2018年09月02日

痴話喧嘩








「……はよ、イツキ。珍しいな、朝から学校とか…」
「………ん」


残り少ない学校の日。
梶原は教室にイツキの姿を見付け、笑顔で駆け寄るも、イツキは浮かない顔。
聞けば…、…すべてを話す訳でもなかったが…、…まあ、黒川とちょっとした言い争いをして家を出て来たとのこと。

いつもの痴話喧嘩。よくある話だ。






部屋で、イツキは、真新しい自分用のスーツを見つけた。
クローゼットに掛けられたそれは、「仕事」で着る黒いスーツだった。

『特に意味は無い。ついでに作っただけだ。…今度の会食に着ればいいだろ』
『…会食って、…池袋の人たちの?……俺、仕事、するの?』
『ただ、色が黒いだけだろう。これを着ると、セックスする決まりかよ?』

確かに黒川の言い分も解るのだけれど、タイミングが悪すぎる。
ただでさえ気乗りのしない集まりに、わざわざ服を新調したなどと、まるで…そう、お膳立てされていると思っても仕方がないだろう。

『…俺、本当は、……行きたくない…』
『ガタガタ言うな。……コレが嫌なら、素っ裸ででも来い』




そんな子供じみた言い合いの末、イツキは部屋を飛び出して来たのだ。






「……何?……今日は一人なの?……あの金髪運転手、いないの?」
「いないよ。もう、いらないし。……ああ、もう。俺のこと、何だと思ってるんだろう!」



イツキは机に頬杖を付きながら息巻く。
…怒った顔も可愛い、などと、梶原は呑気に思っていた。






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2018年09月05日

イツキの提案







「…珍しいな、…一人、か?」




学校帰り。
校門の外で、梶原のちょっとした用事を待つ間、声を掛けられた。
一瞬、ドキリとして…振り返るのもためらったのだが…、恐る恐る顔を向ける。




「………なんだ。……清水先輩…か…」
「なんだ、って何だよ」

そこに立っていたのは清水で、イツキのつれない返事に苦笑いを浮かべる。

「…俺に挨拶も無しで帰っちゃうワケ?…もう、ガッコーに来る日も残り少ないのにさ」
「あ。………そんなつもりじゃ……」
「…なんて、な。……な、どこか行こうぜ。たまには……」

「イツキは俺とメシに行くんです」


清水が前のめりになってイツキを口説き始めた時、戻って来た梶原が声を掛ける。
二人の間に身体を割り込ませて、距離を開ける。
明らか不機嫌顔で清水を見上げる様子は、まるでオモチャを取られそうになった子供のよう。
どこか余裕の笑みを浮かべる清水と、火花を散らす。


「…そういや、梶原。大学受かったんだってな、オメデト」
「……ありがとうございます」
「お祝いがてら、イツキ、譲ってよ」
「どうして、そういう事になるんですか。…無理っす!」


「…あー、じゃあ、……三人でご飯、行く?」



イツキの提案に、梶原と清水は顔を見合わせ、お互い、そんな馬鹿な事は無いだろうと、イツキを見遣る。
それでもイツキの笑顔には敵わない。


結局は、イツキの提案通りにしてしまうのだった。



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2018年09月06日

最初で最後の







駅前の焼肉屋に三人で行った。
当然、梶原は不満顔。清水も本当はイツキと二人きりで、小洒落たクラブにでも行きたかったのだけど…、まあ仕方がない。

イツキは、始終ニコニコ微笑み、楽しそうだった。
ビールが飲みたいと愚痴を零しながらも、制服姿ではそれも無理で。
肉を裏返し、骨付きカルビにハサミを入れ、黒く焦げた炭のようなものを梶原の小皿に入れ、清水にウーロン茶を勧め、
結局、三人とも意外と楽しくて、声を上げて笑った。

こんな時間を過ごすのも、もう最後なのかも知れない、と。

思ってはいても、気恥ずかしくて、誰も口にすることは出来なかった。






店を出るとイツキは、『楽しかったね、じゃあね、バイバイ』と手を振る。
これ以上一緒にいては名残り惜しくなると思ったのか、そんな事はまるで気にせず、早く部屋に戻ってビールを煽りたかったのか。

とにかく、さっくり二人と別れ、イツキは一人、タクシー乗り場に向かった。




「……えーと。…じゃあ、お疲れ様…」


梶原と清水は最後にそう挨拶して、最初で最後の焼肉はお開きとなった。







楽しくて、でも、どこか…寂しくて…、イツキは良く解らないフワフワした気持ちでタクシー乗り場に並ぶ。
こんな気持ちは正直…感じたことがなくて、戸惑う。


「……一人?……どこか、行こうか?」


と、後ろから声を掛けられても、しばらくは、本当に気が付かないほどだった。






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2018年09月07日

選択肢







ふわふわと夜道を歩いていて声を掛けられる事は、まあ、よくある事。
後ろから『…一人?……どこか行こうか?』と言われ、イツキは結構です、という風に手を挙げ、少し、距離を取る。


男の足元は品の良い皮靴。スーツには綺麗なセンタープレスが入り、ただの酔っ払いではない風情。
ふと、顔を上げると、それは……見知った顔だった。





「………か……」


カサハラ、と言ってしまいそうになり、慌てて口を噤む。
お互い、どこまでお互いの事を知っているのか、もう訳が解らなくなっていたが…、どうしたって、すべてが茶番なのは明白だった。


あれだけ警戒していたのに。
ほんの少し、気が緩んだだけなのに。





「…一人で出歩くの、珍しいね。今日はボディーガードはいないのかな?」
「………何の事ですか?……俺、関係ないんで……」
「もういいよ、そういうの。知らない仲じゃ、ないでしょ?」


あくまでも他人の振りをしようとするイツキに、笠原は、詰め寄る。
こんな時に限ってタクシーは中々来ず、イツキの後ろに並ぶ人もいない。
イツキは顔を背け、その場から立ち去ろうとするが……、笠原が、その腕を掴む。



「ちょっと、お話し、しましょうよ」
「……しません。……手、離してください…」
「…話し、だけだよ?……それとも、目隠しして、強引に連れ去られたい?」


腕を掴んだまま笠原はニヤリと笑い、タクシーロータリーの向こうに視線をやる。
そこには、窓にフィルムの貼られた黒いワゴン車が停められていた。




イツキに、あまり、選択肢は無いようだった。





posted by 白黒ぼたん at 21:09| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記

2018年09月08日

アンバランス







「……ここ?」
「…ここ、なら…いいです」
「ふぅん。…まあ、いいよ」



イツキと笠原が訪れたのは、駅前の普通の、ファストフード店だった。
イツキが、自分が店を決められるのなら、行ってもいいと言ったのだ。

夕方の時間を過ぎていても、まだ賑やかな店内。
こんな場所でなら、そう間違いは起きないだろうと…、イツキは思う。

どのみち、断れば、無理やり拉致車に乗せられてしまうのだ。
イツキは腹をくくり、笠原と対峙する。


奥の隅のテーブル席に着く。

笠原はアイスコーヒーを二つ買い、イツキに渡す。
イツキはつい、「…ありがとうございます」と言ってしまい、失笑を買う。



「やっぱり、キミ、面白いね」
「……お話って、何ですか…」
「オカベイツキ君。高校生?それ、学校の制服?」
「……池袋の、笠原さん。俺に、何の用ですか?」



イツキはなるべくクールに、低く抑揚のない声でしゃべり、笠原を睨む。
その様子と、コーヒーのストローを手で支える様に持ち口を近づける仕草がアンバランスで、可笑しい。


この子供は、自分がいくつもの顔を見せている事に気付いていないのか。
セックスの時もそうだ。生娘のような恥じらいを見せたかと思えば、どんな熟達の娼婦よりもいやらしく男を誘う。


見ていて、飽きない。






「……俺の女になれよ。……いい思いさせてやるよ? あのおっさんより」






posted by 白黒ぼたん at 23:27| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記

2018年09月10日

思惑







勿論、笠原とて、一度や二度抱いただけのイツキを、本気で愛した訳では無かった。
組内で対立する円城寺への、攻撃材料の一つにでもなればと、イツキに目を付けた。
円城寺の身内の黒川。その黒川が囲っている、未成年の男娼。
お互い裏の世界にいる以上、細かな犯罪を上げ連ねても意味はないが…、まあ、何かのネタにはなるだろう。
からかい半分、余興のつもりで、手を出した。

少し、遊びが過ぎたか、思った以上に黒川が噛み付いて来た。
それだけ、この男娼を気に入っているのか。恋人のように扱っているというのも、あながち嘘ではないのかも知れない。
単純に、酷い目に遭わせてもいい。
もしくは自分になびかせ、黒川から寝取れば、見ものだ。

組に属さず、一匹狼…気取りの男。
今は円城寺の後ろに控えているが、事が起きれば必ず、自分の障害となる男。
その時に、かつての恋人が、敵方の自分の元に居れば、さぞ小気味が良いだろう。








「…俺の女になれよ。……いい思いさせてやるよ? あのおっさんより」
「………おっさん。………それ、マサヤの事?」
「…あ?……ああ。年甲斐もなく高校生に手を出す助平オヤジ……」



寝取り、弄び、捨ててしまえと……その程度に思っていた子供だったが……
……どうにも、様子がおかしい。




「……笑い過ぎじゃない?」




よほど『おっさん』呼ばわりがツボだったのか、
イツキは口元を押さえ、こみ上げる笑いを堪えるも……どうにも、肩が震えてしまう。



「…だって、…マサヤの事、おっさんなんて…、言う人、いないし……」
「実際、そう…でしょ? ……キミと幾つ離れているの?」
「……まあ、……そう言われれば、そうだけど……」



イツキはアイスコーヒーのストローを咥えながら、考える様に視線を逸らし……
少ししてから、慌てて、今はそれどころではないと、姿勢を正す。
笠原と視線が合うと、怒っているのだという風に真顔になり唇を尖らせ、
『…そんなお話、あり得ません…!』と、語気を強めて言い放つ。



その姿に、今度は、笠原の笑いが止まらなくなった。






posted by 白黒ぼたん at 23:15| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記

2018年09月11日

攻防








「………笑い過ぎじゃないですか…?」


『俺の女になれ』発言に、断ったら断ったで、…何故か笠原は下を向き、肩を震わせ…、くっく…と笑いを堪えている様子。
イツキには、どうしてそうなるのか、一向に解らない。



「……とにかく!……あり得ません。……もう、俺に関わらないで下さい!」
「関わるって?…どんな風に?」

「…後、付け回したり、ずっと見張ってたり…。……全部、あなたの企みなんでしょ?
最初から、全部。全部。
……何、されたって、俺、……何も、変わりよ?……何も…」



語尾を濁らせてしまうのは、イツキにも今一つ、自信がないためか。
顔色を曇らせ、視線を逸らせ…、……それでも凛と前を向き、笠原を睨む。





「…イツキ」






名前を呼ばれて、イツキは一瞬、ドキリとする。
声は、…あの、最初の拉致強姦の時に聞いた声。…甘くて艶のある、少し低い、耳に残る声。


笠原は身を乗り出し、コーヒーのカップを持つイツキの手に、自分の手を重ねる。
重ねながら、中指だけを、微かに動かす。……テーブルの下で足が、ずっと、擦れ合っていることにも、気付いている。


間合いの間、うっかり、笠原を見てしまう。
歳はおそらく、30半ば…。気力も体力も充実した男盛り、という所か。
少し、目尻の下がった、優し気な顔。言われなければ、その筋の男とは、解らないかも知れない。

癖のある髪の毛が、額に掛かる。
時折、長い手指で、髪の毛を掻き上げる仕草が…、妙に印象に残る。





「とりあえずさ、……もう一度、しよっか?……イロイロ。
………確かめ、…たいよね?……カラダの相性、とか、さ……?


すごく、……良かった、………でしょ?」







posted by 白黒ぼたん at 22:29| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記

2018年09月12日

脱兎








勿論、イツキも…確かめたくないと言えば、嘘になる。
最初に感じた感覚。言葉には出来ないもの。

多分、目隠しをされ尋常ではない状況だったことで、特に強く、そう感じてしまったのだとは…思うのだけど……。

素直に。普通に。
この男に抱かれたら…、どうなるのか…、少し、ほんの少しだけ興味はあった。
そう思うと、身体の芯が、疼く。


カップの上から重ねられた笠原の手が、イツキの指を絡めとる。


「……ね?」


ニコリと笑ってそうゴリ押しされると、つい…、……こくんと頷きそうになってしまった。












「……ば……」
「ば?」

イツキが口を開く。
けれど言葉を続けようとするも、喉の奥ひりつき声にならない。
あと数秒それが続けば、業を煮やした笠原が、強引に腕を引くところだった。

イツキは一度口を閉じ、ごくんと唾を飲み込む。
そして、急に思い出したように、
また、火傷するほど熱いものに触ったかのように、手を、笠原の絡んだ指から引き剥がす。


「ばかじゃないですか? 俺がそんなの、乗る訳ないじゃん!
俺は、…マサヤの、…だし!
マサヤとの方が、相性、いいに決まってるじゃん!
あなたとなんか…ぜんぜん…、……全然だったもん!」



文章が多少おかしいのは、頭の中が混乱しているためだろう。
始めて告白された中学生のように耳まで赤くし、後は勢い、立ち上がる。
笠原が呆気に取られている間に、イツキは踵を返し、脱兎のごとく店を出て行く。


イツキにしては、それは珍しく、俊敏な動きだった。






posted by 白黒ぼたん at 21:33| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記

2018年09月14日

かけひき









実は店の中には、笠原の手下が数人、控えていた。
逃げ出したイツキをすぐに捕まえることも出来たのだが、笠原が手を挙げ、それを制した。


「……良いんですか?…カシラ」
「ああ。今日は粉を掛けただけだ。…あれは脈アリだろ?……次が楽しみだな」


笠原は手下にそう話すも、途中から笑いがこみ上げ、どうにもならないようだった。
あれしきのやりとりで揺らぎ、逃げ出す、ヤクザの女がいるかよと、可笑しくもあり、




………新鮮だった。




「……カシラ?」
「ああ、なんでもない。引き上げるか…」


そう言って、笠原は、明るく賑やかな店内を後にするのだった。











イツキは暫く闇雲に走り、後ろから、男が追って来ないかと警戒する。
とは言ってもイツキの全力疾走など、数分しか持たない。
どこぞの店先の立て看板の脇に身を潜め、肩を上下させながら、上擦った息を整える。


つい、うっかり。
笠原との…行為を…思い出すところだった。
……試してみたい……などと、考えてもいけない。
一度、そのモードに入れば、自制など一切効かないことは、イツキにも解っている。



「……して、みたい……、訳じゃないんだから。……もう!」



自分自身に言い聞かせる様に、声に出し、それごと無かったことにするように、頭を左右に振る。




そんな時に、突然、後ろから肩をぽんと叩かれて、イツキは死ぬほど驚くことになる。





posted by 白黒ぼたん at 20:43| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記

2018年09月15日

泣き虫








「悪い、悪い。そんなに驚くとは思わなかった。……何、どした?」
「………先輩こそ、………なんで?……」
「あー、……やっぱ、お前ひとりで帰すのもアレかと思って、すぐ後、追ったんだけど…」



イツキを驚かせたのは、清水だった。
焼肉屋で別れ、梶原を飲みに誘うも断られ、……もう一度イツキと…と、駅前に向かうも、すでに姿はなく、
なんとなく、駅前の繁華街をフラフラ歩いていたのだった。



「……どうした?イツキ?」
「…あ。……ちょっと、……酔っ払いに絡まれて、……走って逃げてきて……」
「やっぱり!…お前、危なっかしいな!……大丈夫だったか?」
「………ん」



事実では無いけれど、ほぼほぼ近い言い訳をする。
清水はイツキの肩に手をやり、イツキの身体の上から下までを眺め、何か、変化が無いか確認する。


「……大丈夫だったか?……何も、されなかったか?………ごめんな、独りにさせるんじゃなかったな……」
「………ん。……大丈夫」
「……大丈夫って、お前。……じゃ、……なんで泣いてんの?」
「……なんか、びっくりして、……安心した。………ん、……へいき、です…」



イツキは大丈夫と微笑みながらも、その目からは涙が零れていた。
張っていた気が、清水の登場で緩んだのだろう。
清水は、イツキと別れた数分の間に何が起きたのか、皆目見当はつかなかったが





とりあえず、目の前のイツキを、ぎゅっと抱き締めてやるのだった。







posted by 白黒ぼたん at 23:03| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記

2018年09月16日

ジェントルマン清水








イツキと清水はタクシーに乗り、イツキの家に向かう。
本当は清水は、そのまま二人でどこかに行くつもりだったのだけど
イツキは頑なに、帰る、と言い張る。



「……ごめんなさい、先輩。……俺、今ちょっと、……そんな感じじゃなくて…」
「…梶原のアホーとは、二人で遊びに行くのにな…」
「………え?」



清水は梶原から、合格祝いの水族館デートの話など聞いていたのだろう。
半分馬鹿にしたように鼻息を鳴らし、恨めし気にイツキを横目で見遣る。


「……ごめんなさい…」
「…はは。まあ、お前もイロイロあんだろ?……落ち着いたらでいいからさ、俺とも、遊べよ?」
「……うん」
「……俺のこと、忘れるなよ?」





春には、清水はいない。
埼玉の仕事先で、寮住みが決まっている。
今生の別れではないにしろ、距離が空くことは間違いない。


湿っぽい別れの挨拶など、ガラではない。もしそんな事を言いだしたら、このまま、車は行き先を変えてしまう。




「……先輩……」
「……ああ」






最後の会話は、それだけ。
清水は、隣に座るイツキの手に、自分の手を、そっと重ねた。








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2018年09月19日

動揺








イツキが部屋に戻ったのは、夜の9時。
黒川は留守。
朝、喧嘩の原因になったスーツは、クローゼットに掛かったまま。
リビングのテーブルには、灰皿と、開いたままの新聞紙。

灰皿をキッチンの流しに移し、ガサガサと新聞紙を片付ける。
ソファの、いつも黒川が座る場所に座り、適当なテレビを付け、なんとなく眺める。
梶原達と焼肉食べたのは、ほんの数時間前だと言うのに…途中イロイロありすぎて、もう、小腹が空いた気がする。
お腹も、胸も、落ち着かない。満たされていないことは、知っている。



「……カサハラ、……ムカつく。……意味、解んない……」



自分で確認するように、口に出して、言ってみる。
……笠原に、「自分の女になれ」と言われ、動揺するなという方が無理だった。
まだまるで、笠原自身の事を知らないのだし、…少し、セックスが…良かったかも知れないだけの男だけど、
気になる。気にし過ぎて、気があるのではないかと勘違いしそうになる。



「……マサヤは、バカだし。……俺が、どうにかなっちゃっても、…いいの?」



そう呟いて、イツキはそのまま、ソファにころんと横になった。














『…帰っているのか?』
「……マサヤ?。……どこ?」
『横浜だ。今日は、戻らんぞ』



寝ぼけたイツキが黒川からの電話に出たのは、真夜中すぎの時間だった。




posted by 白黒ぼたん at 19:09| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記

2018年09月20日

遠い声






「……横浜?……秋斗くん、とこ?」
『………いや』
「…ふぅん」




ソファに寝そべりながら、イツキはスマホを耳に押し当て、黒川の声を拾う。
お互い、遠い声。目を閉じ、耳をそばだてる。



『…帰りが遅かったな。…夕方までは、いたんだぞ』
「マサヤ、灰皿、出しっぱだった。……台所に置いて、って…言ったじゃん…」
『ああ。…悪い…』



そんな事は、簡単に謝る。


当人が目の前にいるよりも、電話で話す方が、逆に、身近にいるような感じにもなる。
見栄も虚勢も誤魔化しもなく、ただ素直に、思っている事が口に出る。







「……マサヤ、今日ね。……カサハラさんに会ったよ」
『……何か、されたのか?』
「ううん。…ちょっと話しただけ……」
『……あの小僧、…ふざけやがって…。……お前もフラフラ出歩くからだ、気を付けろ』


少し、強めた語気は、笠原を怒っているようにも、自分を心配しているようにも聞こえる。
どうであれ、黒川が自分の事を考えているのが、楽しくて、イツキは気付かれないように小さく笑う。




「…ね、マサヤ」
『なんだ?』
「…カサハラさんに、…俺の女になれって、言われちゃった…」
『……な…』




黒川は言葉を詰まらせる。






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2018年09月21日

近い吐息








イツキはスマホを耳に押し当てて、無言の黒川の様子を探る。
怒っているのか、呆れているのか。少しするとカチカチと、ライターを点ける音がした。


『………馬鹿馬鹿しい。……お前、何て答えたんだ?』
「……んー、……ふふ。……断ったけどね…」
『……ふん』


黒川は鼻息をつく。煙草を吸い始めたのだろう、ふうと紫煙を吐く音もする。
イツキは咄嗟に、……ああ、灰皿は流しに……、と思い、そして、それは、今は必要がない事に気付く。




「…それだけだよ。じゃあね、マサヤ。……いつ、帰ってくる?」
『明日の夜だ』
「お土産に、シウマイね。真空パックのじゃないよ?」
『ああ』


また、ふうと紫煙を吐く音。それとも、溜息なのか。
そろそろ考えるのも面倒になったので、イツキは電話を切ろうとする。





『…イツキ』
「…ん?」


一瞬、耳元から離したスマホを、もう一度、押し当てる。




『…俺が帰るまで、部屋にいろ。外に、出るな』
「……なんで?……俺のこと心配?…」
『ああ』



二つ返事で真っ当な答えが返り、イツキは少し、驚く。
余計な揉め事を起こすな、だの、すぐヤられるのがお前の仕事、だの…今夜は、そんな事は言わないらしい。






『笠原には次の会食で、直接、話す。……イツキは俺の女だ、と。何をしても無駄だと。
だから、お前もそれまで、大人しくしていろ。………な?』







posted by 白黒ぼたん at 23:08| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記

2018年09月22日

風邪







笠原に言われた事を、自分から黒川に報告した訳だけれど
そもそも「俺の女」なんて言葉は、度々連呼するものではない。
訂正するのも面倒だけど、……まず、女、でもない。
いつの間に自分がそんなものになったのかと、不思議に思う。




『笠原には次の会食で、直接、話す。……イツキは俺の女だ、と。何をしても無駄だと。
だから、お前もそれまで、大人しくしていろ。………な?』

「……俺の女、…って……!」



恥ずかしさを誤魔化すように、イツキは半分、おどけたようにそう言う。
けれど黒川は大真面目な声で、『……そうだろう?』と言う。






一体、黒川はどんな顔をして、そんな、

聞いた事も無い、甘ったるい声を出しているのだろうか。








「………うん」






イツキの小さな返事を待って、電話は切れた。








電話を切っても、イツキはそのままソファに横になったまま。
ちゃんと眠るためには寝室に行った方が良いのだけど、身体が火照って、動けずにいた。

耳も、胸も、腹も熱くて、風邪でも引いたのだろうかと思う。


勿論、風邪ではない事は、知っていた。






posted by 白黒ぼたん at 22:30| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記
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