2020年09月26日
夜伽話
いつか、どこかの夜。昨日の続きだったかもしれない。
イツキと黒川はベッドの中で、他愛もない話。
実を言えば2人とも、かなり酒を飲んでいた。
時折呂律が回らないのも、ご愛嬌。
「……例えば、例えばだぜ?
借金を抱えたジジイがいたとして、だ。期日までには返せない。で、
俺は優しいからな、色々妥協案を見つけてやる。土地を売らないか?娘を売らないか?
ウチの鉄砲玉になって、一仕事しませんか?と。
だが一ノ宮は違う。あいつは俺より冷たいぜ?
保険があるので、死んで頂いても大丈夫ですよ、と。……そういう奴だ」
「…それは…、優しいとか冷たいって話なの?……どっちもどっちだと思うけど…」
最近、妙に一ノ宮の評判が良く、黒川は多少、気にしているらしい。
黒川と一ノ宮の関係は微妙で、イツキにもまだよく解らない。
「いつでも穏やかに見えるのは、本心を隠しているからさ。…腹ん中は真っ黒だぜ」
「…その真っ黒が、表に出ちゃってるよりは良いと思うけど……」
「……それは、俺のことかよ?」
黒川は身体を起こし、傍のイツキに覆いかぶさり、…憎々しいことを言う恋人の唇を塞いだ。
ただ、それだけの話。
2020年09月28日
記録・1
ある程度の暴言も暴力も、慣れているイツキだったが
だからと言って、受けて、何も傷つかない訳ではない。
その日、黒川の使いで西崎の事務所に行き、西崎に
他の男達がいる前で、もの凄く酷く下品な言葉でからかわれた事は
実際に身体を弄られどうこうされる事よりも、イツキを辱めた。
「……やだな、西崎さん。そういう事はマサヤに言って下さいね。じゃ」
軽く受け流す風を装い、ニコリと笑って、足早に事務所を出る。
扉を閉めると中からは、これみよがしに、馬鹿にした笑い声があがり
さらに、イツキの惨めな気持ちに追い討ちを掛けた。
涙も嗚咽も溢さないように、口を真一文字にきっと結ぶ。
確かに、言われた事は事実なのだし、今更隠し用もないし、どうなるものでもないし。
西崎がいくら自分の…尻の穴の具合を人に話そうが、別に何も、変わることはないのだ。
「……大丈夫か?……イツキ」
事務所の建物を出て通りに向かう途中で、声を掛けられた。
佐野が、あまりに酷い様子を見兼ね、そっと後を追って来たのだった。