2018年10月02日

確認・2







「……それはさ、……マサヤも、…でしょ?………俺が、いいでしょ?」
「…あ?……ああ」
「そういう時にはさ、もっと、優しいこと、言うといいよ。……もっとさ……」



イツキはそう言い、わざとらしく、拗ねたように視線を逸らせる。



「……優しく…、してやってるだろう?」
「………そう?」



そして、今度はチラリと、視線だけを絡める。


……こいつはいつの間に、こんな顔を覚えたのだろうかと…、黒川は不思議に思う。
多分、最初に仕込んだのは自分だとは思うのだけど、……今は、時折、知らない顔を見せる。
それを探る内に、つい、深みにハマる。自分でも、気付かぬ内に。












繋がる頃には、お互い、熱くなり過ぎていた。
黒川はイツキを鳴かせようと、少し乱暴な手も使ったかも知れない。

「………や………ぁぁ……ん」

イツキが声を上げると、イツキの中はきゅっと締まり、黒川をさらに悦ばせる。
そうして黒川はやっと




「……可愛いな、イツキ」


と、頬にキスをしながら、言う事ができるのだった。







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確認・3







少しうとうとしたのかも知れない。
黒川は目を覚まし、目の前、腕の中にイツキが眠っているのを見て、今が、何の時間だったのかを思い出す。
結局、ロクな話は出来なかった。……笠原に口説かれた話など、聞いて、からかってやろうかと思っていたのに。


話を聞く前に、手が出てしまった。
あの若造がどう足掻いたところで、イツキと自分の状況は何も変わらないのだけど、


一分の隙も無く、とは言い切れない。
そこまで、自分に自惚れてはいない。





起き上がろうと、黒川はイツキの頭の下から、そっと自分の腕を引き抜く。
その動きで目が覚めたのか、イツキのまぶたが薄く開く。
何度か瞬きをし、黒川を見つけると手を伸ばし
離れそうになっていた黒川の手を、握る。



「………どこ、行くの?」
「水を飲みに行くだけだ」
「………ん」


そう言って黒川がベッドから起き上がろうとするも、イツキの、手は繋がれたまま。



「……マサヤ」
「なんだ?」
「……俺、……大丈夫だよね?」




それは何かの確認なのか。イツキは黒川にそう尋ねる。

黒川は、半分はイツキが寝ぼけているのだと思い、半分は、別の事を考え、



イツキの手を握り返し、「…ああ」と、返事をした。










確認おわり
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2018年10月04日

それは、多分







クローゼットから新しいスーツを出して、袖を通してみる。
老舗のテーラー。採寸したのは少し前だったけれど、今のイツキに丁度よく仕立ててある。
玄関の前にある大きな姿見に、全身を映してみる。
嫌になるほど、似合っていると、自分でも思う。

黒いスーツを着ると、……そういう、顔になる。ハマり過ぎていると、……思う。



このスタイルが「仕事用」になったのは、いつからだったろうか。
多分、そうと決めた訳ではなく、…これしか無かったからだと、覚えている。
最初の頃は、まだ中学生で、きちんとした服など、持ってはいなかった。
『…俺の前でみっともない恰好はするな』と、黒川が用意したものだった。


紳士服売り場にある一番小さなサイズのスーツでも、肩が余った。


黒川が馴染みにしている店で、オーダーメイドで頼むようになったのは、ずっと後のこと。








「…まあ、どんな服、着てても……、一緒だけど。……どうせ裸になるんだし…」


自嘲気味に笑って、スーツの襟を直す。
これを着て、……笠原と…するつもりは……、毛頭無いのだけど、絶対とは、言い切れない。



そうなっても、仕方が無いと、心のどこかでは思っている。




黒川に尋ねた、『大丈夫?』は、笠原に抱かれてしまう事の心配ではなくて、




むしろ、その後の、自分自身に問うたものだった。






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2018年10月05日

宴席・1








場所は、どこぞの繁華街のビルの地下。大きなフロアがあるクラブが貸し切られていた。

その前の段階で当事者…、池袋の嶋本組の多田組長、若頭の円城寺、若頭補佐の笠原は、すでに重要な話し合いを終えていた。
今回の揉め事は、多田の後継を狙い、血気盛んな笠原が先走ったものだったが…上部組織の介入もあり、それは諫められた。
とりあえず順序を護れよ、と諭され、しのぎの分割や分配などが行われ、笠原も矛を収める。

しばらく体調を崩していた円城寺の快気祝いも兼ね、この宴席が設けられた。
本来ならば部外者の黒川や、他の組織の人物。それらの連れ合いや、華やかな女性や。
そんな者たちが招待されているのは、今回の揉め事が、実は大した問題では無かったのだと内外にアピールする為でもあったのだろう。



もっとも、黒川の同伴にイツキが指名されたのには、別の理由があったのだけど。








「…もう、喧嘩は終わったんでしょう?…俺を巻き込まんで下さいよ」
「は、は。すまんな、黒川。まあ、今日はただの飲みの席だ。楽しんで行ってくれ」
「……そうだと良いんですがね…」


案内されたソファのブースには円城寺が座っていて、黒川は挨拶の後、軽く愚痴を零す。
円城寺の隣りにはホステスらしい女性がいて、黒川とイツキのグラスを用意していた。

イツキは、円城寺とは、実は初対面だった。
それでもお互い、話しで知っているのだろう、イツキはぺこりと頭を下げる。


「よく来てくれましたね、イツキくん。……黒川が迷惑を掛けてないかい?」
「……いえ…」



そんな言葉を掛けられて、イツキは照れたように微笑む。
宴席は穏やかに始まったが、……その様子を、離れたブースから伺い見る男が、いた。






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2018年10月07日

宴席・2







しばらくは普通に、和やかに時間は過ぎる。
…そうは言っても、その筋の者たちが集まる場。
いかつい風体の男達が、入れ替わり立ち替わり、黒川の元に訪れ挨拶をする。
その都度イツキは綺麗に微笑み、ぺこりと頭を下げる。

男達の、イツキへの認識は、それぞれ違う。


綺麗で幼い、男娼。
…まだ未成年ながら、…どんなコトでも、受け入れる身体。
その時に撮られた酷い写真やビデオは、実は簡単に、見る事が出来る。

黒川のお気に入り、金ずる。枕営業の切り札。
最近、あまり表に出ないのは、黒川本人のオモチャになっているとも

ただ単に、出し惜しみをして、値を釣り上げているとも。



男達は興味本位にイツキを眺め、何やら小声で、黒川と交渉する。
もちろん、今は、そんなものが通る訳がないと、イツキにも解っているけれど
それでも、その対象にされるのは、あまり楽しいものではない。


フロアの正面にあるステージでは、今にも脱げてしまいそうな薄い布を纏った女性が、身体をくねらせ踊っている。

実際、イツキは、自分がそこに呼ばれるのではないかと……気が気ではないのだ。




「……キョロキョロするなよ、みっともない。あと、へりくだり過ぎだ、普通にしていろ」
「……だって、なんか…、やじゃん…。……みんな、俺のこと、…知ってるんでしょ?」
「……まあな。……ふふ、売れっ子だからな」




黒川は、冗談にもならないことを言って笑い、イツキは、むくれて頬を膨らませる。






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2018年10月08日

宴席・3








「……あ」


と、イツキは小さく声を上げて、慌てて視線を逸らせ、下を向く。
何気に見ていたステージの片隅で、ストリップだか生板だか、とにかく…猥雑な行為が始まっていた。
こんな場所では別段、珍しい事でもないのだろうが、かといって、凝視するのもおかしくて。
イツキは目のやり場に困り、黒川を頼ろうにも、……黒川は叔父の円城寺と、何やら真面目な話をしている。

人や金や場所の名前。…ときおり聞こえる単語のみでは、話の全容は解らないが、「若造」と言っているのは、多分、笠原のことなのだろうと思う。


そう。このフロアには、どこかに笠原がいるはずだった。
未だに姿を見せないのが逆に怖くて、イツキは身構える。






「………悪いな、黒川。面倒を掛けたな。……だが…」


込み入った話が終わったのか、円城寺が腰を上げ、最後に黒川の肩をぽんぽんと叩く。


「……とりあえず、まとまった話だ。……騒ぎを起こすなよ?」
「…そんなもの、あちらさんに言って下さいよ……」
「…まあ、それはそうなんだがな…、……はは」



円城寺はそう言い、イツキには柔らかい笑みを浮かべ「……じゃあ、またね、イツキくん」と軽く手を挙げる。
イツキは頭を下げ、…これで今日の用事は終わったのだろうか…と、横目で黒川を伺う。








終わる筈もなく。


「……先日は、どうも。……黒川さん」


円城寺が席を立つのを待っていたかのように、笠原が姿を現した。






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2018年10月09日

宴席・4







薄暗いフロアに、ミラーボール。
怪しげなスポットライトが、ステージの上の裸の女を照らす。

そんな店内でも、傍らに立つ男の顔ははっきりと解る。


「……ご一緒しても?」


笠原はそう言い、不機嫌顔の黒川の返事も待たずに、ブースの中に入る。
並んで座る黒川とイツキ。笠原は、テーブルを挟んで向かい側。最初から座っていたホステスは笠原と面識があるようで、和やかに挨拶をしグラスを作る。
ブースの外側には、笠原の手下が2,3名。
周りからの視線を遮るように取り囲んでいた。



「…相変わらず勝手な男だな、笠原さん」
「まあ、良いじゃないですか。…あなたも私と話がしたいでしょ?」
「あんたが話をしたいのは、イツキなんだろう?……コソコソ、付け狙いやがって…」


そう言われて、笠原は挨拶がてら、ニッコリ笑ってイツキを見る。
イツキは、下手糞に顔を背け、無視を決め込む。


「は、は。嫌われたかな。今日は真面目なビジネスの話をしたいだけですよ。
……とりあえず」



乾杯、という風に笠原はグラスを上げる。
黒川もグラスを取り、ふんと鼻息を鳴らし、酒に口を付ける。
……今、この場で、揉め事を起こせないのは、お互い様だった。





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2018年10月10日

宴席・5







黒川と笠原は酒を飲みながら、静かに、大人しく、仕事がらみの世間話をしているようだった。
割と、普通。

元はと言えば、組内部の勢力争いの余波で、イツキにまでお鉢が回って来たのだ。
その争いが収まったのであれば、この問題は、もうお終いのはずだろう。


イツキは、少し、安心して、手元のグラスに口をつける。
そして向かいに座っているホステスと、お勧めのハンドクリームの話などで盛り上がる。

そんな折、ステージで何かあったのか…、ショーの最中の女性に歓声が上がった。
思わず、イツキがそちらに目を向けると、笠原が、くすくすと笑う。




「…最後までイったかな。…ふふ、次、イツキくんも、ステージ、上がる?」
「……上がりません」
「そう?……よく、あるんでしょ?ああいうコト。……いいなぁ、黒川さんは、イイ子、持ってて…」


笠原がそう言うと、黒川はチラリと笠原を睨む。




「黒川さん、あのステージの子ね。……野田鉄筋の娘さんですよ?」
「……野田鉄筋?」
「黒川さんが飛ばした所です」



それは、先日、『フェリーチェ』での出来事。
笠原の賭場で借金を重ねていた男の…唯一の担保だった土地を、黒川が横取りして無碍にしたのだと言う。



「……結局、どうにも回らなくなってね…、娘さん、ウチで預かる事にしたんですよ。
イツキくんみたいに、売れっ子になると良いんですけどね…」



ステージでは、見世物になっていた女性が泣きながら……次の男の相手をしていた。





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2018年10月11日

宴席・6








「……それがどうした」
「…いや、…可哀想になぁ…ってね」
「…あんたがやった事だろう」
「黒川さんが、土地を横取りしたからでしょ?……はは、よく使う手、ですか?」


笠原は笑いながらそう話すも、目は、少しも楽し気ではなく。
それは黒川も同じで、グラスに口を付けながら、上目遣いに笠原を睨む。


「……借金で雁字搦めにして、狙った子を手に入れて…。売るもよし、自分好みの性奴に仕立ててもよし…」

「……笠原さん」


黒川はホステスの手元にあった洋酒のボトルを取ると、それを原酒のまま、自分のグラスと笠原のグラスに注ぐ。
まず、自分から一気に煽り、当然、次はお前だ、と言う風に水を向ける。



「…言いたいことがあるなら、言えよ。……若造」
「……は、は」



笠原は乾いた笑いを上げ、そして、黒川から注がれた酒を一気に流し込み、グラスを、ガツンとテーブルに置く。




「…とりあえず。…イツキと一発、ヤらして貰えませんかね?…どうせ、カネで手に入れた男娼でしょう?」







黒川と笠原がそんなやりとりをしていたというのに、イツキはまったく、上の空だった。

脱いだ服と、辛うじて残った恥じらいを掻き集め、ステージの片隅でしくしくと泣く女性を……、ただただ、眺めていた。





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2018年10月12日

宴席・7







「…俺は、もう、あんたとやりあう気はありませんよ。
確かに、泣き所を探ろうとは思いましたけどね、……あんたがコケれば、円城寺若にも影響がある。
だが、円城寺若と手打ちになった以上、無用に揉める必要もない」

「じゃあ、大人しく、引っ込んでいろよ」

「引っ込みますよ。…ただ、最後に、イツキとヤらして下さいよ」

「もう、ヤっただろう。お釣りが出る」






今度は笠原がボトルを取り、黒川のグラスに注ぐ。
そして自分のグラスにも注ぎ、ニヤリと笑いながら、それをまた飲み干す。





「ああ、逆でした。………イツキとヤったら、……それを最後に、手を引きますよ」
「…その話、俺に何の得がある?」
「むしろ損は無いでしょう?…そんなモンで、池袋と新宿の平和が保てるんですよ?」



そこまで話すと笠原は一息つき、ソファの背もたれに肘をついて、身体を反らせ、脚を組み直す。

黒川は笠原の提案にふんと鼻を鳴らし、さて、どう答えてやろうかと…とりあえず傍らのイツキの様子を伺う。






イツキは、自分の腕で自分を抱えながら、憂鬱な顔で、下を向いていた。
そして、黒川の視線に気づくと顔を上げ、……首を左右に振った。






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2018年10月13日

宴席・8







イツキは、ステージ上の可哀想な女性のことを考えていた。
借金のカタに預けられ、酷い仕事をさせられる…など、どこぞの誰かと似たような話。

もちろん、黒川と笠原の話も、耳に届いていた。
気配を感じ顔を上げると、とりあえず、駄目だという風に首を横に振る。



そんなもの、確認せずとも、答えは決まっているのに。






黒川は煙草の煙とともに、深いため息を付く。





「……今回の池袋の揉め事は…、俺には関係のない話だろう。ここまで付き合ってやっただけでも、ありがたく思え」

「……ノー、って事ですか?」

「当然だ」




表情を変えずにそう言い切る黒川に、イツキは少し驚く。
……黒川が自分を差し出す……事は無いだろう、と……信じてはいたけれど……
そんなものはすぐに翻され、良いように好き勝手に扱われてしまうことも……無い訳ではないと……心のどこかで思っていた…、……の、かも知れない。







黒川は、もうこんな話は終いだ、という風に、最後に大きく紫煙を吐き
煙草を、灰皿に押し付ける。

そして空になった手を、隣に座るイツキの頭にやり、そのまま自分の方へ引き寄せる。





「……こいつは、俺のだ。もう、いらんチョッカイは出すな」




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2018年10月16日

宴席・9







黒川の言葉と手に、イツキはドキリと…胸が苦しくなる。
別に、愛の告白をされた訳ではないのだが、黒川にしては上出来な言葉。

笠原も、黒川がここまでストレートにイツキに固執するのは、少し意外だったようだが…


……それも、想定内だったか。
……馬鹿にしたように、くっくと、含み笑いを浮かべる。




「黒川さん。…それは、惚れた女に言うセリフですよ。……まさか、この子が、そうだって言うんですか?……そんなに?」



笠原は大袈裟な手ぶりまでして、そう言って笑う。
そして、後ろに控えていた手下にまで同意を求め、さらに大声で騒ぎ立てる。
…煽り、逆撫でし、こんな騒ぎは面倒だと黒川がイツキを手放すのを狙っているのだろう。


同業者の多いこんな場所で、イツキの様な子を本気で大切に思っているなど、
……たとえ、それが、本当のことだとしても……
声高に、公言できるはずはない。さすがにそれはプライドが許さないものだった。






「…こんなに幼い子をねぇ…、黒川さん、女に不自由してるんですか?……私、紹介しましょうか?」
「不自由してるのは、あんただろう?……人のモンに手、出すなよ」
「……ただのウリだろう!?……売ればいいだろう!」
「ウリだとしても、あんたには売らん」
「……!」






激昂したのは笠原の方で、
笠原はテーブルの上のボトルとグラスを手でなぎ払う。






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宴席・10







イツキは
ステージの女性と笠原と、そして黒川を、忙しく代り番こに見遣る。
おそらく今の状況で、自分に出来ることはほぼ無くて、困ったような笑顔を浮かべながら酒のグラスに口を付ける。


『……こいつは、俺のだ。もう、いらんチョッカイは出すな』


と、黒川に抱き寄せられる。
いくら笠原へのポーズだとは言え、今まで面前で、そんな風に言われた事は無いので、

イツキは今、何が起きているのだろうかと…、…軽くパニックになる。




黒川の言葉は嬉しいけれど
自分は、そんな、大層なものではないと…、心の何処かで謙遜する。
……そう。……ほんの少し前まで、ステージの女性のように扱われていたのだから。




黒川と笠原の会話は、激しさを増す。

二人とも、眼光険しく相手を威嚇し、凄みのある声で張り合う。

ブースの後ろに控えていた笠原の手下が、トランシーバーのようなもので連絡を取り始める。

向かいに座っていたホステスは、尋常ではない雰囲気に、そっと席を立つ。




ガシャン、と大きな音が響く。
笠原がテーブルの上のボトルとグラスを、手でなぎ払ったのだ。
直後に、黒川が、そのテーブルを足で蹴飛ばす。さらに大きな音が響く。



賑やかだったホール内が、一瞬、水を打ったように静かになる。




物音に、何ごとかと、イツキ達のブースに視線が集まった。






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2018年10月19日

宴席・11







「……こんな場所でやる気かよ?…笠原さん」
「…それはあんたのセリフだろ?……ウチのシマだぜ?」


お互い、熱くなり過ぎていた。
あと一つ、何かが起これば、取り返しのつかない事になると、イツキにも解った。
物音に、何ごとかと、他のブースから男達が集まる。
その奥からは、黒川の叔父の円城寺が、心配そうな表情で覗き込む。

『…騒ぎは起すなよ』

と、言った言葉が、チラリと頭をよぎる。








「……あー、……ごめんなさい、…俺………」

突然声を張り上げたのは、イツキだった。
おどけたような甲高い声。立ち上がり、テーブルの上の倒れたグラスを直す。


「……ごめんなさぁい。……少し、飲み過ぎてます……」


そう、言う。
そして立ち上がったついでに、ブースの外側に顔を向け、こちらの様子を伺っていた他の衆に微笑み、頭を下げる。


周りからは、黒川と笠原の会話の内容までは聞こえなかっただろう。
ただ、酒に酔った子が暴れただけだと…、どうにか取り繕い、誤魔化せたのか…。



イツキは、騒いでしまって申し訳ないと、もう一度頭を下げ、そして

今度は、笠原の隣りに座る。

呆気に取られた黒川が、次の言葉を探す間もなく、イツキは



「…笠原さんもー、マサヤもー、おれのこと、好きすぎですぅー……」


などと、呂律の回らない酔っ払いのフリをし、しかも
笠原にしな垂れかかり、腕まで、組んでみるのだった。







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2018年10月20日

宴席・12








一瞬、緊張感が走ったホール内も、元のざわめきに戻る。
イツキは無駄にニコニコ笑い、通りかかったボーイに新しいグラスを頼み、黒川と笠原と自分に、飲み物を用意する。

グラスを持つ手がカタカタと震えているのは、多分……皆にバレている。






「……俺、イイですよ、別に。……笠原さんと…」


イツキの言葉に、黒川はぎょっとした様子。
おそらく、イツキなりに、一触即発の場を取り繕おうとしているのだろうが…
……慣れない事は、するものではない。


「…だって、ビジネスでしょ。……でも笠原さん、俺、すごーく、高いですよ?」
「……は、は。……いいね。黒川さんより、話が解るね」
「でも、…だから…。……もう、ケンカしちゃ駄目です」





『…勝手な事を言うな』と、黒川が身を乗り出し口を開きかけたところで、
イツキは黒川を見て、何か一人で決意したように、こくんと頷き、静かに微笑む。

確かにあのまま、騒ぎが大きくなっても、厄介だったが
かと言って、こんな収束を狙っていた訳でもない。

珍しく、他の男には売らないと、護ってやったと言うのに…
自分から無碍にするとは、意味が解らない。




「…ね。マサヤも。…叔父さんに、怒られちゃうよ?」


もしかしてイツキは…単に、笠原と寝てみたいのではないか…
そんな馬鹿な考えを打ち消すように、黒川はふんと鼻息を鳴らし




「好きにしろ。……ああ、笠原さん、本当にこれで終いだぜ?」

と、言った。






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