2019年06月24日

何度目かの決意







思えば今まで何度か決意した事がある。
ちゃんとしようと。身もココロも堅く、揺るがず、軽々しく男に媚びず。
きちんと、自分の生き方とか言う感じのものを、考えてみようと。真面目に。

今は良い状況のはずだった。
黒川と離れ「仕事」とも離れ、そんなものとは関係のない場所で、自分一人で生活できる機会だったのに……
気が付けばまた昔のように、男と欲にまみれてしまっている。



「駄目じゃん。俺、何やってるんだろう。……もう、誰ともヤんない。…絶対」



洗面所でざぶざぶと顔を洗って、イツキは決意を新たにするのだった。







ハーバルでは、半月後に控えた展示会の準備が本格化していた。
商品のリストアップに始まり在庫の管理。展示会用の限定商品の開発。諸々の調整。
それに加え、通常の業務もあり、とにかく忙しい状況に追い込まれていた。


イツキに出来る事は限られていたけれど、それでも少しでも手助けになればと、作業に集中する。
展示会に搬入する段ボール詰めの商品を確認し、ラベルの小さなシールを貼りかえるなど、地道な仕事を丁寧にこなすのだった。



時折、林田が、作業の進捗状況を見にやって来る。
明らかにイツキを意識しており、話しかけるにしろしないにしろ、態度がギクシャクしていておかしかった。

仕事を手伝うつもりがつまらないミスを重ね、疲れているのかと、社長が苦笑する。

林田は「ははは」と力なく笑い、横目でイツキを見ては、気付かれないように溜息を付く。



その様子を、部屋の端で、ミカが見ていた。






posted by 白黒ぼたん at 23:33| Comment(2) | TrackBack(0) | 日記

2019年06月25日

爆弾







「林田さんって、もしかして、イツキくん…好きになっちゃったとか…、……ないですよねぇ……」


その日、ミカと小森の二人は就業時間を過ぎても、まだ細々とした仕事をしていた。
少しするとミカが手を止め、解りやすく溜息を付く。あらかた仕事を終えていた小森が顔を上げ、ミカに水を向ける。


「………ええー、何言ってるの、ミカちゃん。……林田さんと何かあったの?」
「……何もないですよぅ。……無いから、困ってるんです……」


小森は、ミカが林田に気がある事を知っていた。
そして、いつも元気でムードメイカーのミカだが、林田に対しては意外に奥手で…未だ目立ったアプローチが出来ていない事も知っていた。

ミカも、その事は解っている。
だからこそ最近はイツキを介して、なんとなく、もう一歩近い仲になれたらと…思っていたのだけど……

どうもミカを飛び越えて、二人の様子が怪しく、オカシイ気がするのだ。




「……林田さんとイツキくん。飲みに行ったり、おウチに行ったりしてるみたいなんですけど……」
「あら、気が合うのかしらね」
「……でも、今日なんて、目も合わせない感じで…、……なんか……なんか……」
「もう、何言ってるのよ、ミカちゃん。……第一、男の子同士でしょ?そんな事、ある訳ないじゃない。漫画の読み過ぎよ」



小森はそう言って笑う。

ミカも、自分でも変な事を言っていると思う。それでも、そんな気がしてならない。
物憂げに頬を膨らませ、唇を尖らせ、首を傾げて、んんん…と唸る。




「でもね、小森さん。イツキくんって…、……ソッチの子なんですよ。ほら、ここに来たミツオさんっているじゃないですかー。ヒゲのイケメンさん。
イツキくんとあの人、付き合ってるみたいですよ……」




そんな爆弾を、さらりと落とすのだった。





posted by 白黒ぼたん at 22:51| Comment(3) | TrackBack(0) | 日記

2019年06月26日

嫉妬







小森がミツオと男女の仲になったのは、4,5年前。
けれど当時すでに小森は既婚者で、平たく言えば不倫というやつで…
……それは小森の妊娠を機に、自然消滅したのだった。

しかし、最近また、ミツオの姿を見掛ける様になって…火がついてしまう。

家庭を壊す気は毛頭ないのだけど、以前よりさらに男臭くなったミツオに、年甲斐も無く胸がときめく。




「……馬鹿ね。おばさんがみっともない。……ミツオさん、もう、好きな人がいるのにね……」




夫と子供が寝入った真夜中、小森は台所の片づけをしながら、溜息を付く。
久しぶりに会ったミツオに素っ気ない態度を取られ、少し落ち込んでいたが、…その理由が解り、さらに落ち込む。
ミツオに同性愛の趣味があった事は驚きだったが、相手がイツキだとすれば、何となく…解る気もする。


どうにせよ、もう、自分の出る幕はないのだ。
ミツオへの想いは胸に秘め、表に出すことは決してしない…と、小森は娘の弁当箱を洗いながら誓うのだった。












「……イツキくん、この箱、天地が逆でしょ?見れば解るでしょ?見てないの?
こんな、箱にシール貼るだけの仕事でお金貰ってるんだから、もっとしっかりやってくれなきゃ困るのよね。
ここの角も折れてるし、ここも変。ここも!
ああ、もう。こんなの、いちいち直してたら、日が暮れちゃうわ!」


翌日の小森はいつもに増してピリピリと、険悪な空気を漂わせていた。
男への想いは隠そうと思っても、そう簡単に、隠れるものではなかった。







posted by 白黒ぼたん at 22:48| Comment(1) | TrackBack(0) | 日記

2019年06月28日

来客







黒川の事務所に来客があった。
生憎、一ノ宮は出ており、黒川が一人。
扉を開けてやる義理も無かったのだが、外で騒がれても面倒なので、渋々、開ける。

立っていたのは、あの、池袋の、笠原だった。




「……ドウモ。おや、一人でお留守番ですか?黒川さん」
「あんたこそ。連れも伴わず油でも売りに来たのか?暇人だな」


笠原は一歩、室内に入り、ぐるりと中を見回す。
狭い事務所は、2秒もあれば、その大体が解る。


「……しょっぱい事務所ですね。金に困っているなら、融通しましょうか?」
「余計なお世話だ。……何の用だよ」


一応、同業。多少縁のある組の、若頭補佐。
一ノ宮がいれば普通に挨拶をし、茶の一つでも淹れるところだが、黒川にそんな気はない。
ましてや、最近は、言わずもがな機嫌が悪い。しかも、「笠原」と来れば、良い話の筈もない。
ふん、と鼻息を鳴らし、煙草に火を付ける。威嚇のための凶器がある引き出しに、手を伸ばせば届く距離。




「……いえ、ね。少々、仕事の手を広げましてね。ここいらにも顔を出すかも知れない…、黒川さんにもご挨拶をと思いまして。

新しく、傘下に入れた組もあるんですよ、……光州会とか」


その名前に黒川は、ちらりと視線を寄越す。
笠原は、ニヤリと笑う。


「……聞けば、光州会とは、…関りがあるようですねぇ。……おや、そう言えば今日、イツキくんは?」
「白々しい。あいつは、いないぜ。…光州も、もう、ウチとは関係ない」
「はは。まあ、今すぐどうこうという話じゃありませんよ。……今日はちょっと、ご挨拶に寄っただけです」





そして、笠原は礼儀正しく頭を下げ、事務所を後にするのだった。






posted by 白黒ぼたん at 21:09| Comment(1) | TrackBack(0) | 日記

2019年06月29日

言葉足らず







黒川は夜中に、マンションの部屋に戻って来た。
半分付き合いという名目で、酒と女を引っ掛けて来たのだが
気は晴れず、逆に、陰鬱な気分になる。




『……笠原氏と光州会ですか…。それはまた厄介なトコロが組みましたね。
光州の高見沢さんは先代に遠慮して、もう、イツキくんには関わらないという感じでしたが……、
その件だけ、笠原氏が動くとしたら……、……厄介ですねぇ……』




後から話を聞いた一ノ宮が、険しい顔でそう言う。
そもそも光州会も、笠原も、もうイツキとのイザコザは解決済みのはずだったが…
両者とも、隙あらば…と、狙っているのは確かだろう。



「………ふん。………一発、やらせておくか。……それで済むのならな…」



誰もいない真っ暗な部屋で、黒川は缶ビールを片手に、そううそぶく。
確かに少し前なら、そう言った交渉の手段としてイツキを差し出すこともあったが、今は、しない。









ベッドに入ってしばらくして、ケータイがチカチカと光る。
イツキからの短いメッセージが届く。
仕事で嫌な事でもあったのか、めずらしく弱気に、『……俺、そろそろ、帰ろうかな……』と。

黒川の返事は



『駄目だ』




の、一言だった。




posted by 白黒ぼたん at 22:51| Comment(1) | TrackBack(0) | 日記
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