2019年08月02日

手順







黒川の腰の上に跨ったイツキは、まず最初の挨拶にと、身を屈め軽いキスをする。
それから、頬、耳たぶ、首筋と順番に辿り、胸の突起の上では念入りに舌を這わせる。
その仕草はまるで、子猫がミルクを舐めているようだと、黒川は思う。
行為に慣れていないワケでも経験不足でもあるまいし、未だにどうにも、たどたどしいのは……実は、フリなのではないかとすら、思う。

実際、くすぐったくて、もどかしい。
待ちきれず、自分の手が出てしまいそうになる。

しばらくそうした後は、また、つつ、と舌を滑らせ、……その下へ。
イツキは、確かめる様に黒川の割れた腹筋に手をやり、それに沿って、舌を這わせる。
ヘソまわりをくるりと舐めると、黒川が少し、身体を揺らす。
イツキはそれを見て、嬉しそうに微笑む。



「……いいから。……早くしろよ」
「……はぁい」



すでに雄の形になっているそれに、唇を寄せる。
つい先刻まで、イツキの中に押し入っていたものだが、イツキは躊躇なく口に収める。
舌を絡め、柔らかく噛み、喉の奥で締め付け、緩める。
……昔から仕込んで来ただけあって、……こちらは、上手い。よほど警戒していないと、あっという間に持って行かれる。

黒川も然り。




イツキの頭に手をやり、指に髪を絡め、押し付けようか、引き剥がそうか…迷う。
それでも、その頃合も、イツキは知っているのだ。

わざとらしく舌を出し、唾液を垂らし、名残惜しそうにモノを一舐めしてから顔を上げる。
そして目を見合わせ、ニコリと笑って見せる。




イツキは腰を浮かせると、布団の横に放り投げていた…クリームを手に取り、自分の入り口に塗り付ける。
そんなものを塗らずとも、まだ濡れたままの箇所。ほぐさなくとも、程よく緩んだ穴。



ベタつく指で黒川のモノを支え、丁度良い位置を探り、先端を入り口に押し当てる。





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2019年08月04日

作戦







入り口の位置さえ合わせてしまえば、後は腰を落とすだけ。
自身の重みで、ゆっくりと黒川を飲み込んで行く。
イツキは片方の手を床に置き身体を支え、もう片方の手は黒川の腹の上に置いていたが

ふいに、黒川がその手を取り、指を絡める。その拍子にバランスを崩し、一気にモノは根元まで…入る。



「………んっ……」



解ってはいたが、やはり、その質量にイツキは息を飲む。
痛みというより圧迫感。強烈な違和感。押し出してしまいたいのに、内側の粘膜がどろりとまとわりつく。
やがてその感覚の底から、染みが広がる様に快楽が滲む。

眉間にシワを寄せ、唇を噛む。身体中が、黒川に、なる。





その数秒の間を黒川は楽しんでいるようだった。
空いている方の手を伸ばし、イツキの顔に触れる。
親指の腹で唇をなぞり、口をこじ開け、歯列を割り、口中を犯す。
イツキは親指に舌を絡めながらも、嫌そうに顔を背ける。


「……どうした、ほら?…イツキ」
「…………だめ、………うごけない」


黒川が少し、腰を突き上げる。
イツキはさらに困った顔をして、口から唾液を垂らす。



「………おれ、………これだけで、……いっちゃう…」
「…はぁ?……まだ何もしてないだろう?」
「…だって、俺、まだ…さっきのが残ってる……」


そう言ってイツキは、もう一ミリだって動かしては終わってしまうと
目に涙を浮かべ、首を横に振る。






結局、また黒川が、激しく動く羽目にあう。







posted by 白黒ぼたん at 23:36| Comment(2) | TrackBack(0) | 日記

2019年08月06日

布団








黒川は布団の上に仰向けになりながら、煙草に火を付け、一服する。
隣りでそれを見ていたイツキは、…灰が落ちそう…と心配する。

何度も突かれ、イかされ、身体は甘く痺れたまま。
思い出すだけでも、どこかがジンと来そうで、困る。



「……マサヤ、…煙草、……あぶないよ…」
「………ああ」



解っているのだろう、黒川も一応、そう答える。
頭を醒ますための一服。最後に深く息を吐くと手を伸ばし、吸殻を、向こうにあったビールの空き缶に捨てた。






「……布団は、駄目だな。…脚が痛くなる」
「……動いちゃうしね。…壁に頭、ぶつけそうだった…」
「お前が芋虫みたいに動き回るからだろう」
「………イモムシ…」



黒川の言葉にイツキは不満げに唇を尖らせる。
確かに、そんな風に動いていたかも知れないが…
それは、黒川がそうさせたのだろうと…思う。


もう、無理と身体を強張らせるイツキを捕らえ、引き寄せ、さらに奥へと貪り貫き。
何かにすがろうと伸ばすイツキの手を、取り、その指先さえ、舐りつくし。

気付くと、とうに身体の下に布団は無く。
移動しては、また、足で蹴飛ばし…を、何度か繰り返した。




「……やっぱり、ベッドがいい?……買っちゃう?」
「…いや。…ヤリ部屋になっても困るかなら…。……ダレカレ、連れ込みそうだ」
「……連れ込まないよ」
「そうか?」




半分本気のように黒川はそう言って笑い、もう一眠りと、傍らのイツキを抱き寄せた。







posted by 白黒ぼたん at 21:48| Comment(2) | TrackBack(0) | 日記

2019年08月09日

もう一波乱







「……お風呂!?」
「…ああ、日帰り温泉。近くにあっただろう。……行くぞ」



何度目かのセックスと転寝の後、黒川がふいに切り出す。
二日ほどこの部屋に泊まったが、ほぼシャワーしか使えない風呂はどうにもいただけない。
…この近辺をざっと調べた時に、見付けた温浴施設。
今日、明日には向こうに帰る予定なのだが、その前に食事も兼ねて出掛けるのも悪くないだろう。


黒川は布団から起き、シャツに袖を通す。


「…………マサヤ」
「…何だ」


イツキも起き上がり、身支度をする。
勿論、大きな風呂には入りたいし、お腹も空いている。
バッグにバスタオルと着替えを放り込みながら、イツキは…少し憂鬱な表情を見せる。


黒川は、
「風呂」と言えば無条件でイツキが喜ぶと思っていたようで、あまり乗り気でない様子を不思議に思う。



「……生理か」
「違うよっ…、……あのさ、俺…、そこのお風呂、……行ったことがあるんだけど…」
「…うん?……もう何か、揉め事を起こしたのか?」
「……違う…けど……」





近場、とは言え、歩いて行くには遠い距離。
黒川はスマホで手早くタクシーを見付け、手配する。
そして車が到着し、施設に向かう間、実に厭味ったらしくねちっこく



イツキが「湯〜らんど・極楽」で出会った刺青の男の一件を、聞き出すのだった。




posted by 白黒ぼたん at 00:28| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記

悪態







「馬鹿か、お前は。どうせ物欲しそうに、その生ッちろい身体を晒していたんだろう。自分の身体が猥褻物だと自覚しろ。物好きじゃなくとも寄って来る、同業者なら尚更だ。
風呂場なんざ、服を脱がす手間もない。簡単に、突っ込まれる。
そのまま連れて行かれて、どこぞでオモチャにされるだろうよ。お前のオハコだ。
まあ、そうなりたくて、色気を垂れ流してるんだろうが…これ以上余計な面倒は起すなよ、付き合いきれん」




湯〜らんどに向かうタクシーの中で、イツキは、先日の出来事を大まかに説明し
それを聞いた黒川は、ひとしきり、悪態をつく。
イツキは少し不機嫌になるも、黒川にそう言われることは予想していた。
心配なのは、…傍耳を立てているであろう、タクシーの運転手の反応ぐらいだった。



「……でも、……最後までは…、……しなかったよ……」
「お前の最後は、ドコだよ? ケツの穴が広がるほど突かれて、中イキするまでか?」
「俺、ちゃんと逃げたし、抵抗したし、突かれても無いし、…イってもいないよ!」
「…あー、ハイハイ。中途ハンパで残念だったな」



話の半ばでもう沢山という風に、黒川は手をヒラヒラと振る。
もっとも、これ以上話しても喧嘩になるばかりだし、…その中途半端な身体をどう処理したのか、などと聞かれても困るので
イツキも、膨れっ面で、窓の外を向く。



まあ、そう言う割に、黒川は怒っている訳ではないのだ。
この程度のことは、イツキにはよくある事なのだと、諦め、呆れているのだろう。

それが解っていて
こんな場所に、一人で放り出しているのだ。……多少のトラブルは…、やむを得まいと。



やがて車は湯〜らんどに到着する。
微妙な顔の運転手に金を払い、二人は、施設内に入って行った。




posted by 白黒ぼたん at 23:09| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記

2019年08月10日

挙動不審







日曜日の午前中。
施設は混み合っている程ではないが、家族連れなど、まあ、そこそこ客がいる状態。
けれど黒川は特に気にする様子もなく、脱衣所で服を脱ぎ、タオルを手に浴場へ向かう。
イツキの方が、キョロキョロと辺りを伺い、どこか怪しげだ。

もともと、こういった公衆の場で肌を見せることには抵抗がある。
それに、あの刺青の男が、またいるかも知れない。
そしてさらに……


「……お前の態度の方がよほど不審者だな」
「……だって、……なんか…」
「コソコソしているから余計に目立つんだ。…馬鹿」


黒川はイツキを鼻で笑う。
イツキは黒川の隣りに座り、タオルを濡らしながら、鏡越しに黒川の様子を眺める。


こんな風に、こんな場所で、黒川と風呂に入るなど…、……初めてではないだろうか。
黒川のハダカなど見飽きている筈だが、何故だかどうにも恥ずかしくて…直視できない。

あの腕に、あの胸に、つい数時間前まで抱かれていたのかと思うと
まるで今そうされているように…、他の客の目前でそうされているように、感じる。





「……この時間には、いないだろう」
「…えっ」
「刺青の男。…大抵の風呂場は断られるからな。…会ったのも、早朝なんだろう?その時間帯、限定だったんだろうよ」
「……う…ん」





イツキの挙動不審は、例の男を警戒しての事だろうと黒川は思っていた。
イツキは、ボディーソープを盛大に泡立たせながら、そういうコトにしようと誤魔化した。






posted by 白黒ぼたん at 23:37| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記

2019年08月12日

二人風呂







辺りを警戒したり、黒川のハダカを意識したり…イツキが一人忙しく気を遣っている間に、黒川はさっさと身体を洗い、露天風呂のある外へ出てしまう。
慌ててイツキも身体を流し、黒川の後を追う。

屋外には、イツキが刺青の男と出会った岩風呂の他にも、いくつかの風呂がある。
小さな滝のような打たせ湯や、季節ごとに替わるという入浴剤入りの風呂。
奥の方にもいくつか小さな湯船があり、黒川はそこへ向かう。
今にも倒れそうな爺が一人、湯に入っていたが、黒川と入れ替わりに出て行き、辺りに人気は無くなる。



「…意外と、静かだな…」


ざぶんと湯に浸かり、黒川が一息つく。
追って来たイツキも、黒川の隣りに入る。他の客がいないのはありがたいが、やはり少し、照れる。
なるべく黒川の方は見ずに、ぐるりと周りを見渡す。

「……みんな、広いトコ、入るのかな。……滝みたいなのも、楽しそう……」



周りを見渡し一周すると、黒川と目が合ってしまう。
機嫌が良いのか黒川はニヤリと笑い、無駄に、イツキを意識させる。



「……マ…、マサヤは……」
「……ん?」
「……刺青、…無いんだね…」
「あった方が良かったか?」



黒川の答えに、イツキは首を横に振る。
…仕事柄、そういった男達に何度も遭って来たが、やはり、それが与える印象は大きく、未だに…怖い。
逆に、黒川の背中に刺青があれば慣れたのかも知れないが…、慣れても、困るだろう。



「……世話になった「親」が、……そういう系じゃなかったからな…。…まあ、入れても良かったんだが…、丁度、その辺りで忙しくなってな……」
「……怪我した…頃?……一ノ宮さんと…、…とか?」
「……ああ」



黒川の若い頃の話は、イツキもあまり詳しくは知らない。
黒川もあえて話すつもりはないのだろう。

話を終わらせるように、手を伸ばし、イツキの顔を自分に向けさせる。




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2019年08月14日

優しい声音







露天の小さな湯船に浸かりながら、黒川はイツキの頬に手をやり、顔をまじまじと眺める。
黒川は怒っている風でも不機嫌でもなく、どこか面白がっているという様子。

イツキも黒川を見て、何となく視線を逸らせて、もう一度、確認するように黒川を見る。

離れて暮らしていた黒川が目の前にいることが不思議。まして、一緒に風呂に入っているのだ。





「……マサヤ、今日、…帰っちゃうの?」
「…そうだな。…寂しいか?」
「うん」


思いがけない即答に、黒川も、イツキも驚く。


「……意外と、来れない距離でもない。……また、来てやるよ…」
「うん」
「…玉子焼きも、まだだったな…」
「………ん」




近すぎる場所で一緒に生きていた頃には、聞いた事も無い、甘い言葉と優しい声音。
熱と湯気で、耳が融けそうだ。
さらに身体を合わせ、唇も合わせる。
すぐにそれだけじゃ足りなくなって、困る。




「………マサヤ…?」




イツキは半分のぼせた頭で、黒川のなすがまま。
風呂から上がるように促され、縁に座ると……黒川はその足の付け根の真ん中に顔を埋める。


「……駄目、だよ。……こんなトコで……」
「…でも、お前、……勃ってるぜ……?」
「………だ…め………」






posted by 白黒ぼたん at 23:14| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記

2019年08月19日

お食事処deバッタリ







長すぎる風呂から上がって、食事処。
イツキと黒川は揃いの甚平を着て、フロアの隅のテーブルに向かい合って座る。
衝立を挟んで向こう側は、リクライニングが並ぶ休憩所。
仮眠が取れる場所だけあって辺りは薄暗く、ただならぬ雰囲気の二人には丁度良い。

イツキは
のぼせ、火照り、茹った赤い顔で、畳敷きのフロアにごろりと寝転ぶ。
黒川はビールを飲みながら、そんな様子のイツキを可笑しそうに眺める。



露天風呂で、少々、遊び過ぎてしまった。
触ったり、擦ったり、舐めたり、舐められたり。
さすがに挿入には至らなかったが、イツキは無駄に感じ、熱くなってしまったようで
中途半端な身体を誤魔化すように湯に浸かり、……浸かり過ぎてしまったようだ。



「……そんな顔で寝てると、……ヤられるぞ?」


半分笑いながら黒川にそう言われ、イツキはむくっと重たい身体を起こす。
目の前の冷えたビールに口を付け、ふうと息をつき、恨みがましい目で黒川を見遣る。



「……マサヤが、……あんなコト、………するからじゃん…」
「お前は、……風呂は駄目だな。……誘っているのも同然だな」
「誘ってないよ。……手、出す方が、おかしいんだよ……」


口を尖らせ、愚痴を零して、イツキはまたビールに口を付ける。

黒川は言葉の割には怒っている様子もなく、むしろ上機嫌で、ビールジョッキを煽るのだった。








長すぎるお盆休みも終わりまして
思い切って、場面、変えちゃいましたw

こっから本番です!
posted by 白黒ぼたん at 22:09| Comment(2) | TrackBack(0) | 日記

2019年08月20日

お食事処・2







舞台の上では一般のお客さんが、順番にカラオケを歌っているようだ。
別の時間には演芸ショーなどもあるらしい。休日の午後をのんびり過ごすにはうってつけだった。

イツキはぼんやりと辺りを見ながら、ビールを飲む。
黒川は腹が減ったと、食事処のメニューを眺め、タッチパネルを操作する。


「………ごはん、食べたら…、……マサヤ、帰っちゃうの?」
「…そうだな。さすがに3日も空けると、一ノ宮に怒られるからな」
「………そっか…」


イツキは少し拗ねた風に唇を尖らせる。
黒川との生活は必ずしも良い事ばかりではない。散々、痛い目にも怖い目にも遭って来たのだけど…、それでも、すでにそれが肌に馴染んでいた。
離れて暮らすのはやはり……



「寂しいか?」
「……うん」
「俺もだ」





不意打ちの言葉は一瞬イツキを通り過ぎて、頭の外を三周くらい回って、すとんと、胸の奥に落ちる。

イツキが顔を上げ黒川を見ると、黒川は何食わぬ顔のまま、タッチパネルの注文を終えていた。




たまに、こんな瞬間があるから、ますます離れがたくなるのだ。






「……ここは禁煙か…、クソ。一服して来る。……メシとビールも、取ってくるかな…」



残りのビールを飲み干して、黒川は立ち上がる。
それは黒川の照れ隠しなのだと、今のイツキには、解った。






posted by 白黒ぼたん at 22:30| Comment(2) | TrackBack(0) | 日記

2019年08月21日

お食事処・3







「……あー、ハイハイハイハイ。……解ってる、夜には帰る。書類は西崎に回しておけ、横浜には明日、顔を出す。……ああ、……ハイハイ」



施設の一角にある喫煙ブースで黒川は一ノ宮に電話をし、一頻り、小言を聞く。
適当に謝り、返事をするも、それでもそろそろ仕事に戻らないとマズイとは、解っていた。

気まぐれと勢いでココに来てしまったが、自分が思っていた以上に、イツキに…飢えていたらしい。傍に居たら居た分だけ、さらに……欲しくなってしまう。
「イツキ」は中毒性のあるヤバイ薬のようだと、前々から知っていた。
それを、売りに、仕事をしていたというのに……それに自分がハマってしまってはどうしようもない。



「………ミイラ取りってヤツだな…、はは」



黒川は自虐的に笑い、吸っていた煙草を灰皿に押し付ける。
この食事が終わったら、東京に帰ると、決めていた。



戻り際、食事処のカウンターに寄ると、丁度、タッチパネルで注文していた商品が出来上がったところだった。
餃子に唐揚げ、オニオンサラダにヨダレ鶏。枝豆そしてビール。
全ては持ちきれないと黒川は枝豆とビールだけを持ち、後はイツキに取りに来させようとテーブルへ戻る。






イツキの向かいには



見知らぬ一人の男が座っていた。






posted by 白黒ぼたん at 22:16| Comment(2) | TrackBack(0) | 日記

2019年08月22日

お食事処・4







黒川が席を立った後、イツキは一人、ニヤニヤ笑いながらビールに口を付けていた。
イツキの言葉に乗った形にせよ、確かに黒川は『寂しい』と言ったのだ。
……向こうに居た時より格段に、気持ちが悪い程、黒川は優しく、正直だ。
イツキは何だか腹の下のほうが熱く、もぞもぞとして、どうにも落ち着かなくなる。



「……マサヤ…、……変。……いつもはあんなコト、言わないのに……。
……離れた場所ってゆーのが、……いいのかな。非日常的…、みたいな。
もしかしてマサヤって…、本当は、……俺のことすごい、……好きなんじゃない?……なんてね……」


自分で言って、自分で突っ込み、くすくす笑う。
解っている。それでもまだ、冗談にしておきたい。
この場にいる、今だけなのだ。こんなに、素直でいられるのは。
……だったらこの離れた生活も、案外悪くはない、と思う。








「ずい分と、ご機嫌だな。何か、イイコトでもあったのかな?」




ふいに声を掛けられ、イツキは驚き、顔を上げる。
その男は、横のついたての向こう、リクライニングが並ぶ休憩スペースから姿を現した。
イツキと同じ館内着の甚平姿。それでも、下にTシャツを着こみ、素肌を隠している。

そうでなければ、腕の途中まで、鮮やかな色彩の刺青が見えたはずだった。




「…………あっ…」



イツキは短く声を上げる。
男は、先日イツキがここで出会った、刺青の男だった。




「また会えるなんて、ラッキーだな。ふふ。ご縁ってヤツかな」



男はそう言って笑い、イツキの向かい側に、勝手に腰を下ろす。




posted by 白黒ぼたん at 22:52| Comment(2) | TrackBack(0) | 日記

2019年08月23日

お食事処・5







男はイツキの向かいに座る。イツキは、驚いて目を丸くする。
……多少、警戒はしていても、人で賑わうこの時間帯に遭うことは無いだろうと思っていた。
イツキが意外そうな顔をしているのに、男も気付く。



「…風呂はな、使える時間が限られるんだが、……コレさえ隠しちまえば、後はな…」

男は館内着の下に着ているシャツを触る。確かに、刺青を見せさえしなければ、後は休憩所で休もうが何をしていても構わないだろう。
実際、この日も男は、誰もいない早朝に風呂を使い、それからしばらく、隣のリクライニングスペースで仮眠を取っていたのだ。

目を覚まし、小腹が空いたと食事処に顔を出したところで、イツキとバッタリ遭遇する。




「……ビールか?……いいねぇ、俺も貰うかな。 ……この間は、途中で終わって残念だったな。……な、兄ちゃん、名前は?」
「……困ります。……俺、今日、連れがいます」
「いいじゃん。一緒に飲もうぜ?……ここから注文かな…?、……兄ちゃん、お替りは?……ん?風呂上りか?……エロい顔、してんなぁ…、ヤって来たのか?」



当たらずとも遠からず。上気した頬、濡れた髪。黒川に弄られた身体。
言われて、ハッとなり、館内着の袷に手をやる姿がまた……、思い通りで、面白い。
男はイツキを見てふふと笑う。そして勝手にテーブルのタッチパネルから、自分のビールを注文する。



「…あっ、本当に、駄目です。……俺、今日……、……ボスと一緒です。俺の…、怖い人です!」
「………へぇ!」



男が面白がって声を上げた所で、丁度、ビールを持った黒川が席に戻って来た。






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2019年08月25日

お食事処・6







席に戻った黒川はイツキを見て、その向かいに座る男を見て、少し不機嫌そうに…、それとも呆れてか、馬鹿にしたようにか…、ふんと大きく鼻息を鳴らす。


「………マサヤ…」
「…毎度毎度、よくトラブルを起こす……」


黒川は小さく呟き、イツキの隣りに座る。イツキは庇護を求める様に、黒川に身体を寄せる。



「………で?………どちらさん?」
「ハハ。邪魔して悪いね。いや、ね。その兄ちゃんと話がしたくてね」
「…聞いたぜ。…風呂場で盛るなよ。…猿かよ」
「兄ちゃんがエロい身体してるからだろ?男のパイパン、久しぶりに見たぜ。ケツも緩くて…入れ頃だったぜ?…」




お互い、相手が何者なのかと様子を伺う。
男は黒川よりも若干歳が若いようだが、まだ、自分の方が強いと思っていた。
「イツキ」の「ボス」という事は…店の経営者か、ウリなどを斡旋する元締め、……同業者か。とにかく一般人ではないのだろう。
どう持ち込めば、イツキとヤれるのか。刺青を見せて凄めば済むほど、簡単な相手では無さそうだ。


「イツキ」


黒川と男の会話をハラハラしながら聞いていたイツキに、急に黒川が水を向ける。


「……えっ、…はい」
「メシ、取って来い。向こうに出来てた」

「あ、兄ちゃん、俺のビールも貰って来てよ。呼び出し、鳴ったわ」

「……ええ…え、はい……」



そう言われ、イツキは一旦、席を離れる。

残るは、強面、二人。






posted by 白黒ぼたん at 01:28| Comment(2) | TrackBack(0) | 日記

2019年08月26日

お食事処・7







「………無理…」


商品受け渡しカウンターに行ったイツキは思わず呟く。
餃子に唐揚げ、オニオンサラダにヨダレ鶏。男が頼んだビールに、おつまみセット。
全ては持ちきれないと半分だけを持ち、急いで、席に戻る。

あの二人がどうしているのかと思うと、心配でならない。
けれど、まだ進展はなく、向かい合い睨み合うだけだった。

イツキは持って来た料理をテーブルに置く。
そしてまた小走りで、受け渡しカウンターに戻る。




「………可愛い兄ちゃんだな。…まだ若いだろ?……ありゃ、上玉だよなぁ…」


男はイツキの背中を見ながら、持って来てもらったビールに口を付け、感心したようにつぶやく。
そんな事は解っていると、黒川は、ふうと息をつく。


「あんたには関係ない。勝手に、手、出すなよ」
「いやいやいや。じゃあ、こんな場所に来さすなよ。……あの身体、食ってくれと、言わんばかりだぜ?」

「………まあ、な。無防備過ぎるんだ、あの馬鹿は……」





ぽつ、ぽつと会話を交わした所で、残りの料理を持ったイツキが戻って来る。
少し緊張した様子。小さく震える手で、皿をテーブルに並べる。




「………あの。……おつまみセットのポテト、ソースが選べて…、ケチャップとカレーとからしマヨがあって…、……俺、からしマヨにしちゃったんですけど、大丈夫ですか?」




大真面目な顔でイツキがそんな事を言うものだから、場は、一気に和んでしまった。





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