2019年08月27日

お食事処・8







遅ればせながら名を名乗る。
男は、松田と言った。




「……ああ、北関東の…、昔、沼田組と一緒に仕事をしたかな…、新しい道路を引くときの土地絡みで……」
「マジか。それ、ウチの兄貴の所だぜ。……黒川さん、手広くやってるんですね」


お互い、酒を飲む。和気あいあいとまでは行かないが、一触即発のピリピリした空気感は無くなった。
少し不思議な気もしたがイツキはとりあえず安堵し、自分もビールを飲む。ポテトに付けたからしマヨが意外に辛くて、顔を顰める。
…何か甘いものも頼めば良かったと、顔を上げメニューを探す。…と、正面の松田と目が合い、何故か笑われる。


「……で、イツキちゃんは何?……どっかの、店の子?」
「………違います」


そう答えたものの、では何なのかと問われれば、答えに困る。





「……イツキは、俺の女だよ。……そこかしこに色目を使って困ってるが、ウリに回す気は無い。……まあ、時と場合にもよるが……」




黒川が、こうもはっきり同業者に、イツキの事を話すのは珍しい。
イツキは一瞬呼吸を止め、黒川を見て、松田を見て、また黒川を見る。



「……へえ。俺としてはその、時と場合ってヤツを知りたいけどな」



そう言って、ガハハと、松田が笑った。






posted by 白黒ぼたん at 23:08| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記

2019年08月28日

お食事処・終








その後、三人はビールを3杯ずつ飲み、程よく酔っぱらう。
何を話したのかよく覚えていないけど、別れ際の松田は上機嫌で
『…じゃあな、黒川さん。今度また別んトコで飲み直そうぜ、イツキちゃんも一緒にな』
そう言って、黒川の腕をバンバンと叩くのだった。





「……ちょっと、意外。……マサヤ、もっと怒るのかと…思った……」


イツキと黒川は脱衣所に戻り、帰り支度をする。本当はもう一度風呂に…とも思ったが、これだけ酔っていては無理そうだ。
シャツを羽織り、レンタルのタオルをくるくると丸め、少し舌っ足らずな様子でイツキが話す。


「…松田さんと、…なかよしになった?」
「…素人ならボコって終いに出来ても、奴は、プロだろ。…下手に焚きつけて恨みを買っても、後が面倒だ…」


着替えの済んだ黒川はロッカーをバタリと締め、隣のイツキを見遣る。
イツキはまだ、シャツのボタンに手間取っている。


「……まだ暫くはお前に、ココに居て貰わなきゃならん。……敵を作っても、仕方ないだろう……」
「……しばらくって、どれくらい…?」
「さあな」



そう、素っ気なく、黒川は言った。







精算を済ませ、施設の外のタクシー乗り場に向かう。
すでに昼過ぎ。今日中には事務所に帰ると黒川は一ノ宮に約束をしていたし、イツキも…、……もう、蜜月に似たこの時間は終わるのだと、解っていた。




せめて車が永遠に来なければ良う。




けれどすぐに、小さな提灯を乗せたタクシーが目の前に停まる。
イツキが先に乗り、黒川はそのイツキを押しやる様にして、乗り込む。




黒川が告げた行き先は

「一番近くのラブホテル」

だった。










posted by 白黒ぼたん at 23:39| Comment(2) | TrackBack(0) | 日記
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