2020年07月22日

バカンス・20









「……自分は好き勝手にするから、お前もそうすれば?
……でも、遊んだ分は、仕事で返せよ、みたいな?

嘘。……ああ、でもマサヤなら…あり得るのかも。

まあ…そうだよね。別に俺とマサヤ、他の人としちゃダメなんて、そんな関係じゃないもんね。

……じゃあ。お言葉に甘えて、思いっきり遊ぶ?
竹本さんも、地元のコワイ人も……もっと、深い仲になれば良かった?

でも…それじゃ…マサヤの思い通りじゃん。
『やっぱりな。この際、人数が増えても一緒だろう』
とか言って、笑って、俺に「仕事」させる気なんじゃない?……多分」






木曜日のイツキは朝から取り止めもない考えが頭をグルグルと回る。
そうかも知れない、違うかも知れない。
どちらにせよ考えに囚われ、気分が晴れないだけで腹が立つ。
相変わらずあの男は自分勝手で、少ない情報で、イツキを翻弄する。




「……もう、知らない。……なるように、なればいいんだ……
俺がどうなったって……どうでもいいんだ。きっと……!」


半ば自暴自棄に吐き捨てて、イツキは…朝から缶ビールを一本空けて、旅館の部屋を出る。








「はよー。イツキ、久しぶり!
ああ、やっぱ遠いな。始発で来てもこの時間だもんな。
旅館に荷物を置きに?……ああ、いい、いい。そんなに大荷物じゃねーし。時間、もったいないし!

行こうぜ!……海に決まってんだろ?……夏だぜ!?」






なるようになってしまう、幸か不幸か今日の遊び相手は、梶原だった。







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2020年07月25日

バカンス・21








それはなかなか、ハードな1日だった。



旅館には、宿泊者だけが利用できるビーチがあった。
着替えや休憩にも使える小屋もあり、必要なもの…昼食などは、旅館がその場所に届けてくれるようだ。

そのサービスを前もって聞いていた梶原は、今日一日をここで過ごすと決めていた。

「今日は海。夏だもんな。…何?水着が無い?…フフ、そう言うと思ったぜ。
日に焼けたくない?…それも想定内だ!」

そう言って梶原はするするとカバンから水着やら小物を取り出す。
知り合いから借りて来たというそれは、サーフィンでもするのかというような
長袖、長ズボンのスーツで。日焼け止めなどは2本も3本も用意されていて。
……イツキは、海に入ることを最後まで渋ったのだけど……
あまりの梶原のしつこさと、…今日はもう、どうなってもいいという半ばヤケを起こして

スーツに着替え、海に入る。


「……しょっぱい!!!!」
「そりゃ、海だもん」
「砂が…気持ち悪い…。…なんか…ぬるぬるする……」
「ハハハ」

イツキは海に入るなど、何年ぶりの事だろうか。
久々過ぎる感覚に最初は戸惑っていたが、まあ、天気は良いし風は吹くし
駄目なほど、駄目ではない。

梶原が投げつけてくるビーチビールを適当に投げ返したり、
大きな浮き輪に乗ったり、ひっくり返して溺れてみたりと、一通り、遊ぶ。

「…梶原。言っておくけど俺、泳げるよ? 結構、早いよ?」
「へーー?」

思わず妙な宣言をしてしまう。
梶原はまったく信じていないようでニヤニヤ笑っていたが、イツキが本当に泳げるらしいと判ると
対抗心を燃やし、向こうのブイまでどちらが早いか競争を、何度か繰り返した。





「ねえねえ、キミたち、高校生?…旅館、泊まってるコだよね?」


昼に休憩所で軽食を摘んでいると、少し歳上の女性2人から声を掛けられた。








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2020年07月27日

バカンス・22







20代前半のOLだと言う女子二人組は、イツキと梶原が高校生では無いと聞くと「可愛く見える」などと言ってキャッキャと笑う。
イツキはともかく梶原は、可愛いと言われて嬉しくもないが……、それでも、女子と話が出来るだけで嬉しいお年頃だった。

そんな訳で、午後は4人でビーチボール大会。
女子にも、イツキにも、良い所を見せたい梶原は、とにかく元気に張り切っていた。








「いやー、若者、元気あるわぁー。お姉さんはもう、へとへとー」
「……元気があるのは梶原だけです。……俺ももう、駄目……」

もう、お終いと、髪をお団子に結んでいる女子がビーチを離れ、奥のベンチに移動する。
イツキも、限界。ベンチの隣りに腰掛ける。
梶原と、ショートヘアーの女子は、ラリー中だった。


「…カナエちゃんはバレー部出身だから、体力あるのよね。アタシは文化部で。……イツキくん、ジュース飲む?……お水もあるよ?」
「お水、貰います」
「ふふ。カワイイー。……ね、長袖、熱くない?……そんなに日焼け、駄目?」
「………はい」


イツキの怪しい水着は、肌が弱く日に焼けたくないためだと説明していた。
お団子女子のマユミはビキニの胸元に入った砂を払いながら、ペットボトルの水を飲むイツキをチラチラと、伺う。



「…ね、イツキくんたち、本館なんだよね。…ご飯終わったらさ、どこかで集まらない?
……ラウンジでも、………お部屋でもいいよ?」


そう言ってマユミはニコリと笑う。
口元のほくろが色っぽいと…、それがマユミの売りだったのだが


生憎、それはイツキには伝わっていないようだった。





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2020年07月29日

バカンス・23








「……俺もカナエさんに誘われた。メシ終わったら、部屋においでって…」


イツキたちは本館。女子達は別館。
ビーチでの遊びが終わり、着替え、食事を取る場所は別々だった。
イツキと梶原は離れのレストランに向かう。今日のスペシャルメニューは、鯛とノドグロの刺身だった。


「……フフフ。ヤバイよな。カナエさん22歳だってさ。お姉さんだな、フフフ…」


女子に誘われたのが余程嬉しかったのか、梶原は始終にやけ顔だった。


「……梶原、行って来ていいよ。……俺は行かないけど」
「…ええっ なんでだよ、イツキ」
「疲れたもん。……もう、寝る」


イツキにすれば、今日はよく頑張った1日だった。
昼間に動き回るのも、海に入るのも、普段の生活からは有り得ない、信じられないような行動だった。
食事の間も、何度か欠伸を噛み殺すほど。すでに体力の限界だった。


「……勿体無い。……せっかくのお誘いなのに」
「もう一杯、遊んだじゃん。…あと、何するのさ?」
「……何って…、………オマエ……、あ…」


口籠る梶原。目をキョロキョロとさせ、鼻の下を伸ばし、何かを想像したのかニヤリと笑う。

イツキはその顔をみて、やっと、………本当に今になってやっと、事情を察した。






「………誘われたのって、それ?………俺が?………するの?されるの?」



いつもとは立場の違う話に、イツキは多少、混乱していた。






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2020年07月30日

バカンス・24






結局、梶原も女子の部屋には行かないことにした。
イツキの招待でここに遊びに来ているのに、イツキを置いて、自分ばかりが遊ぶ訳にもいかない。



「………でもなー…、お前だって、せっかくの…お誘いだったんだぜ?……なんか、世界、変わったかもよ?」


部屋に戻り、買い込んで来たスナック菓子を食べながら、梶原はまだ未練がある様子。
窓側の、テーブルとカウチの置かれたスペース。イツキはビールの缶を開ける。


「…言っとくけど梶原。……俺、女の人と、したこと、あるよ?」
「………えっ………マジ?……いつ?………お前、彼女、いたの?」



梶原は鼻息を荒くし、イツキの向かいのカウチに座り、その話の続きを聞こうとする。
……確かに、イツキは女性と、そういう行為に至った事はある。


昔。まだ黒川の元に来たばかりの頃。
酷い「仕事」の後に半分オカシクなっていたイツキを、
当時黒川の傍にいた女性が介抱し、添い寝の延長のように慰めてくれた事や
複数の男女が入り乱れる集まりに放り込まれ、客の指示で、イツキの上に商売女が跨った事など。


イツキはそれを、梶原が言うところの女性体験だと思っているようだったが


それは、違う。






「…あ、お前、販売の仕事やるって言ってたもんな。そこの女の子?……つ……付き合ってるのか!?」
「違うよ。ミカちゃんが付き合ってるのは林田さん。…………林田さんとは…したけど」
「………ん?」



若干、この話が面倒臭くなって来たイツキは適当に返し、ビールを飲み、窓の外に目を向ける。
開けた窓からは夜風と波の音が入って来る。
静かで騒がしい夜。楽しいけれど、それも今日で終いだと思うと……少し、胸が苦しくなった。





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2020年07月31日

バカンス・25







さて、その夜。




ふいにイツキは目を覚ます。身体は疲れ切っているはずなのに、いつもとは違う種類の疲れで、なんとなく落ち着かない。
あまりに眩しすぎた昼間の光が、まだどこかで、チカチカやっているようだ。

隣りのベッドを覗くと、梶原はいない。
…梶原も寝付けず、起き出したのか。24時間開いている露天風呂があると言っていたので、そこにでも行ったのか。


イツキは浴衣に丹前を羽織り、部屋の外に出て行った。




真夜中の旅館の廊下は、当然暗く静かで、ぼんやりとした常夜灯が赤いビロードの絨毯を照らす。
幽霊でも出そうな風情だが、案外イツキは、そういったものには無頓着だった。
階段を一つ下りて露天風呂まで来てみたが、人の気配も物音もしない。
壁には「点検作業につきお休み」の貼り紙が出ていた。


ロビーまで下り、ソファに座る。
竹本でもいないかと辺りを見回すが、さすがにこんな時間では誰もいない。売店の明かりもすっかり落とされていた。


ケータイを開くも、黒川からのメッセージはない。
少しほっとするのだが…、同時に、少し……悔しい気もする。
放置も束縛も、程度がおかしい。丁度良い落とし所は、未だ見つからない。











しばらくしてからイツキが部屋に戻ると、そこには梶原の姿があった。

「……あ、お、おかえり、イツキ。どこ行ってた?」
「……んー。寝付けなくて、ちょっと…。……梶原もいなかったじゃん…」
「…あー…、……俺、風呂。露天風呂、行ってた」
「…………ふぅん?」




イツキと梶原は顔を見合わせ、ははは、と、なんとなく笑う。
お互い、それ以上は詮索しない事にした。





posted by 白黒ぼたん at 23:00| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記