2019年05月01日

小森さん・2








よくある話だった。

4、5年前。ミツオがよくハーバルに顔を出していた頃。
二十歳そこそこの若い美容師と、三十路手前の艶気のある主婦。
まだ小森には子供がおらず、出会った若い美容師に簡単に恋に落ちてしまい、数度、身体の関係を持つ。
…妊娠した時は、…正直、焦り、困ったものだが、……それは幸い、夫との間のもので…、それを機にミツオとの火遊びも、終わりにしたのだった。


それ以来、時に何事も起こらず…、ミツオにとっては、ただの思い出の一つにしか過ぎないのだが…
小森にとっては違ったらしい。

仕事場でミツオの名前が出るたびにドキリとする。最近ではミツオの紹介で、男の子が入って来た。また頻繁に、仕事で関りがありそうな気がする。

もう一度、以前のような、恋愛関係に戻れるかも知れない。




それなのに、久しぶりに顔を合わせたミツオは、まるでただの仕事先の知り合いのような顔で他所他所しく…二人きりで話す時間も無いという。
自分だってもう若くはないと自覚はある。まして、…子供もいる身なのだ、そう浮付いたことも出来ない。

諸々、解ってはいても…、……無性に苛ついてしまう。








「……小森さん、コワ〜。……更年期かも…」

様子を伺っていたミカが、小声でイツキに話しかける。
勿論、その声は小森に聞こえており、一層、怒りを買うことになるのだった。






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2019年05月07日

小話「いつかの夜」







リビングのソファに座り、黒川は古い洋画を見ている。
イツキはその足元に、床にペタリと座り、マグカップのコーヒーを飲む。
煙草を吸い終わった黒川の手が、イツキの頭に乗り、暇つぶしのように髪の毛をくるくるとやる。
最初は鬱陶しいと思っていたが、払い除けるのも面倒で、そのまま放っておく。


あまり台詞のない暗い画面の映画は、イツキにはよく解らなくて、面白味が無い。
眠たくなったのか黒川の足にもたれ掛かり、目を閉じた。





映画が終わりリビングから寝室に移動しても、まだ半分、眠っているようだった。
何度かキスを繰り返し、服を脱ぎ、いつの間にか事が始まり、夢ではないと気付く。


こんな夜の黒川は気味が悪いほど優しく、甘く、愛撫だけでイツキは極まった艶声を上げる。
いつもより良過ぎると、警戒する前に、身体が融け歯止めが効かなくなる。


二人とも。




イツキが下、黒川が上。正面から繋がり、さらに奥へと貪る。
黒川はイツキの首筋に舌を這わせ、勢い、歯を当て、噛みつく。
イツキは黒川の背中に手を回し、爪を立て、必死にしがみつく。


痛みを感じている暇は無かった。










連休明け。久々更新はリハビリ的なw
まだちょっと落ち着きませんが、ぼちぼち復活します♪
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2019年05月09日

林田、驚く・1









「えええっ…、社長…、ギックリ腰ですか……」


夕方。ハーバルにやって来た林田は悲鳴にも似た声を上げる。
今日はこれから、大手の取引先を招いての食事会を予定していた。
来月開催される物産展に向け、新規に開拓したルートで、今回が上手く行けば、さらなる販路拡大が見込まれる所だった。


「………いや、……大丈夫…、……行く…から……」


初老の社長は腰を押さえ、壁伝いに数歩動いては、イテテと言って立ち止まる。
どうやら昼過ぎに重たい段ボールを抱えて、うっかり、やってしまったそうなのだ。


「そんなお身体じゃ無理ですよ。…ああ、でも今日の席はちょっと…外すとヤバイやつですよね…。ああ、ど、…どうしましょう。……奥方は?」
「……家内も…今日は別用があって……」
「この際、誰でも…。小森さん、とか…行きませんか?」


困った様子で林田は小森に話を振るも、小森は、子供の世話があるからと素っ気なく首を横に振る。


「…ミ…ミカちゃんは…っ?」
「あたし無理です。今日は2か月ぶりのマツエクなんです。やっと予約が取れたんですよー」
「…ええっ、……ハーバルの危機なんだよ?」


取引先との接待の席など、当然、気乗りはしないのだろう。
女子二人は無碍に断り、定時だからと帰り支度をし始める。
社長は「…大丈夫、…私、行くから…」と、微塵も大丈夫な様子を見せずに、痛みを堪えて上着を羽織る。






「………俺で良ければ…、……行きましょうか…?」



部屋の端で話を聞いていたイツキが小さく手を挙げた。






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林田、驚く・2








「助かったよ。ハーバルさんの商品を売り込むのに、ハーバルさんがいないんじゃ話にならないからね…」
「でも、俺、何も出来ないですよ?…座ってるだけでも良ければ…」
「いい、いい。来てくれたって気持ちだけで…」


イツキは林田の車に乗り、仕事場を出発する。
もののはずみでセックスしてしまった二人。多少、気まずさが残ってはいたが、この窮地にそれも吹き飛んだように思う。
あの夜の事は無かった事。酒の勢いで少し…、じゃれ合いが行き過ぎてしまっただけの事。


「…社長には、お世話になってるから。…こんな事で、役に立つなら…」


そう言うイツキを、林田は横目で眺め、ああ、この子は本当に素直で良い子なんだと…思う。
無邪気と無防備と隣り合わせの危うさには、まだ気が付いていない。









「…………おお……う…」


さすがにカジュアル過ぎる格好ではまずかろうと、林田は途中、イツキのアパートに寄る。
聞けば、…一応、スーツは持っているというので、それに着替えて貰う。
10分程して、部屋から出て来たイツキを見て、林田は思わず変な声を上げる。


小柄で細身の体にぴたりと合う黒いスーツは、品の良い、良い仕立てのもので、シンプルなのにどこか華やかで。

イツキに、とても良く似合っていた。



「…スゴイね。なんか。……はは、…なんか、ホストとかになれそうじゃん?」


久しぶりの「仕事着」。イツキは襟元に手をやりながら、
林田の言葉に、照れたような困ったような笑みを浮かべた。





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2019年05月11日

林田、驚く・3







車を少し走らせると、そこそこ大きな都市に出る。
もちろん、イツキが暮らしていた場所に比べれば寂しいものだったが、それでも駅前にはビルが建ち並び、一番の繁華街といった所だった。
駐車場に入れた車は後で、別の人が取りに来るのだと言う。林田とイツキは少し歩いて、とあるビルの中の日本料理屋へ入って行った。

予約の名を告げ、奥の座敷に通される。
林田はやや緊張した様子。イツキと目があると、強張ったような笑みを浮かべる。

「……ハハ。……こういう席は、俺もちょっと…苦手で。ああ、でも大丈夫。俺がちゃんと回すから」

そう言って、気合を入れる様に、自分のネクタイの結び目をきゅっと締め直すのだった。











「お世話になっております、中野井部長。今日はご足労いただきありがとうございます」
「ああ、いや、林田くん、そんなにかしこまらないでよ、はは…」

やがて、取引先の部長が部屋にやってくる。歳は40半ばといったところ。
やや小太りのメタボ体形。どっこらしょと、向かいの座椅子に腰を下ろす。

「…で、こっちの子がハーバルさん?……ずい分とまあ、若いの、連れて来たねぇ…」
「あっ、…えっと、実はですね、本日、社長が……」

林田がイツキを紹介しようと、隣のイツキを見遣る。
イツキは、ぺこりと可愛く頭を下げる。


「今日は代理でお邪魔させて頂きました。オカベイツキと言います。よろしくお願いいたします」


そう言って、穏やかににこやかに…いつもの営業用の綺麗な笑みを浮かべる。

林田は一瞬仕事を忘れ、口を半分開けたまま、イツキに見惚れてしまうのだった。






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林田、驚く・4








「ええ、社長、ギックリ腰やっちゃったの?……あれはねー、無理だよねー。ワタシも経験あるから解るよ、もう、踏ん張ろうにも力が入らないんだよねー」



懐石コースの前菜の小鉢が運ばれ、和やかに宴席は始まる。
細かな仕事の内容などはすでに話が付いているらしく、今日はより親睦を深めるといったところ。
部長はハーバルの社長を気遣い、自分が先日ゴルフコンペの最中に腰をやってしまった事を、面白おかしく話す。


「…で、今日はイツキくんにお鉢が回って来たんだ? …なに?まだ新人さんでしょ? 仕事はどう? 楽しい?」


新人もなにも入ってまだ数週間の、右も左も解らない状態。
あまり仕事の話を振られボロが出てはまずかろうと、林田は気を揉み、あたふたする。
丁度、仲居が次の料理と、一緒に地酒の一升瓶を持ってくる。この部長は、かなりの酒豪で有名だった。



「お、キタキタ。ここはこれが楽しみでね…」



並んだ三つのグラスに酒を注ぎ、まずは部長が口を付ける。
そして、キミらもやりなさいという風に、林田をイツキにグラスを向ける。

林田は…イツキは未成年だからと、断ろうとしたのだが…、イツキは横目で林田を制し、大丈夫だからと小さく笑う。
「いただきます」と言い、そっとグラスに唇を寄せ、

一気に飲み干す。

本当に美味しい酒だったようで、感嘆の吐息と艶気を洩らす。



「…あ、…美味しいです…。……えっと、仕事は…まだ始めたばかりなんです。でも、好きです。ハーバルさんのクリームって本当に手に馴染んで、優しい香りがして…。本当にいい商品なんだなって思います」




イツキの飲みっぷりに部長は思わず林田を見る。林田は、…驚いた顔でイツキを見ていた。
「あっはっは、いいねぇ、商売っ気もある。気に入った。さ、飲みなさい、飲みなさい」
部長はイツキを気に入ったようで、豪快に笑い、イツキに、次の酒を注ぐのだった。






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2019年05月13日

林田、驚く・5







宴席は特に問題も無く、楽しく進んでいた。
お造りが出て、焼き魚が出て、酢どり生姜を食べたイツキが顔をしかめ、それを見て部長が笑った。

林田も軽く仕事の話を交えながら、食べて、飲んで、笑う。
それでも…慣れない接待に緊張しているのか、若干悪い酔い方をしているようだった。


「……いやっ…、部長、……それはですね…、その、あの……、ウチが紹介したミントの…、ちがう、…カモミールの……、アレが……」


だんだんと呂律が回らなくなる。一度黙ってしまうと、次の言葉がなかなか出て来なくなる。気持ちが悪いと中座する訳にも行かない。
一瞬の間が、場に、水を差してしまうのではないかと不安になる。



「…このお肉、美味しいですねぇ。柔らかいです。…あ、部長さん、次は俺に注がせて下さい」



イツキが変わらず明るい調子でいてくれるのが、救いだった。
酌をする時に席を移ったのか、いつの間にかイツキは部長の隣りに座っていた。

身体を寄せ、酒を注ぎ、見上げてニコリと微笑み、自分も返杯を受ける。

その、あまりに自然すぎる様子を見ながら…、林田はぼんやりと…、また酒を飲んでしまう。





「………イツキくん、手、すべすべだねぇ…。女の子みたいじゃない?」
「…だから、ハーバルのクリームが良いんです…。俺、お風呂の後、身体ぜんぶに塗ってますもん」
「……へぇ。……じゃあ、カラダ全部、すべすべなんだ?」
「………ふふ。………どうでしょうね…」




どこか甘ったるいイツキの声が、林田の酔った頭の中をぐるぐると回った。





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2019年05月14日

林田、驚く・6








「………ごめん…、……俺……、飲み過ぎて…」




最後に抹茶ムースを頂いて、宴席は終わる。
部長は上機嫌で店を後にし、呼ばれたタクシーに乗る。林田とイツキは頭を下げ、テールランプを見送る。

やっと一息ついた林田は、また一気に酔いが回る気がする。
ふらふらと歩き出し、終電に間に合うかと、駅まで歩く。



「……大丈夫ですか?……林田さん…」
「……うん。……ああ、……いや。……それよか…イツキくんは?……途中、気持ち悪そうだった……」
「……ん?……俺は、まだ、……へいき…」



酩酊しながらも林田はイツキを気遣う。
途中、コーヒーの手前で、イツキが長いトイレに行っていた事を心配していた。
戻って来た時には、口元をハンカチで押さえていた。



………部長も、………一緒にトイレに行っていたのは、……まあ、たまたまなのだろう…。
…深くは、考えていなかった。




「…でも、イツキくん話上手で、…すげー、助かった…。……ありがとう…」
「おやくにたてて、よかったです。ふふ。おれ、林田さんには、おん、があります」
「え?」



たどたどしいイツキの言葉。イツキがこんな風に喋る時は、実は、見た目以上に酔っぱらっている証拠なのだが…、……それはまだ、林田には解らない。




「……前に、林田さん…、…こじれそうな相手には、さくっと電話した方が良いって…言ってくれたの、おぼえてます?」
「……あー、そうだっけ?」
「……おれ、あの後…さくっと電話して…、……良かったんで……」
「え、……ああ。……あはは。……仲直り出来たんだ?…カノジョと…」

「カノジョじゃなくて、カレ、ですけどね」




何気ないイツキの言葉に林田が驚くのは、それから数メートル進み、横断歩道の手前で立ち止まり、赤信号を眺めていた時だった。






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2019年05月16日

林田・最終話







駅まで行ってみたものの、もう、帰りの電車は無く
仕方なく、タクシーに乗り込む。
疲れているのか、酔っているのか二人とも無口で
それでも、林田は、隣に座るイツキをチラチラと眺める。


今日は、驚く事ばかりだった。
酒が強くて話し上手で、付き合っているのが…男性で。

ああ、先日の出来事だって、どう考えたって、オカシイ。……普通、男同士はうっかりセックスをするものではないのだ。


こんな田舎町にふらりと働きに来た少年は、実は何者なのだろうかと、林田はまじまじとイツキを見つめる。
そして、ついでに…イツキが着ている黒いスーツが、林田でも名前を知っている高級ブランドだと解り…さらに驚くのだった。




「………林田さん」
「…えっ、……なに?……何?」
「…着きましたよ」



言われて初めて、もうタクシーが目的地に到着したことに気付く。
最初は、イツキのアパートの前。
自動でドアが開くと、イツキは頭を下げ、「……じゃ、おやすみなさい」などと言う。




「……えっ…、あっ……、………ああ、…おやすみ…」






林田がそう言う。

イツキはドアに手を掛けたまま、少し、不機嫌そうな顔をして

車から降りたのだった。







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2019年05月17日

大反省会








イツキは一人、アパートの部屋に帰る。
林田が…この後の誘いを掛けて来なかった事に不満の溜息を漏らし、水を飲んで、風呂に入る。
狭い湯船に足を折り曲げて浸かり、シャワーを頭から浴び、熱い湯で顔を洗い、アルコールを抜く。




昂っていた気が収まり意識がクリアになってくると、替わりに、罪悪感のようなものがこみ上げてくる。
やってしまった感…、やりすぎてしまった感…。
相手に喜んで貰おうともてなし…、…少し、……いや、過分に行き過ぎてしまったかも知れない。



「……俺、調子に乗り過ぎた…?……でも、……ヤッては……いないし……」



風呂から出て、濡れた髪をタオルで拭き、もう一度水を飲む。
部長とは、トイレで軽く、…口で抜いただけだった。

隣りに座って酌をして、過剰なボディタッチをする内に、部長が…勃ってしまったなど言い出し……
どちらが誘ったか、先に仕掛けたか…は、……忘れてしまった。
多分、上目遣いに視線を寄越して、ニコリと笑った…ぐらいだったと思うのだけど、それでどうして、トイレの個室でフェラチオをする羽目になるのか…
………酔いの冷めた頭で考えても、やはり、よく解らない。

ああ…もう、……酒を飲むと自分は駄目だ……、と、今更ながらイツキは反省する。




電話が鳴ってドキリとする。
今日の事を黒川が知れば何と言うだろう。『仕事熱心だな』と笑うだろうか。

それとも、怒るだろうか。



けれど、電話は、ただの様子伺いのミツオからのもので

イツキは疲れているから、と、素っ気なく電話を切ってしまうのだった。







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2019年05月18日

余波・1







翌日明け方、ドアのベルが鳴る。
こんな時間に来客などあるはずもなく、イツキは十分警戒し、ドアの内側から様子を探る。



「………イツキちゃん。………俺…」
「……えっっ」



チェーンを外し、ドアノブの鍵を回し、扉を開けると、外に立っていたのは…ミツオだった。
驚く間もなく、ミツオはイツキを抱き締める。



「……ミツオさん、……どうして…?」

玄関先で抱き合ったままというのも何なので、とりあえず、中に入り、ドアを閉める。
閉めると、ミツオはイツキを壁に押し付け、頬に手をやり、顔をまじまじと見る。


「……イツキちゃん、……心配、掛け過ぎだよ…」
「……え?」
「……昨夜の電話。……接待飲み、なんて…イツキちゃんが行く必要、無いんだよ」





昨夜は、接待だったと。取引先の部長と飲み過ぎて疲れた…と、イツキは話して、電話は切れた。
つい先日、気持ちを残したままで別れ、それ以来ずっとイツキの事を気にしていたミツオは居ても経ってもいられず、イツキに会いに来てしまったと言うのだ。
当然、電車も無い時間。飛び乗ったタクシーには、一体、いくら支払いをしたのか。

ミツオはイツキを見つめ、唇を合わせ、さらにきつく抱き締める。





黒川にも、これぐらいの熱っぽさがあればいいのに…と、イツキは、……ミツオの腕の中で思った。






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2019年05月20日

余波・2







「…接待飲みなんて…、大体、イツキちゃん未成年でしょ?お酒飲んじゃ、ダメじゃん…」
「……ちょっとだけ…、……でしたよ。……昨日は…、どうしても社長さんが行けなくなっちゃったからって…、…それで、…たまたまです…」
「イツキちゃんは…、…可愛いんだから。……間違いがあったら困る。……俺が紹介した仕事先で、……なんかあったら、俺……」
「…ミツオさん…」




そんな会話を、合間、合間に…したと思う。
ミツオが部屋に上がり込んでから、キスをして、事が始まるまで…早すぎて、話しておきたい事が、追いつかない状態だった。

ミツオは、先日、最終電車を理由にイツキと別れてしまった事を、ずっと後悔していたと言う。


「……こんな所で、……一人ぼっちで…。……可哀想だよ…」
「…そう、…でも…、ないですけど……」
「イツキちゃんの彼氏はさ、何、考えてんの?……このまま、放ったらかしでいいの?」
「…良くはないですけど…。……ちゃんと、……考えてるとは…思いますけど……」



以前から少なからず好意を抱いていた相手が、今、不憫な状態にいる。
自分は手助けしたつもりでも、さらに、困った状況になっては…申し訳が無さすぎる。
ミツオにすれば、とにかく、どうにかしてやりたい一心なのだが、どうすれば良いのかなど、見当もつかず。

いっそ、身もココロも、頭のてっぺんからつま先まで、すべて、自分が愛してやれれば良いのかと

そんな身の程知らずな思いすら、チラリと…浮かぶ。





「………あ。………ミツオさん、そこ、………駄目です……」




薄っぺらな布団の上に絡まりながら倒れ込んで。
背中から抱き締めて、はだけた肩口に唇を寄せて、手を、腰から下に潜らせ…、脚の間に捻じ込んで。
指先を尻に這わせ、窪みの上でくるくるとやって、少し中に押し込んで、軽く揺らして。




「……だめ…」




駄目と言って止まるようなら、イツキもミツオも、苦労はしない。





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2019年05月21日

余波・3








林田は若干浮かない顔のまま、午前中の仕事を片付けていた。
二日酔いと睡眠不足。それ以上に、気になる事があって、仕事に身が入らない。

昨夜の接待飲みは、自分が潰れた事以外は、まあまあ成功だった。
何故かイツキはああいった場に慣れていて、話し上手で可愛くて…、部長は上機嫌で、今度は山間の温泉地に行こうなどと言っていた。

ブランド物の黒いスーツを着こなすイツキを、ホストのようだと思ったけれど…本当に、飲みの席にいるような仕事をしていたのかも知れない。




男と、付き合っているというのも、驚きだったが。

言われてみれば、確かに。そういう…タイプの子…、なのだろうと…、……思う。







「…ああ、林田くん。昨日はありがとうね」
「社長。腰はもう大丈夫なんですか?」
「うん。昨日、帰りに整骨院行ってね、ずい分楽になったよ」


昼過ぎにハーバルに顔を出す。社長はなんとか復活し、世話になったと林田を労う。
……部屋には、イツキの姿は見えない。


「…ああ、電話があってね。今日はお休み。…昨日ので、疲れちゃったかな」
「林田さん、何かしちゃったんじゃないですかー?無理やり、飲ませたとかー?」
「……してないよ!」


話の合間にミカが茶化すと、つい、林田は全力で否定してしまう。


それでも、あんな席に連れて行き、飲酒させた責任は自分にあるのだ。
林田は、仕事上がりに、イツキのアパートに様子を見に行くことにした。






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2019年05月22日

余波・4







「……一緒に来ること、ないのに…」
「……一緒に行っちゃ、駄目なんですかー?」



仕事が終わり、林田は助手席にミカを乗せて、イツキのアパートへ向かう。
ミカは別段イツキに用事も無いだろうが、来るなとキッパリ断る理由も無い。


「……なんかー、最近、林田さん、イツキくんばっかり気にしてませんかー?……前はよく、ご飯、食べに行ってたのに、…最近は誘ってくれないじゃないですかー?」
「……そう?……って言うか、ご飯だって、そんなに行ってないでしょ」
「じゃあ、誘って下さいよー」


巻いた毛先をくるくると回しながら、ミカが、甘えた口調でそう言う。

ミカは、林田を好きだったが、林田は知ってか知らずか、はぐらかしてばかり。
もっとも今はイツキの事が気になって、それどころではない。


「………あたし、今度、イツキくんと、日帰り温泉、行くんです…」
「えっ、……じゃあ、それ、一緒に行こうかな……」
「………ふぅん…」


何だか自分がイツキのオマケの様な気がして、ミカは面白くない。
唇を尖らせて、そっぽを向いて、新しく塗ったネイルを眺めている内に、車はイツキのアパート前に到着した。







「……ミカちゃん、ここにいなよ。イツキくん、具合、悪いんだったら、アレだしさ。
……ちょっと、様子、見て来るだけだから……」


ミカを残し、林田だけ車から降りようとする。
イツキの部屋は二階の奥。指さし、視線を向けると、丁度、扉が開くのが見えた。






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2019年05月24日

余波・5







深く身体を重ね、終わるとうとうととし、目が覚めるとキスをする。
そんな事を何度か繰り返している内に、夕方になってしまった。
イツキは、すぐ目の前のミツオの寝顔を眺めながら…、……小さく溜息を付く。

自分は緩すぎて、脆すぎる。簡単に、流されてしまう。
……黒川の傍にいた時より、……もしかして今は悪い状態なのではないかと思う。




「………イツキちゃんはさ、……考えすぎだよ…」
「……え?」




目を閉じたまま、ミツオが呟く。どうやら眠っていた訳では無いらしい。
物憂げなイツキの様子を察し、ミツオもふうと、溜息を付く。


「……仕事のことも、俺のことも、もっと気楽に考えてていいよ。イツキちゃん、頑張ってるんだからさ。たまには、自分にご褒美ぐらいあげてもいいよ」
「……それは…、……ミツオさんが、…ご褒美って事?」
「…うん」


ミツオは目を開きイツキを見つめると、悪戯っぽくニコリと笑った。











ミツオは布団から抜け出し、そそくさと身支度をする。
これ以上長居をしては、もう、本当にイツキから離れられなくなると、冗談めかして言う。

「……また来るよ。……ああ、もう、変な飲み会に出ちゃ駄目だよ?
…駅まで…、ああ、いい、いい。、送らなくていいよ。改札で別れるのって、チョー辛いんだから……」


ミツオは靴を履き、バイバイと手を振って、玄関の扉を開ける。
身体が半分出たところで、もう一度イツキを見る。
イツキはシャツだけ羽織った姿で、ミツオを見送っていたのだけど…、


…別れ際はやはり寂しくて、つい、一歩外に出てしまう。



「………ミツオさん。……心配して来てくれて、…嬉しかったです…」
「…ん。……じゃあね、イツキちゃん…」



ミツオはイツキの頭に手をやり、ぽんぽんと軽く叩き、そのまま、その頭をぐっと自分の胸に近づけ…、

……名残惜しそうに身体を離し、イツキの元から離れて行った。






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