2022年09月02日

17時、事務所にて








デスクワークをしていた黒川はスマホの着信に気付き、仕事の手を止める。
一ノ宮は、聞くとはなしに傍耳を立てる。相手がイツキだという事は、黒川の顔を見れば解る。
どう取り繕っていても、一瞬、空気が和んでしまう。
この人はいつからこんな顔を見せるようになったのだろうかと、一ノ宮は少し複雑な胸中。



「…………はいはいはいはい、解ったよ。じゃあ、19時半な。……ああ」


通話を終え、ふんと鼻息を鳴らし、一ノ宮と目が合うと黒川は聞かれもしないのに電話の内容を話す。
夜は待ち合わせをして夕食に出掛ける筈だったが、仕事が長引きそうなので、時間を遅らせて欲しいとの事。
イツキが勤める石鹸屋は思いのほか順調で、接客やら商品の管理やら
とても従業員2人では、回すのにも限界が来ているようだった。



「……正直な所。あなたが認めるとは思いませんでしたよ。……イツキくんの仕事。
いつの間にか、立派な社会人ですねぇ…」


少し皮肉を込めて一ノ宮が言うと、黒川はまた、ふんと鼻息を立てる。


「ヒマ潰しにはなるだろう。少し、ハマり過ぎだがな」
「この間の出張も、……まあ、トラブルも無くて…何よりですが…」
「…………そうだな」


カチカチとライターを鳴らし、黒川は煙草に火を付ける。
一応、何も問題は起こらなかったことになっている。
石鹸屋も松田も、少々気に障る所ではあるがまあ問題はない。
あるとすれば……最近のイツキの機嫌が良過ぎることが問題なのだが
それは一ノ宮に相談する話ではないだろう。



「…ああ、トラブルと言えば…」
「何だ?」
「いつも使っている車、左前に少し傷が入っていましたね。何かありましたか?」






黒川は、さあ、と言う様子で煙草を吹かしていたが
煙がどこか変なところに入ったか、ゲホンゲホンと咳き込んでいた。






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2022年09月05日

焼き鳥屋









待ち合わせをした店は事務所の近くの、よく利用する焼き鳥屋。
細長い店内の片側にカウンターと、テーブル席が3つ。
先に着いたのは黒川の方で、一番奥のテーブル席に座り、ビールを注文する。
それが席に運ばれた頃、イツキが息せき切って到着し、椅子に座るなりそのビールをぐっと煽る。


「………お前なぁ……」
「ごめんなさい、遅れちゃいそうと思って…走って来て…。
だって酷いんだよ、結局配送のミスだったんだけど…、商品が足りないって…棚に並んでるのまで全部数え直しで…」


イツキは話しながらもビールを喉に流し込む。
黒川は小さく、ふんと鼻を鳴らし、ビールをもう一つと串の盛り合わせを頼む。



それからもイツキは、石鹸屋で起きたちょっとした出来事を黒川に話す。
仕事の愚痴を肴に酒を飲むとは、随分と偉くなったものだなと、黒川は思う。


それでも、ふいにやらかし、松田辺りと絡んでしまうので安心はできないのだが

ハタから見ればイツキも、一端の男。社会人らしくなって来たのか。




「……でね、今の店舗を広げる話も出てるんだけど、そうなるとちょっと大変かなって。
人も時間も足りなくなるし…、でも、俺は今以上には働けないでしょう?」





それは働きたいのか、働きたくないのか。どちらの意味なのだろう。





「すみません、ビール、もう一杯下さい」





イツキが酒を飲むペースが早い時は大概、
答えを出すために考えなければいけないことを、誤魔化すためだった。







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2022年09月06日

真っ当な悩み事








実のところイツキは悩んでいた。
悩んでいると自覚が出来ているもの、出来ていないもの、イロイロあるのだけど。
だいたい、黒川との関係からしてオカシイのだ。
おかしい上に不安定な材料を積み上げて行って、落ち着くはずもない。


中学生の頃から身体を売って来た自分に、普通の生活が送れるとは
思ってもいなかったのに、この現状。
ハーバルの仕事は楽しいが、それをどこまで頑張って良いのか…頑張れるのか。
それを黒川はどう思っているのか………。



「……マサヤは、最近、どう?………仕事って、何してるの?」
「……大北通りの再開発絡みで…色々な。古いビルを処分するんで揉めていたが、まあ、落ち着いたかな…」
「そう言うと普通に、不動産関係の人みたいだよね。ふふ」


実際には、再開発絡みの談合やら賄賂やらで、裏から手を回し大金を動かしているのだとか
古いビルを処分するために利権者を脅し、こちらの有利になるようにあらゆる手段を使っているのだが
それは、あえて言わない。


それらの幕間で、………金や酒や女や、男や、……さまざまな欲望が入り乱れていて
かつてはイツキが、それらに関わり、仕事を担っていた。

今はそれから、遠ざかってはいるのだけど
疎外感というか何というか、……黒川の仕事に関わらないことに、少し、寂しさも感じている。




感じる、自分も、変だと思う。






「……マサヤ。……俺、次、日本酒行っちゃう。明日、お休みだし……飲んじゃう」
「…………別にいいが……ベッドで吐くなよ?」






不安定なイツキが酒に溺れるのは


意外と、黒川は、好きだった。








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2022年09月08日

大酔っ払い








「………馬鹿か!」



その夜のイツキは、何か作戦があったのか単に飲み過ぎてしまったのか
店を出る時には酩酊し千鳥足。
歩いて数分の自宅までタクシーを呼び、マンション前から部屋までは黒川が抱えて歩き
ようやく辿り着き、寝室のベッドに放り出す。



「……ごめんなさぁい……」



イツキは一応、謝り、あとは何を喋っているのかは解らない。
黒川は呆れ、盛大な鼻息をつき、イツキのシャツとズボンを脱がす。
酒臭い呼吸、力の入らぬ肢体。これではさすがにヤル気は起きない。第一
これでは事の最中に、腹の上にゲロでもされかねない。



「………お前は…俺がいない時でもそんな飲み方なのかよ?
これじゃあ、何か事故が起きても、……覚えてもいないぐらいだよなぁ」



文句を言いながら、それでも黒川は台所で水を汲み、イツキの傍まで持っていってやる。
イツキは半分身体を起こし、黒川に助けて貰いながらグラスの水を飲む。




「……マサヤ……」
「いいから、今日は寝ろ」

「……マサヤと一緒にいるの、なんか……溶けちゃう。おれ、だめ。
やっぱり、おれ、………マサヤのこと、好きなのかなぁ………」




そう言ってイツキは水を飲み干し、ニコリと笑って
ばたんと寝落ちしてしまうのだ。






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2022年09月11日

夕暮れ時









事務所の扉をノックして入って来るのは
少し前ならイツキだったが…今は、レノンの事が多かった。

「仕事」終わり。相変わらずムスッとした表情。
それでも最近は、客を怒らせるようなことは少なくなったようだ。

真面目にデスクワークに励んでいた黒川は顔を上げ、つまらなそうに、鼻息をたてる。


「……お前か。何の用だ」
「……コレ、今日のおっさんから預かった。あんたにって……」



レノンは黒川に、何か書類のようなものを渡す。
黒川は受け取り、「……ご苦労」と小さく声を掛ける。
未成年に客を取らせて、その一言で済ませるのかよと、レノンは黒川を一瞥する。

それでも一言が出るだけ、大分マシになったのだけど。



「ああ、レノンくん。お疲れ様です。1人で来たんですか?……車はどうしましたか?」
「…下まで、佐野が送ってくれた。……後はあんたに送ってもらう」
「………おや、まあ…」



馴れ馴れしい口の利き方に、今度は黒川がレノンを睨む。
当の一ノ宮はやれやれと言った風に、肩で息をつく。
……どうにも、変に懐かれてしまったようだ。
まあそれで大人しく、こちらの言う通りの仕事をしてくれるのなら、それも良いのか。



「…あまり甘やかすなよ」

上着を羽織り、車の鍵を手にする一ノ宮に、黒川は軽く釘を刺す。

「群馬までは行きませんから。大丈夫です」

そう言って、一ノ宮は笑った。







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2022年09月12日

気の毒は今更









レノンは一ノ宮に恋愛感情を抱いている訳では無かったが
この特殊な世界の中で、自分だけの味方、自分を大事に扱ってくれる人間を
確保して置きたいというのは、もっともな気持ちだろう。

それは一ノ宮も解っていたし、大事な商売道具なのだし

……そこら辺が、レノンの「大事」と違う感覚なのだけど……

まあ出来る範囲でならサポートしてやっても良いと、思っていた。




「…シートベルト、ちゃんとして下さいね」
「……ハラ…減った。…ねえ、なんか食べに行こうよ…」
「これ以上、帰りが遅くなっては……お祖父様が心配されますよ」



未成年のレノンは当然、実家暮らし。
そうは言っても最初から両親はおらず、小さな工場を営む祖父と暮らしている。
善良な労働者でたまたま莫大な負債を負ってしまった祖父は、まさか、その代償に
可愛い孫が身体を売っている事など、知りはしない。



「……どうせ夜中まで帰ってこないよ。俺の心配なんて、誰もしないよ」



小さくつぶやくレノンの声を、一ノ宮は聞こえないフリをする。
気の毒は今更。
いちいち取り合っていても仕方が無い。




「……あいつはどうしてたの? 家から通ってたの?」

「あいつ? ああ、イツキくんですか、そうですね…初めのころは…。
でもやはりイロイロ…不都合も出て来ますので、まあ……それ以上に
社長がご執心だったので……親元から離しましたけどね……」




あまりレノンに肩入れせず、適度な距離を取っている一ノ宮だったが
レノンの質問には何故か答えてしまう。


一ノ宮自身、誰かに話す事で
黒川とイツキのいびつな関係を、整理したかったのかも知れない。






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2022年09月16日

お土産









「……いいよな。俺も、自分の部屋、欲しい」
「…ははは」



レノンの言葉に一ノ宮は軽く笑う。
会話を交わしているようで、その実、一ノ宮の反応はありきたりなものばかり。
レノンは一ノ宮と、事務所で二人で話したような、もっと、深い話しがしてみたいのに

そこは一ノ宮も、あまり話し過ぎないようにと、警戒しているようだった。



「…イツキと黒川って、今も二人で住んでるの?…何?…結婚したの?」

「しませんよ。………レノンくん、イツキくんと社長を呼び捨てにするのはいけませんね。
社長はあなたの、雇用主ですよ」

「……イツキはあいつの事、名前で呼んでるよね……、変なの」

「………まあ、変は……変ですけどね」





小一時間ほど車を走らせ、ようやくレノンの自宅近辺に着く。
自宅前に車を停めるのは避けた方が良いと、近くのコンビニエンスストアに駐車する。
買い物があると、一ノ宮も車を降り店内に入る。
そして弁当やら何やら適当に見繕うと、自分で支払いをし、それをレノンに持たせてやった。


「では、レノンくん。お疲れ様です」
「……………うん」




レノンは両手に荷物を持ち、何か、話し掛けたそうな顔をしていたが

一ノ宮は静かに微笑み、車に乗って、行ってしまった。





逆に情を掛けられる方が、虚しくなるものだなと
レノンが知るにはまだ幼過ぎた。





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2022年09月18日

普段通り








イツキはと言えば
変わった様子も無いように思えた。


野菜を炒めただけの簡単な料理と、グリルで焼いただけの肉をテーブルに並べ
テレビを眺め、ビールを飲み、お互い仕事の愚痴など口にする。

そろそろ眠る時間だとソファから腰を上げるイツキの、手を、黒川は引き
そのまま寝室へと連れて行く。

「明日も仕事なんだけど…」

と、イツキは少し困った風に言うが……そう嫌がっている訳でもない。
実際、身体を触ればすでに…準備は出来ているし
始まってしまえば止まらないのは、むしろイツキの方だ。


黒川の腰の上に跨り、身体をくねらせ、奥へ奥へと……呑み込む。
極まって上げる鳴き声は耳をくすぐり、黒川の神経を麻痺させる。






イツキがハーバルの出張で3、4日黒川の傍を離れていた時は
確かに、何か……違和感があったように思う。

黒川が、仕事上の付き合いとは言え…女を抱き、それにイツキが勘付き
苛立ちからかイツキは松田と寝てしまったのだが…

起きた事実を全て検証しないまま、またなんとなく、いつもの生活に戻ってしまった。




『……何だ?………何も無かったのか、結局?』




黒川は何か釈然としないものを感じていたが、それに答えは出せず。

イツキは普段通り黒川の身体にしがみつき、甘く湿った声と蜜を



垂れ流すばかり。





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2022年09月21日

思い出した話









『……ああ、そう言えばさ……』




その日、一ノ宮は事務所で一人、雑務を片付けていた。
どこぞの店の従業員用の宿泊施設が足りなかったと
管理している不動産の書類をガサガサとやり、2、3件、電話などをして

ふと、先日、車の中でレノンが話していた事を思い出した。




『……さっき、あいつ、見かけた。……イツキ。
向こうの通りに不動産屋あるじゃん。あそこの前で。
なんか、マンションの間取りとか?、ガン見してたぜ?
引越しでもするの? さすがにヤクザの女は余裕があるよね』





いまだにレノンは、自分とイツキを比べたがる。
状況や立場の違いは良い加減、理解している筈だが
嫉妬ややっかみや羨望や、諸々複雑な思いもあるのだろう。

その時も、イツキが黒川にマンションを充てがわれた話しの流れで、そんな事を言っていた。
イツキが真剣に部屋探しをしているなどと一ノ宮は思いもしなかったので
レノンが多少話を盛っているのかと、気にも留めていなかったのだが…





「……いや、まあ。……確かイツキくんは納戸で寝ていると言ってましたしね……
大きな部屋が…欲しいのですかね……」





仕事の手を止め、一ノ宮はそう呟き

少し、この件を、心の隅に残して置いた。







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2022年09月23日

ミカの提案









「…もう、大変。本当は乗り換えなしのとこにしたかったけど、家賃、高いし
徒歩15分で築30年で、どうにか頑張れるかなって感じでしょ。
ウチ、補助は結構出る方だけど…それでもねぇ。
都内の独り暮らしはキツいわよねぇ……」



仕事終わり。イツキとミカは店内の片付けをしながら軽く雑談。



「……イツキくん、おウチ、探すの?」
「あ、いえ、そういう訳では無いんですけど…。やぱり、大変なのかなって…」
「まあねぇ。お金の面ではねえ…。でも、イツキくんは彼氏さんがいるんでしょ?」
「……まあ……、そうですね……」



自分から話を振って来たのに、歯切れの悪い返事。
…イツキの「家」や「彼氏」や「現状」は、気になっていても深く探ることは憚られる。
それでもミカはイツキの顔を覗き込み、話すことあるなら聞くよ? と水を向ける。

確かに。

先日の出張以来、少しイツキの様子はおかしい。




「…なんだか、一緒に居過ぎるのも駄目なのかなぁって。
…余計なこと、気にし過ぎちゃうなって…
ああ、だからって引っ越すとかまで考えてる訳じゃないですけどね」

「距離が近過ぎるのもねぇ。いっそ…おウチ出ちゃう?
でもって、あたしと一緒に住んじゃう??」



ミカの提案にイツキは「いいですね」と言って、笑って


少し、憂鬱な気分が晴れるのだった。






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2022年09月26日

一休み









ノックの後に事務所に入って来た男を見て、黒川は顔を顰める。
一ノ宮は、おや、という風に短く声を上げ、急ぎ、お茶の用意などをする。


「…一ノ宮、茶なんぞ、いらん。………何の用だよ、松田」
「ええ、それはあんまりじゃない?……また東京の仕事でね、ちょっと寄っただけですよ」
「………ふん」


松田は笑い、地元の土産なのか紙袋を一ノ宮に渡す。
一ノ宮は松田をソファを勧め、「ああ、お茶よりアルコールの方が宜しいですかね」などと言い
さらに黒川をムッとさせる。


特別、嫌いな相手では無いのだが……何となく、苦手。こと、イツキが絡む案件では。
それは、一ノ宮にも解っているようで、……逆に一ノ宮はそれが面白かった。



「じゃあ、ビール貰っちゃおうかな。実はもう、一仕事終えた後でね。黒川さん、一緒に夕飯、どうですか?」
「…行かん」
「じゃー、イツキくんでも誘うかなぁ」



解りやすい軽口に、つい一ノ宮は笑いそうになる。
黒川も一ノ宮もまだ事務所での仕事が残っているため、一緒に食事には出掛けないが
まあ、一休みも兼ねて、ソファーのテーブルにビールと軽い食べ物などを並べる。


「松田さん、先日、会長にお会いしましたよ、例の件はありがとうございました」
「いや、ウチも助かったからさ。これからも宜しく頼みますわ」



一応、松田と黒川は仕事上では良い付き合いをしている。
土地が離れていることもあり直接的な利害が少ない事が、幸いしている。
「イツキ」についても、身体の関係はあるが、不思議と酷い執着は見せない。
適度な距離感なのだが、黒川は、その距離に慣れていないらしく……どうにも


いつも、間合いを崩されるような気がするのだ。





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2022年09月29日

傍耳








事務所の応接セットのソファに松田、その隣に一ノ宮。
その向かいに黒川が座る。
時間は20時を回ったあたり。
当たり障りのない世間話から、真面目な仕事の話しも少し。

一休みで軽く一杯の筈だったが、すでにビールは3本目。そろそろ
スタートといった所。




「そう言えば…、あの日はちゃんと帰れたの?黒川さん?」


来る話題だとは思っていたが、突然、来られるとやはり多少は動揺する。
黒川はビールを吹きそうになるのを何とか留まり、静かに「……ああ」とだけ言う。


別に内緒の話しでもないのだが、イツキを出張先まで迎えに行った事は、一ノ宮には話していなかった。
もっとも、あえて言わなくても、一ノ宮の想像の範囲内だったのだけど。
一ノ宮は少し柔らかな視線を黒川に向けただけで、何も言わず、
ソファから腰を上げ、他にツマミになるようなものはないかと、奥の冷蔵庫に向かう。

ガサガサとやりながら……

松田と黒川の会話に傍耳を立てる。




「ふふ。イツキくんと喧嘩した?」
「………するかよ。………何でだよ」
「えー? スルーだった訳? アレもコレも??」



わざと含む言い方をしているのは、松田なりの冗談のつもりなのだろう。
はははと軽く笑い、酒を飲み、何かを思い出すフリをして、また、笑う。



「イツキくん、色々、大変だったんでしょ?…話し、聞いたら、喧嘩になるかと思って……心配してたのに」
「喧嘩のネタと言えば……お前が出てきたことぐらいだろうよ」
「あはは、違うよ。…黒川さんだよ」
「…………俺が何をしたって言う……」






posted by 白黒ぼたん at 00:28 | TrackBack(0) | 日記