2021年08月02日

軽い嫉妬









言葉というものは不思議なもので
今までだって漠然とそこにあった感情が
音にして口から紡いだ瞬間に、まるで違った質量になって
自覚のあるなし関わらず、自分に、返ってくる。

そして、それによってまた
気付く、想いなども、あるようだ。







うつ伏せのイツキを背中から抱きとめ、ゆっくりと中に押し入る。
すでに何度目か。道はすっかり通り、それでいてピタリと吸い付く。
動くたびにイツキは湿った声をあげ、背中を逸らせ、くねらせる。
浮かび上がる肩の骨や、影を落とす背中の窪みが綺麗だなと、あたらめて思う。

ふと、背中に手のひらを当てると、イツキはことさら大きく身を捩り
中も、ギュウギュウと締めてくる。
人差し指の爪先で背骨の上をなぞり、腰の一番深い所を引っ掻くと
くすぐったいのか焦ったいのか、面白いように腰を左右に振った。



「……おれ、それ………、駄目……、もぞもぞ、する……」




『もぞもぞする』から、もっとやれ、という事なのか。
イツキの身体はどこを取っても性感帯なのだろうが、こんな場所も、良かっただろうか。

イツキは、抱くごとに何か新しい感触があり、それが飽きさせないのだが
……それを見つけ出して来たのは、自分以外の男だったかも知れないと

今更、気付く。






背中を強く引っ掻き過ぎて、赤い蚯蚓腫れになってしまった。
それでも、まだ足りないと、黒川は思った。







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2021年08月06日








アラームの音。しばらくして身体の上に何かが乗って、黒川は目を覚ました。


「……何だ?」
「……あ、ごめん。……ケータイ…、ああ、あった」


乗って来たのはイツキで、どうやらケータイを探していたようだ。
枕の下から見つけ出し、アラームを止めると、そのまま黒川を乗り越えベッドの端に座る。
昨夜、あれだけ身体を動かしたと言うのに、きちんと起きて仕事の行くようだ。

まだ熱も痛みも、匂いも何も、奥底に残っているだろうに。


「…終わるの、夕方。……帰りに買い物してくる。…ご飯とか…」
「………ああ」
「…肉のイトウのさ、コロッケとメンチだったら、どっちがいい?」
「両方買ってくればいいだろう」


イツキは「うん」と返事をし、ベッドから離れ、寝室を出ていく。
………感覚が残っているのは自分の方か……と。
黒川は何か夢でも見ている気になって、もう一度、毛布に潜り目を閉じた。











昼過ぎから黒川は事務所に行き、自分の仕事を片付ける。
やってきた客と話をし、書類に目を通し、次の指示を出し、いくつか電話を掛ける。

「社長。先程の熊谷氏のお誘い、お受けして宜しいですか?…今日の、20時の…」
「……ああ」

そう、一ノ宮に返事をして数秒後に、「やはり、駄目だ」と黒川は言う。

一ノ宮は何か重要な案件でもあったのかと、顔を上げ黒川を見ると




黒川は、不気味に穏やかに、小さく、笑っていた。






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2021年08月09日

コロッケの夜








その日、黒川は早めに仕事を切り上げ、帰宅するつもりだったのだが
事務所を出る直前でトラブルが起き、そうも出来なくなった。

結局、部屋に戻ったのは日付が変わる頃。

イツキは、リビングのソファで、横になって眠っていた。




『今日はコロッケとメンチカツを買ってくるね』




そんな言葉に、何か応えようと思った訳でもないのだか
テーブルに並んだままの惣菜やサラダを見ると、少し気持ちが揺れた。

気配に、イツキが目を覚ます。



「………おかえりなさい」
「……ああ」
「…遅いよ。…せっかく…揚げたて、買って来たのに…」
「……ああ」




半分寝ぼけた様子で、そんな恨み事を言うイツキ。
黒川はイツキの頭をぽんぽんと叩き、ソファの足元に座ると
すっかり冷めたコロッケを手でつまみ、口に入れた。






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2021年08月11日

嫌な夢








久しぶりに
夢の中からそれと解る嫌な夢を見て
イツキは目覚める前から、酷く憂鬱な気持ちになっていた。


黒川と出会ってまだ間もない頃。
力付くで抑えられ、犯され、乱暴に扱われていた頃。




異常な状態に泣き叫び、どんなに止めて欲しいと懇願しても
黒川はイツキの腕を捻じ伏せ、手首をロープで括り
ベットの端に繋ぐ。

脚に力を込め必死に閉じていても、不自由な体勢。
そして大人の男の力には敵うわけもなく。

十分な愛撫もなく、挿入されるのは
引き裂かれるような痛みと、吐き気すら覚える嫌悪で
歪む顔を、ただ楽しみたいだけで。

身体が肛門から裏返り内臓が飛び出してしまう。
このまま死ぬのではと、本気で何度も思っていた。









目が覚めたイツキは、昔の事を思い出したと、うううと唸り


取り敢えず腹いせに


隣りで眠る黒川の鼻を、ギュッとつまんだ。








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2021年08月13日

車内の2人









「……そう言えば」


ふいにイツキが話し出す。
移動中の車の後部座敷。


「……すごい、嫌な夢、見た。マサヤの最初の頃。
痛くて乱暴でとにかく酷いの。
考えてみたら…、考えなくても
あれって、犯罪だよね」


隣りに座る黒川をチラリと睨む。
黒川はふんと鼻息を鳴らす。


「今さら古い話しを蒸し返すな。もう時効だろう」
「時効…。その後も酷いよね。客、取らされてさ…」
「それはお前が言い出した話しだ。俺のせいじゃ無い」


取り澄ました黒川の顔に、イツキはむっとする。


「じゃあ、メンチカツ、全部食べたのは? マサヤが悪いよね」
「それは…2枚しか買わないお前が悪い」
「だったら1枚ずつでしょ?普通」


今度は黒川がむっとし、そっぽを向いてしまった。





「ねえ、マサヤ」
「……なんだよ」

「この前さ、俺のことは最初から気に入っているって言ってたじゃん。
それって、この、最初?…酷い頃から?」

「……そうだろうよ」
「気に入ってるのに、酷いこと、したの?」
「…ああ」






イツキが思わず『小学生じゃん!』と言ったところで
車が目的地に到着する。


運転していた一ノ宮が、笑いを堪えた顔で振り返り
「着きましたよ」と言った。








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2021年08月16日

ハーバルの日









すっかり調子を取り戻したイツキは朝から元気に働き
午前中の内に頼まれていた商品の整理と
棚の入れ替えも済ませ
常連の年配のご婦人とにこやかに会話し
お友達に勧めるの、と、詰め合わせを選ぶ手伝いをした。




「…茗荷谷マネージャー、白い紙袋の在庫って、こちらにありますか?」
「ええ。…手付きのですね、はい」



足りなくなった備品を貰いに事務所に行く。
茗荷谷はイツキを久しぶりに見たような気がして、それでも、以前のイツキに戻ったような気がして
知らずのうに、笑顔になっていた。

その笑顔に、イツキが気付き、少し不思議そうな顔をする。



「…ああ、いや。…その。……イツキくん、少し調子を崩していたでしょう。
ちょっと気になっていて…
でも元気になったって、この前、ミカさんから報告があって…。」

「あ。…ご心配をお掛けしました…」

「はは。何だか表情が明るくなった。
もう、ミカさんまで、暗くなっちゃっていたからね。
落ち着いたのかな。…うん。良かった」





そんな話しをして、イツキは事務所を後にする。
店舗に戻りながら、茗荷谷もミカもそんなに自分を気遣ってくれていたのかと
イツキは思い、そして


すっかり忘れていた、もう一人を思い出した。






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2021年08月18日

残念な人








「……イツキ!」




仕事上がり。近所のカフェで。
イツキは関と待ち合わせる。


『…そう言えば関さんが、イツキくんから連絡が無くて凹んでる、
って、ダニーが言ってたわよ』


ミカにそう言われた事もあり、ようやくイツキは関にメールの返事をしたのだ。
……メールも電話も、何件も溜まっていたのは知っている。
……でも、まあ、優先順位は低かった。




「すみません。何度も連絡頂いていたのに…」
「いや、うん。…どうしたかなって思ってた。…俺…
ちょっと強引だったかなって、あんたに嫌われてたかなって…」


すでに冷めたコーヒーを飲みながら関はそう言う。
関の中では、自分達はすでに付き合う前提。
お互い、気持ちは、向き合っているものだと思っていた。

もっともそれも、暫く前のイツキの様子からすれば、仕方の無い事。
無防備に酔い、肩にしなだれ、次はどうするとばかり潤んだ目で見つめられれば
そう、誤解するのも当然だろう。




「俺さ、ちゃんと、話したい事があるんだ。
…近くにイタリアンの店、予約してあるから、そっちに移って……」

「あー、ごめんなさい。俺この後、用事があります」

「…え?」



イツキは申し訳ないと、軽く頭を傾げる。


「…なんか、色々、心配掛けちゃったみたいでごめんなさい。
でも、もう大丈夫です。……その…
……付き合っている人とバタバタしていたんですけど…今は、落ち着いたので…」




そう言って、ニコリと笑う。

そしてイツキは、その、お付き合いしている人と待ち合わせているからと
残りのコーヒーを飲み干し、関に、別れを告げた。






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2021年08月20日

自棄酒








「……フラれたって事っすかね?フラれたって。いや、まだ告ってもいなかったですけどね。
いや、まあ、別に好きとかそんなんとか、そんなんじゃないんですけど。
第一、男じゃないっすか。オトコ。俺、そういう趣味じゃないんで」


関は、イツキの為に予約をしてイタリアンの店に茗荷谷を呼び出し、解りやすく自棄酒を煽っていた。
飲みやすい白ワインをガブガブ流し込み、早々に出来上がる。


「でも、アレ、絶対、脈アリの感じだったんっすよ。にこーって笑って、ボディタッチして…
……付き合っている人がいるって……女?…男?
俺、たぶらかされたって奴?…遊ばれたんすかねー??」


空になったグラスに空になったボトルを注ぐ。
居酒屋のノリで関は店員を呼び止め、すかさず茗荷谷が、水のお替わりを頼む。





「まあ、イツキくんて雰囲気があるから……勘違いしてしまいそうだけどね。
たぶらかされたの、遊ばれたの、…そんな事じゃなかったでしょ?

イツキくん、年上の方のお付き合いしてるらしいけど、色々難しいようだよ。
まだ若いし、落ち込んで荒れて…は、仕方ないでしょ。
…今回、お相手の方とは上手く行ったみたいだし…良かったじゃない」


オトナの物言いに関は茗荷谷をチラリと伺う。
茗荷谷との付き合いは長いが、こんな風に、色恋に対して余裕のある事を言う奴だっただろうか。



「…何?…主任。ずいぶん、アレじゃないっすか?
って言うか、話し、詳しいっすね。…何で…?」

「……いや、……ミカさんがそう言っていて…」

「………ふーん?」





そう言って関は、新しく置かれたグラスの水を一気に飲み干して

イツキの未練を断ち切るように、ふうと大きく、ため息をついた。






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2021年08月22日







めずらしく熱が出たのは
黒川の方だった。

ソファで隣りにくっついていたイツキが
いやに黒川が熱いと、気が付いた。


「マサヤ、熱、あるんじゃない?」
「……そうかもな」
「風邪?やだ、寝なよ!」
「…そんなに大したもんじゃない。気にしなくていい」


黒川はそんな風に言って、いつもと変わらず
深夜の、古い映画を眺めながら、ウイスキーをちびちびとやる。

イツキは、気にしなくて良いと言われても、そんな訳にも行かず

とりあえずキッチンに向かい、水と、解熱剤を取り
寝ないと言うなら、せめて身体を冷やさない方が良いだろうと
寝室から毛布を引っ張って来る。







結局そのまま、映画が終わるまで
イツキと黒川は、ソファで、同じ毛布に包まっていた。







雪山で遭難した気分。と
イツキはぼんやり、そんな事を思っていた。






posted by 白黒ぼたん at 23:07| Comment(309) | TrackBack(0) | 日記

2021年08月25日

対西崎戦









イツキがハーバルの帰りに、黒川の事務所に寄ると
そこには一人、西崎がいた。



「…よう、イツキ。社長は野暮用で留守だぜ」
「そうですか。…どうしよっかな…」
「俺と遊ぶか?しゃぶらせてやるぜ?」



西崎は相変わらずの軽口を言い、下品に笑う。



「…そういや、お前、またヤラかしたんだってな?」
「何をですか?」
「ドタキャン。平塚会長から逃げ出したんだろう? 迷惑掛けるなよ」
「…それは俺じゃないですよ。マサヤが勝手にした事だもん」



イツキは大して気にもしていないという風にそう言う。
スマホに何か着信が無いか確認し、時計を見て、口を尖らせて
このまま黒川を待とうかどうか、悩む。

その、軽い態度に、西崎はつけ入る。



「お前が悪いに決まってだろうが!大人しくヤラれてりゃ良いんだよ!
誰彼構わずケツ開いてるんだからよ! 何様のつもりだ、オラ!」




強い口調で捲し立て、足元にあったゴミ箱を蹴飛ばし威嚇する。


以前のイツキなら身をすくめ、例え自分が悪くない案件でも罪悪感を覚え
一歩、引いてしまうところだったが




今のイツキは、西崎にちらりと視線を投げ

ふふ、と笑ってみせる。







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2021年08月27日

西崎戦・2










「……俺も、そうだと思ったんだけど…」
「…ハァ?」
「なんか、いつの間にか変わってて、驚いちゃった」


西崎の恫喝に怯えるでも怒るでもなく
イツキは静かに笑って、そんな事を言う。
逆に西崎は言葉を詰まらせて、イツキを見やる。

ついこの間まで、不安定で不安げで、
所在なさげに瞳を揺らしていたくせに、何だ。



「…何が変わった、だ。テメーが生意気になっただけろう…」
「…やっぱり、迷惑、掛けたかなぁ…?」
「ああ?、掛けた掛けた。ヤラないお前なんざ意味がねぇだろ」
「あはは、西崎さん。そこまで言っちゃう?」



一応、会話は成立しているようだが、イツキは一向に気にしていない様子。
西崎は不審そうにイツキを睨め付けるが、また、それも軽くかわされる。




「……西崎さんは、俺のこと、嫌いでしょ?」
「……おお。よく解ってんじゃねぇか」
「俺もキライ。ふふふ」




そう言う割りには、イツキの笑顔は穏やかで優しげで

うっかり

西崎は少し、イツキを可愛いと思ってしまった。








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2021年08月30日

西崎戦・3








正確に言えば西崎は、イツキを嫌ってはいない。
好きでも嫌いでもない。ただ、商品として興味がある、といったところか。
商品としては申し分なく極上で、お零れに預かれるのなら文句はない。

けれど時折り生意気を言い、社長を煩わせ、こちらの仕事にまで迷惑を掛ける。
それが腹立たしく、忌々しく思うことは多々あった。




「……西崎さんと俺も、……長いよね」
「………お?…おお」




だから何だと西崎はイツキの話の続きを待つが
イツキは、ふふ、と笑い、もう自分の中で完結しまった様子。
不敵な笑みに西崎は少し腹を立て、同時になにか…化かされた気もして…
…ついと歩み寄り、イツキのすぐ目前まで詰め寄る。



「……何だよ。長い付き合いの俺に、詫びでも入れる気になったのか?」
「…入れないよ」
「………今日は随分しおらしいな。……可愛がってやっても良いんだぜ?」
「…マサヤに怒られるよ。…西崎さんが」



身体を擦り寄せ、これみよがしに股間を押し付ける西崎だが
イツキはちらりと視線だけで見上げるだけ。
誘っているのか拒否しているのか。
あと何か一つ、イツキを従わせる強い言葉があればいいのだが、…押して、良いのか。




「………それぐらいにしておけよ、西崎」





珍しく西崎が次の手を迷っている内に
事務所の扉が開き、黒川が、中に入って来た。






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