2019年02月25日

夜逃げ・3








バタンと扉が閉まり、イツキは見知らぬ街の見知らぬホテルに、たった一人ぼっちになってしまった。
つい数時間前までは自分の部屋のソファでくつろぎ、明日は、美味しいラーメン屋にでも行こうと思っていたのに。


「………光州会…、って……、今更、……何で……」


光州会とのトラブルは、黒川が全て解決したはずだったが、…どういう事なのだろうか。どうにせよ、これだけ慌てて身を隠すと言うのは、深刻な問題なのかも知れない。

見付かれば、捕まって、……金を稼ぐための道具として使われるのか……、以前、黒川にそうされたように。

黒川は助けてくれるのか、いや、だからこそ自分を隠したのだろう。

それでも、それも動く金の額によっては違うのかも知れない。いや、でも……





少ない情報では、何をどう考えて良いのかも解らない。
イツキは、コンビニの買い物袋の中から缶ビールを取り、一気に飲み干し
そのまま、ベッドに入り、今日はもう終いと、目をぎゅっと閉じるのだった。





翌日と、その翌日は、特に事は起きず。
イツキは一日中部屋にいて、ぼんやりと、テレビなどを見て過ごす。
有料番組で、続き物の映画を見付けて、そのおかげでずい分、時間を使う事が出来た。
ホテルには、長期滞在の連絡をしており、すでに前金も払っているようだった。

併設のレストランで、あまり美味しくない食事をとる。
廊下の隅にあるアルコールの自動販売機は型が古く、年齢確認無しでも購入することが出来て、助かった。



夜に、黒川から電話が入る。

特に進展は無いとの事。



「………俺、まだ、……ここにいるの?」
「………ああ」
「……ちょっと…、……つまんないんだけど……」
「…我慢しろ」



電話を切った後、二人、同じタイミングで、大きなため息を付いた。




posted by 白黒ぼたん at 23:07| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記

2019年02月26日

夜逃げ・4








朝と昼の間ぐらいの時間に起きて、散歩に行く。ホテルの近くに大きな公園があって、ぐるりと一周する。
一応、追われる身。最初の頃は回りに危険が無いかキョロキョロしていたのだけど、さすがにこの場所には現れないようで、問題はない。
コンビニでコーヒーを買って、池の傍のベンチで飲む。そこいらを走り回る小さな子供や、じっとして動かないお年寄りを、ただただ眺める。
茶色い毛の猫が足元に寄って来る。手を伸ばすと、頭を撫ぜさせてくれた。

夕方に戻り、併設のレストランで食事をする。レストランといっても、ちょっと小綺麗な食堂といった雰囲気。
出張中のサラリーマンに交じり、魚の干物定食を食べる。今日は、縞ホッケ。
ビールは廊下の自動販売機で買い、部屋で飲む。別に見る理由も無い映画を一本見て、鳴らないケータイをチェックして、眠る。




さすがに、こんな日が二週間も続くと、嫌になる。





黒川も、何もしていない訳では無かった。



『……負債は、息子が肩代わりするって約束があるんですわ。
…黒川さん、今まであの子で、よーけ稼いで来たんでしょ?。…そろそろウチに回して下さいよ』

『その話は先代とカタが付いている。カネも、利子を付けて、渡してるぜ?』

『それだで、それとは別の借金ですよ。とにかく息子、出してちょうよ』

『……残念だったな。……あんたの所の動きが怖くて、逃げたようだぜ。……居場所は、俺も、知らん』



光州会の高見沢は、度々、黒川の事務所を訪れては、そう煽り立てる。
知らぬ存ぜぬで通し続けられる相手ではないが…、イツキを出しては、余計に話が拗れる。

どうにかやり過ごし、おそらくデマカセであろうこの状態の、事を収める方法を探っていた。






posted by 白黒ぼたん at 23:22| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記

2019年02月27日

夜逃げ・5









「……今になって、……どういうつもりなのでしょうねぇ…」


事務所で。
一通り仕事を終えて、一ノ宮がため息を付く。
水割りのグラスを二つ持ち、ソファに座る黒川に一つ渡すと、自分はその向かいに座る。
光州会からは、度々、イツキを出せと、まるで借金取りのような催促が入る。
勿論、そこいらの借金取りよりタチが悪い。


「……イツキくんの事は、今までだって知っていたでしょうに。……代が替わったからと言って、こうも急に来れれると、参りますね…」
「……笠原の時に、…あの場にいたらしいぜ、高見沢の奴。イツキも、目立ちすぎたな…」


それは先日の、嶋本組の宴席での事。
若頭補佐の笠原が、イツキを巡り、黒川と大立ち回りを演じた場に…高見沢もいたと言うのだ。


「……逃した魚はデカかった…っとでも思ったのか…、……馬鹿め…」
「ああ、それは…、確かに…」


一ノ宮の同意に、黒川は思わず厳しい視線を向ける。

その道で名を売り、仕事を続けて行く分には良いだろうが…、…そうではないと、厄介なだけだ。

いちいち誘いを断るのは面倒すぎる。そんな義理も無いのではないかと、思い始める。
まだ、黒川にしても完全に、イツキを護る覚悟は…決めかねているようだ。




丁度、その時、イツキからの電話が入る。
一ノ宮の手前もあるのだろうか、事務的な連絡を2,3して、不愛想に相槌を打つ。

最後は半ば声を荒げ、「………そんな事、知るか!………大人しく、隠れていろ!」と吐き捨て、電話を切る。




切ってから、黒川はまた溜息を付く。
一ノ宮も困った顔をして「……どうしたものですかね…」と、零すのだった。






posted by 白黒ぼたん at 22:08| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記

2019年02月28日

夜逃げ・6







当然、ホテルに潜伏中は、誰とも連絡を取るな、居場所を教えるな、とキツく言われていた。
イツキとて、状況は解っている。せっかく逃げ隠れているのに、相手に見つかっては元も子もない。



『……ごめん。今、ダメ。……俺、ちょっと…忙しくて……』

と、梶原からの電話は、素っ気なく断ってみた。
佐野からも、何度か、飲みの誘いがあった。…佐野ですら、事情を知らないのだろうか…、これも、やんわりと、お断りする。

それでも、無碍に切り捨てられない相手がいた。
すでに新宿を離れてから2週間。頃は、4月の半ば。
5月に、大切な約束があったのを、イツキは忘れてはいなかった。




『…イツキちゃん。明日、新店舗のミーティングがあるんだけど、来られるかな?』

電話は、ミツオからだった。
イツキは5月から、ミツオの店で、きちんと、働くつもりだったのだ。



『……ごめんなさい、ミツオさん。俺…、……仕事、……出来なくなっちゃった』
『えっ、何、どうして?………あの人に、反対された?』
『そうじゃないんだけど。……でも、ちょっと、ワケがあって……』



話をしながら、イツキは、鼻水をすする。実を言えば、美容院で仕事が出来ることを、楽しみにしていたのだ。
しかし、いつ、あちらに戻れるのか、いつ、自身の安全が確保されるのか、一向に解らないままでは…、仕事も何も無いだろう。



『……ごめんなさい…』



けれど、ミツオは簡単には引き下がらなかった。





posted by 白黒ぼたん at 22:02| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記
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