のケータイにイツキから連絡が入る。



「終わったって?」
「…あー、終わって、そのまま風呂入って来るって…。先、寝ててもいいって…」
「ふーん」


大野も画面をのぞき込んで、鼻で返事をする。
すでに自分たちも風呂に入り、浴衣姿。ベッドの上で暇つぶしの将棋を指していた。


「…長引いたんかな?…どうする?寝るにはまだ早いか…」
「俺、もう一回風呂、行こうかな…」
「はー?どんだけ風呂好きだよー」


呆れたように大野がそう言う。勿論、好きなのは風呂なのではなく。
…けれど、風呂と言っても、このホテルには数か所ある。
大浴場か、露天風呂か、魚も泳ぐ戦国風呂か…
イツキに確認するのも、その一つ一つを回って確かめるのも、少しやり過ぎな気がして…
仕方なく梶原は、大野との将棋勝負に戻るのだった。







梶原に連絡を入れ、イツキはふうと溜息を付く。
この、黒いスーツを着ている姿も、事の後の濡れた身体も見られたくはない。
幸い、この風呂場は小さいためか、イツキ以外の客もいない。
洗い場で手早く身体を洗い、湯につかる。
露天風呂ではないが壁一面の窓は開放されていて、夜風が、心地よい。





うっかり、
見ず知らずの男と、ヤッてしまった。
途中から、逆らうのも面倒になって…、早く終わるのならばと…、…つい。

自分の身体の緩さに腹が立つ。

けれど、腹を立てる相手は、もう一人いた。





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2018年08月20日

週末熱海夜話・14







「よ。……おつかれ」



静かに扉が開いて、男が浴室に入ってくる。
中にイツキがいると知っているのか、そう声を掛け、軽く手桶で湯を浴びてから、湯につかる。

イツキはチラリと横目で眺め、あからさまに不機嫌な顔をして、反対側を向いてみる。
男は何食わぬ顔で、ふふと笑い、大きく伸びなどしてみせる。


「……なかなか、面白い見世物だったぜ?」
「…あ、そ」


からかう様に男はそう言う。イツキは短く答える。
しばらく、そっぽを向きだんまりを決め込んでいたのだけど…
あまりに沈黙が長すぎて、業を煮やす。



「マサヤ、どこにいたの?……俺のこと、ずっと見てたの?……助けに来てくれれば良かったじゃん!……俺、……」
「……逃げようと思えば、逃げられただろう?」
「…あそこで騒ぎを起こしてもマズイと思って、我慢したんじゃん!」
「我慢?…それにしちゃぁ、ずい分、良さそうだったんじゃないか?」



黒川はわざと煽るような言葉を吐く。
思った通りイツキは怒り、赤い顔をさらに赤くして黒川を振り返り、頬を膨らませる。

黒川は、可笑しくて堪らないと言った風に笑い、そのイツキを抱き締める。





「……なんてな。…嘘だ。……悪かったな、二人目はハプニングだったな。
………怒るなよ、イツキ」




耳元で囁く声は卑怯なほど甘く優しく、湯あたりするより熱く、のぼせ上がる。






「………マサヤの、ばか……」



イツキは、そう呟くのが精一杯。







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2018年08月21日

週末熱海夜話・15








「二人目、な。あれも地元の大物だぜ。…実際、山野辺よりイイのが釣れた…。
…まあ、最後までヤル必要は無かったがな、ふふ…」
「……マサヤ」
「……お陰で、良い画が撮れたぜ…」
「…マサヤ…」


湯船の隣り。上せた身体を冷ますためのベンチで、イツキはさらに身体を熱くする。
ねぎらいの意味もあるのか、ただの誤魔化しなのか、黒川の手はいつもより濃密で
指と舌と声で、そこいら中の穴を犯す。

情事をどこかで見ていながら助けに入らなかった黒川に、悪態をつこうにも
言葉にならない。

黒川の常套手段、だとしても。
タチが悪いのは、黒川もイツキも、お互い様。




「…マサヤ、……部屋、取ってないの?……ここじゃ、……や…」
「ああ、そうだな…。でも、その前に一度、イっとけ。……声が聞きたい…」
「や…、…だ……、め……」



挿し入れた指を折り曲げ、中を引っ掻く。
それだけの動きなのにイツキは達し、身体を震わせる。
黒川の背に腕を回し、自分の何かが零れ落ちないようにとしがみつく。
短い吐息と共に吐き出される上擦った喘ぎ声が、黒川の、脳を麻痺させた。














梶原は、客室で大人しく、イツキの帰りを待つつもりだったが
せっかく温泉宿に来て、イツキと風呂に入れないのはつまらないと…、余計な事を考える。


もう風呂はいい、という大野を残し、梶原はイツキを探しにあちこちの風呂場を覗く。
大浴場、露天風呂。…少し離れた本館に小さな檜風呂を見付け、そこにも、行ってみる。




風呂場の入り口の棚には、スリッパが二つ。
脱衣所はがらんとして、人はいない。

奥の浴室から、水音が聞こえる。













駄目!梶原、行っちゃダメ!ww
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2018年08月24日

週末熱海夜話・16








「………んん?」




浴室で、素っ頓狂な声を上げたのは
梶原の知らない男だった。

ほぼ貸し切り状態だった風呂場に、急に、浴衣姿のままの梶原が覗き込んで来たのだ、
お互い、知り合いだったかと顔を見遣り、首を傾げる。


「…あ、…スンマセン…」


梶原はぺこりと頭を下げ、風呂場を出る。

結局その晩、梶原はイツキを見つける事は出来なかった。








寸でのところで、イツキと黒川は風呂場を後にしていたのだった。
それはこの旅行中の、せめてもの、幸いと言えた。







明け方。
イツキは、梶原と大野が待つ部屋に帰って来る。
どうしたのか、と聞かれると、
「風呂に入ったら気分が悪くなって、別に泊まっていた知り合いの部屋で休んでいた」
と、言う。


「……知り合いって…、黒川さん?」
「まあ、そんなトコ。……ね、お腹すいたね。朝ゴハン、バイキングだったっけ?何時からだろう?」




下手糞に話をはぐらかして、イツキはそう言って、笑った。







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2018年08月25日

熱海・最終話








朝。
二番目の男はラウンジでコーヒーを飲んでいた。
男は、地元の観光産業でそこそこの立場にあり、昨夜のパーティーの招待客だった。
新聞をパラパラと捲りながら、夕べの、綺麗な少年を思い出す。


ふと、目の前に、見知らぬ男が立つ。
さわやかな朝に似合わず黒のロングコートを羽織り、見るからに怪しげな様子。
……仕事柄、そういった稼業の連中とも付き合いがある。…この男も、その類のものだと、解る。


「……どちら様でしょうか…」


二番目の男は新聞を置き、顔を顰める。
目の前の男の後ろにはもう一人…、…ゆうべの、綺麗な少年が立っていた。


「……あっ…」
「ツレが、世話になったようで…。…また改めて、お話させて頂きます」



そう言って、目の前の男はニヤリと笑う。
後ろに立つ少年は申し訳なさそうに、小さく、ぺこりと頭を下げた。













ホテルの外では梶原と大野が待っていた。
そこに、チェックアウトを済ませたイツキがやって来る。

「…いいのか?イツキ。本当に、タダで…」
「大丈夫、大丈夫。帰りはどうする?駅前に、美味しいプリン屋さんがあるって本当?
「ああ。…ま、行くか」



そうして、三人はホテルを後にする。

週末の熱海旅行は、概ね、楽しい旅行だった。







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