2019年04月24日

ミツオ・2








しばらくすると奥の部屋から、ミツオ、社長、そして小森が出て来る。
このまま帰るようだ。一緒にドアの前まで行き、お互い何度か頭を下げる。


「社長、ありがとうございました。また連絡します」
「うん。こっちこそ、わざわざ来て貰って悪かったね。今度はゆっくりして行って…」
「はい。洋子おばさんにもよろしくお伝え下さい。……じゃあ」


そう言って、もう一度頭を下げる。作業中だったミカとイツキも席を立ち、頭を下げる。
ミツオの横に立っていた小森は、バイバイと手を振る。
ミツオは、小森に少し意味ありげな笑顔を浮かべた。









「…小森さんはミツオさんと知り合いなんですかー?」
「……以前はよくこっちに来てくれたのよ。……ミカちゃんがウチに来る前ね…」

ミツオが帰った後、ミカと小森がそんな話をする。
ミツオが洋子おばさんと呼んでいたのは、社長夫人のこと。ミツオはその甥っ子のお嫁さんの弟さんだということ。4,5年前に、このハーバルの経営が危なくなった時に色々アドバイスをして、助けてくれたという事。

イツキはミカの隣りで、ふむふむと話を聞きながら、午後のお茶を飲む。
…ミツオとの出会いは若干オカシイものだったが、…本当に、ちゃんとしたエライ人なのだな…と、今更思う。





「………ミツオさん、ちゃんと話したかったな…。……俺、お礼も言ってないし……」
イツキは心の中でそう呟く。丁度その時、イツキのケータイが静かに鳴る。
それはミツオからで、今夜、駅前で待ち合わせようというものだった。





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2019年04月25日

ミツオ・3







仕事が終わって夕方、イツキは駅前でミツオと落ち合う。
あまり開けていない繁華街。数少ない飲食店の一つに入る。
席に着くなり、イツキは前のめりでミツオに迫る。本当は、抱き付いても良いくらいの気持だった。


「ミツオさん、あのまま帰っちゃうのかと思った。俺、話したいこと、いっぱいある……」
「あはは。ここまで来て、イツキちゃんに会わずに帰るワケないでしょ。どう?元気にやってる」
「ん。…俺、…ミツオさんには本当…、助けてもらって………」


イツキは言葉を詰まらせる。その時丁度、目の前に、注文した焼肉定食が運ばれる。
イツキは涙を浮かべた目を擦り、照れ臭そうに笑ってみせる。

そんな様子を見て、逆にミツオの方が、泣きそうになってしまう。



「知らない場所で、大変だったでしょ?…ちょっと痩せたんじゃない?」
「…大丈夫です。……みんな、良い人で、俺、良くしてもらってます。…大丈夫です」
「そう?……ああ、もう、こんな可愛いイツキちゃん、こんなトコに放っておくなんて信じられないよ!」


食事もそこそこ、ミツオはテーブルの上のイツキの手に自分の手を重ね、ぎゅっと握る。
少しひんやりとしたミツオの手に、イツキは熱を感じ、ドキリとする。
………数日前に黒川に会っていなければ、間違いなく、ミツオに心が揺らいでいただろう。




「……俺、イツキちゃんの事情は詳しく知らないけどさ、……いいの?……こんな事で…?」
「……えーと…。……はい…。とりあえず…。……もう少し、このまま…、……様子、見てみます……」
「そう?……困った事があったら俺に言って。……ああ!これ以上困る事なんて、あったら大変だよ!」


そう言ってミツオはおどけて笑ってみせ、イツキもつられて、柔らかい笑顔を見せた。




posted by 白黒ぼたん at 22:05| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記

2019年04月26日

ミツオ・4








途中、電話が掛かって来て、ミツオは席を離れる。
イツキは食事の残りを平らげ、熱いお茶を飲む。
時間は、夜の21時。店はそろそろ、閉まる時間。


「……ごめんね、イツキちゃん。……そろそろ、出ようか」


電話を終え、ミツオが戻って来る。店の会計を済ませ、二人は外に出る。
今日中に向こうに帰るというミツオ。駅までの道のりを並んで歩く。


「……新宿まで2時間ちょっとくらいだよ。……近い、近い…」
「……んー…。………まあ、そうですよね……」


実質、それくらいの距離でも、……ここいらは電車の本数も少なく、乗り継ぎの時間を合わせるともう少しかかる様だった。
都内でしか暮らしたことの無いイツキは、最初、駅の時刻表を見て驚いたものだ。
帰ろうと思えば、帰れる。……それでも、そう簡単に、帰れる距離ではない。
改めて自分がいる場所が、遠く離れた場所なのだと、気付く。



「また、来るよ」
「………はい」
「………」


駅に近づくにつれ無言になってしまう。
遠距離恋愛の恋人同士のよう。…いっそ本当にそうなら、もう少し、違った言葉も掛けられたのにと思う。


それでも。







改札の直前。ミツオはイツキの手を引いて、壁ぎわの物陰に押しやり、唇を重ねる。
イツキは突然のことに驚くが、拒みはせず、目だけを閉じる。

もうじき電車がホームに入るというアナウンスが聞こえる。





posted by 白黒ぼたん at 22:21| Comment(2) | TrackBack(0) | 日記

2019年04月27日

ミツオ・5







「………ミツオさん、………電車、来ちゃう……」
「………うん」


ギリギリまで唇と身体を重ねる。
わざとだとは思うがミツオは腰をイツキに押し当てる。……衣服越しでも、……その、形が感じられる。


「………帰るの、……止めようかな……」
「…ミツオさん。……俺、……駄目だよ?」
「……ん。そうだよね。……カレがいるもんね。解ってる……」



名残惜しそうに身体を離し、ミツオはもう一度イツキを見つめ、ニコリと笑う。
「……じゃあね、行くね」と言い、最後に絡まっていた指を解く。





イツキは
ミツオを引き止める気は、無かった。
一応、黒川に気を使っているのだ。そうそう、他の男と寝るつもりもない。
だから、指が離れた瞬間に、ピクリと肩を揺らしてしまうとか、切なげに溜息を漏らすとか、潤んだ目で見上げてしまうとか…
そういった類の事はまったく無意識に、半ば、習性のように、してしまうだけなのだ。





「……ありがとうございました。ミツオさん。また、来てくださいね」
「………あ、………」



無常にも、電車がホームに到着したというベルが鳴る。
東京へ帰るための最終電車。
ミツオは、本当に、どうしたものかと…キョロキョロと、改札とイツキとを見直して…

最後に「……うう」と低く唸って、




諦め、改札口へと駆け出して行った。





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2019年04月28日

ミツオ・終






「……ミツオさん、……本当に帰っちゃったな……」




駅でミツオを見送り、一人、イツキは自分のアパートに帰って来た。
冷蔵庫から買い置きのビールを取り、とりあえず煽り、溜息を付く。
引き止めはしなかったが、帰って欲しい訳でもなかった。
会う前より、いっそう、寂しさが増す。この気持ちを埋めるためなら、セックスでも何でも、しても良かったのだけど。



「……カノジョさん、……かな……」



食事の途中に鳴ったミツオのスマホの画面を、イツキは、見ていた。
そこには「さなえ」と名前が出ていた。
ミツオは慌ててスマホを取って、席を立ったのだ。



「……ま、そうだよね。……俺だって別に、ミツオさんと……何があるワケじゃないもん」……。
それに、何かあっても……困る。……マサヤが、突然、来るかも知れないし……」



そう言って、イツキは一人で笑って、残りのビールを飲みほした。









それでも、その夜は大変だった。
中途半端に感じた身体は、風呂に入ったぐらいでは、なかなか収まるものでは無かった。
どうにか誤魔化そうと、もう一本ビールを空けるも、逆効果だった。


テレビ台の上に、ローションのボトルがある。ハーバルで扱っている商品だった。
保湿のために身体に塗るものだが、ほどよくオイルも入っていて、……林田と行為を持った時にも、重宝した。
イツキはそれを自身に塗り、……慰める。目を閉じ、誰でも良いから、自分を満たしてくれる男の事を考える。


こんな事になるならやはりミツオを引き込んでしまえば良かったと、イツキは、忙しく手を動かしながら心底、思った。






posted by 白黒ぼたん at 22:31| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記

2019年04月29日

自業自得







黒川は、イツキを気にかけていない訳では無かった。
塩豆大福が食べたいと言われれば、わざわざ買って届けるし
厚焼き玉子が食べたいと言われれば、次は、いつ、行ってやろうかと…四六時中、その事を考えていた。


それでも仕事は忙しいし、そうそう、暇ではない。
その日も面倒な案件を抱え、どうにも身動きが取れないでいた。


ふとした合間に、ケータイを覗くと、イツキからの着信があった。
すぐに折り返すことは出来ず、しばらく経ってから、電話を入れる。



「………なんだ?」
『…………なに?』
「…何じゃないだろう、お前が電話を掛けて来たんだろう」



すでに時刻は午前3時。
イツキはもう、眠っていたのか、どこか鼻についた甘ったるい声を出す。



『………マサヤってさ、今度、いつ、来る?』
「しばらくは無理だ。忙しい」
『……俺さ、……えっちしたくなっちゃった……』
「……ハァ?」


イツキの言葉に、黒川は思わず声を上げる。
周りにいた一ノ宮や西崎などが、何ごとかと黒川を見る。



「……そんなもの、……適当に、誤魔化しておけ…」
『んー。……そうだね。……ん、わかった…』
「解ったって、お前、そんなに簡単に………」



話の途中で電話は切れた。




イツキの様子が気になっても、すぐに会いに行くことも叶わず。
黒川は無駄に苛つきながら、残りの仕事を片付けるのだった。





posted by 白黒ぼたん at 23:06| Comment(2) | TrackBack(0) | 日記

2019年04月30日

小森さん・1








イツキは、その日も普通に仕事をしていた。
相変わらず単純な手作業だったが、何も考えずに集中出来る事が、意外と苦にならないようだった。
隣りでパソコンを操作しているミカは、商品のパッケージのデザインなどもしているらしい。色やサイズを確認し、あれこれ資料を開いていた。
少し離れた机で伝票整理をしていた小森が、席を立つ。バタンと扉を開け、どこかに行ってしまった。



「………ああ、もう、無理。……今日の小森さん、変!」
「…え?……そう?」
「…なんかずっとピリピリしてるの。イツキくん、気付かなかった?」
「俺、そういうのは、あんまり……」



ミカによれば今日の小森は機嫌が悪いらしく、朝から無駄話も一切無く、ミカに山のような仕事を回して来たのだと言う。
普段から愛想の良いタイプではないが、今日は特に酷いのだと。



「……ダンナさんと、喧嘩でもしたのかなぁ…」
「小森さんって、ご結婚されてるんですね」
「うん。お子さんもいるよ、3歳の女の子。前にバーベキューで一緒に……」



話の途中で小森が部屋に戻って来た。
おしゃべりをしていたミカをギロリと睨み、自分の仕事に戻って行った。






小森は夕べの電話を思い出す。

『………会えないの?』
『…会いませんよ。…俺たち、もう、そんなんじゃ無いでしょう?』
『今、どこ?……あたし、車で……』
『もう駅です。俺、今日中に東京、戻るんで……』

確かに今はそんな関係ではなくとも、嫌いで別れた訳ではない。二人で会って話しぐらいはしたかった。




小森は今でもミツオに、気持ちを残していた。





posted by 白黒ぼたん at 22:42| Comment(2) | TrackBack(0) | 日記
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