2019年12月22日

フェスタ・33








松田はまだ、黒川を、良く知りはしなかった。
イツキという若い恋人との関係も、よく解らないままだ。
大事は、大事。でも、場合によってはウリもさせる。他から狙われているなら、護る。
その程度と具合が…どうも…、解らない。

もっともそれは、黒川自身にも…解らないことだった。


問われればイロイロ、適当なゴタクを並べるが、実際の行動は、理性を伴わないことも……



まま、ある。








店の前に入って来た車が停車してすぐに、後部座席のドアが開く。
店の前にいた黒服が、身構える。離れていても、ピリリと緊張感が走る。
「イツキ」だ、と直感的に思う。逃げ出そうとしているのかも知れない。
さらに男が…、…それは運転手と笠原だったのだが……、車から飛び出して来る。



「…黒川さん…、……どうする…?」



そう、松田が、黒川に尋ねた時には


黒川は、すでに、松田の横にはいなかった。








無我夢中で車から飛び出したイツキは…すぐに、誰かにぶつかる。
それは両手を広げ動きを制しようとした、店の黒服の男だった。
当然、車に、意識を集中していたのだろう。突然イツキが走り出すので、慌てて、止める。
イツキは体勢を崩し、それでも踵を返す。けれど、すぐ向こうに自分を捕らえようとする笠原の姿も見える。


「………やッ…」



行く手を阻まれ逃げ場を失い…、……笠原が、イツキの腕を掴んだ瞬間。



イツキの視界に、黒川の姿が映った。





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2019年12月24日

フェスタ・34







「……おや。……これはまた…、ずい分早い登場だな…」


笠原も、黒川を見る。
さすがにこのタイミングは早過ぎる。イツキを連れ去ってから、まだ、2時間も経っていないだろうに…。


「……何?……キミ、どこかにGPSでも仕込まれてるの?」


イツキの二の腕を握り掴んだまま、耳元でそう、冗談めかす。
イツキは逃げ出そうと身体を捩らせる。そうこうする内に、その目前に黒川が来る。




「………マサヤっ…」

叫ぶイツキに、黒川は目もくれない。

「……笠原さん。……何の遊びだよ?」
「……は、は。……いや、ね、イツキくんを見掛けたもんだから、ちょっと…ね。……ドライブがてら……」
「………」


笠原は軽く笑い、……そしてようやく、イツキの腕を解く。
イツキは力を入れていた反動もあってか、少しよろけ、そのまま黒川に、とん、とぶつかる。


「……話がしたかっただけだよ、イツキくんと……」

「………」



何もしていない、という風に、両手を広げて見せる笠原。
黒川は黙ったまま、腕を伸ばし、イツキの身体を自分の後ろに隠すようにする。

店の黒服と運転手は、どうしたものかと、一歩後ろに控え…二人の出方を伺う。
松田は、ギリギリ…部外者の振りが出来る位置で、その様子を伺っていた。




『……あっ』と声が上がる。場が、ザワめく。周りの男達が身構える。





黒川が、笠原を殴ったようだ。





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2019年12月25日

フェスタ・35







それにはイツキも、驚いた。




軽く笑い、場をやり過ごそうとする笠原に、黒川は詰め寄り…、……胸倉をガツリと掴む。
これはマジだと笠原が気付いた所で、……後の祭り。




「いい加減にしろよ。…そこまで馬鹿なのか?お前は」


黒川の低い凄味のある声は、イツキにも聞き取れない程。
そして次の瞬間には、胸倉を掴んでいるのとは反対の手が、笠原の頬の上で弾けたのだ。



「…テメェ、何しやがる…ッ」



様子を伺っていた店の黒服と運転手が、今にも黒川に飛び掛かる権幕で、威嚇する。
それを、黒川が、睨み返す。


たったそれだけで、男たちの足が竦む。



「…人のモンを欲しがる馬鹿には、こうでもしないと解らんだろうよ。…程度をわきまえろ。阿呆め。
………おい、…若造…。

俺が、いつまでも黙っていると思うなよ?……叔父貴の手前、大人しくしてやってるが…別に、いいんだぜ?……戦争の引き金になっても。


…人のオンナが欲しくて駄々を捏ねて、組を潰した、なんて…洒落にもならねぇけどな!

みっともねぇ話だな! 笠原さんよ」




笠原を捩じり上げながら、そう凄む、黒川。
イツキは黒川の後ろでオロオロするばかり。





posted by 白黒ぼたん at 00:08| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記

フェスタ・36







『……少し、……怒り過ぎ……』
とでも思ったか、イツキは黒川の後ろで小さく黒川の腕を引いてみるのだが…まあその程度。
本当は、嬉しさが勝っていただろう。自分のために黒川がこれほど感情を露わにしているのだ。


黒川は、


ようやく、笠原を離す。暫く胸元を絞められていた笠原は、咳き込みながら後ろによろけ、すぐ脇に、運転手の男が駆け寄る。
『……テメェ…』と、男は再度、黒川に食って掛かろうとするも
……止めろ、と、笠原が手で制する。



「……戦争か。……悪か、ねぇけど…、今は止めておくか…。……その子が絡むと、あんたが熱くなり過ぎることは、解ったからな……」

「賢明だな。ちょっとはマトモな頭が残っているようだな」

「………クソ。付け入る隙がありゃ、貰っちまおうと思ったんだがな。……もう、面倒臭せぇわ……」




負け惜しみのつもりか笠原はそう言い、ヒラヒラと手を振る。
これで本当にお終いにする気なのか……

……それにしては…後ろで控えていた店の黒服が、どこぞから鉄パイプなどを見付け、上段に構える。


それが振り下ろされる直前に、黒川はその男の腹に一発、回し蹴りを入れた。







後は退散とばかり、黒川はイツキの手を引き駆け出す。すぐ目の前にはタクシーが止まる。
もちろんそれは偶然ではなく、助手席には松田が座っていた。
二人が乗り込むと、すぐに車は発車する。






「……なんだよ、正面切って喧嘩はしないんじゃなかったのかよ…、アブねーな……」


笠原たちが追ってくるのではないかと、松田は後ろを振り返る。

後部座席ではイツキが、黒川の首にぶら下がる様にしてしがみついていた。







posted by 白黒ぼたん at 23:45| Comment(2) | TrackBack(0) | 日記

2019年12月26日

フェスタ・37







「………松田さん?……どうして?」


どうやら笠原が追ってくる事もなく、黒川にしがみついていたイツキも身体を離し、安堵と照れた様子で笑顔を浮かべ……しばらくして

助手席に座っている男が、松田だと気付く。
何故二人が一緒に行動しているのかと、松田と黒川の顔を交互に眺める。



「……今回は、…礼を言っておく。……早いのは…手、だけじゃなかったな…。…借りが出来た…」

珍しく素直に、黒川が礼を言う。
イツキも、まだ事の次第は解らなかったが…、それでも直前まで傍にいた松田が動いてくれたのだろうと…、察する。


「……ありがとうございます。……松田さん…」
「イヤイヤイヤ。まー、成り行きでね。…ふふ、意外に面白かったよ」



別に大したコトではないと、松田は軽く笑う。詳しい話は、また後日。



「じゃあね、イツキくん、またね。……黒川さん、今度、一杯行きましょうよ」
「…ああ、そうだな…」



そのまま地元に帰る松田をタクシーに残し、黒川とイツキは先に、新宿で車を降りた。




今朝、イツキがここを出てから、丸一日も経っていない。
ようやく、二人の部屋に戻り、玄関の鍵をカタンと落とす。

その音と一緒に、イツキはへなへなと腰を落とす。
すでに限界。四肢に力が入らないようで、うずくまり、おまけに目からは涙が零れた。







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2019年12月27日

フェスタ・38







風呂に入って身体を温め、ベッドに辿り着く頃には、もうイツキは半分以上夢の中といった具合で
さすがに、黒川も、………それはそれで楽しそうだが………、手を出すのは憚られた。


愚痴も説教も、また次回。今は、
自分の腕の中に納まっていれば、それで十分。と。

仕方なく、認める。





「………マサヤ…」
「…なんだ?…」

もじもじと身体を揺すりながら、寝言のようにイツキが口を開く。
ヤリたいのかと思わせぶりだが、どうやらそうでは無いらしい。

「……笠原さんって、……もしかして…本当は、…本当に、話がしたかっただけなんじゃないかなあ………」
「…ハァ?……拉致られて、アジトに連れ込まれる寸前で、よくそんな事が言えるな…」
「……だって、……結局、何もされなかったよ?……コワイ事は、言われたけど…」


あの状況で、よくそんな事が言えるものだと、黒川は呆れるのを通り越し、少し、不機嫌になる。
良くも悪くも、イツキは優しくて寛容なのだが、こんな時にまで発揮されるものではないだろう。


「…はー、そうかい。じゃあ、わざわざ俺が行く必要も無かったな」

「………マサヤ、格好良かった。俺、びっくりした……」


ふん、と鼻息を鳴らす黒川に、イツキは抱き付く。
少し濡れた髪の毛からは石鹸の甘い匂いがする。


「……嬉しかった。……マサヤ」


身体をもじもじと揺するのは、寝ぼけている訳ではないようだった。





posted by 白黒ぼたん at 23:29| Comment(2) | TrackBack(0) | 日記

2019年12月28日

フェスタ・39







「……意外とそうかも知れませんね。…脅すだけで、手を出すつもりは無かったのかも…」



翌日昼過ぎ事務所で。
昨日の報告を受けた一ノ宮は、イツキと同じく、そんな事を言う。
黒川は不愛想に一ノ宮をみやり、寝不足のようで、小さな欠伸を噛み殺す。



「二時間近く車で連れ回し、足の着きやすい自分の店に向かうのでは効率が悪い。
乱暴するのが目的なら、もっとやりようがあったでしょう」
「…じゃあ、他に何の目的があったんだよ?」
「……さあ。……とにかく膠着状態を打破するキッカケを作りたかった…とか。…そうなると…、手を挙げたのは少々まずかったですかね…」


今度は一ノ宮が黒川を見る。
笠原に、手を出したのは、少々どころか大問題だったのだが…、それよりも黒川がそれだけ熱くなったこと自体が、一ノ宮には面白かった。

天邪鬼で不誠実でひねくれ者で、恋人の危機にも知らぬ存ぜぬでは、あまりも酷い。


「…まあ、幸い、まだ問題にはなっていないようですが…、念のため嶋本組に使いを出しておきますよ…」
「………ふん」




黒川は鼻を鳴らす。



結局のところ、
この件はこの後、何事も起こらずに終わった。
笠原の異様なまでのイツキへの執着も、すっと波が引くように、収まったのだった。


どうしたって、手に入らない。
本人たちが思う以上に、二人の絆…、束縛と言った方が近いが…、は強いものらしい。
これ以上揉めても得るものは少ないとようやく気付いたか、ただただ、面倒臭くなったのか。






「……そう言えば…、イツキくんはどうしたんですか?」
「まだ部屋で寝てる。……夜には、向こうに帰す」





posted by 白黒ぼたん at 21:11| Comment(2) | TrackBack(0) | 日記

2019年12月29日

フェスタ・終








黒川が部屋に戻ると、もうイツキは起きていて、身支度も終えていた。
…一応、…仕事もあるのだし…、とりあえず向こうに帰るのだと言う。

『行かなくていいぞ』と、黒川も言いかけたのだが
まだ、笠原の状況も解らないので、もう暫くは身を潜めることにする。


「……大丈夫。タクシー呼ぶから。どこにも寄り道しないし、着いたら電話するし」
「………ああ」
「……マサヤも、また来てね。……お風呂、行こう」
「……ああ」


ソファに並んで座る。黒川はイツキの肩に腕を回し、イツキは黒川の肩に頭を乗せる。


しばらくの間、二人は、そうやっていた。







嵐の様なフェスタは、これで、終わり。














長い長いお祭りでした!お疲れ様でした。
書き足りない事、書き忘れた事、多々ありますが
ひとまず、終了。続きは年明けのお楽しみにしておきます。

今年もあと僅か。イツキと黒川の物語、沢山の方に読んで頂けて嬉しかったです。
拍手もメッセージも励みになりました。ありがとうございます。
来年も書き続けます♪ 引き続きよろしくお願いいたします。








posted by 白黒ぼたん at 20:00| Comment(3) | TrackBack(0) | 日記
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