2021年04月02日

引き際








数分後には、イツキは一人でタクシーに乗っていた。
関とは、何事も無かったらしい。







よろけた体勢で関の腕にしがみついたまま、イツキは関を見上げる。
手を、離すのは、イツキからでも良いのだ。
それでもイツキは、そんな事はしない。
体温が解るほど身体を近づけ、一瞬視線を絡めた後は困ったように顔を反らし、白い首筋を晒してみせる。

誘っているつもりは無い。ただ普通に、いつもしている事をしてしまった。
……多少落ち込み、真面目に考えることを止めたイツキには……、こんな性質ばかりが残る。


『………イツキ……、お……、…………おれ…………ッ…』


関にとって不運だった事は

この場所が、仕事場にほど近い、街中だったこと。
ガヤガヤと通りを歩く人波の中に、職場の同僚の顔を見つけた気がした。
…イツキの手を強引に引いてホテルにでも駆け込めば良かったが、
生憎この都心の一等地には、目立つ下品な看板は無い。

イツキに手を出すには、経験不足と言ったところ。


もともとどうでも良かったイツキは、この間合いで興醒めする。









「…………関さん、チャンスだったのに……」

タクシーの窓から外を眺め、イツキは独り言ち、くすくすと笑う。
ふと振動を感じ、手元のケータイを覗き込んだ。






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2021年04月05日

残念賞








男同士なのだし、自分は同性愛者では無いのだし
いくらイツキが可愛くて綺麗でソソラレルからと言って
いきなり肉体関係を求めるほど、俺は変態ではない。
と、関は思っていたが
それは単純に心の奥底の欲求を必死に誤魔化しているだけだった。

いざ
上目遣いで秋波を送るイツキを目の前にすれば
そんな誤魔化しなど一気に吹き飛ぶ。






「………クソ、俺、なんでもう一押し、しなかった……」

理性と欲望と緊張と動揺。一瞬、止まってしまった隙にイツキは行ってしまった。
とぼとぼと帰り道を歩きながら、関は溜息を付き項垂れる。

「……アレ、絶対……、キス待ちだったよな……。……なんだ、アイツ……、俺のこと、好きなのか…?」

勿論、関はイツキが、あの状況では自動的に男を誘う生き物なのだと、知らない。

「…恥ずかしくなって逃げたのかな。……ヤベェ、あいつ。………可愛い…」

関は、いらぬ妄想に走り、途中からはいやらしい笑みを浮かべ
擦れ違う通行人から怪訝な目を向けられるのだった。







後日。
関は、茗荷谷に

『……イツキも俺のこと好きっぽいんですよね。……チューまでは、行ったんですけど』

と若干話を盛り、茗荷谷を驚かせた。







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2021年04月07日

リップサービス









「…………いいのかよ、イツキ?」
「…………駄目なら、止める?」
「いや、……止めねぇ………」



イツキは佐野とホテルのベッドの上にいた。

佐野の軽い誘いにイツキは簡単に乗り、自分から潰れる様に強い酒を数杯飲み
言われなくともしな垂れ掛かり、もう歩けないと、その辺りのラブホテルへ入る。
入れば、やる事は一つと、服を脱ぎ下着を脱ぎ、
少し呆気に取られる佐野の前に、肢体を晒す。

イツキがオカシイ事は佐野にも解っていたが、据え膳を逃すような真似はしない。
すぐに抱き寄せ唇を合わせる。部屋の明かりを落とすことを、忘れる。


「…この前は、佐野っち、潰れちゃって………」
「あ、………ああ…」


好きで潰れた訳ではない。イツキに飲ませる薬を、自分で飲んだだけだったが


「………代わりに、西崎さんに……、されちゃったよ……」
「ああ。……悪ぃ……」


結果は同じ事だった。けれど、それすらどうでも良いと言う感じ。



佐野がイツキの腰に手をやると、イツキは綺麗に反応して、小さく声を洩らし
腕を佐野の首の後ろに回し、ぎゅっと抱き付く。


「……佐野っち、……すき……」


そう呟くのは


リップサービス、だけでは無いようだ。






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2021年04月08日

相談









百貨店の営業が終わり、少しして
スタッフ休憩室の片隅には茗荷谷と、ミカの姿があった。
ミカにしては珍しく物憂げな表情。
少し、相談したい事があると言って、茗荷谷を呼び止めたのだ。


「すみません、マネージャー。お時間取らせてしまって…」
「いえいえ。ミカさんこそお疲れ様です。今日は一日通しだったでしょう?……彼はお休みでしたか?」
「………ええ、まあ……」


ハーバルの従業員はミカとイツキの二人きり。早番がイツキで、ミカは遅番。
当然、二人で回すには無理があるが、ハーバルは独立店舗ではないため
百貨店側のスタッフがヘルプに入ることもある。


「実は今日はイツキくん、急にお休み連絡があって…、……あたし、替わりで来たんですけど…」
「シフトを少し見直しましょうか? 本社とも協議してスケジュールを上げて貰えれば……」
「そうですね、それもあるんですけど。……あの…」


自動販売機の紙コップのコーヒーを両手で持ち、ミカは小さく溜息を付く。



「……最近、イツキくんの様子が変で、心配してるんです。
ああ、でも、変っていう程、変じゃないんですよ、フツーなんです。
ただ何て言うか…静かで。…淡淡としていて。上の空って言うか…、なんか…
ある日ふっと、お仕事辞めちゃいそうな気もして……なんだか………」












この日のイツキは明け方まで酒を飲み、男に抱かれ
一応時間に目が覚めたものの、とても、仕事に行ける状態では無かった。
ハーバルの仕事は楽しいし、好きなのだが………まともな時間帯の活動はキツイなと
二度目の愛撫を受けながら、ぼんやりと思っていた。






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2021年04月09日

長話









「…ミカさんとイツキくんって、ずっと一緒に仕事をされているんですか?」
「いえ、まだ一年にもならないです。…向こうの本社の時に、イツキくん、ふらっと働きに来て…」


ミカと茗荷谷は意外と長話。
やがて休憩室の電気が落とされてしまい、二人は場所を近くの居酒屋に移す。
いつも気丈に振る舞うミカも、ひとり慣れない土地で仕事をしているのだ。
一緒に働くイツキが不調となれば、やはり、不安で堪らないのだろう。


「イツキくん、……おウチがちょっと複雑らしくて……、それでも仕事は頑張ってるんですよ。
接客は…面倒臭いお客様がいたりもするけど…、でも楽しいって言ってたのに……
………どうしちゃったのかな、本当…」
「環境が変わって、疲れが出る時期と言うのもあるのでしょうけど…、……そうですねぇ……」


イツキの様子が今までと違うことは、茗荷谷も薄々感じていた。
とかく目につき、その気はなくとも気にしてしまう子だ。つい、目で追ってしまう。
ミカの言う通り最近はどこか淡々と冷めた印象で、……儚げだと、思っていた。


「直接、聞いてみたりはするんですか?」
「…んー。最近、どう?って聞いても、大丈夫です、って。そんな感じで。……あんまり突っ込んだ事も聞けないじゃないですかぁ…」
「まあ、そうですよね。……そうですねぇ……」


ミカはヤケ酒のようにビールを煽り、茗荷谷は静かに日本酒をすする。
そう言えば…関が、妙な事を言っていたな、と思い出す。
イツキが関を好いているなどと本当の話なのだろうか…、キ………キス………などと、そんな…
関が妙な事を言い、イツキを困らせているのでは無いだろうか。などなど。




「………あまり周りが騒いでしまっても、本人、言い出しにくいこともあるでしょう。
ミカさんは普段通り、明るく接してあげるのが良いかと思いますよ。
あなたまで思い悩んで暗い顔になってしまっては、落ち込むばかりですよ。…ね」




そう言う茗荷谷に、思いがけず

ミカはドキンとし、慌てて、それを打ち消した。





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2021年04月12日

馬鹿が二人








昼過ぎ。外出していた黒川がマンションの部屋に戻ると
イツキはリビングでカップラーメンを食べながら、テレビを見ていた。


「………おかえりなさい」
「ああ。…石鹸屋じゃなかったのか」
「……なんか、疲れちゃって。今日はお休みしちゃった……」


そう言うイツキに黒川は意外そうな顔を見せる。

ジャケットを脱ぎ、キッチンで水を飲み
缶ビールを手に持って、リビングのイツキの隣りに座る。


「マサヤは? もう仕事、終わりなの?」
「ああ。ここ暫く忙しかったからな。……少し、寝る」
「……ふぅん」


イツキはラーメンのスープを啜りながら、ちらりと横目で黒川を見る。
黒川は缶ビールに口を付け、本当に疲れたというようにふうと大きく溜息を付く。
お互い、言いたい事や、言っておいた方が良い事があるような気がするが
そこまで切羽詰まっていないと、判断を見誤る。






間違えた判断で肝心な事を何も話さないとしても
することは、する。
イツキは黒川に手を引かれ、寝室に向かいながら
ラーメンを食べた後なのに、歯を磨いていないのに……と
変なトコロで、躊躇していた。







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2021年04月13日

寝室にて








少しは話をする気はあったのだろうか。



服を半分脱ぎベッドに上がり「…最近マサヤ、忙しいね」と
言いかけた側から愛撫が始まる。
首筋から胸の上を掠める様に舐められ、飾り程度の乳首に歯を立てられると
それだけで、頭が痺れてくる。

「…少し、揉めていてな。……あちこち、顔を出さなきゃならん……」

そう言い、黒川が顔を上げる。イツキは「……んっ……ん…」と小さな声を洩らしている。
……ボリュームが上がるだろうかと、乳首を摘まみ、きゅっと捩じると
面白いように、イツキが跳ね、先ほどより大きな声で喘ぐ。


「……………あっ…ん」
「随分、……堪っている感じだな。どこぞで遊んで、抜いて来たんじゃないのか?」


冗談なのか本気なのか、イツキは一度黒川を見て、……でも応えるのも面倒臭くて、目を閉じる。
代りに、黒川の腰に手をやって、すす、と動かしてみる。


「……俺さ、……もう仕事、……辞めちゃおうかなぁ……」
「石鹸屋か?………あんなに張り切っていたのに、もう飽きたか」
「……そんなんじゃ……無いんだけどさ………」


イツキの手に、黒川のモノが当たって、イツキは指先をカリカリ動かしてみる。
そして徐に身体を起こすと、黒川と体勢を入れ替える。


「…イロイロ頑張るの、疲れちゃった。辞めて、元の生活に戻ろうかな……」
「そりゃあ、いい。酒とセックスの日々か?……ははは」

「そうだね」






さすがに黒川もイツキの言動に何か、違和感を感じたのだが……
イツキが黒川のモノを口に含み、やがて、自分から上に跨ろうとしたので



話は、当然、それで終わってしまった。







posted by 白黒ぼたん at 23:16| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記

2021年04月16日

ウワバミ








真夜中。黒川は目を覚ましベッドから起き
キッチンで水を一杯飲んで、また寝室に戻る。
毛布の膨らみの中にイツキの姿を確認して
なぜか、安心する。


最近は仕事が忙しいこともあり、あまり、イツキに構ってはいなかった。
石鹸屋で適当に働き、女友達と酒でも飲み、たまには佐野あたりと遊ぶのも良いだろう。
それで十分、いい暮らしだろうと思ってはいるが

何か、ストレスでも溜めているのか。
少し、様子がオカシイ気がするのは……、気のせいだろうか。

そうだとしても
それに向き合い一緒に解決してやろうなどという優しさは
持ち合わせが無い。









自分から男の腰に跨って、ほぐした箇所にモノの先端をあてがい一気に飲み込む。
痛みに顔を顰めるも、それすら良くなってしまうのか、湿った息を一つ吐いて
とろりと潤んだ目で見下ろし、浮かべる笑みは狂気さえ帯びていて
ゾクリとする。うっかりすると、こちらが全て喰われてしまいそうだ。

イツキの性質は黒川自身が一番よく知っているが、これほど貪欲な姿は珍しい。







「………ただの欲求不満か。………それぐらいが丁度いいのか。
……………は。…………あいつにこの半分でも色気があれば良いんだがな……」






黒川はふふと鼻で笑いながら、そんな事をつぶやいた。






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2021年04月19日

緩くて脆い










「おはよ! イツキくん」
「…………おはようございます」


石鹸屋…、…ハーバルの日。
この日はイツキはきちんと仕事に行き、開店準備と午前中の作業をこなし
昼過ぎになり時間差でミカが仕事に入る。
一見、いつもと変わらぬ様子のイツキにミカは安堵し
ニコリと笑って、言わずもがな肩をバンバンと叩く。


「……ミカさん、ごめんなさい。……昨日は………」
「あはは。まーそういう時もあるよね。でも、次はアウトだからね!」
「……はぁい……」


あまりに「夜」の時間が長すぎると、こちらに戻って来るのが億劫になるのだが…
来てみればやはり、仕事は楽しいしミカは優しいし。
黒川に振り回されてばかりの生活より、もっと何か、違うものを見つけたいと
一応、思ってはいるのだ、まだ。


「でもホント。何か困ってることあるなら、話、聞くよ?
……そうだ! 今日、ご飯行こうか?……ユウちゃんとかも誘って、賑やかにするのもいいね」

「あ。ごめんなさい。……今日は予定があります」
「んー………?」
「ああ、でもちゃんと、明日の仕事は来ます!大丈夫です!!」



何やら忙しい様子のイツキに、ミカは冗談半分、怪訝な顔を浮かべた。








やがてイツキの終業時間となり、イツキはハーバルを出て、スタッフの詰め所に向かう。
イツキの姿を見掛けた関が、休憩所の向こうから小走りでやって来る。

「………お、おおう!イツキ、今、上がりか?………なあ、今日………」
「おつかれさまです。関さん」

関の誘いを聞くこともなく、イツキはぺこりと頭を下げて通り過ぎた。








この日はミツオと会う予定だった。
少し前に髪の毛を切りに行き、その時に、つい約束をしてしまった。

あちらとこちらのバランスを崩しているイツキは、色々と、緩くて脆い。





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2021年04月21日

事務所に来客









ここ数週間のイツキは誘われれば飲みに出掛けたし
誘われなければ、自分から誘うし
その相手全てとセックスしたかどうかで言えば
まあ、していない、よりはしているだろう、といった具合で


それでも、以前の、黒いスーツを着て「仕事」に励んでいた頃よりは
大人しい暮らしをしているのではないかと
思のだけど、それでもあまり褒められたものでは無い。


寝不足のぼんやりとした頭で、とりあえず、ハーバルの仕事は続けていた。
たまにあり得ないミスをしでかし、ミカに迷惑をかけ
ミカは茗荷谷に愚痴をこぼし、茗荷谷はどうしたものかと心配していた。




このままでは何か、もっと大きな問題が起こるか
イツキが倒れるか、姿を消すか、その一歩手前で
ようやく、事態が動く。










「…………どうも」


夕方。
黒川と一ノ宮がいる事務所に、ふいに顔を出したのは

松田だった。






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2021年04月23日

話しにくい話









突然の松田の来訪に黒川も一ノ宮も少し驚いたが
まあ、仕事で付き合いのある、どちらかと言えば好意的な相手。
業務上の相談か四方山話か、とりあえずソファを勧め
丁度手の空いた黒川は、グラスに洋酒を注ぐ。


「…何か、あったか?……契約は来月だったよな。一度、一ノ宮と向こうに行ってから…」
「ああ、その話じゃないですよ。……そっちは万全なんで。……いや」


黒川は松田の前にもグラスを置く。松田はぺこりと頭を下げ、それを貰う。
くっと一息で飲み、ふうと息をつく。
何か、話しにくい話でもあるようだ。
少し言葉を探し、それでもアレコレ考えるのは止めだという風に、今度はふんと鼻で息を付く。




「黒川さん。あんた、……イツキちゃんと……どうなのさ?」
「…………は?」
「上手く、やってんの?」



なんだ「イツキ」の話かと、黒川は呆気に取られる。
少し付き合わせてやれば浮かれ上がり、貸せだの、売れだの……
言い出す輩は割と多い。よくある事だ。



「関係ない話だろう。…また、接待に使いたいのか?
……条件次第だな…」

「……あー…、いや。……ここんとこチョイチョイ、イツキちゃんから連絡貰うんだけど…
……何度か、会ってるんだけど。……勿論、アリで……」

「………は…?」





黒川は静かに対応するも
内心は、穏やかではない。






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2021年04月26日

コイバナ








「…契約のオマケでイツキちゃんに会ったのは…一か月くらい前だったかな。
ほら、第一ホテル東京の…、山梨の赤ワインが美味いとこの……」

「ああ。それは知っている。…その後でも、誘ったのか…」

「誘うのはいつもなんだけどさ。いつもは乗ってこないんだよ。……でもココ2,3回はいやに簡単に……、あー、その、……会ってくれるからさ…」



松田は酒を飲みながら、話を続ける。
黒川はふんと鼻で息をついて、まあ、そんな日もあるかと怪訝な顔を浮かべる。
いつも『遊びならいい』と馬鹿にして言っているが、いざ遊ばれると、あまり楽しい気はしない。

一ノ宮も仕事の手を止め、松田の話に耳を傾ける。
イツキの行動で、心配なことが、無い訳ではない。



「………あいつが男とヤルのは、今に始まった事じゃない。…たまたま、そんな気分だったんだろうよ」

「……あー。でもさー、ちょっと……感じが違うんだよなぁ…。寂し気っつーか、儚げっつーか。…エロさ三割増し……みたいな……」



軽い口調に、軽い話なのかと、一瞬、思う。
それでも最近のイツキの雰囲気が少し違うことには、黒川にも心当たりがある。



「…イツキちゃん、少し、お疲れなのかな?……仕事、辞めたい…みたいな事も言ってて……
辞めてどうするよ、俺と逃げるか?なんて言ったら、それもイイね、なんて言ってさ……」

「…………くだらん、それでがどうした。今更ピロートークに惑わされるなよ…」



「黒川さん、イツキちゃんと、上手く行ってないんじゃないの?」







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2021年04月27日

一ノ宮の期待









『イツキちゃんと上手く行ってるのか?』

との中年男性二人の恋愛トークを
一ノ宮は割と冷静に、聞き耳を立てていた。

イツキに関しては最近は、少し、遊びが過ぎているのではないかと
ユウから、聞き及んでいた。ああ、勿論ユウは「遊び」の内容は知らないが。
仕事が終わると綺麗なスーツに着替えて、外に出て行く、と。
翌日は酷く眠そうな顔をして、休む事もあり、ミカを困らせていると。

黒川とイツキの関係が、どんな塩梅なのか
一ノ宮も気にはしているトコロ。
黒川自身は無自覚のようだが、関係が冷え込むと、仕事にも影響がある。

微妙なバランスで縺れる二人の関係を、もう少しどうにか出来ないかと
一ノ宮も黒川に詰め寄ることはあったが、ここもまた微妙な力加減で
そう深く、内側にも切り込めない。

良くも悪くも松田が掻き回してくれるのは、まあ、良いきっかけになるのではないだろうか。




「くだらん。イツキごときに。上手く行くも糞も無いだろう」




一ノ宮の期待を他所に、黒川はいつもの口調。
松田は多少むっとした顔を見せたが、それでも食い下がる。




「ちゃんと大事にしてやってるかって事だよ。好きなんだろ?イツキちゃんのこと」

「…しているだろう。不自由なく暮らさせて、適当に遊ばせて。なんの不満があるんだよ」

「解んない人だな。そういう問題じゃなくてだな……」







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2021年04月30日

わからずやさん










「解らんのはお前の方だろう。突然押しかけては、くだらん話をゴタゴタと。
イツキの様子が良かろうが悪かろうが、何の問題もない。
あれは、俺のものだ。関係の無い奴が口を挟むな」



黒川は啖呵を切って松田をひと睨みする。
…多少、松田の言葉に考えさせられる所はあっても、今それを認めるほど素直な男ではない。
ふんと大きく息を吐き、残っていた缶ビールを煽る。




「…ああ、そうかい。そりゃ、悪かったな。失礼したよ。
俺はイツキちゃんが心配だったから話しに来たんだか、あんたには、くだらない話しだったな。
イツキちゃんが俺や、他の男や誰やらと

……何か理由があったとしても……、

遊び回ってココロもカラダも傷つけて、ズタボロになって挙句、逃げるように姿を消したとしても

俺が口を出す事じゃねぇな。あー、ハイハイ」






松田は
これ以上黒川と話していても埒があかないと踏んだか
投げやりにそう言って、頭をポリポリとかいて、呆れたように大きくため息をついて 「じゃー、帰るわ」と席を立つ。


黒川はもう何も言わず、事務所を出る松田を一瞥するのみ。


静かに事を伺っていた一ノ宮は、「ああ松田さん、事務的な話が残っています」とか何とか言い、松田の後を追って行く。








事務所に一人残された黒川は

もう一度盛大に、ふんと、息をついた。








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