2019年07月22日

静かな時間







「……マサヤはさ、……もうちょっと俺に、……優しくするべきだよ」
「……してるだろう。十分だ。……お釣りが出る」
「…俺、ちゃんとマサヤの言う事、聞いてるよ?……昔っから、ずっと……」


ソファに座る黒川の胸に、イツキはしがみつく格好。
黒川は持っていたグラスをテーブルに置き、その手を、イツキの背中に回す。

イツキが言う、「昔」は、イツキが黒川に好き勝手に扱われ、他の男にも乱暴に抱かれていた頃のこと。
確かに、イツキは、その頃から変わらず、従順だ。


金や、契約などが絡んでいた昔ならいざ知らず
今は、そうする、理由もないのに。



「……まあ、……そうだな。……そのうち、何か…」
「何か、してくれる?」
「……温泉でも行くか…」
「………」



少々、期待外れな黒川の答えに、イツキは気付かれないように唇を尖らせ…、…それでも黒川が自分を労う気持ちを持っていることだけでも…、良しとする。
本当に、この男にしては、十分なのだ。




イツキは黒川に抱き付きながら、顔を上げ、黒川を見上げる。
黒川は空いている方の手をイツキの頬にやり、しばらくそのまま、視線を落とす。

どちらともなく吸い寄せられるように唇を重ね、離れては見つめ合い、また、唇を重ねる。

静かなキスの時間。意外にも二人には稀なことで、しかもそれは、



激しいセックスをするよりも、二人を、熱くさせた。






posted by 白黒ぼたん at 23:55| Comment(2) | TrackBack(0) | 日記

2019年07月23日

業務連絡







黒川が言うには、

光州会の、イツキへの執着は、一応収まったものの
今度は笠原まで出て来て、今後の動きが読めない事。
一度は挨拶に行かなければいけないのだろうが、それは「挨拶」だけでは済まないだろう…という事。
今は、なるべくダメージが少なくなるよう、状況を整え、整え…。機を伺っている所なのだと。


その説明に、イツキは一応、納得はしたようで。
……遠からず、取引のカードとして、……そうなる事があるにせよ…、もう少し、様子を見る方が得策なのだろうと。
今、戻って、街中で笠原とバッタリ出くわして、衝動的にどうこうもなりたくない。

こちらでの生活も、まあまあ、頑張っているのだし。
せめて、半月後の展示会だけでも、ちゃんと手伝って終わらせたいと、責任感も持っていた。



「……展示会?……都内でかよ?」
「…銀座って言ってたよ。…デパートの売り場、手伝うだけだよ」



あまり派手に活動されても困ると、黒川はイツキの仕事に難色を示すのだが
化粧品だ、オーガニックだ、ボタニカルだと…、女子力強め。黒川とは、関りのない世界。
まあ問題は無いだろうと、目を瞑る。







業務連絡はそれくらいにして

する、ことを、する。

十分な愛撫の後、黒川はイツキに挿入し、イツキは黒川を受け入れる。

そう痛みも無く、快楽のみ。

行為に、ハーバルのクリームは、非常によく役に立った。







posted by 白黒ぼたん at 22:46| Comment(2) | TrackBack(0) | 日記

2019年07月25日

箸休め







今では西崎組の中堅になった佐野は、手下のチンピラを数名連れ、夜の街を巡回していた。
そこかしこに知り合いの女がおり、軽い冗談とボディタッチで、場を賑わせる。

また今度ゆっくり、と、ありきたりの会話を交わし店を離れる。
新しい連絡が無いかとケータイをチェックし、ふうと溜息をついて、忙しいフリをする。



「……お前ら、もう、今日は帰っていいぞ。……オツカレ」
「えっ、……佐野さん、どうするんですか?」
「…俺は、まあ、……ちょっとな。………じゃあな」

そう言って、ヒラヒラと手を振って、一人背を向け、歩き出す。

向かった先は、昔からの馴染みのラーメン屋だった。




「……らっしゃい」

大将の不愛想な声に顎だけで答え、店内隅のテーブルに着く。
油が滲む安っぽいビニールクロスには、煙草で焼けた穴がある。
注文はいつもラーメンとギョーザ、チャーシューにビール。
小皿に酢とラー油を入れ、割り箸を割る。






『……佐野っちって、ギョーザにお醤油、入れないの?』
『ああ。入れてもちょっとだな』
『…ふぅん…』


そんな他愛もない会話を思い出す。


イツキの『仕事』の帰り、よく、二人でラーメンを食べた。
風呂上がりの濡れた髪。頬に、男に付けられた引っかき傷があっても、その事には何も触れない。



『………おネギ、……多過ぎ…』



ラーメンの上のネギを不器用に箸で避けながら、微笑むイツキが、愛しかった。





posted by 白黒ぼたん at 21:52| Comment(2) | TrackBack(0) | 日記

2019年07月27日

ごっこ遊び







朝、イツキが台所で歯を磨いていると、後ろから黒川がピタリと身体を寄せて来る。
勿論、嫌がらせだ。


「……なんだよ。……まさか、仕事に行くとか、言うんじゃないだろうな…」
「……んー。今、忙しくって…」
「…はぁ。…俺がせっかく来てやったのに、か?」


どうしても今日中に仕上げなければいけない作業があるのだと、夕べ、話は聞いていたのだが、まさか本当に出掛けるとは。
黒川はイツキの背後に立ち、腰に手をやり、変質者のように…モノを押し付ける。


「……んー。……駄目だってば、マサヤ…」
「……仕事なんて行くなよ、……好きな事、して、やるぜ?」


黒川はイツキの耳たぶを噛みながら、いつも以上に甘い声でささやく。
うっかり感じてしまいそうになるのを堪え、イツキは手早く、歯を磨き終える。
腰や、その前の方で、さわさわと動く黒川の手を外そうと、イツキは自分の手を重ね
思い切って身体の向きをくるりと変え、黒川と向きあう。


「……ね、マサヤ、ちょっとだけ待っててよ。仕事、頑張って終わらせて、早く、帰ってくるから。そしたら、明日はお休みだから。……ね」
「………ずっとここにいろって言うのか?……俺はそんなに暇人か?」
「いいじゃん。……たまには、のんびりしちゃいなよ、ね」
「……一ノ宮に殺される…」



お互い、ニヤリと笑って、キスをする。



古めかしい、狭いアパートの部屋で、稼ぎに出掛ける女とそれを引き止めるヒモ男。


そんな、ごっこ遊びに興じる二人だったが



思いのほかキスが深くて、危うく、遊びで済まなくなるところだった。




posted by 白黒ぼたん at 22:25| Comment(2) | TrackBack(0) | 日記

2019年07月30日

その日のハーバル








「…これ。トライアル用のセットです。クリームと石鹸とバーム。200個出来てます。あとアンケートの内容まとめてあります。こっちは、クレーム処理済みの方です。
道の駅のササモリさんが来週にでも来てほしいって言ってました。ハーバルの棚を手前に移動したいみたいです。
…あと…これ、お弁当屋さんの来月のメニューです。会議用松花堂弁当だけは前日までに予約だそうです」

「…あ、…ウン。…ありがとね」




その日、イツキは驚くべきスピードで仕事を終わらせ、社長にぺこりと頭を下げる。


「え?何?イツキくん、帰っちゃうの?……これから林田さん、来るって言ってたよ?」
「…ごめんなさい、俺、今日、用事があって…。お先に失礼します」


そう言って、ミカと小森にも頭を下げ、イツキは作業所を出て行ってしまった。





「……どうしたんでしょうね、イツキくん。……用事って…、デートとか!?」

ミカはパソコンをカタカタやりながら、興味津々の様子で、小森にそう尋ねるのだが
小森はギロリとミカを睨み、ふんと鼻を鳴らし、解りやすく不機嫌になるのだった。









林田は、
イツキに対してどう接して良いのか、まだ、混乱していたのだ。


イツキが「付き合っている彼」は、ミツオでは無かった。
…どうしたって、親密な関係に見えるのに…、そんなミツオとは「何もない」のだと言う。
自分もイツキとは、2回も…シてしまったのに、毎度、「無かったこと」にされてしまう。

もしかしてイツキは…、親密さの基準が…、人と違うのかも知れない。

何より、本当の「彼」だという…あの男。人を殴るのに躊躇しない、と言うか、慣れている、と言うか。
ああ、そう言えば以前にイツキが、自分の彼氏は怖い男なのだと言っていた。
その時は、そのイメージとミツオが結びつかなかったけれど…、そういうコトだったのかと…合点がいく。


夕方、ハーバルに行くとすでにイツキはいなくて、林田は少しホッとする。
同時に、もしかして今もあの男と一緒なのかと思うと、身体の変なところがゾクゾクとするのだった。






posted by 白黒ぼたん at 00:10| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記

イツキとコロッケ







仕事を早く終わらせて、イツキは帰路につく。

ああ、でも、あまり急いでも、それではまるで黒川に会いたくて仕方がないみたいじゃないかと…、イツキは走り出すのを我慢する。
途中、小さな段差に躓き、危うく転びそうになる。
手に持っていた、駅前の総菜屋のコロッケを落としかけ、慌てる。



けれど、アパートの部屋に、黒川の姿は無かった。


あれだけ仕事が忙しいだの何だの、文句ばかり言っている男だ。
こんな場所で時間を潰せるほど余裕はないのは、イツキだって知っている。


「……まあ、別に。……いいけど…」


コロッケの袋を台所に置き、イツキはふうと溜息を付く。
流しにはビールの空き缶と煙草の吸殻。つい数時間前まで、黒川がこの場所にいた事が、悔しい。









「…クソ。本当にクソ田舎だな、コンビニも無いのかよ。お前、よくこんな場所で生活出来るな…。…車があれば少しはマシなのか…」


イツキが二つ目のコロッケに箸を付けたところで、黒川が部屋に戻って来た。
近辺を観察がてら、買い物に行っていたのだと言う。
結局、大きな通り沿いのショッピングセンターまで行き、気の抜けたファミリー向けの店で着替えのシャツなどを買い、それが自分でも可笑しかったのか、ふふと鼻で笑っていた。


「…ん、コロッケか?………貧乏臭くて、いいな」


黒川はイツキの隣りに座り、イツキが食べようとしていたコロッケを手で摘み、ぺろりと食べる。


油のついた指先を舐め、その手を伸ばし、イツキの肩を抱き寄せた。






posted by 白黒ぼたん at 22:32| Comment(2) | TrackBack(0) | 日記

2019年07月31日

ほんの一瞬







「………ああ、イツキの所だ。……行けと言ったのはお前だろう、……はは、その辺は適当にやっておけ、………ああ、そう喚くなよ、一ノ宮…」




コトの後、黒川に寄り添うようにして少しまどろんでいたイツキは、黒川の電話の声で目を開ける。
相手はどうやら一ノ宮のようだ。ケータイの向こうから声が漏れる。

「……解った、解った。……明日には戻る。……ああ、……じゃあな」


通話を終え、ふうと溜息を付く。心配げに見つめるイツキと目が合う。


「…一ノ宮さん?……大丈夫だった?」
「……まあ何とかするだろう。……後は知らん」



やりかけの仕事も翌日の予定も何もかも放り投げ、こちらに来てしまった。
一ノ宮が怒るのも無理は無いが、もう、来てしまった以上、仕方が無い。
トンボ帰りでは、まるで、一目だけでもイツキに会いたかった様なものではないか、………実際、そうなのだけど…。
この際、この週末は休みだ、と、黒川はすっかり開き直る。


誰も、知る人のいない田舎町。古アパートの部屋はどこか懐かしく、昔を思い出させる。
こんな場所で、二人きり生きて行くのも面白かろうと、一瞬……

…ほんの一瞬だけ、思う。





「……イツキ」
「…んー…」


黒川は身体を横に向けイツキを抱くと、そのまままた仰向けになり、イツキを、自分の上に乗せる。
イツキは解っている、という風に身体を起こし、黒川の腰の上に跨る。




二回目は、イツキが上で動く番、だった。




posted by 白黒ぼたん at 22:23| Comment(2) | TrackBack(0) | 日記
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