2021年09月01日

西崎戦・4









「…片田のジジイはモーロクして駄目だな。ハンコ一つに一時間掛かる」



黒川は愚痴をこぼしながら、持ち帰った封筒を西崎に手渡す。
西崎は少し驚いたままの顔でそれを受け取り、黒川とイツキの顔を交互に見やる。

部屋に入る前に、話しが聞こえただろうか。
まあ、あれだけ身体を密着させ詰め寄っていたのだ、聞こえずとも、大体の所は解るだろう。

イツキは、するりと西崎から距離を取り、ふふと笑う。
微妙な間合いに、黒川が訝しむように顔を上げる。



「……何だ?」 
「ううん。この間の、平塚会長の、……迷惑掛けちゃったかなって話」
「ああ、そうだな」


椅子の背もたれをギイと鳴らして、黒川は、事も無げに言う。
西崎にしてみればイツキは「仕事を投げ出し逃げた奴」。反省の色が見えないのが腹立たしい。



「社長。社長はコイツに甘いですよ。前の小野寺会長の時だって
後始末が大変だったじゃないですか。一度ちゃんと、立場ってモンを解らせた方が…」

「…そうだな」




黒川は、もう一度、椅子の背もたれを逸らせ、ふうと大きくため息を付く。
確かに、立場を解らせた方が、後々の為にも良いだろう。






「西崎、あのな…」







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2021年09月03日

西崎戦・5









「西崎、あのな。確かにイツキは…問題を起こしてばかりだが…」
「本当ですよ。先方を怒らせてばかりじゃないですか」
「そうだな」


そう言って黒川は思い当たるフシがあるのか、小さく笑う。
先日の平塚もそれはそれは立腹していた。
ヤレると踏んだ直前にお預けを食らうのだ、当然だろう。
後始末に苦労したと、一ノ宮がぼやいていた。



「客とはヤらないくせに……酔っ払ってウチの若いやつらを食い散らかしているんですよ。コイツは」
「…そうだな」


笑いを噛み殺し、黒川がちらりとイツキを見ると
イツキは口を尖らせ、不機嫌顔で、こちらを睨んでくる。
その顔がまた可笑しくて、黒川は笑う。


「…笑うトコ?……マサヤ?」
「だが、本当の話だろう?」
「…違うでしょ!」


小さな声。
それでも西崎にも聞こえる声。

やりとりの割には何か穏やかな、和やかな雰囲気で
西崎は不思議そうな顔を黒川に向け、黒川もそれに気付く。





「ああ、まあ、面倒を掛けてスマンな、西崎。

だが、イツキの事は、お前がとやかく言う問題じゃない。
もう、イツキに構うな。

イツキはな、俺の、だからな」





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2021年09月06日

西崎戦・6










黒川の言葉に、西崎は少しぽかんとして息を止める。
イツキが黒川の所有物であることは知っている。
でも、今の言葉は何か、意味が違う。

とりあえず曖昧に
「…は、…はあ」
と返事をする。



「…解ったのか?西崎。もう、イツキに口も手も出すなと言ってるんだぜ?」
「はいっ、勿論。…若いモン達にも言っておきます…」
「若い連中より、お前が一番、…遊んでいたんだろう?」
「えっ……いや…」



狼狽する西崎。
黒川はふふんと鼻で笑い、もう話は終わりとばかりデスクの書類に戻る。

側で聞いていたイツキは、
西崎同様、驚き、目を丸くして、少し慌てる。

最近の黒川は、自分に随分と優しくなった気はするが
それはまだ慣れず、どうにも、……尻の穴がむず痒くなる。




「…イツキ」
「……な…に?」  
「お前ももう、あちこちで広げるなよ」
「…うん」




言う、黒川の言葉が、妙に穏やかで
逆に怖くなってしまう。

最終的には、西崎とイツキが目を合わせて
一体これはどういう風の吹き回しかと

お互い、静かに、首を振るのだった。





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2021年09月10日

西崎戦・終









「…西崎さんに、あんな風に言うなんて…思わなかった」
「…うん?」


西崎が帰った後、イツキがポツリと呟く。
黒川が自分を一応大事にしているらしい事は知っていたが
こうはっきりと表に出されるのは、まだ、慣れない。


「…釘を刺しておいた方がいいだろう?…お前が、たまにはツマミ食いしたいと言うなら別だが」
「…したくは、無いよ。ぜんぜん」
「そうか?」


黒川が少し嫌味な顔をして笑うので、イツキも解り易く頰をふくらませた。










一方、事務所に戻った西崎はまだ渋い表情。
持ち帰った書類をバサリと放り、ソファに座り、煙草を口に咥えるとライターをカチカチと鳴らす。
留守番をしていた佐野が熱い茶を持って来たが、西崎はアゴをツイと背け
代わりにビールを用意させ、グラスを一気に傾ける。


「…お疲れ様っす。…何かありましたか、オヤジさん…」
「佐野、お前、最近イツキに会ったか?」
「いや、ここんとこご無沙汰っすね…」
「ラブラブ中らしいぜ、社長とイツキ。お前、下手に手、出すなよ、シバかれるぞ?」


忌々しげに西崎は吐き捨て、もう一杯、ビールを飲み




今日、見た、イツキの姿を思い出し






今更ながら
自分のものでは無いことに
少し、腹を立てていた。








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2021年09月12日

寂しい佐野っち









佐野が仕事を終えて自分のアパートに帰ったのは深夜2時。
今は付き合っている女性もいない。寂しい独り身だ。
組ではそこそこの地位になり、舎弟も抱えている。
見た目も悪くはない。若干、軽そうには見えるが、それは金髪頭のせいだろう。
金も、車もある。遊ぶ程度の女なら、まあなんとかなる。



「……あー、クソ。ラーメン、切らしてたか…」



台所で湯を沸かしてから、買い置きのカップ麺が無かった事に気付く。
仕方なく夜食は諦め、缶ビールを持って、布団に向かう。
枕元に出しっぱなしのアダルトな雑誌を、ツマミ代わりパラパラと捲る。




西崎が話していた事を、なんとなく考える。

確かに社長は酷い男でイツキは散々泣かされていたし
そんな社長をイツキが慕うなんて、有り得なさそうな話だけど

でも、お互い、好きなんだろうな、と
昔から……一番傍にいた俺だから、……気付いていた。





「…ラブラブ中ね、はいはい。
……まー、良かったんじゃねぇの。ははは」






佐野はそう言って、笑う。

それでもまだ、イツキには自分を好きな気持ちが

少しくらいは残っているだろう、と

思っていた。






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2021年09月16日

冗談









「…マサヤが…」
「……うん?」
「あんな事、言うなんて思わなかった。…西崎さんに…」



夜。
二人の部屋。
ベッドの上で交わりながら、イツキがポツリと呟く。



「…西崎はお前を、…ただの商品だと思っているからな。
まあ、そうやって扱って来たのだから…仕方もないが…」



中を掻き回していた指をずるりと引き抜いて、黒川が言う。
イツキは小さく声を漏らし、もじもじと腰を揺する。



「……俺の、って。……ふふ。
俺のだから好き勝手に使っていい、じゃなくて。
俺のだから、もう、誰にも触らせない、…って事だよね。ふふふ…」



思い出し、その意思を確認するように反芻し、イツキは笑う。
黒川は照れ臭さを誤魔化すように、乱暴にイツキの体勢を変え
足を抱え、中心に中心を押し当てる。



「…言った以上、お前もホイホイ遊んで来るなよ。
西崎とヤリたいのなら、話は別だが。
…お前のケツは…まあ、緩いからなぁ……」

「そうだね。…マサヤだけじゃ、…足りなくなるかもね」




最近のイツキは、こうやって答えを返す。
黒川はギョッとした様子で見返す。





「……冗談だよ。…マサヤ」


イツキはまた、ふふふと笑って
自ら誘うように、腰を、黒川に差し出した。










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2021年09月17日

先の話








「……マサヤはさ、俺の、何が好きなの?」
「………身体かな」



朝。と言っても昼に近い時間。
リビングで朝食がわりの甘いコーヒーを飲みながら
イツキが急に尋ねて来た。

親子ほど歳の離れた、しかも、最初の頃は
奴隷か玩具か、という扱いを受けて来たのだ。
いつ、何かが変わったのかは、当然知りたいトコロ。

もっとも、真面目に素直に答えてくれるとは、思ってはいなかったが。



「それって、エッチが良いって事?」
「ああ」



想定内の答えに、イツキは、聞いた自分が馬鹿だったと
ふんと鼻で息をついて、残りのコーヒーをすする。

黒川は、ふざけた調子で笑う。
けれど答えは、あながち間違いでも無かった。







イツキは
それこそ最初の頃から、良かった。

慣れない身体で泣き喚き、色気も糞も無い状態でも
感覚が、黒川好みだった。

こちらがどんなに残酷で醜悪な手を打っても
どこかですとんと、快楽にすり替えてしまう。
いつの間にかイツキの欲に、飲み込まれていく。

自分の全てを受け止める。受け入れる。それが、
何か、自分が赦されている気がして、心地良かった。







「じゃあ、お前は俺の何が好きなんだよ?」
「俺、マサヤを、好きだなんて言ってないでしょ」
「…ああ、そーかよ」






お互い、素直に胸の内を語るのは

まだ、先の話。







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2021年09月21日

階段の子









ある夜。ちょっとした用事でイツキが事務所に立ち寄ると
階段に、うずくまるように座る人がいた。

顔は見えなかったが、線の細い、華奢な身体つき。
服の感じから、多分、男の子だと思われる。
眠っているのか、具合が悪いのか、

それとも、泣いているのか。



自分も昔、ここで、こうやって泣いていたと…イツキは思い出す。
事務所で黒川に乱暴され、堪えきれずに、ここで。




「……あの、…大丈夫?……」



イツキが声を掛けると、少年は少し顔を上げ視線をやる。
伸ばしかけの髪。あどけなさが残る顔には殴られた痕。
少年は、以前イツキが見掛けた、黒川と一緒にいた子だった。

名前は確か、レノン、と言ったか。





「……レノン…くん?」
「………イツキ?」




少年もイツキを知っていたようで、イツキの名前を呼ぶ。
…血が滲んでいたのか…口元を手押さえ、小さく吐息を漏らす。

そして






「……糞が!テメェのせいでこっちはケツ掘られてるんだぞ。
俺に近づくんじゃねぇ。この変態野郎!」






血の混ざった唾と一緒に、そんな言葉を吐き出した。






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2021年09月24日

確認










事務所には黒川が一人、デスクに向かい仕事をしていた。

「…イツキか。…早かったな、少し待っていろ」

まだ仕事が片付かないと、黒川は忙しい素振りを見せ
イツキに、ソファに座って待てと、視線で指示をする。

イツキは黒川を見遣り、部屋をぐるりと見回し、ソファの前に立ち
……少し考えてから、ソファの、端っこに座る。




部屋も空気も、別にいつもと変わらない様子なのだけど。




「…忙しいなら、帰るけど?」
「いや、あとは折り返しの電話が来るだけだ。…モツ焼き、行きたいんだろう?」
「鉄板焼きの方……ね……」


ソファに着いた手が、何か濡れている気がして、イツキは慌てて手を退ける。
足元のゴミ入れに、丸めたティッシュが入っているのを見つける。




特に気に留めなければ、何でもない事なのだけど
一度、そう思ってしまうと、どうしてもそればかりを考えてしまう。








「…下の階段で、レノンくんに会ったよ。
マサヤ、今、ここでレノンくんと、…してた?」


イツキの質問に、黒川はぎょっとした顔を向けるのだった。






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2021年09月27日

グレーゾーン









黒川はぎょっとした顔を見せ
それから慌てて取り繕う……風にも見える。


「……一仕事させて、戻って来た所だ。相変わらず大騒ぎの奴でな…」
「…ふぅん?」

イツキはソファに着いていた手を、何か汚い物でも触ってしまったかのように、ヒラヒラと振る。

「……ああ。濡れているかも知れん。……水を引っくり返していたから……」

 

黒川の言葉はすべて言い訳に聞こえる。
嘘か本当の事かは、まあ、どちらでも構わない。
どちらにせよ、レノンは、犯されて来たのだ。



イツキが思うのはただただ、レノンへの、同情だった。
レノンにいわれもない悪態をつかれたことは……怒りよりも、痛ましかった。
彼にも、彼の事情があって、こんな事になっているのだとは思うが
それが、ココで受ける酷い扱いの救いになる訳ではない。

たとえ、自分の身代わりに、こんな「仕事」をさせられているのだとしても
もうそれを代わってやることは出来ない。

解っている。
一番悪いのは、こんな「仕事」を回してくる男なのだ。






「……さてと」


黒川は掛かって来た電話に2、3返事をして、作業を終わらせる。
椅子から立ち上がり、上着を羽織り、出掛けるぞとイツキを促す。


「……浮かない顔だな、イツキ。……妬いているのか?」


半ば軽口でそんな事を言う黒川を、イツキは冷ややかな目線で見上げるだけだった。






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2021年09月28日

複雑なイツキ








「仕方がないだろう。そういうサービスを望む客がいる以上。
…今まで通りお前がやると言うなら話は別だが…」

「しないよ。別に、何がどうって言ってないでしょ?」




夕食にと訪れたモツ焼き屋。

レノンに仕事をさせる事に不満が無いと言うなら、その膨れっ面をどうにかしろと、
黒川は言いかけるのだが、とりあえず、止める。
鉄板の上の野菜をヘラで返し、ビールを飲む。



「それに…前に言ったが、あいつは駄目だ。一向に良くならん。
西崎の所にやって、鉄砲玉にでもした方がいい」

「ふぅん」



イツキは明後日の方を向き、鼻で答え、ビールをがぶ飲みする。
その態度に黒川も、少々辟易する。




「あのなあ、イツキ」

「…そうだね。お仕事頑張ってね、って…簡単に言える事じゃないでしょ。
俺がしてきた事だって、思い出しちゃうじゃん。
マサヤ、相当、酷かったんだから」

「…まあ、そうだな」

「だからって、……仕事、代われる訳もないし。
レノンくんに優しくしてあげて、とも…言えないし」





同情と、そしてやはり多少の嫉妬と。
それを気取られたくなくて、イツキは


鉄板の上の焼き上がった肉を片端から口に放り込んだ。






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