2018年08月27日

手打ち









「手打ちにするそうですね」
「……ああ」


事務所にて。
黒川と一ノ宮はソファに座り、飲みながら、世間話のついでに話す。
事務机にはイツキが座り、山のように積まれたレシート類を仕分けしていた。


「…来週、叔父貴の快気祝いも兼ねて、一席設けるんだとよ」
「まあ、大事にならずに良かったのではないですか?」
「……ふん。……あの若造が大人しくなるかよ。…戦争も、遅かれ、早かれ、だろうに…」


イツキは手元を動かしながら、聞き耳を立てる。
おそらく、池袋の揉め事の話。黒川が言う「若造」は、自分にチョッカイを出す「笠原」の事。
問題が片付いたとなれば、自分への干渉も無くなるのかと、イツキは、ちらりと黒川を見る。


「…イツキ。…オマエもだ」
「…えっ?」
「来週の、クソ茶番。お前も連れて来いと声が掛かっている」
「ええっ、……ヤダよ、……俺…」


一応、ゴネてはみるのだけど
上から声が掛かる以上、黒川にも、どうにもならない事なのだろう。

黒川はふんと鼻息を鳴らし、手元の酒を煽る。

イツキは助けを求める様に、一ノ宮を見る。



「……まあ、行った先でどうこう…は、無いと思いますよ、社長の同伴で行くのですから。
…表できちんと筋を通せば、もう、下手に手を出しては来れないと思います…し…」



若干、語尾を濁らせながら、一ノ宮はそう言って、……やわらかく微笑んだ。







posted by 白黒ぼたん at 21:24| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記

2018年08月28日

事務所に二人







「…本当にさ。…もう、何もないんだと思う?」



イツキは、一ノ宮に聞く。

めずらしく、事務所に二人きり。
黒川は西崎に呼ばれて、外に出てしまった。

事務仕事を片付けたイツキは自分のグラスを持って、ソファに移動する。
一ノ宮は新しく冷蔵庫から、酒のアテにと、良さげな缶詰を出してくる。



「……池袋ですか?……そうですね…」

イツキのグラスにビールを注ぎ、一ノ宮は思いあぐねる。



「……笠原氏が、円城寺さん、…ああ、社長の叔父貴筋の方ですが…、あの方に張り合って、何か弱みを握ろうと…、イツキくんに近寄ったのであれば、
当面、その必要は無くなった、という所なのでしょうが……」

「………なんか、……話し辛そう、……一ノ宮さん…」



イツキはグラスに口を付けながら、どうにも歯切れの悪い一ノ宮に、苦笑する。
一ノ宮もそれは解っているのか、困ったように笑い、自分も、酒を煽ってみる。そして、



「最近のイツキくんは、可愛いですからね」



そう、突然、言い出す。
イツキはビールを吹き出しそうになる。




「えっ、なに、何、急に、…一ノ宮さん…」
「はは。そのままですよ。可愛いですよ、イツキくんは」


目の前に置いた良さげな缶詰を開ける。
鶏ぼんじり直火焼き。香ばしい匂いが鼻をくすぐる。




「……笠原氏にしろ、誰にしろ、…イツキくんとヤりたい輩は多いでしょう。…ああ、言葉が悪くなってしまいましたが…。

…どうしたって、危険は多いという事です」






posted by 白黒ぼたん at 23:42| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記

2018年08月29日

イツキと一ノ宮








一ノ宮にしては直接的な話に、イツキは少し、照れる。
目の前にいるのはあの、黒川に一番近い男だと言うのに、こと、その類の話になると、一番遠いところにいる気がする。

「…どうぞ」と言い、ツマミのぼんじりを爪楊枝に差し、イツキに渡す。


「ん。……ね、俺ってそんなに…危険?…狙われやすい?」
「ええ。まあ、…そうですね。…多少、顔を売り過ぎましたかね…。以前のような「仕事」はもうしないと言っても、…なかなか。
…社長がもう少し、ハッキリしても良いとは思うのですが…」
「そうだよね?マサヤがもっと、ハッキリした態度に出れば良いだよね!?」


思わず前のめりになり、声を荒げる。
持っていた爪楊枝を落とし、慌てて拾う。
そのまま、ツマミを口に入れ、恥ずかしそうに笑い、ビールを飲む。

そんな仕草のひとつひとつが、狙われやすい要因なのだと、一ノ宮は知っている。




「…まあ、社長も、あなたを守ろうと考えていますよ。…あれでも。
いかんせん、解り難い男ですが、ちゃんとイツキくんを大事に思っているんですよ…」


そう言って穏やかに微笑み、一ノ宮は自分のビールを飲む。
イツキを見遣ると、イツキはさらに無防備に可愛い顔。頬も耳たぶも赤いのは、酒のせいなのだろうか。



「……大事に思ってくれてれば、……いいけど、…ね。
…マサヤも、一ノ宮さんぐらい、優しい事言ってくれればいいのに……」




イツキはもう一口ビールを飲み、ふうと憂い気に、溜息を付いた。







posted by 白黒ぼたん at 21:25| Comment(3) | TrackBack(0) | 日記

2018年08月31日

ヤキモチマサヤ







「一ノ宮と何を話していたんだ?」
「……んー?」


やがて戻って来た黒川と一緒に、事務所を出る。
一ノ宮と少し酒を飲んでいたというイツキは顔も赤く、どこか、…艶っぽい笑顔。
万が一にも、イツキと一ノ宮の間に、そんなコトはあり得ないとは思うのだけれど
では、何を話していたのかと、気になる。

イツキはチラリと視線を寄越して、「…別に、フツーの話」などと言って、ふふと笑う。










一ノ宮は、いつも優しい。黒川に代わって、イツキを気遣ってくれる。
そんな一ノ宮につい、ココロも身体も甘えてしまいそうになるが、一ノ宮にはソレが無い。


『……一ノ宮さんって…、……誰か、いるの?……彼女さんとか』
『…はは。…いませんよ…』
『……えっちとか、……しない人なの? 興味、無いの?』
『そうですね、あまり…。……ああ、でも、まるっきり無いわけじゃ、ないですよ』


意外な言葉に、尋ねたイツキの方が驚く。
一ノ宮も酒が進んでいたのか、いつもより砕けた雰囲気なのが、いい。


『……あまり、そういう衝動は起きないんですが、…ある、なしは別で…。コミュニケーションの一環として必要ならば、…まあ、そういう事も…』
『……するんだ!……え、え?……どんな人?……お付き合い、してる人?』
『はは。…そういう時もある、という話です』










一ノ宮とのやりとりを思い出して、イツキは小さく笑う。
普段、あまりプライベートを語らない一ノ宮の、意外な一面を知れて嬉しい。
……それと同時に、一ノ宮の、その先の事を考えてしまい、さらに顔を赤くする。

隣りを歩く黒川はそんなイツキを見て、どうにも、穏やかではいられないのだった。






posted by 白黒ぼたん at 23:11| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記
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