2021年03月01日

壊れかけのイツキ










「……いいのかな?、イツキちゃん」
「……じゃあ、止めます?」
「いやいやいや…」


用意していたホテルの部屋に、意外にすんなり、イツキが入ってきて
逆に、松田は、驚く。

黒川との話では、食事だけ。後は交渉次第という事で
まあ、無理強いはせず普通に口説いた程度だったが

グラスのワインを飲み干して、イツキは縦にこくんと頭を振る。









少し様子が変だな、という感触はあった。
取立てて好きでもない相手とメシなのだ、こんな物なのかとも。



ニコニコ愛想を振り撒く訳でもなし。
それでも、黙って、上着を脱ぎシャツのボタンを2、3外して
ベッドの縁に腰掛ける。

こんな風では
まるで酷く自分が悪者になった気がすると、松田は思い。







それも一興と
ありがたくイツキを頂く事にする。







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2021年03月04日

イツキ加減







松田がイツキを抱いたのは、いつのことだったか。
そう、親しくなる前。まあ、今も、特別仲良しでも無いが。
むしろイツキはどうでも良い相手との方が気軽に
ビジネスライクに、行為をする事が出来る。

営業用の笑みを浮かべ、そつなく、コトに及ぶ。
それでも十分面白いし、そこいらの商売女よりは格段に、良い。
手慣れた様子で男を扱う隙間に、ふと、素のイツキが滲む加減も良い。
どこからどこまでが計算されていて、本人が解っているのかが解らない所が
売り、だ。



けれど今日のイツキは、そのどれもとは違う様子で
裸になる一歩前の服でベッドに寝そべり、松田を見上げる。
媚びる程微笑まず、嫌悪する程睨まず、一瞬にも満たない程度に視線を絡めては
目を伏せる。

松田もベッドに上がり、イツキに覆いかぶさる。
試しに、シャツのボタンに指先を掛けると、こちらにも伝わるほどビクリと
緊張感にも似た何かが走る。






主人に命じられ、嫌々、抱かれに来たのでは無いのか。
実は何か、巧妙な罠なのではないか。





そんな事すら思い始める、松田の
ネクタイが丁度イツキの胸元に垂れ下がる。

イツキはもう一度視線を向けると、小さく、ほんの小さく笑って
そのネクタイをぐいと引いて、松田の顔を近づけさせ

唇を、合わせた。






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2021年03月06日

振り








松田も言わば同業者で
イツキのような「仕事」をする者を何人も知っている。
それなりの楽しみはあるが、いちいち、深入りしていては
話にならない。

手の内は解っているつもりだったが。





なにせ、どこをどう触っても綺麗な反応を見せるし
耳の奥をざわりとさせる声を上げる。
ただの呼吸さえ、喘ぎ声に聞こえて
自分がそんなに悦ばせているのかと、変な気を起こさせる。


薄っぺらい胸に手を這わせ、微かな突起に爪を立てると
イツキは少し顔をしかめて、んん、と言って松田を見る。
痛いと抗議しているのか、もっとやれと言うのか。






「……あんまり摘むと、それだけでイっちゃうから駄目です…」







もっとやれと言う方か。









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2021年03月08日

イツキとしては








少し自棄を起こしていたのは事実。


キッカケは確かに、あの夜。
事務所の前で、黒川と見知らぬ少年が連れ立って歩く姿を見掛けた事。
何をしている訳でもないが、何もしない訳も無いだろう。

自分のように売られた子供なのかも知れない。
そして、自分の、替わりになるのかも知れない。
漠然とした不安を抱えたまま、酒に流されて…うっかり、西崎に抱かれてしまった。

あれこれ悩む事にも、簡単にヤられてしまう事にも飽き飽きするる。
どの道を選べば正解なのか考えるのも面倒になる。

流されるのは、楽でいい。
ニコリと笑って力を抜くと、皆、思う以上に優しく…気持ち良くしてくれる。







「………あ。……松田さん、そこ、……当たる……」
「…………ん…、……いいのか?………イツキ」
「うん。………ゆっくり……、擦って………」



足を抱えあげられて、正面から挿入。
すぐに中の、丁度良い所に当たり、イツキは身体を反らせて鼻から息を洩らす。
松田こそその色香に堪らず、暴走しそうになるが、そこはオトナの余裕を見せ、辛うじて我慢し

暫くはイツキの乞うがまま、奴隷のように、イツキに尽くす。





どちらが「客」なのか、まるで解らない状態だ。







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2021年03月11日

負け惜しみ









最後は松田は大人げなく、はしゃぎ
イツキの耳元に、好きだの可愛いだの
女に使うような甘い誉め言葉を吹き込み
少しでも長くこの瞬間を引き延ばそうと躍起になる。

けれど、ぱんと弾けるように、終わってしまう。
松田がそれほど自分をコントロールできない事は、稀だった。


イツキは
どこからどこまでが、本当なのか、本当に解らない。
「んんんんん、駄目ぇ…」と極まった声をあげ
刺青のある松田の背中に腕を回し
中も外も小刻みに震わせるなど、おそらく……演技では無いとおもうのだが。

終わって、ベッドに突っ伏し、荒い呼吸を整え
ふと顔を見合わせては、ニコリと笑う。






「………今日は、……ずい分と俺に分があったな……」

松田の言葉は負け惜しみの様。ようやく、取り繕うだけの余裕が出来る。

「……こんなイツキちゃんを抱けるなんて、……何か裏があるのかな…?」
「…………そうかも……」
「……ん…?」


しばらく真正面から松田を見ていたイツキは、思わせぶりにそう言って、目を閉じる。
上気して赤い頬、長い睫毛。肌の質感は今、確かめた通り。
一応、成人男性だったよな…、と松田は少し困惑する。


「……松田さん……」
「…………ん、何? イツキちゃん……」

「俺、帰りますね」



まだ余韻の残る身体を起こし、イツキはつれなく、そう言った。








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2021年03月13日

戸惑う松田








イツキが部屋から出て行った後
松田は一人ベッドの縁に腰掛け
ぼんやりとする。

ほんの数時間前までの
熱っぽい、濡れて爛れた感触が
実はただの妄想だったのではないかと
不安になる。



「…なんだ、今日のイツキちゃんは…
あれが、本当なのか?いやいやいや
今日はキッチリ「仕事」に励んだと言う事なのか?

どの顔が、本当の顔なんだ?」



ハーバルで働く姿や、黒川の側で微笑む顔や
淡々とした男娼のイツキは見た事があったが

今日のイツキはそのどれとも違っていた。






もちろん、そのどれもが本当のイツキで
特に松田を惑わせようと、違う顔を見せた訳ではない。


もっと単純に、何も考えずに


一時の快楽に流されていただけだ。









イツキはホテルからタクシーに乗り
自分のマンションに帰る。



明け方に近い時間。
黒川は寝室にいるようだ。






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2021年03月15日

黒川の迷い








昼前の半端な時間。
ようやく目覚めた黒川が寝室を出てリビングに行くと
ソファに、イツキが座っていた。

イツキはぼんやりとテレビを眺めていたが、黒川に気付くと「おはよ」と声を掛ける。
黒川は「…ああ」とぶっきらぼうに応え、キッチンでコーヒーを淹れる。

ミル付きのコーヒードリッパー。
音はウルサイが、やはり、香りが良い。



「……イツキ、お前も飲むか?」
「………ううん。俺、もう、仕事に行くから、いらない」
「この時間からか?」
「今日は午後出勤。ミカちゃんに替わって貰ったんだ」


イツキはまだ眠たいといった風で、小さな欠伸をしながら背筋を伸ばす。
すでに身支度は終えていて、もう、立ち上がるばかりと言ったところ。

コーヒーが落ちると黒川はキッチンのカウンターに腰掛け、そこでコーヒーを飲む。
わざわざソファまで行って腰を下ろすのが面倒だったのと、カウンターに新聞が置いてあったのと

理由は、それだけだったろうか。



「……マサヤ」
「…うん」
「松田さんが、マサヤに宜しくって言ってたよ」



松田の名が出て、黒川は顔を上げる。
イツキはソファから立ち上がり、ジャケットのシワを直して
小さなカバンの中を覗いて、忘れ物が無いか確認する。


そして、顔を上げて、黒川と目を合わせる。
ニコリと笑う仕草は、まるで、営業のようだ。


「牛タンステーキの美味しいトコ見つけたから、一緒に行きましょう、だって」
「……そうか。……イツキ、お前、昨日は松田とヤったのか」
「したよ。そういう仕事でしょ?……じゃ、俺、行ってきます」





黒川の返事を待たずに、イツキはパタンと部屋から出て行った。
嫌味か、労いの言葉か、どちらを掛ければ良かったのかと黒川は少し迷った。






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2021年03月17日

幸か不幸か







イツキも黒川も忙しい時期が続き
二人、ゆっくり落ち着き、話をする時間が無かった。セックスは別にして。

基本的に生活時間はすれ違いで、大抵どちらかは不在か、寝ているかで
たまに顔を合わせると、とりあえず、溜まった身体の鬱憤を晴らすといった具合。

コトが済んだイツキがすぐに黒川のベッドを離れ、自分の巣箱に戻るのを見て
黒川は、…明日も石鹸屋か…、などと呑気に思っていた。











「……最近、ど?………カレシさんと」
「別に。変わりは無いですよ」


ハーバルのショップで棚の商品の入れ替えをしながら
ミカは、イツキに尋ねる。
確かにそう大きな変化は無さそうなのだが…、ここ暫くイツキは、元気が無いような気がしていた。
元気が無いというか……こう、落ち着いているというか冷めているというか……。
少し前のイツキには、もっと感情の起伏があったような気がするのだ。

心配げにイツキを見つめるミカに、イツキも気付き、仕事の手は止めずに小さく微笑む。


「あまり考え込まないようにしてるんです。もう、なるようになるしか無いなって…。
……ミカさん、こっち、あとクリーム三本入ります…、ああ、大きい方の……。
……あの人、訳わかんないんで。考えるの、疲れちゃったんです」

「やだ、イツキくん。それ、離婚手前の夫婦みたいよ。家を出て行く寸前!みたいな!!」

「……それも考えちゃいますよねぇ……」





段ボール箱から商品を取り出し、


イツキはふうと、溜息を付いた。






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2021年03月19日

定期連絡








「……イツキくんって前からどっか……ふわふわしたトコあって
危なっかしいなー…なんて思うトコもあって……、あ、アタシが言える事じゃない!?
ああ、でも、ホラ、お姉さんとしては、心配なのよ。
お家も、複雑みたいで、……基本、寂しいのがあるんじゃないかなぁ…
今週末はね、配送の関くんとご飯食べに行くって言うんだけど
関くんってヤンチャ上がりの人じゃない?……何も無いと良いんだけど……」

「…イツキくんと関くんで、何かあるって……、……何よ?」



仕事終わりのミカは、休憩室の片隅で、同じく仕事終わりのユウとヒソヒソ話。
途中まで話して、ミカは、ユウにどこまでの内容を話して良いものかと…、迷う。
イツキが、年上の怖そうな男と付き合っている事は、そう吹聴して良いものでもないだろう。



『……えーと。悪い遊びに誘われるとか?……とにかく、心配!』



関は突然イツキを誘い、イツキは気軽に応じてしまい、ミカは予定を合わせる事が出来なかった。
少し前は、イツキも性急な関を警戒し、飲みの席にはミカも一緒に……と、言っていたのに。


『ミカちゃん、あなた、お姉さん通り越してお母さんみたいよ。
まあ、イツキくんだってあれでいてオトナなんだし……、心配しすぎよ』

『……そうかなぁ。………そうねぇ……』












「……でも、ミカちゃんにそう言ってみたものの…、あたしも少し、心配してます。
イツキくん、最近ぼんやりしてるかなって……思うので。
ああ、でも、関さんは別に悪い人じゃ無いんですよ。ただの、男同士の飲み会ですよね」

「……まあ、そうでしょうねぇ…」



ユウの報告に、一ノ宮は静かに頷き
さてどうしたものかと少し、困った。








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2021年03月22日

意外と鈍感









いくつか案件を抱え忙しい日々。
まあ、それはいい。多少、飲みに行く時間が減るだけだと黒川は思っていたが、
その中で、何か少し変化が起きているのか、自分より先に周りが動き始める。



「…雅也。…何か問題はありませんか?」
「なんだよ、一ノ宮。お前にしてはザックリした質問だな」
「…あー、いや。最近、バタバタしていますからね。…イツキくんは変わりないですか?」
「…イツキか?…そうだな…少し太ったか。石鹸屋の女友達とメシばかり行ってるようだからな」



2、3日前にイツキを抱いた時に、少し、腹まわりが柔らかかった。
その感触を思い出しているのか、黒川は自分の手のひらを見つめ、笑う。


一ノ宮はふんと鼻息をついて、「……そうですか」とだけ、言った。







別に何の問題もないが、何かあるのではないかと、妙に煽られる。
問題は無い、はずだ。イツキも石鹸屋が忙しいと毎日忙しくしている。


黒川はこの週末、ちょっとしたアレで、泊まりがけの仕事がある。
その事をイツキに告げるとイツキは

「そう。行ってらっしゃい。俺も、友達と飲みに行くし」


そう言って、ニコリと笑う。





ようやく
良い距離感が掴めてきたのではないかと

黒川はそれくらいに思っていた。







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2021年03月24日

イツキと関








百貨店から歩いて数分。若者が好きそうな多国籍料理の店。
陽気なラテン音楽。ほどよく騒がしい店内。

「………こんなトコで…、……良かったかな…」
「楽しそうでいいですね。あ、俺、今日…辛いの食べちゃおうかな…」

関は少し緊張した様子で、メニューをぱらぱら捲りながらイツキを伺う。
イツキは、特に何も気にしていない風で、初めての店をぐるりと見渡す。




いつも行く馴染みの居酒屋では、さすがに色気が無さ過ぎる。けれど
あからさまにデートコースを狙うのは、オカシイだろう。
名目は一応、「職場で顔なじみになった数少ない男性クルーと親睦を深める」飲み会なのだ。
これを機会にぐっと距離を縮めたいだの、うっかり何らかの展開を期待している、訳ではないのだ。まだ。






「お待たせいたしました。ビールが2つ。野菜たっぷり生春巻きと、鶏むね肉のサテー。
タイ風春雨サラダはこちらのソースを掛けてお召し上がりくださいね」


彩り豊かな料理がテーブルに並び、イツキは顔をほころばせ、その笑顔を関に向ける。
「お疲れ様です」と、ビールのジョッキを持ち、くっくっく…と良い飲みっぷりを見せる。


関は今までにも、イツキがいる飲み会に、参加していた事はあるが
こう目の前で、これだけの近さで、イツキと向かいあうことは初めてだった。





「……サラダ、キレイですねー。このお花って、食べられるヤツなのかな?
…………あ。ソース掛けちゃったけど、良かったですか?…………ん!……パクチーだ!!!」







解ってはいたが、正直な感想は



「男のくせに、この可愛さはナンナンダ??」



だった。






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2021年03月25日

違う世界








「……高校出て暫らくプラプラしてたんだけど、運送屋に勤めてる先輩にココ、紹介してもらって。
あー、俺、車、好きでね。ランエボ乗ってる。休みの日は遠出するよ。先週は長野まで。」

「……ランエ…ボ?……俺はハーバルさんでバイトでしてて……。もともと、こっち住みだけど。
百貨店みたいな大きなトコで働くの、初めてで…、まだまだ解らないこと多くて……」

「切るトコ違げーわ。ランサーエボリューションだわ! 早いぜ?今度、乗っけてやんよ」




イツキも関も、基本、酒が好きなのだろう。
多少の緊張感がありつつも…、何杯か飲む内に、ざっくばらんに解けてくる。
簡単な自己紹介から近況報告。同じ職場の男性スタッフ同士、まあ、話題には事欠かない。




「店はな…、荷物だ、トラックだは楽しいんだけど、その上に行くと面倒でな…。
三階のアパレルのおねーさま方は特に怖くてな…、ヤバいぜ、俺なんか奴隷扱いだ。
……ああ、でも、茗荷谷さんは話が解る人で、助かってる。一時、配送のチーフだったんだけど、ぽんぽんって上に行って、今じゃフロアマネージャーだもんな……」

「茗荷谷さん、俺も、助けてもらってます。良い人ですよね」



グラスに口を付けながら、イツキがニコリと笑う。
関は、茗荷谷が褒められるのが不思議と嬉しくて、つられて、ふふふと笑う。



「超、良い人だよ。茗荷谷さん。あの人、神社巡りが好きでさ、たまに俺も一緒に出掛けるんだ、車で。
先月…、先々月かな、…茨城の鹿島神宮、行ってさ…、鹿島…、サッカーも好きで……
イツキ、スポーツは?……見たり、したり、せんの?……野球は?、どこ、ファン?」



酔いも進み、話も盛り上がり、関はイツキを呼び捨てで呼んでいることに気付かない。




「……スポーツは、しないです。全然、解んないです……」





話しながら

そう言われれば自分には、何も、好きな事がないのだな……と、イツキは思う。

年相応の男子が興味のある、……「女性」はさておき、「車」も「スポーツ」も何も
イツキにはまるで関係のない、違う世界で。








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2021年03月29日

水際








「イツキ、ご飯ものどうする?……ガパオライスかカオマンガイか……
……あれ、少し元気、無い?……飲み過ぎた?」


メニューをパラパラ捲りながら、ご機嫌な関がふと気づく。
イツキは、静かに微笑んでいるものの、どこか何か様子が違う。


「関さん、楽しい人だなって…。趣味もイロイロあって。
…………俺は、………何にもないな……って……」
「ハハハ。これからやりゃー、いいじゃんか。俺が付き合ってやるよ」


関は豪快に笑い、後ろを歩いていた店員を呼び止め、酒や何やら追加の注文をする。
しながら…、『…ヤバイ、俺、付き合うとか言っちゃった…』など、思う。
もっともイツキは、その部分に関しては一切気にも留めず
……自分には何があるんだろう……などと、まるで中学生の様なことを考える。




黒川の元に長くいると、良くも悪くも、黒川のことばかりになって
あまり余計な事は考えずに済む。
それを怠惰と言うか流されてると言うか、それとも一番水に合っている、と言うか。

どちらにせよ
考え込むのは、あまりイツキの性に合わない。






押し黙ったイツキを、関は、……自分の下心が洩れてしまったのかと……、不安そうに伺う。
勿論、そんな些末な物、イツキが洩らしているものとは比べ物にならない。
やがて、テーブルに追加注文したビールと食べ物が置かれると、イツキはジョッキを手に取り

ニコリと笑い




「俺、今日は飲んじゃう気分です。関さん、付き合って下さいね」





と、言った。







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2021年03月31日

瀬戸際








楽しい時間を過ごし、店を出る頃には
イツキも関も、まあまあの酔っ払いになっていた。
意味も無く、ふふふと笑い、帰り道とおぼしき方向へ
ふらふらと歩き出す。


「……今日は、ありがとうございました。関さん、どんな人かなって思ってたけど
ちょっと怖そうかなって思ってたけど、良い人でした」
「ははは、何だよそれ。俺は優しいオトコだぜ」


イツキのお世辞に関は気を良くし、調子に乗り
隣りを歩くイツキの肩を、ぐっと抱き寄せる。
男同士の悪ノリなら良くあることだったが、イツキは、関が思っていたより小柄で軽い。
勢い余ってバランスを崩し、二人、そのまま倒れそうになり、慌てる。


「…おっとっと。悪い、悪い………」


酔っ払い同士はふらつき、関はイツキを小脇に抱えたまま
その辺の壁に手をついて、かろうじて体勢を整える。



イツキは



倒れまいと関の身体にしがみつき



どうやら転ばないと解ると、関を見上げ



照れ臭そうに、笑う。





「………前も、こんなコトありましたね。倉庫で……、俺、引っくり返りそうになってて…」
「………………あ、…………そう…だな……」
「……関さん…」
「……………………え……、あ……」


「もう大丈夫なので、手、離してください」







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