2021年07月02日

イツキの言葉・3








しばらく間があいて、黒川はイツキをチラリと伺い見る。
イツキは静かに微笑んでいる様子。どうやら一通り、話は終わったようだ。


あまり他人への関心の無い黒川にも、なんとなく…イツキの言いたい事は解った。
人の気持ちなぞ、はっきり理路整然と片付けられるものではない。
その都度その都度、自分自身を納得させながら、どうにかバランスを取りながら生きている。
それがほんの些細な切っ掛けで、崩れることもあるのだ。


あの夜。
不意に姿を消したイツキに、黒川が動揺し
今までの黒川の世界が、色を変えてしまったように。


崩して、壊れて、新しいものへと変わって行くには
少々時間も、戸惑いも、必要なのだろう。






「……そうか。……そうだな。
……レノンの事は、一先ず、置いておけ。あれは本当に、何でもない。
お前には、…まあ、酷いコトもしたが、今は違うだろう?

あまり簡単に、ヤケを起こすな…」


「……もう、平気」



イツキは顔をあげ、黒川の方を向き、正面から見つめる。
いつも傍にいたというのに
こんなに近くできちんと顔を見たのは、何故だか久しぶりな気がする。




「…俺も変だったけど、マサヤも変になるんだって解って、ちょっと安心した。

マサヤが、こんなに俺の事好きなのも、ビックリした」



「……ああ、…あ?」







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2021年07月05日

キャパオーバー









「……、ああ?」


イツキの言葉につい返事をした黒川は、少しギョッとした様子でイツキを見る。
イツキはようやく…何かがすとんと落ちたようで
綺麗に微笑み、黒川を正面から見つめる。


「………でしょ?………違った?」
「………いや。まあ、そういう事にしておいてやる……」


調子が狂う。喋りすぎた。と
黒川は最後だけどうにか取り繕い、ふんと鼻で息を付いてみせる。
格好をつけ、煙草でも吸おうかと思ったのだが、さっきのが最後の一本だったと気づく。
『そろそろ、帰るぞ…』などと言い、ケータイを持ち、車の手配などをする。


けれど、もう今のイツキには、そんな誤魔化しは通用しないようだ。




「……マサヤ、俺のこと、好き?」
「…………お前な、…あまり調子に乗るなよ?」
「好き?」




確認を取るように、同じことを聞く。
黒川は少し強めにイツキを睨み、ベンチから腰を上げ、遊歩道を歩き出す。


数歩行った所で、イツキが付いてくる様子が無いので、後ろを振り返る。


そして今度こそ、本当に観念したように深いため息を付いて、ツカツカとイツキの傍まで戻る。







「…………ああ。解り切った事を何度も聞くな。
最初からお前の事は気に入っている。好きだから、ずっと手元に置いているんだろう。
……今は、………それ以上に、愛しているんだろうよ…」







黒川は身を屈め、ベンチに座るイツキの耳元で、そう言った。








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2021年07月08日

正当な理由









言うだけ言うと黒川はすぐに背中を見せ、さっさと歩き始める。
イツキは、自分から振った言葉だったが…驚き目を丸くし…照れ臭そうに笑う。



それは最終的な正解では無いだろうが、ひとまず、気持ちを整理するには十分な言葉だった。
おそらく、まだこの先も2人の問題は多々起こるのだろうが、

それらにきちんと向き合うための、正当な理由にはなるのだろう。






遊歩道の向こうに、こちらに向かって来る車のライトが見えた。迎えの車らしい。

「…イツキ、来い。…置いて行くぞ!」

そう黒川が怒鳴るが、不思議とそう怖い感じはしなくなった。

イツキは「はぁい」と答え、急ぎ、黒川の後を追いかけた。












ひとまずここで、この夜は終わり。
あああ、最終回ではないのよ。笑笑
仕切り直して、次の展開に行きます。
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2021年07月09日

嫌な顔









「…何も聞くなよ、一ノ宮」


翌日。夕方を過ぎて黒川が事務所に顔を出すと
待っていたとばかりに一ノ宮が、黒川に詰め寄る。
すでに平塚会長サイドから、連絡は受けていた。
契約の内容自体に変更は無いが、アレは無いだろうと厭味を言われる。

一ノ宮に説明を求められるのは当然だったが
黒川は面倒臭そうに手の平を見せ、まあまあ、という風にかざす。

勿論、それで引き下る一ノ宮ではない。



「…イツキくんを連れて行かれたのですよね?…で、そのまま、何もなくお帰りになったのですか?」
「あー。メシと酒は良かったぜ。平塚も上機嫌だったし…」
「秘書さんが言うには、車に乗り込む直前でお預けを喰らったと…。その後会長を宥めるのが大変だったと…」
「あー…、まあ、そうだろうな。何か埋め合わせを考えるよ…」
「……社長…」


簡単に説明をし、黒川は軽く笑う。

ともすれば先方を怒らせ、契約自体が後破産になったかも知れない話。
けれど黒川はさほど堪えた様子もなく、少し、寝癖の残る髪をガサリとやる。
小さな欠伸を噛み殺す。疲れているのか……それでも何か、雰囲気が違う。


穏やか、と言うべきか。






「イツキくんと、仲直り、したのですね?」






一番、聞かれたくない事を聞かれ
黒川は、嫌な顔を、一ノ宮に見せた。







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2021年07月13日

ハーバルの日








その日は本館のセールも重なってか、忙しい1日で
イツキも残業し、結局ミカと一緒に閉店まで働いていた。
最後の客を見送り、やっと一息つく。


「ああ、ごめんねぇ、イツキくん。最後まで残って貰っちゃったねぇ」
「いえいえ。良かったですね、春色セット、完売しましたね」


売り場の片付けをしながら、ミカとイツキは互いを労い
用意していたセット商品が全て売れたと喜び
こんなに頑張ったのだから、お疲れさま会をしなくちゃと話し
近くの居酒屋のおすすめメニューの話までして笑い合う。


「…イツキくん」
「ん。何ですかー?」


棚に埃よけのカバーを掛けて、イツキが明るい笑顔を見せる。
その様子だけでも、何か、イツキの中が変わったのだと解り
ミカも笑顔を見せる。


「…あと、細かいコトは、いいよ。明日で。 ご飯、行こ?」
「はい」







詳しい話はまた追々、聞くとして。

イツキがまた楽しそうに仕事をしていて

ミカは、ホッとするのだった。






posted by 白黒ぼたん at 23:30| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記

2021年07月14日

ミカの誓い








仕事が終わって、イツキとミカは夕食がてら近くの居酒屋へ向かう。


ミカは、今日のこの数時間だけで、何か、イツキが変わったような気がしていた。
明るくなったという程。明るくなった訳ではないが…こう、胸の支えが取れた感じ。
数日前まで見せていた、どこか冷めた…物憂い表情も、すっかり消えていた。

悩み事も、それが晴れた理由も、おそらく…イツキの恋人との複雑な関係によるもの。
そう思ってはいたが、なかなかデリケートな問題なだけあり、簡単に聞くことは出来ない。

心の内は、そっとしておいてあげよう。
今はイツキが元気になっただけで十分。
他人がアレコレ詮索し、口出しする事ではない。
静かに見守っていよう、と。それは半ばミカの誓いのようなものだった。







「……で、何?。……カレシさんと何かあったんでしょ?土曜日、帰ってから?
話し合い? 取っ組み合い?……でも仲直りした?
……イツキくん、今日、顔、違うもん。いやん。なんか、幸せそう〜」


ビールを三杯飲む頃には、ミカの誓いもどこかへ消える。




イツキも。
そう、プライベートな事は話すべきではないと思っていた。
ましてや自分と黒川の話など、特殊過ぎて、どう説明すれば良いのか自分でも解らない。

けれど、今日のビールは良く冷えていて、たいそう美味しい。
どこか気も緩んでいるのだろう。

誰かに、…ミカに、愚痴とも惚気ともつかない黒川の話を聞いて欲しかったのかも知れない。






「……なんか、俺ばっかり悩んでたんですけど。相手の、ちょっとした仕草や行動が気になって…
どうして自分がそれを気にするのか、自分でも解らなくて…。
アレコレ悩んで、グルグルして……。

でも、そういうの、俺だけじゃ無いって判って、ちょっと安心できたんです」




イツキはそう言って照れ臭そうにはにかみ、肩を窄めて笑顔を見せた。





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2021年07月18日

今日一番の盛り上がり








「イツキくんとカレシさんって、ラブラブなのかと思ってたよ。
ほら、東京駅のショップの時に、迎えに来てくれてたじゃない。
あの時の感じとか…なんか、…「俺のものだぞ感」が凄くて…」

「あはは。確かに。その感じは凄いですよね」

「まあ悪く言っちゃうと束縛ッキーなんだけどね。それで嫌になちゃった、とかじゃなくて?」



何杯目かのビールと、追加の唐揚げがテーブルに置かれ、イツキとミカのお喋りは止まらない。
…少し、口が軽すぎるかも…と自分でもイツキは思っていたが

聞き上手のミカに乗せられ、つい、話してしまう。

けれどそうやって思いを言葉にしていくことで、気持ちの整理が付いていく。
自分の言葉で初めて、自分の気持ちに気が付く、そんな感じがしていた。



「束縛……は…されてるのかな…、ああ、でも、その割には放ったらかしで…
好きにしろとか勝手にしろとか言うくせに…、そうすると、怒る…みたいな…」
「ああ、いるいる、そういう男…」
「でも、それで今回、好き勝手にしてたら……ちょっと、変わったんですよ」
「えー、なになになに、ちょっとって何よー?」



勿論、詳しい所までは話すことは出来ないので、イツキは一旦、言葉を止める。
そしてその間に、色々思い出した事があるのか、つい、ふふふと笑ってしまう。
その笑みにミカはますます興味を惹かれ、話の続きをと求めるのだった。



さすがに、これ以上は話せない。





ちょっと態度が変わった黒川
自分に愛情を持っていると、初めて言葉にし、多少…優しくなった。
今更なのに、夜の最中に、ふいに手を握り顔を見つめてくる。
長過ぎるキスだけで満足しそうになる。抱き寄せられるだけでイきそうになる。




「やだっ…イツキくん、何か思い出してるわね。
いやーん、そこんとこ、お姉さんに話してみなさいよー」



イツキもミカも恥ずかしそうに笑い合い
それは今日一番の盛り上がりを見せたのだった。





posted by 白黒ぼたん at 00:12| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記

2021年07月21日

ラストオーダー









食事がてら軽い飲み…のつもりだったが
結局、イツキもミカも話が尽きず、ラストオーダーまで居てしまった。


「ああ、もう。元気になったと思った次の日は二日酔い、なんて
ダニーに怒られちゃうよね。あの人も、そーとー呑兵衛なんだけどね。ふふふ
この間はね、一人で酒蔵見学に行ったらしくて、そこでも飲んで、お土産も貰って
家で飲んでたらそのまま寝ちゃって、気付いたら、眼鏡が下敷きになってて…って」



最後に頼んだ甘いカクテルを飲み干し、ミカが笑う。
今日のミカは余程楽しく、嬉しかったようで、笑顔もふわふわとしている。
…女性に対して興味のないイツキでも、ミカは、可愛いと思うし
おそらく今回は色々と心配を掛けてしまったのだろうと…少し、反省する。


「…ミカさん、明日のシフト、替わりますか?」
「大丈夫だよ。午前中は百貨店のスタッフが入ってて、あたしは15時からだもん。
ダニーは、自分が入りますか?なんて言うんだけど、イヤ、若い女の子にしてって頼んだのよ。
さすがにね、ハーバル向きじゃ無いわよね。ふふ。
ああ、だからね、…イツキくんは、お休みして。カレシさんとデートでもして?」
「……しませんよ!」


そう言って、イツキも笑う。イツキにしても、今日は楽しいお酒だった。
一緒に仕事をしてきたミカとこんな風に付き合える事が嬉しかった。

じゃあね、バイバイと手を振って、居酒屋の前で別れ

ミカの為にも、この仕事にもっとちゃんと、真面目に向き合おうと思った。





「……それにしてもミカさん…、茗荷谷マネージャーの話し、…多かったな…」






通りでタクシーを拾い、ふと、イツキはそんな事を思った。







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2021年07月23日

コンビニ










イツキはマンションの手前のコンビニでタクシーを降りる。
時刻はもうすぐ、日付を跨ぐところ。
何か飲み物と甘い物でも買おうかと、小さなカゴを持ち、店内に入ると
視線の先に、見慣れた背中があった。



「マサヤだ」
「……ああ、イツキか」
「もう、仕事、終わり?」
「ああ」


黒川は入り口近くの冷蔵ケースから栄養ドリンクを何本か取る。
イツキは、カゴに入れていいよと、黒川にカゴを差し出す。


「マサヤ、ご飯は食べたの?」
「夕方、一ノ宮とラーメン屋に行ったな…。お前は?」
「俺はミカさんと飲んで来たから。……あ、コレ、新発売…」


菓子の売り場でイツキは新しいスナック菓子を見つけ、カゴに入れる。
その様子が子供じみていると、黒川は鼻で笑う。


「…明日の石鹸屋は何時だ?」
「明日はお休み。マサヤは?」
「横浜に顔を出せとせっつかれているが…まあ、明日じゃなくてもいいな…」
「じゃ、お休みする?」


イツキはそう言って黒川を見上げ、ニコリと笑う。


「大きなお風呂行くって、言ってたじゃん」
「それは…そのうちな。草津あたり、2、3日行ける時に…」
「スーパー銭湯でもいいのに。岩盤浴あるとことか…」
「…スーパー銭湯かあ?……都内は手狭だからなあ…」


イツキはカゴに牛乳とプリンを入れて、最後にレジ前のイチゴ大福を入れる。
黒川はレジで、煙草の番号を告げ

会計の為に、財布を広げた。






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2021年07月26日

飴玉








黒川が、うっかり告白めいたものをしてしまってから数日経ったが
イツキがそれについてアレコレ聞き返して来ないのを、内心、有り難く思っていた。

言った言葉を否定するつもりはないが、そんなものをいちいち声に出して伝えるのは
どうにも、合わない。けれど、
まあ、これで当分静かに大人しく、素直に言う事を聞くようになれば
こんな飴玉もたまには良いのかも、などと思う。



「…なんだよ。今日はこっちで寝るのか?」
「んー。もう、俺の部屋、暑い。…蒸す」
「クローゼットだからな、そりゃそうだろうよ」



夜中。一度は眠りに付いていたイツキが、自分の枕を持って巣箱から出てきた。
春先とは言えさすがに、空調のない小部屋は居心地が悪くなって来た。
イツキベッドに上がると、黒川を乗り越え、奥の壁際に陣取る。
枕の位置を直し、毛布を引き上げ、中に身体を潜らせる。



「……でもマサヤ、俺、明日は早い日だから、エッチは無しね」
「………あー、そうかよ。ハイハイ」
「…明け方、目が覚めたら、いつの間にか……なんていうのも、駄目だよ?」
「朝立ちする中坊はお前の方だろう」



軽く言い合って、イツキは可笑しそうに小さく笑って
「…おやすみなさい」と目を閉じ、もぞもぞと身体を丸めた。





飴玉の効果はてきめんだ。
変に片意地を張り、巣箱に籠られるより余程いい。
甘えた素振りも小さな笑みも、ちょうど良い加減で
腹の下がこそばゆくなる気がする。無意識に、黒川の口元も緩む。





ふと、イツキが目を開き、黒川を見上げる。
少し身体を揺らし、足元を擦り寄せると

「………本当に、…しないの?……マサヤ?」

と言った。







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2021年07月29日

変化








何かがどうか、変わったのかと黒川は思っていた。
身体の感覚が、気持ちに影響を受けるのだとは解っているが
ここまで、違うと、さすがに驚く。

イツキの脚を抱え持ち、正面から押し入り腰を揺する。
いつも通り。それだけでも十分良いのだが
喘ぎ声の合間、薄く目を開けたイツキが視線を絡め
ニコリと笑うと、様子がオカシくなる。

自分が変わるのか、イツキが変わったのか定かではないが
さらに奥へと絡め取られる。堪えが利かないと馬鹿にするのも忘れる。


やおらイツキが手を伸ばし
黒川の首の後ろに回す。
ぶら下がるようにぐいと引き、顔を近くに寄せる。



「…マサヤ、……キス、して、欲しい……」



イツキは今までそんな台詞を言ったことが無い。
やはり、変わったのはイツキの方なのか。


無理をして身体を折り曲げ、貪るように唇を合わせる。
同時に繋がった箇所が熱く脈打ち、より深く、刺激を求めてしまう。





何が変わったのだろうかと思う。


欲が、際限なく溢れ、困った。








posted by 白黒ぼたん at 23:07| Comment(2) | TrackBack(0) | 日記